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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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078 立ち合い


 案内された先は小さな小部屋だった。

 さっきの役人よりもいかつい顔のドワーフが座っている。


「えらく大人しく来たね。いやそれでいい。ここで暴れられたらどちらも無事では済まないからね」


 大昇降機の方をちらりと見る。

 まあそうだろうね。


 俺たちだって暴れたくない。

 あんな大量のドワーフ戦士たちを相手にしたくないし。


「で、本題だけど、君たちが指名手配犯だよね」

「間違いありません」

「潔いね。このままいけば即刻死刑は免れないというのに」


 手配犯に書かれた内容。

 魔術師ゼオライトを捕獲したら斬首せよ。

 そしてその首をティロニアンに差し出すこと。


「こればかりは仕方ありません。どうぞティロニアンの言う通ーりにしてください」

「ホントにそれでいいのかい?」

「私が決められることじゃないですからね。あなた方がティロニアンの言いつけ通りにするのなら、もう無理でしょう」


 男の眉がピクリと動いた。


「まさか、慈悲を施してくださるつもりで? やめた方がいい。素直にここに書かれたとおりにするのが身のためですよ」

「嫌な言い方をするね、君」

「事実ですよ。ティロニアンは強い。独り勝ちだ。現にあの国に反発するような骨のあるような、そう勇敢な国はもうどこにも――」


 バァン!


 机を思いっきり叩かれた。

 来た来たぁ。


「確かに、ティロニアンとうちは同盟を結んでいない。協力する義理はない」

「では指示に背くと?」

「別に関係ない。むしろあいつらの言いなりになる方が恥というもの」

「じゃあ、死刑にしないの?」

「ああ君たちを解放しよう」


 そう。

 ドワーフとはこういう種族なのだ。


 ドワーフが協力関係を持っているのはオステルのみ。

 なのにティロニアンの手配犯が出回っていることがそもそもおかしい。

 つまり、ドワーフたちも日和見しているのだ。


 それに先ほど知った話ではあるが、ジェネスは竜神を殺害した。

 ドワーフにとっていい話であろうはずもない。

 鬱憤も溜まろう。


 そこを突けば彼らが怒るのは当然。

 なぜなら彼らは皆勇猛な戦士だから。

 いやもうばあちゃんと口喧嘩――


「だが!」


 急に声を荒げる男。

 怒りを抑えながら、じっとこちらを見つめていた。


「このままタダで解放するのも癪だ」

「え?」

「ティロニアンの言い分がどうであれ、君が危険人物には違いない。それに、我々のことも侮辱した」


 あ。

 なんか嫌な予感。


「よって、我々独自の方法で処罰する!」



-----



 大昇降機を登り連れて来られたのは、また小さな部屋。

 ただ先ほどと違うのは、壁に武器がたくさんかけてあること。


「ではお嬢さんはこちらに」


 ユナだけ別の場所に案内される。

 残ったのは俺だけ。


「準備が出来ましたら、こちらから出てきてください」


 入った方とは別の扉からそう聞こえた。

 そうはいっても、ねえ。


 とりあえずテーブルに置いてある一杯の酒を喉に流し込む。

 美味しい。

 食前酒、なわけねぇよな。


 壁から剣を一本取り、扉の前に向かう。

 さあ、開けようか。


「ではこちらにどうぞ」


 そこは大きな、暗い廊下だった。

 案内されるままに壁の前に立つ。


 そして先ほどから少し聞こえるざわざわとした声。

 これは……。


「では、貴公に勝利を」

「え?」


 急に目の前の壁が、いや、門が開いた。

 その瞬間、爆音が襲い掛かる。


 よく聞けば、これは声か。

 大声の塊。

 何十、いや何百人か?


 光の差し込む方向へ歩くと、開けた場所に出た。

 地面に剣やら槍やらが刺さっている。

 俺を見下ろす大勢の人。

 ここは、闘技場だ。


 いや、そんな気はしてたが、この観客の数はなんだ?

 さっきの役人と話してからそんなに時間は経っていない。

 なのにこんなに集まったのか?


「さあ、西の方角から出てきたのは『魔術師ゼオライト』だぁ! 以前は魔術師狩りとして恐れられていたそうです。見てくださいあの顔! 如何にも何かしてきそうだぁ!」


 実況もいるんだ。


「このゼオライト、ジェネスに喧嘩を売った後、長らく行方不明となっていました。しかし今! この命知らずが帰って来たのです!」


 好き勝手言いやがる。


 さて闘技場の中央に目をやると、二人の男が立っている。

 大剣を担いでいる方が、対戦相手か。


「さあゼオライト、こちらへ」


 天秤を持った男に呼びかけられる。

 指示に従い中央に立つと、対戦相手と睨み合う形になった。


 たなびく赤髪。

 どう見てもドワーフだな。

 でも一般的なドワーフよりは少し背は高いか。

 そこまで見下ろしている感じがしない。


「凶器・魔術使用可。反則は場外への意図的な攻撃のみ。また場外に出た場合は負け。以上!」


 天秤の男がそう言い放った。

 え、それだけ?


