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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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・エルフの少女のお話②


「レンくーん。どこにいるの~?」


 夕ご飯の時間になったというのに、レン君は食堂に来なかった。

 寝室にも広場にもいない。


「もしかして、またあそこかな?」


 広場を抜け、瓦礫の山を登る。

 あ、やっぱりいた。


 瓦礫の中の少し開けた空間。

 そしてそこに刺さっている木の柱。

 その前にレン君はうずくまっていた。


「レン君、もうご飯の時間だよ」

「……いらない」

「どうして? お昼にあんなに遊んだんだから、ちゃんと食べないと」

「だからいらないって」


 レン君はときどきこうなる。

 いつも明るくて、お友達とも楽しく鬼ごっこで遊んでいる。

 でも夕方になると急に静かになり、そしてここに来る。

 隠れるわけでもなく、決まってここに来る。


「レン君はここが好きなの?」

「うん」

「どうして?」

「お姉ちゃんには関係ないよ」

「そっか」


 私には、なんとなく分かっていた。

 ここがきっとレン君にとって大事な場所だったんだ。

 お家か、公園か、いやなんでもいい。

 ()()が落ちてくるまでは、そうだったのだろう。


 そう、アレは突然落ちてきた。

 そして全てを壊した。

 お城も、街も、人も、そして心も。



 クリストロフまであと一日。

 宿に泊まってぐっすり寝ている時だった。


 突然窓から差し込んでくる光。

 眩しくて起き上がると、夜空に大きな魔法陣があった。

 その中心に一際輝く雫。

 それがお城のてっぺんに落ちた次の瞬間、私の身体は宙に浮いていた。


 気づけば、私は瓦礫の上に寝っ転がっていた。

 辺りには、何も残っていなかった。

 酷い有様だった。


 でも、街の方がもっと酷かった。

 お城は跡形もなく消えており、美しいと聞いていた家々は土台だけが残り、その他はバラバラに散らばっていた。

 そして、ずっと聞こえる、叫び声。


「助けて」

「痛い」

「熱い熱い熱い」


 その後は、あまり覚えていない。

 怪我した人を助けてあげたり、川まで走って水を汲みにいったり、なんか慌ただしく動いていたような気がする。


 でも、私はその時初めて知った。

 世界はこんなにも残酷だということを。


 長生きのエルフだって死ぬことはある。

 寿命で、獣に襲われて、洪水に巻き込まれて……。

 でも、喧嘩で死ぬなんて見たことも聞いたこともなかった。

 こんなこと、本当にあるんだ。


 同族同士での殺し合い。

 動物だけだと思ってた。


 爺ちゃんも言ってたっけ。

 人間や魔族が恐ろしい理由。

 それは競争すること。

 勝者と敗者を決めること。

 そして勝つことに対する異常なまでのこだわり、野心。

 私たちにないものだ。


 そうか。

 ゼオ君って、こういう世界で生きているんだ。

 だから強くなろうとずっとずっと努力していた。

 負けないために、死なないために。

 必死だったんだ。

 そしてその姿が、かっこよかった。


 でも、それじゃあ負けらどうなるの?

 強い人しか生き残れないの?

 弱い人はレン君みたいに、悲しむことしか許されないの?


「ねぇ、お姉ちゃん。まだいるの?」

「ん?」

「ご飯、食べてきなよ」


 ぶっきらぼうでそう言うレン君。

 どうやらまだ戻るつもりはないみたい。


 はぁ。

 こうなったら……。


「んよいしょー!」

「うわあ!」


 抱きかかえて運んじゃえ。


「ちょっと、なにすんだよ!」

「ほら暴れないの。とにかくご飯食べよ」

「も、恥ずかしいよ」

「えー、ホントは嬉しいんじゃないの~?」

「や、そんなことないよ。離してぇ!」


 抵抗してくるけど、そんなのお構いなし。

 もっと強く抱き締めて~、大きくジャンプ!


「ひゃっほーい!」

「わあああ!」


 広場の前に綺麗に着地。

 完璧~。


 て、あれ?

 レン君がしがみついて離れない。


「もう着いたよー」

「……」


 もしかして怖がらせちゃった?


