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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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074 砂上船


 その日は酷い砂嵐だった。

 ラードラゴンはお構いなく進んでいくが、上に乗った俺たちはたまったもんじゃない。

 方向感覚、平行感覚は狂い、酷く乾燥した砂は肌の潤いを奪う。

 スカーフの息苦しさに耐えきれなくなった時、視界が開けた。

 砂嵐は去った。

 しかし、俺たちは包囲されていた。


 十を大きく超える、それも巨大な砂上船。

 掲げる旗は、髑髏とそこから生える花。

 間違いない、『砂海の一味』だ。


「旅の者よ! ただちに歩みを止めたまえ!」


 戦うという選択肢はなかった。

 この不利な状況で、あの人数。

 逃げおおせることも難しいだろう。

 なら、噂通りにするしかない。


 ラードラゴンを止めると、横の船からラッタルが下りる。

 上がってこい、ということだろうか。


 金貨の入った袋を片手に階段を上る。

 甲板にはオレンジの髪をなびかせた女性がいた。

 堂々とした佇まい。

 左目の眼帯とそこからのぞく傷跡からは歴戦のそれを感じる。


 俺たちが女性の前に立つと、彼女は声高らかにこう言った。


「ようこそ我らのファミリーに! そしてこの出会いに祝杯を挙げようではないか!」



-----



「おはようございます」

「おはようさん!」


 今日も朝から歌声が聞こえる。

 楽器の音もだ。

 剣を振り回している男がいると思えば、突然飲み込んでしまった。

 振り返ると意味の分からない積み方をした椅子を運ぶ男と、その上で逆立ちする女。


 想像していたのとはかなり違った。

 彼らは劇団だったのだ。


 突然街に現れては演劇を披露し、数日たったら忽然と姿を消す。

 いわゆるゲリラ演劇というやつだ。

 だけどそれだけじゃ儲からないので、傭兵もやっている。

 んでやたらと強い。

 それが砂海の一味なのだ。


「ああそういや、ボスが探していたぜ」

「そうですか。……どこにいるんですか?」

「ええと今日は、オフィーリア号だったはずだ」


 どれだよ。


「あれだよ。ほら、若い女性の像がある」

「ああ、なるほど」


 ユナは、まあいいか。

 こっちで楽しいでいるみたいだし。


 帆柱を登り、器具をもらいロープにかける。


「どこまで?」

「オフィーリアまで」

「じゃあホレイショー経由で。いってらっしゃい!」


 背中をどんと押される。

 気づけば足元には砂の海。

 生きた心地がしない。


 だがしかし、景色はいい。

 青い空に黄色い地面。

 その境界線がうねうねを続く。

 どこを見てもそれが続く。

 まあ一応爽快感はある。


 でもそれも一瞬で終わる。

 柱をロープでスルスルと下りればもう甲板。

 船員たちが慌ただしく働いている。

 暑苦しい。


「どうぞ入って」

「失礼します」


 船長室は少し涼しい。

 外とは大違いだ。


「すまなかったねえ。あの後すぐ寝ちゃって。久しぶりの宴会だったからさぁ」


 二日前、訳も分からず始まった宴会。

 がぶがぶ酒を飲んで勝手に潰れた船長がこの人だ。


「初めましてなら、ドカンとやらないとね。あんたも楽しかっただろう」

「ええ、まあ」


 久しぶりに美味しい飯を、それもいっぱい食べれたのだから、ありがたい限りだ。

 そこは感謝している。

 宴会代と称して大金をせしめられたことには目をつぶろう。


「私の名前はフルル。あんたはゼオで、もう一人の子が……」

「ユナです」

「彼女とは長いのかい?」

「長いといえば、長いのかもしれません」

「ふうん」


 まじまじ俺のことを見つめてくる。

 なんか顔に付いているのか?

 

「わかるよ。2人の間には相当な物語(ドラマ)がある。そうだろう?」

「さあ、どうでしょう」

「隠さなくてもいい。こういうことは昔から察しがいいんだ」


 本当か?

