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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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071 転機


 ついにその日がやって来た。

 クリストロフが負けたこと。

 いや、もうすでに消滅していることが発表されたのだ。


 案の定ギルド内は大騒ぎになっている。

 クリストロフという大国がたった一夜にして堕ちたということが事実ならば、もはやティロニアンに対抗するすべはなく、オステルも白旗を上げざる負えない。

 ティロニアンの属国に成り下がるしかない。

 となれば、愛するこの街はどうなってしまうのか。


 もちろん直ちにオステルが滅亡するということはないだろう。

 しかし、ジェネスがその気になればいつでもオステルを潰せるという事実は、この国に住む者たちにとってはあまりにも重い。

 

 泣き叫ぶ者。

 ただ呆然と立ち尽くす者。

 真実を受け入れようとしない者。

 そして荷物をまとめ、黙って出ていく者。

 見るに堪えない光景だ。


「もう、ここも終わりだな」

「逃げるの?」

「そうした方がいいかもな」


 こうなってしまった以上、ギルドがギルドとして機能することは難しくなる。

 ただでさえギリギリの状態でやって来たのに、既に10人以上が街を出ていくことを表明している。

 家族の元へ向かうため、仇討ちをするためと理由は様々で呼び止めることも難しい。


「どこへ逃げるの?」

「今考えている」


 とは言ったものの、逃げる場所などあるのか?

