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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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079 拳と拳


 ゆっくりと立ち上がる。

 それぐらいの猶予はあった。


 全身に刺さった武器を一本ずつ抜き捨てるヨヴ。

 その顔には明らかに疲れが見える。

 受けたダメージでいえばこちらに分があるか。

 というか、そうでないと困る。

 俺に一撃与えたとはいえ、あの状況で無理に動き、更には腹に深く剣が刺さっているのだから。


「今ので終わったかと思ったが、タフなんだな」


 声をかけるも、ヨヴは答えない。

 そればかりか、再び剣を構えた。

 ならばこちらもやるしかない。


 さあどうする。

 鎖は全部使えなくなってしまった。

 もう一度展開することは出来るが、同じ手にひっかるとは思えない。


 いや、なればこそ、か。


「おっと? ゼオライト再びトラップを仕掛けました。これはどういうことだ?」


 タネがばれていたとしても、邪魔なことには変わりない。

 引っかかると痛い目をみることが分かっている以上、これを避けながら戦うことになる。

 一方こちらは自在に鎖を作ることも消すことも可能。

 地の利を得たな。


 さあどうするヨヴ。

 この状況でどう攻める?


 だが俺にはわかる。

 跳ぶんだろう?

 地面がこうなった以上、跳び上がってこちらに来るしかない。

 そうじゃないと急接近できない。


 それとも剣を投げるか?

 ゆっくりと、慎重に歩くか?

 何でもいい。

 対策は出来てる。


 しばらくの沈黙。

 その後、ヨヴが動いた。


 大きくかがみ、そして空高くに跳び上がる。

 そう思っていた。

 しかし、ヨヴの選択は……。


「どういうことだぁ! トラップに突っ込んでいったぁ!」


 大きくかがみ、そのまま突進を始めた。

 鎖が身体に纏わりつくことなど、お構いなしに。

 勢いも減衰していない。

 それは予想外だった。

 だからパワー系は苦手なんだ。


 でも、通らないよそれは。


「ゼオライトも突っ込んでいったぁ!」


 ここでは引かない。

 引けば負ける。

 逆に攻めるのだ。


 指を広げ、腕を鞭のようにしならせる。

 そして狙う先は――。


「金的だぁ~! なんと卑怯な!」


 反則はなしだろ。

 なぁ?


 ヨヴに与えたダメージはさほどでもない。

 だが、彼の手から大剣を落とすことには成功した。

 あれだけの攻撃を受けても手放さなかった剣を、ここにきて落としたのだ。

 流石男の急所という他ない。

 だが、こちらもノーリスクで得られたチャンスというわけでもない。

 鎖骨は、うん、いっちまったな。

 右腕に力が入らねえ。


 まったく。

 直前に防護壁を張ったのに破りやがった。

 これは剣聖以来だな。

 期待の超新星に恥じぬ技量。


 だが、それだけだ。

 まだあいつには程遠い。

 落ちた大剣を拾い上げると、地面に突き刺した。


「さあどうする、ヨヴ。オキニの剣を取りに来るか?」

「いやいい。それはもう使わない」

「あらそう」

「貴方の手に触れた時点でそれはもう使えなくなった」


 うーん。

 もっと自然に触るべきだったかな。

 

