077 関門
ラードラゴンを走らせてからしばらくして、オアシスを見つけた。
結構とばしてしまったし、一度ここで休憩していこう。
「何とかなったね」
「ああ。でもユナ、どうやらまだ話してないことがあるよな」
口をへの字に曲げ、そっぽを向くユナ。
へたくそか。
「俺のばあちゃんに会ったんだな?」
「へへ」
やっぱりな。
何故隠していたかは置いといて、ちょっと聞かせてもらおうじゃないの。
そして、ユナが語った内容は以下のようなものだった。
あの日、俺が遥か彼方に吹き飛ばされた後、ユナはジェネスに戦いを挑んだ。
結果は前に聞いた通りだ。
その後、命からがら逃げることに成功した。
数日後、オストロルに戻ってきたユナは俺を探し始めた。
街の中に限らず、周辺の村にも行った。
しかし見つからない。
埒が明かない判断したユナは、オストロルから離れることを決意した。
自身の嗅覚や目撃情報をもとに旅を続けると、ついに俺のにおいの最も濃い場所にたどり着いた。
そう、俺の実家だ。
真夜中にも拘わらず興奮して家に入るユナ。
しかし、家には一人の老婆、ばあちゃんがいた。
しかもユナを賊の類だと思って襲い掛かる。
何とか攻撃を受けとめるユナだが、その時に使ったのが俺のあげた剣。
激昂するばあちゃん。
ユナはボコボコにされた。
そしてその時、剣が折れてしまったという。
どんだけ強い力で叩いたんだ……。
一応愛孫の剣だぞ。
まあそれはいいとして。
その瞬間ユナは泣き叫んだそうだ。
それはもう。みっともないぐらい。
ばあちゃんもそれを見て何かを感じ取ったらしい。
ユナは話した。
俺に出会ったこと、一緒に暮らしていたこと、そして離れ離れになってしまったこと。
ばあちゃんは静かにユナの話を聞いてあげたそうだ。
そして一通り話を聞いた後、こう言った。
「主人を守れずに何が従者だ! この雌犬ッ!」
「貰った剣も折りよって、獣人として恥ずかしくないのか!?」
「お前はゼオライトに相応しくない! 出ていけ馬鹿モンがぁ!」
忘れてはいけない。
あの人は野蛮人なのだ。
ユナは追い出されてしまうが、何度も何度も頼みに行ったという。
私に主様を守る力をください、と。
そうして三日ほどたった時、ついに家に入ることを許してもらったそうだ。
しかし、ここからが本当の地獄だった。
ばあちゃんとの稽古は日が昇るとともに始まり、日が沈んで初めて終了する。
朝は薪割り、昼は素振り、夕方になってやっと立ち合い。
ひたすら岩を素手で殴ったり、一日中山を登ったり下ったりを繰り返すといったのもあったようだ。
……聞くだけで嫌になる。
そして2年たったころ、ついに俺に仕えることを許されたらしい。
いや、あんたが決めることじゃないけどね。
その時に貰ったのが、今使っている大剣だ。
なんでもばあちゃんにとって大事なものらしいが、そんなのあったか?
「その後もいろいろ旅しながら、主様探した。そしたら、運ばれてた主様いた」
「それがあの時か」
「うん。会えて嬉しかった。ユナ安心した」
まあ、それならいろいろと納得できる。
元々強かったユナがさらに強くなっていたこと。
喋り方もかなり流暢になっていること。
女性としての魅力にも磨きがかかっていたこと。
全部ばあちゃんが教えたのか。
というか。
うすうす気づいてはいたけど、ばあちゃんちょっとおかしくない?