「レンくーん、大丈夫? 怖かった?」

「あっ、いや、怖くないもん」


 離れるレン君。

 その顔はまっかっかだった。


「もー。まだ恥ずかしがってるの? 誰も見てないよ」

「いや、そういうのじゃないもん」

「そっかそっか。じゃあほら行くよ」

「うん」



-----



 数日後。


「レティシアちゃん! これなーんだ?」


 戦士のおじさんが声をかけてきた。


「え? 何かの書類?」

「そう。でここ。ほらゼオライトって!」


 ホントだ。

 ゼオ君の名前だ。

 そしてこの紙は……。


「やっぱり彼は役人護衛の任でティロニアンに向かっていたんだ」

「それもほぼ一年前、てことは!」

「ああ。戻って来たっていう記録もないし、あの爆発に巻き込まれたってことはない」

「良かったぁ」


 以前ゼオ君から貰った手紙。

 そこにはクリストロフから離れて旅をしてると書かれていた。

 でも、やっぱり心配だった。

 実は戻ってきてたかもしれないし、見栄を張って嘘ついてたかもしれない。

 それでもしここにいたのなら。

 ずっとそれが引っかかっていた。


 はぁ。

 スッキリした。


「てことは、出発かい?」

「あ。そっか。でも……」

「気にすることはない。私としても申し訳なかったんだ」


 ゼオ君の安否が分かったら、ここを出ていく。

 この人とした約束だ。


「このまま君をここに縛っておくわけにはいかないからね。それにもう十分手伝ってもらった」

「うん。そうします」

「彼に会えることを祈っているよ」



-----



「えー。出発しちゃうのー?」

「もっとお姉ちゃんのお菓子食べたかったな~」

「また遊ぼーねー」


 出発の日。

 施設のみんなが出迎えてくれた。


「ほら、レティシアお姉ちゃんになんて言うの?」

「今までありがとー!」


 ここにいるのはみんな親を亡くした子どもたち。

 少しでも親の代わりになろうと頑張ったけど、ちゃんと出来ていただろうか。

 でも、ちょっと明るくなってくれたかな?


「ばいばーい!」

「うん。ばいばい」


 悔いは残るけど、これ以上できることはない。

 とにかく子どもはいっぱい食べて、いっぱい遊んで、いっぱい寝る。

 これさえしてくれればとりあえずOK!


 それが伝わってくれればいいかな。


「お姉ちゃん」

「あれ? レン君!」


 施設を出たところで声をかけられる。


「あの、今までありがとうございました」

「あらあらかしこまちゃって」


 さっきいないなって思ってたら、こんなところに。


「あのね。僕、頑張るよ」

「うん」

「それと、メイワクかけてごめんなさい」

「いいのいいの!」


 確かにレン君が一番手を焼いたけど、あれぐらい何ともない。

 家族を亡くして落ち込むのは当然のことだし、なんだかんだ言うことを聞いてくれた。


「確かにちょっと大変だったけど、レン君がいい子なのはお姉ちゃん知ってるんだから」

「べ、別にいい子じゃないもん」


 そういう反応をする子はいい子なんだよな~。


「じゃなくて、僕、強くなるから」

「へ?」

「もう。落ち込んだりしないもん」


 子どもらしい、可愛い目。

 だけど、その瞳の奥に強い決意を感じた。


「それで、ティロニアンの奴らボコボコにしてやる」

「あー、復讐に行くんだね」

「だって、弱いって思われたら嫌だもん。ちゃんと仕返ししないと」


 そっか。

 レン君は、というよりはクリストロフは負けた。

 それは事実。

 でも、一度負けたけど、次もそうとは限らない。

 なぜなら、負けた人も強くなれるから。


 むしろ、負けた方が強くなれるのかも?


「頑張りなよ」

「うん!」


 戦争することはいいことだとは思わない。

 でも、この残酷な世界で生きるためには勝たないといけない。

 そして勝つためにはより強くならないといけない。

 レン君もまたゼオ君のようになろうとしているんだね。


「あれー。お姉ちゃんまだいたの?」

「レン君も一緒だ!」


 あらら。

 みんなまだいたのね。


「そういえば、誰に行くのー?」

「あ、聞きたい聞きたい!」


 そういえば、この子たちにはまだ話してなかったな。

 ちゃんと言っとかないと心配させちゃうよね。


「えっとね。ゼオ君っていう、その、恋人なんだけど」

「えーお姉ちゃんカレシいるの!?」

「きゃー!」


 子どもらしい可愛らしい反応。


「どこが好きなの?」

「んー、まあかっこいいところかな。いつも一生懸命でかっこいいんだ」

「あれーレン君どうしたのー?」

「それにとっても優しいんだ~。いつも私のこと考えくれてて……」

「私も優しい人好き!」

「でも、ちょっとぶっきらぼうなところもあって、まあそういうところも可愛いいんだ。しかしも、そういう可愛いところは私にだけ見せてくれるの。あと意外と甘えん坊で……」

「レン君、大丈夫ぅ?」


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