「一つ聞きたい。貴方は今の戦況をどう見ている」


 突如投げかけられた疑問。

 不安故か、それとも俺の目を試そうというのか。

 この状況であまり聞かない言葉だ。

 まあ、正直に答えてやろう。


「俺の有利と見ている」

「そうか」

「こちらもダメージは負っているが、あんたは動けば動くほど血が噴き出し、いやそのまま立っているだけでもいずれは死ぬ」


 ヨヴはグッと目をつぶった。

 考えていることは同じだ。

 今の俺の言葉を持って答え合わせもされた。

 そしてこの状況で聡明な魔術師ゼオライトならどうするか。

 逃げに徹すれば良い。

 遠距離からテキトーに攻撃すれば確実に勝てるだろう。


 だがまあここは闘技場だからなぁ。

 普段と違うことをするのも一興か。


 俺は右手を差し出した。

 会場がざわめく。

 ヨヴも察したようだ。

 そりゃ男ならわかるよなぁ。


 ヨヴは近づくと俺の手を掴んだ。

 もうお互い逃げられない。


「おおっとどういうことだぁー! ゼオライトがヨヴフェールの間合いに入ったぞ! これは余裕の表れか、それとも何か策があるのか!」


 左手で握りこぶしを作る。

 そしてヨヴの顔面に叩き込む。

 しかしそれが届く前に、自らの顔面に強烈な一撃が飛んできた。

 視界がぐらつく。

 体勢が崩れるが、倒れはしない。


「ドワーフの拳骨。一度喰らってみたかったんだ」

「じゃあ何度でも味わってくれ」


 再び顔面にめり込む拳骨。

 多分鼻が折れた。

 この距離じゃ攻撃の起こりも見えねえ。

 だがそれでいい。

 はなから避けるつもりもない。


 三度目のストレートパンチ。

 同時に俺も拳を繰り出す。

 互いの拳がすれ違い、互いの顔面に当たる。

 威力で勝ったのは、俺の方だった。


「今度はヨヴフェールがよろけた! なんだ今のパンチは!!」


 ありがとな師匠。

 今まであまり使ってこなかったけど、ころ強いや。

 さあもう一発だ。


 俺の拳が緩やかな金色の弧を描く。

 ヨヴの頬にヒットする。

 拳の衝撃の後、接触面から小さな爆発のような破裂が生じる。

 それはヨヴの顔面を大きく歪ませた。

 これが『黄金の拳』だっけか。


 三発目を入れようとしたところでヨヴが立て直した。

 今のは予想外のダメージに戸惑っていただけ。

 まだまだこれからだよな。

 だって、「来るとわかっている攻撃は気合でなんとかなる」だろ?


 両者拳を握り直し、全力で放つ。

 狙うは相手の顔面一点のみ。

 一撃で倒れぬのなら、もう一撃。

 それでも倒れぬのなら……。


「見よ! これが漢と漢の、拳と拳の戦いだぁ!!!」


 会場はこれまでにない大歓声で包まれる。

 盛り上がっていただけたのなら何よりだ。

 だが、ちょっと調子に乗り過ぎたか?

 これだと負けちまうじゃないか。


 こうなったら、終わらせに行くしかない。

 今ならまだ間に合う。


 ヨヴの手を思いっきり引き寄せる。

 瞬間、ヨヴの拳が飛んできたが、直前で止まった。

 日和ったか。


「すまん」


 このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 ヨヴの左手を掴む。

 するとヨヴの身体が痙攣し、大きくのけぞった。

 口から泡が噴き出したところで、手を放す。

 ヨヴはそのまま倒れた。


「これは、いったい何が起きたのか。何らかの大量のエネルギーがヨヴに流れ込んだのは確認できましたが、……おっと審判が待ったをかけました」


 太鼓がドドンと鳴る。

 先ほど天秤を持っていた男が駆け寄り、ヨヴの首に手を当てた。

 そして彼の顔を注意深く観察する。

 しばらくして男は立ち上がり、俺の方を向いた。


「勝者! ゼオライト!」


 一瞬の静寂の後、拍手が沸き上がった。

 観客の心情はいかばかりか。

 彼らのほとんどがヨヴを応援していたのは明らか。

 良い心地ではないだろう。

 しかし正々堂々と挑み敗れたのだから文句はない。

 そして勝者は称えなければならない。


「俺の勝ち、ということは釈放してくれるのか?」

「もちろんだ」

「二言はないな」

「戦神に誓おう」


 よし。

 ならもういいだろう。


 俺はヨヴに近づいた。

 身体は緩み切り、開かれた瞳には生気が感じられない。

 これはどう見ても死んでいる。


 ヨヴの胸をトンとつつく。

 身体がビクリと動いた。


「主様!」


 ユナが駆け寄ってくる。

 とても嬉しそうだ。


「もう、すごくドキドキした。もうちょっとで飛び出すところだった」


 見ていたよ。

 剣を片手に身体を柵から乗り出して見守っていたところを。


「俺のことを信用していなかったのか?」

「そうじゃない、けど、……むー」

「ごめんごめん。よく我慢したな」


 そっとユナを抱き寄せる。

 心配かけてしまった点はすまない。


 そのままユナにもたれかかるようにして歩き出す。

 いつの間にか入って来た門が開いている。

 もう勝手に出ていいのか。

 まあ行く先は決まってる。

 療病院だ。


 門をくぐると、さっきの役人が待ち構えていた。

 何も言わずに通行許可の手形を渡してきた。

 じゃあこれで。


 突如背後から聞こえる大歓声を聞きながら、俺たちは闘技場を後にした。


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