年の割には動けるし、昔はそこそこ有名だったらしいというのは知っていたが、ここまでなのか。
なんで獣人に勝てんの。
「でもそうか。ばあちゃん、元気そうだな」
「うん。とっても元気だった。ひ孫見るまで死なないって、言ってた」
「ああそう」
「でも、主様の顔を見たくないって言ってた。喧嘩してるの?」
それは、なんというか。
ばあちゃんも俺がオストロルに行くことに初めから賛成だったわけではない。
娘も婿も亡くし、残ったただ一人の親族が俺。
もし旅立った先で何かあれば……と考えてしまうのはおかしなことではない。
それを言葉にすることはなかったが、それぐらいのことは察っせられる。
とは言え愛する孫の願いを、夢を無下にすることは出来ない。
「あんたの言うような一流の魔術師になるまで帰ってくるんじゃないぞ」
思えば、あの約束も自身の気持ちを切り替えるためのものだったのかもしれない。
俺が帰って来ないということは、まだ夢に向かって頑張っていると捉えることも出来るからな。
そういう意味では、約束なんてのは無いのと同じ。
だが、俺もあんたの孫なんだ。
こういうところは意外と頑固でね。
まだ帰れないよ。
というか、今の状態を考えれば一度でも帰ろうと思ったのが恥ずかしすぎる。
まあまだ未熟ってことだ。
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ついに辿り着いたのは、ドリオ高原。
目の前に見えるのは垂直の崖。
この上にドワーフたちが住んでいる。
上に行くには大昇降機を使う必要があるが、その前に関所を通過しなければならない。
その前には物凄い数のキャラバン。
こうなるのもしょうがない。
ここが唯一の正式な入り口だからな。
だが、俺たちはここに並ぶ必要はない。
観光客はすぐ横の小さな関所から入れる。
「やあ、お兄さんお嬢さん。身分証明は出来るものある?」
手形はない、がこれは一応証明になるのか。
「ああギルドのって、第八星! おいおい、まさかうちに喧嘩売りに来たんじゃないだろうね」
「いや、そういうわけでは」
「ま、大歓迎だけどね! ガハハハッ」
と言いつつも、しっかりと本物かどうか確かめている。
流石役人だ。
「あれ、あんたたちどっかで会ったか?」
「え、いや、すみません。私は覚えがないのですが」
「ああそうだったか。まあいいや。それで観光目的?」
「はいそうです」
「つっても、今見るもの何もないよ。闘技大会もやってないし」
そういえばここで行われてたのか。
世界各国の強者が拳で殴り合う年一のお祭り。
「いや、えっと、火口の方に行きたくて」
「あー生憎そっちは今閉鎖中なんだよ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。ジェネスがウチの竜神様をぶっ殺しやがってよ。そっから噴火が不安定なの」
ええ。
ドワーフの言う竜神とは炎の古竜のことだったはずだ。
ドーリス火山の最深部を寝床とするそれは戦神の友であり、鍛冶の象徴である。
と、イヴは語っていた。
それを殺した?
ジェネスが?
なんと無礼な奴なのだろうか。
というか古竜も倒せるのかよ。
「だから、見れるのは鉱山ぐらいで……」
いやそれでは困る。
俺たちは目的地はそっちなのだ。
「その、火口まで行かなくても、途中までは行けたりしませんか?」
「単に登山したいってこと? まあそれなら、途中の小屋までは行けるが」
「そうですか。あの、第三休憩所ぐらいまでは行きたいんですけど……」
「ああちょうどそこがギリのところだな、うん」
それならとりあえず何とかなる。
火口までどう行くかは現地で考えよう。
などと考えていると、役人は不思議そうな顔で訪ねてきた。
「あの、もしかして、待ち合わせされてます?」
「はい?」
「ああいや、昨日も二組ほど第三休憩所に行きたいと言ってましてね。第四の方はまあまあ有名なんですが、第三にわざわざ行きたいという人はとても珍しいので」
もしかすると、俺たちと同じように呼び出された奴が他にもいるのか。
やっぱりただのいたずらというわけではなかったか。
「そういえば、その人たちもあなたたちと同じように、なかなか強そうな方だった。もしかしてホントに集団で喧嘩売りに来た?」
「いや、そういうわけでは」
「ま、大歓迎だけどね! ガハハハッ」
本当に喧嘩売ってやろうかな。
「ああそうだ。第三の近くに宿屋があるんだが、もしよかったらここで予約しようか?」
「出来るんですか?」
「もちろんいいよ。そこそこ眺めもいいし、ここでなら割引も付く」
そういうわけで、約束の日の前日からの一泊分予約した。
第三休憩所から火口まで行くとすれば当日の朝に出発なので、これで大丈夫だろう。
「よしこれで手続き……ああそうだった」
ごそごそと机から何かを取り出す。
「手配書が来ててね。一応、ね」
え。
それはまずいんじゃないの。
「テハイショってなに?」
「あら、お嬢さん知らないの? お尋ね者ポスターだよ」
「知らない。どんなの?」
カウンターに近づくユナ。
止めた方がいいのだが、怪しまれる行動はしたくない。
それにまだ俺たちだって決まったわけでもないし。
「これだよ。ほらこうやって似顔絵があって――」
「わあ、見て。主様そっくり」
終わった。
「でも、もう少しかっこよく描いてほしい。こっちは、ユナ?」
「うん。ほぉ、うん。そうだね。名前はユナって書いてあるから、きっとお嬢さんだろうね」
「ユナいつもこんな怖い顔してない……」
「そうだね。うーん。実物はもっと別嬪さんだね」
役人も急にしどろもどろになる。
そりゃそうだろう。
目の前に大犯罪人がいるんだから。
「まあ、ね。こうなっちゃたら、ねぇ。ハハッ」
「あはは……」
「とりあえず、こっち来てくれるかな?」
そして俺たちは大昇降機ではなく、別の場所に案内された。