 適当に言っているんじゃないだろうな。


「ぜひ君たちの話を聞きたいところだが、この頃は公演に向けて忙しくてね」

「だから皆さん慌ただしくしてるんですね」

「そう。しかも今回は久しぶりのクライアントからの依頼ときた。下手なショーにはできない」


 フルルは立ち上がり地図を眺めた。

 その地図には中央オステルに大きく丸が付いている。


「帝都ですか?」

「ああ。最高の舞台だ」


 この情勢で演劇を見ようと高い金を出す奴がいるのか。

 随分と余裕があるのか。

 あるいは罠なのか。

 少し怪しいが、フルルにとってはどうでもいいのだろう。


「今回は何の劇を?」

「かつての大戦において名をあげた『双剣のビヨン』を主人公としたお話だ。彼の旅立ちから始まり、両雄との出会い、ジャマル砂漠での戦い、アレスマルスの師範となるところまで。亡くなるシーンはちょっと諸説ありなので泣く泣くカットした。そして見どころはなんて言っても白布との決戦だ!」

「白布?」

「なんだ、知らないのかい? 魔族の大将のことだよ」


 それを白布と呼ぶのか。

 聞いたことがない。


「いい機会だ。教えてやろう。魔族ってのは被っているローブの色で地位が分かるんだ。緑が庶民もしくは一般兵、赤が剣技に優れたもの、青が魔術に優れたもの、そんで白が大将だ」


 白いローブ……。

 いやまさかな。


「その特徴から、大戦時は赤布だとか白布だとか、そう呼んでいたそうだ。オステルでは今でも通じるんだが、その様子だと他所の出身みたいだね」


 まあともかく、かなり熱い物語ということは分かった。

 ビヨンについては俺も知っているぐらいには有名な武人だし。

 それを帝都で公演する。

 兵士の指揮を上げるためか?

 ということは戦争の準備をしているのか?

 色々邪推してしまう。


「ああそうだ。帝都には行くんだがドリオ高原に用事があってね。まずはそっちだ」

「それはちょうど良かったです」

「あんた達もドーリス火山に向かってるんだろ? なのにガラン地区に突っ込もうとしてて、びっくらこいたよ」


 ガラン地区、アブデビの縄張りだったか。

 それは危なかった。


「助けていただいて、ありがとうございます」

「礼はいいよ。目的地に着くまで八日、ゆっくりしていきな」


 一味と出会うのは避けようと思っていたが、結果的に良かった。

 これで余裕を持って到着できる。


 部屋から出ると、はあ、一気に汗が噴き出る。

 よくこんな環境で芸が出来るな。


「主様!」


 ユナの声がした。

 わざわざこっちに来たのか。


「ここにいたんだね」


 うおおおおおおおお!!!

 露出度70%!

 なんだその服!?


 紫色の下着?に、スケスケのヒラヒラ。

 ベールとフェイスベールのダブルコンボ。

 身にまとった金銀のアクセサリーは素材の味を殺すことなく、ちょっとしたスパイスになっている。


「ユナ、それは、いったい」

「この服? この人に着せてもらったの」


 ああ、セクシーなお姉さん方ね。

 踊り子だろうか。


「もーユナちゃん何着せても似合う~」

「次はこっちも来てみない?」


 随分とモテモテのようだ。

 だがなるほど。

 ここの地域はユナのように褐色肌の人が多い。

 現地の女性に似合う服ということはすなわちユナにも似合うということ。

 おまけにスタイルがいいときた。


「ねえ、貴方はどれがいいと思う?」

「そうね。彼の意見も参考にしないと!」

「ええと……」


 大事なところを何も守れていない鎧に、谷間を強調した盗賊の衣装。

 修道女っぽいのもいいが、いやいや。


「今のが一番いいかな」

「あ、主様……」


 ユナのどこか妖艶(セクシー)な雰囲気がこの衣装とピッタリだ。

 いやホントにいい。

 語彙力が消失した。


「キャー! いい彼氏ねぇ」

「さっき教えた踊り、やってみてあげなさいよ」

「え、うん」


 片脚をスッと高く上げ、静止。

 グラリとしたと思ったら、そのままの勢いで宙返り。

 大技が終わったら、軽やかなステップを踏みつつ、手は身体のボディラインをなぞるように動かす。

 これはいけない。


「ユナ、ストップ!」


 ユナの肩をがしりと掴み中断させる。

 これ以上はいい意味で見るに見かねる。


 ユナは急に止められたことにキョトンとしていたが、俺の様子を見て何かを悟ったのか、ふにゃりとほほ笑んだ。

 それは少しいたずら顔のようにも見えた。


「続きは、夜、見せてあげる」


 一つ言っておこう。

 俺はその顔に弱い。

 心がキュッとなる。

 なんか爆弾発言をした気がしたが、まあいい。

 お姉さん方がキャーキャーうるさいのも、まあいい。

 すべてのことを許せるぐらい俺はユナの時折見せる優しい顔が好きなのだ。



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