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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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88/90

080 昨日の敵は


 鼻骨、頬骨、右鎖骨、胸骨数か所の骨折。

 顔面は余すところなく内出血。

 前歯上下合わせて四本の損失。

 まあ耐えた方なんじゃないのか?

 顔面は包帯でぐるぐる巻きだが。


「大丈夫。ユナは主様ってわかるから」


 そりゃユナなら匂いでわかるだろうけど。

 これで街中は歩きたくないなぁ。

 怪しまれるだろ。


 とは言ってもいつまでも療病院にいるわけにはいかない。

 一応怪我人なんで入院する権利はあるが、約束の日まであまり時間はないし、それにドワーフがどんな風に過ごしているのかも見ておきたい。

 それに、あいつにも会えるかもしれない。


 そう思いベッドから立ち上がり、部屋を抜けると、俺と同じように顔面を包帯で包まれた男が仁王立ちしていた。

 ユナが剣を抜こうとするがそれを静止する。


「さっきぶりだな、ヨヴフェール。まさか生きていたとは」

「とぼけるなよ」


 鋭い眼光が突き刺さる。

 どうやら機嫌は良くないようだ。


「はあ、悪かったよ。ただあんたみたいな逸材を死なすこともないだろうって思っただけだ」

「どちらにせよ、手を抜いたのだろう?」

「そうともいうけど、敗者に文句を言われる筋合いはないぜ」


 ヨヴは首を振り、頭を押さえた。


「ああ。そうだとも。己の実力が貴方に及ばなかったが故の結果だ。私に貴方のことをどうこう言う権利はない」


 相手の死をもって決着する試合。

 そしてそれは確かに果たされた。

 戦神の名のもとに。


 しかし、ヨヴは生きていた。

 見方によれば、死んだふりをしていたともとらわれかねない。

 それはドワーフの美学に反する。

 彼らには彼らなりの負け方があるのだ。


 だが、生かすも殺すも勝者の自由だ。

 それはこの世の絶対だ。

 法があろうと誓約があろうと結局はそうなのだ。


「じゃあそういうことで、もういいかな?」

「まだだ! まだ聞きたいことがある」

「はあ、言ってみな」

「そもそも、私が勝てる可能性はあったのか? 試合前から確実に勝てると思っていたのか?」


 なかなか難しいことを聞く。


「ある程度は、な。自信はあったし、作戦もあった。まああまり上手くいかなかったがな」

「どちらにせよ、負けはしないと」

「確率の話だよ。こっちが勝つ確率が高いと踏んだだけだ。それだけのこと」

「待ってくれ」


 今度はなんだぁ。


「最後の技はなんなんだ。痛みが一瞬にして全身を駆け巡った。次の瞬間には意識が飛んでいた。あれは一体」

「俺のエネルギーを高出力でお前に流した。通常なら全く効果がない技だが、疲れている相手は一撃で倒せるそういう技だ」

「では疲れているとなぜ効くんだ? そしていつそれを使うことを決めた?」


 しつこいなこいつ。

 いやこういう奴が成長するんだろうけど。


「もういい加減にしないか。俺は早く市街地の方に行きたいんだ。それにゆっくり休める宿も探さないと」

「ああ、それは失礼した。ではいい場所がありますよ」



-----



 連れて来られたのはヨヴの実家だった。

 市街地のやや外れにある一軒家。

 窓からは鉱山が見える。


「つまり相手の出力と自身の出力の差=ダメージになると」

「その通りだ。同じかそれ以上であればただ通り抜けるだけ。だが小さいならばエネルギーの流れは圧縮され、それは身体を筋肉を傷めつける」


 ヨヴとテーブルに向かい合い、甘い茶をすすりながら話していた。

 最初はちょっとうざいと思っていたが、話せば理解が速いんでストレスがない。

 ドワーフとのはてっきり「背中を見て覚えろ!」みたいなものだと思っていた。


「今日は、いえこの街にいる間だけでもぜひ泊まっていってください。そこらの宿屋よりかはおもてなししますよ」

「そうしたいところだけど……そうですね。とりあえずお父さんが帰って来るまではここにいさせてもらいます」

「ふふ。ちゃんと予習してきているのですね」


 まあね。

 ドワーフの親父に怒られたくないし。

 どれだけ怖いかはイヴからよく聞いている。


「そういえばお姉さんは」

「姉貴はもういません。旅立ってしまいました」

「どこに?」

「目的地は聞いていません。そもそも目的地なんてないのかもしれません」


 姉貴はそういう人です。

 ヨヴはそういうと後ろの棚から封筒を取り出した。


「姉貴のことは貴方もよくご存じでしょう。男勝りで、口が悪く、真っ直ぐな女」

「ああ。そうだったな」

「でも悩みがないわけではなかった。自分は何のために生きているのか、悩んでいたはずです」


 ん、なんだ。

 その話どこかで聞いたような。

 いやでもイヴがそんな弱気な発言をしていた時があったか?