 まず俺はティロニアンにおいて指名手配をくらっている。

 名前を偽っているのもその為だ。

 よって北に向かうことは有り得ない。

 南に行ったとしてもあるのはドリオ高原と中央オステルだけ。

 その先は魔界となる。

 もしティロニアンが攻めて来たのなら、逃げ道は完全になくなってしまう。

 だったら今のうちに北に、……いやもう少し情報が欲しい。


「主様?」

「街に出てみよう」


 ここに居ても何も始まらない。

 街に出て状況を整理しようと思ったら、不気味な男が入って来た。


「依頼をお願いしに来ました」


 そう一言だけ放つと勝手に掲示板のところに、よりによって終戦の告知に横にバンと依頼書の束を張ったのだ。


「なんだお前!」

「冷やかしか!?」


 男は胸倉を掴まれ、壁に押し付けられる。

 無理もない。

 依頼の内容は「宝探しをしませんか?」の一文のみ。

 それもこのタイミングで。

 男はヘラヘラ笑っているし。


「行こう、ユナ」

「主様待って」


 ユナが腕を掴む。


「どうした? あれが気になるのか?」

「うん。あれ、あの紙の匂い。知ってる」

「匂い?」

「うん。狼煙の匂いがする。ちょっと待ってて」


 ユナは人を押しのけながら掲示板に近づき、紙を一枚取って戻って来た。

 紙が鼻に近づけられる。

 あまりいい匂いではない。


「臭いな」

「うんちだからね」


 で、これがなんだというのだ。

 この匂いの付き方からしてあえて付けたことは分かるが、一体なんのために。

 狼煙……、情報の伝達……戦いの合図……。

 などと考えていると、一つの煙が目に入った。

 港のある方向、複数の煙突から吹き出る煙に紛れて風に影響されずに真っ直ぐ伸びる煙。


「狼煙だ」


 普段なら気付くことはなかっただろう。

 でもユナが匂いに気付いたから、この紙が貼られたから分かった。


「行ってみよう」


 こんな場所で狼煙を焚く意味はない。

 それもあんな紛らわしくするなんて。

 意図があるはずだ。


 胸の内がぞわっとしてきた。

 焦りのような、期待のような、なにか。

 それには覚えがあった。

 懐かしい。


 狼煙が上がっていた建物に入る。

 中は倉庫になっていた。

 少し臭う。

 狼煙の臭いではない。

 何かが腐ったような臭いだ。

 答えはすぐに分かった。

 ここは元々食糧を保管していた倉庫だったが、先の不況から売れなくなってしまい、しまいには放置されてしまったのだろう。

 腐らせるぐらいなら配った方がいい気がするのだが、まあ富豪の考えることは分からん。


「あ。主様見て」


 ユナが走り出す。

 倉庫の中心辺りに机と手紙が置いてあった。


「『魔法陣に紙をかざせ』か」


 机に魔法陣が書かれている。

 ちょうど依頼書がすっぽり入るぐらいの大きさだ。


「じゃあ、この紙をここに……」

「いや待て」

「え、主様?」

「なかなか面白いじゃないか」


 俺は依頼書ではなく、手紙の方を魔法陣の中心に置いた。

 すると手紙は激しく燃えだした。


「魔術師ゼオライトを舐めるなよ。これぐらいのトラップなんてことはないさ」


 その炎は渦を巻くと倉庫の端に向かって伸びていき、そして消火された。

 しばらく間灰が宙を舞っていたが、次第に集まっていき、元の手紙に戻った。

 手紙を手に取り、日光に透かして見る。

 魔法陣が浮かび上がって来た。


「なるほど。再生の魔術か」


 そして気になるのは炎が指した方向。

 一体何があるというのか。


「ふふ。主様楽しそう」

「え?」

「その顔、久しぶりに見た」

「そうか」


 そうなのか。

 俺は今楽しいのか。

 そう見えるのか。

 いや、きっと事実なのだろう。


「ユナ、主様のそういう顔、もっと見ていたい、かも」


 ユナはにっこりと笑った。

 何故か恥ずかしくなってきた。


「とりあえず行ってみよう」


 誤魔化すように歩き出す。

 ダメだ。

 ユナの真っ直ぐな気持ちを受け止めきれない。


 炎の指す方向へと向かうと扉があった。

 どうやら隣の倉庫に繋がっているらしい。

 何か怪しさを感じるが、行ってみるしかない。


 というのも先ほどから魔力探査を行っているのだが、倉庫に大量の冷却機能を持つ魔術器具があるせいで過剰反応し何もわからない。

 扉の向こうからも大量の反応があるが、危険なものかどうかまではさっぱり。

 ユナを方をちらと見ると、頷き返してくれた。

 ユナも危険は感じていないらしい。


 意を決して扉を開けると、やはり倉庫だった。

 依然として怪しいものはなさそうだ。


 だが、二人が部屋に入った瞬間、様子は一遍した。

 壁一面に魔法陣が展開された。

 棚や食料は溶けていき、何もない空間が広がった。

 そして真ん中に立つ一人の男。


 やられた。

 大量の魔術器具はブラフで、ユナも腐敗臭のせいで男の存在に気付かなかった。

 なかなかの策士。


「驚きました。もうここまで来るとは。想定外です」

「あなたは?」

「残念ながら名乗ることは出来ません」

「俺たちを呼び出したのにか?」

「あなた方と直接会うことが想定外なので」


 そういうと地面に魔法陣を展開した。

 2体の兵士が召喚される。

 人形の身体に魔力を流して動かしているようだ。


「では、お手並み拝見と行きましょうか」


 人形兵は何も言わずに走り出した。

 狙いはもちろん俺とユナだ。


 攻撃をさけるとすぐさま反撃に移る。

 二人ともいいダメージを与えたと思ったが、こいつら中々タフだ。


「おお」


 男が手を叩く。

 関心しているようだ。


「ユナ、狙いは人形の方だ」

「え、でも」

「分かってる。でも、だ」


 ユナが頷く。


 もちろんユナが考えていることは分かっている。

 魔術に対して詳しくなくても、この人形がデコイで、本体はあの男だということに気付いたのだろう。

 それが正解だし、最適解だ。

 でも違うんだろ?


 俺の方もそうだ。

 壁に描かれている魔法陣。

 俺たちここから出さないようにするためのものだが、解除しようと思えば解除できる。

 時間は少しかかるだろうが、ユナに時間を稼いでもらえばいい。

 でもそうじゃないんだろ?


 あいつが見たいのは俺たちの実力だ。

 だったらやることは単純だ。

 目の前の人形兵をぶちのめす。

 たとえ何度再生しようと破壊し続ける。

 それが答えだ。


 ユナの方は問題ない。

 大剣をとんでもない勢いで振り回しながら人形を一方的にボコってる。

 じゃあ俺の方はおしゃれに行きますか。


 俺は『衛星』を飛ばした。

 そして人形に攻撃する。

 良し、決まった。


 今の攻撃、さほどダメージは無かっただろう。

 だがそれでいい。

 衛星は既にお前を補足している。


 向かってくる人形に魔術を当てる。

 すると衛星も魔術球を飛ばし攻撃をする。

 それが人形に当たった時には、もうすでに俺の次の攻撃は始まっている。

 すなわち、相手に隙を与えない、寄せ付けない。

 常に相手との距離を維持しつつ、一方的に攻撃する。

 魔術師の弱点を克服した、最も魔術師らしい戦い方。

 見たかったのはこれじゃないのか?


 すると人形兵は急に動かなくなった。

 そしてバラバラになった。


 いつの間にか男はいなくなっていた。

 いや、もしかしたら最初からいなかったのかもしれない。

 ユナと首をかしげながら部屋を出ていく。

 一歩外に出ると、倉庫の中は元通りになっていた。

 いや、そのように見せているだけだ。


 ふと、依頼状を見てみると先ほどまではなかった文字が書かれていた。


『ドーリス火山、第三休憩所から火口を目指せ 残り42日』


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