「あの、勝利条件は?」

「あんたが死ぬか、こいつが死ぬか。簡単だろう?」

「え、いや」

「ハイ挨拶して!」


 相手と目が合う。

 うおお。

 すごい威圧感。


「あなたが、ゼオライトなんですね」

「え、ええ。まあ」

「姉貴がお世話になりました」


 そう言って相手は少し頭を下げた。


「はいはい二人とも下がって! 端まで行って!」


 あ、姉貴?

 いやいや、え?


「さあいよいよ始まります! 魔術師ゼオライトvs期待の超新星ヨヴフェール! 生き残るのはどちらか!」


 おいおい。

 色々と急展開すぎるぜ。


 まあいい。

 まずは生き残ることだけを考えよう。

 それが第一。


 んで、相手だが……。

 どう見てもパワー系だな。

 はあ。

 パワー系が一番苦手なんだよ。


「始めぃ!」


 ドドンと太鼓の音が鳴り響く。

 歓声が一際大きくなった。


 ヨヴは剣を構えた。

 胸の辺りでしっかり両手で握り、剣先を上に向ける。

 炎鷹流の基本の構えだ。


 隙はデカいが、当たれば一撃で持ってかれる。

 絶対に避けたい。


「先に動き出したのはヨヴフェールだぁ!」


 構えたまま走り出す。

 あまりに無防備すぎる。

 まあ一旦はそれに甘えさせてもらうよ。


 大量の槍を召喚しヨヴに向かって放つ。

 これは流石に……。


「おおっと! 避けない! 以前突進したまま!」


 ちょっと避けるとかしろよな。

 ほとんど刺さっちまってるじゃねえか。

 ま、ドワーフってのはこうでなくちゃ。


 ヨヴの間合いに入る。

 グッと全身に力が入った瞬間、俺は王道を横向きに使った。


「なんという素早い回避! 一撃決着とはなりませんでした!」


 地面にめり込んだ剣先。

 ありゃくらってたら終わってたな。


 ヨヴが再び構える。

 もう一度同じことをするか?

 いや、こいつは違うな。

 今とは違う結果になる。

 ちゃんと俺の手を動きに注目している。

 次は当ててくる。


 でもそれはいやだな。


「おお!? 魔術師ゼオライト、無防備に近づいて行きます!」


 だったらこっちからアクションを起こさないと、なあ。


「間もなく間合いに入ります! 何をする気だゼオライト!」


 何をするか、だって。

 そんなものは決まってる。

 俺は何もしない。


 ヨヴが動く。

 鋭い一撃だった。

 だがそれが俺に届くことはない。


「おおっとまた避け……、いやゼオライトは避けていません! 動いていない!」


 ヨヴも自分の状況に気づいたようだ。


「なんだぁ! ヨヴフェールの足元に無数の帯のようなものが! そしてそれに絡まってしまっている!」


 そう。

 それでは踏み込めない。

 よって俺に攻撃が当たることはない。


「あ! ゼオライトが大弓を! いつの間に……」


 もう遅い。

 最大チャージ完了だ。


 矢を放つ。

 それは光の線となって相手を貫く。

 そのはずだった。


 ちっ。

 避けやがったか。


 鎖を無理矢理引っ張り、間一髪のところでいなした。

 すごい腕力。

 でも、それも計画の内だ。


「足元はよく見ておくんだぞ!」


 突如、数十の剣、矢、槍がヨヴを襲う。

 俺の魔術じゃない。

 全部本物だ。

 そしてそれらのいくつかは彼の身体を斬りつけ、あるいは刺した。


「なるほど。あの帯は全て場内に刺さっている武器に絡まっていたのかぁ! これが策士ゼオライト!」


 ヨヴも予想していないダメージによろめく。

 しかし動けば動くほど、痛みは増えるぞ。


 一本、一本、また一本と鎖に繋がった剣が抜け、ヨヴの身体を傷付ける。


「ああ! なんと痛ましい攻撃だぁ!」


 衛星を飛ばす。

 長引かせる必要はない。

 決着をつけよう。


 衛星に攻撃させつつ、持ってきた剣に炎を纏わせる。

 そして激しく回転させ、射出する。

 それは炎の渦となり、槍となり、ヨヴの身体を貫ぬかんとする。


 誰もがヨヴの敗北を悟った。

 だが、一人だけそうでなかった。

 それはヨヴ自身だった。



 気づけば、彼は目の前にいた。

 大剣を振りかざし、俺を叩き斬らんとしていた。

 俺は魔法壁を構えることしか出来なかった。


 地面に打ち付けられた俺の身体。

 受け身など取る暇さえなかった。

 剣は何とか防げたが、骨は何本か折れただろう。


「おお! 逆転だぁ!!!」


 来るとわかっている攻撃は気合でなんとかなる、だったか。

 イヴも前言ってたな。

 はあ。

 だからパワー系は苦手なんだよ。


 俺の放った剣は、確かにヨヴの腹に深く突き刺さっていた。

 だが、彼はそんなものはお構いなしに突っ込んで来た。

 流石ドワーフ。

 流石戦神の同胞。


 じゃあ、ここからはアドリブだな。


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