「ドワーフの女性は夫に尽くすこと、家庭を守ることが生きる価値だと考えています。姉貴がどう考えていようとも、幼少期をそういう文化の中で過ごしたの確かです。そんな女性が突然自由になる。それはいいことばかりではなかったようで」


 封筒の中からは大量の手紙が入っていた。

 全てイヴが書いたものだ。


「姉貴は年に数回手紙をよこしていました。父とは喧嘩していましたが、私は仲が良かったので」


 手紙を手に取る。

 きったない字で美味かった食べ物や、珍しかったものが綴られている。

 しかし中には自身の生き方についての不安を吐露したものがあった。


「『私には戦う理由がない』。何度かそういったことを書いていました」


 確かにあいつは強さに憧れていた。

 しかし、強くなって何がしたいのか。

 そこが分からなかったのだろう。


「でも、この間帰って来た時にはちょっとした目的が出来たと、嬉しそうに語っていました」

「それは何よりだな」


 俺もあの旅でいろんなことを学んだ。

 イヴもそうだったのだろう。


「さあ暗い話はそこまでにして」


 お母さんがお茶のお替りと菓子を持って来た。

 ヨヴの横に座り、微笑んだ。


「あの子の旅のお話も聞きたいわ」

「確かに私も聞きたいです」


 とは言っても、どこからどこまで話せばいいものか。

 まあ出会いからざっくり話すとしよう。



-----



 会話は非常に弾んだ。

 他者から見た戦士イヴフェールの評というのは二人とも気になっていたようだ。

 ヨヴは前傾姿勢で話を聞き、お母さんはキッチンから茶々を入れて来た。

 和やかな雰囲気だったが、時々横から冷たい視線を感じたのは気のせいではないはずだ。


 そんな感じで会話していると一つの疑問が生まれた。


「あの、お母様はイヴのことをどう思っているんですか」


 ヨヴに小声で話しかける。

 確か両親とはかなり喧嘩したと聞いていたが。


「母ですか。最初は家を出ていくことを反対していました。でも母親は母親。娘のことは心配していましたし、少し考えは改めたみたいですよ」


 道理で嬉しそうに話を聞いていたわけだ。

 それらは少し安心。


「この前帰って来た時は仲良く話していました。でも問題は――」


 カランコロン。

 玄関が開いた。


「ただいま。ああ、お客さんかい?」


 そこに立っていたのは、髭を立派に蓄えた絵に描いたようなドワーフ親父だった。


「父上、おかえりなさい。この方はゼオライトです」

「ゼオライト。そうか」


 一瞬顔が険しくなったのを俺は見逃さなかった。


「うむ、客人の前でこのような汚れたままではおられん。着替えてまた出直してくるよ」


 そう言ってそのまま奥の部屋に入っていった。

 ヨヴが耳打ちする。


「まあ見ての通りのコテコテ親父ですので」



 しばらくすると食卓に料理が並べられた。

 案内されたままに座る。

 イヴの父ことフォヴフェールもきっちりとした服に着替えて出てきた。


「じゃあいただこうか。あなた方もどうぞ遠慮なく。妻の手料理を味わってください」


 そうして食事が始まったが、妙な緊張感があった。

 会話もないし、居心地が悪い。

 いつもこうってわけではないだろうが、何となくイヴが家出した気持ちがわかる気がした。


 そんな静寂を破ったのは、ヨヴだった。


「父上。私は今日この方と――」

「聞いたよ。まさか息子が負けるとはな」


 ぶっきらぼうに答えた。


「まだまだ鍛錬が足りていないみたいだな」

「そうですね。鍛えなおします」


 会話が終わった。

 と思ったら、今度はこっちを見て来た。


「娘が随分とお世話になったようで」

「いえ、私の方こそ色々と助けていただきました」

「そうかい」


 会話が終わった。

 いや、このまま終わらせてはいけない。


「強い女性でした。あそこまでの女傑はそういないでしょう」


 ヨヴがちらりとこちらを見て来た。

 そして軽く頷いた。


「さきほどまで姉上の武勇伝について話しておりまして、これがなかなかに興味深かった」


 こちら側についてくれるのか。

 それは助かる。


「父上も話を聞きたくないですか」


 フォヴはしばらく肉を噛みしめていたが、スープでそれを流し込んだ。

 その後こう言い放った。


「気に食わんなぁ。お前も、イヴも」


 その鋭い眼光は俺に向けられた。

 そして再び静寂が訪れた。



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