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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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070 怠惰


 困っていることは特にない。

 飯もちゃんと食べれているし、住むところもある。

 そして何より、信頼できる仲間がいる。


「主様。今日もお疲れ様、です」

「ユナもお疲れ様」

「そのね、今日も横で寝ても、いい?」

「ああ。というか、別に許可を取らなくてもいいんだぞ」

「え、ホントに? 嬉しい」


 ユナは立派に成長していた。

 俺と別れてから1年足らずで第八星となり、魔神さえも撃退したそうだ。

 約束通り、いっぱい魔物を狩り、いっぱい稼いでいた。

 しかし、贅沢はせず、すべてを俺のために貯金していたという。

 これだけあれば余裕で一軒建てられる。


 だが、俺は受け取らなかった。

 ユナは成長した、約束を守った。

 俺はどうだ。

 成長できたか?

 約束を守れたか?


 もちろん、5年10年で一流の魔術師になれるはずもない。

 そんなことはユナも分かっている。

 むしろ一段落ついたこれからだ。


 でも当の俺が、もう諦めているのだ。

 これ以上の苦難に意味はないのだと思ってしまっているのだ。

 聞くところによれば魔術学校は既に学校ではなくなっており、むしろ戦闘要員の育成所となってしまっているそうだ。

 戦うために魔術を学ぶことは否定しないが、それだけに拘ってしまうのはいかがなものか。

 まあつまり魔術を学問として扱っている場所など、もうないのだ。


 そして俺が今何をしているのかと言えば、他人の魔術を奪い、勝手の自分のオリジナルとして使っている。

 早い話泥棒だ。

 だがこうでもしないといけない。

 何かもしないといけないと思っているのに、その何かが分からず、ただただ魔術のレパートリーを増やしていく。

 哀れな男だ。


「主様。眠れないの?」

「……ユナこそ寝ないのか?」

「ユナは、主様が寝るまで寝ないよ。その、何が起きても、いいように……」


 少し頬を赤らめ、左腕に抱き着くユナ。

 多分、誘っているのだろう。

 再会してからずっとこんな感じだ。

 

 俺も興奮しないわけではない。

 ただ、度胸がないだけだ。

 今の俺は、ユナに相応しくない。



-----



 日々の仕事も淡々とこなしていくだけ。

 面白味はない。

 それはそれでいいことなのかもしれないが、今までの旅路を考えればあまりにも刺激がない。

 俺もあいつらのようになってしまったのかもな。


 だが幸いにも、今日は少し違った。

 ギルドハウスの修理があるからだ。

 一昨日の襲撃で、まあほとんどが俺のせいなのだが、壊れてしまった棚やら机やらを直さないといけない。

 こういった作業はユナには向かない。

 俺一人で行う。


「じゃあ主様、頑張って、ね」

「ユナも気を付けて」

「うん!」


 さて始めようとするか。

 この時間になるとギルドハウスはガラガラになる。

 作業スペースは十分だ。


 ひとまずレイアウトを決める。

 バラバラになった木片を適当にくっつけ、配置していく。

 こんなものだったろうか。

 場所は後で変えられるし、これでいいだろう。

 釘と金槌を手に取り、作業開始。


 しかし、魔術とは不便なものだ。

 こうして今、ぱっと見は直っているように見えるものの、魔力を解除すれば全部崩れる。

 直ったことにはならない。

 作業がしやすくなるぐらいの利点はあるが。


「これじゃないのか。……あれか?」


 それに、木片の場所も合っているわけではない。

 今は近くのもの同士をそれっぽく適当に合わせただけだから、いざ組み立てるとなるとパズルみたいに位置や向きを考えなくてはならない。

 面倒くさい。

 これを解決する魔術もあるにはある。

 壊れても瞬時に直る家具とか。

 でも前準備が必要だし、何より何回も直るわけではない。

 魔力が切れればただの家具になる。


 永久性。

 魔術に、いや考えてみれば全てのものにそれが足りない。

 頑丈そうな岩も風化し、有名な伝承さえも時代の流れで形が変わりそして消える。

 自然の摂理だ。


 だが、俺はそれを打破したかった。

 魔術にはその可能性があると思っていた。

 思っていたんだが……。


 一番大きい棚が修復できた。

 少し傾いているように見えるが、問題ないだろう。

 だって、もう置く物なんてないからだ。


 この棚は元々国や村からの感謝状や贈呈品、歴史的な遺物などが飾られていた。

 クリストロフでも見たことがある。

 これを見るだけでギルドハウスの格、歩んできた歴史が分かる。

 しかし、今回の件でそれらは売り払われ、ギルドの維持費として使われている。


 ……やはり、ずっと残っていくものなどないのだ。



-----



 その日の夕方、ユナと街をぶらぶら歩いていると、騎馬兵が通っていった。

 龍の紋章はティロニアン騎士の証だ。

 そして囚人が引きずられていた。

 囚人の方は蛇の紋章、つまりはオステル兵。

 ここの国の兵士だ。


 こんな光景、普段ならありえないだろう。

 だが、許されてしまうのだ。


「ユナ、行こう」

「え? 主様?」


 騎馬兵の後を追い、広場に出る。

 いつものように公開処刑が行われていた。


「聞けい! こやつら達は、我がティロニアンの領土を侵し、国民を殺した。よって見せしめとしてここで首を刎ねる!」


 オステルの兵の中には現状に耐えきれず、ティロニアンを襲撃しにいく者も少なくない。

 こう聞くと勝手に行動したオステル兵が悪いように思える。


 だがどうだろうか。

 事実、ティロニアンはオステルに対して圧力をかけている。

 不公平な条約を結ばせ、土地をどんどん買い上げている。

 別に暴力的な事は何もしていない。

 条約は双方の合意によって締結されるし、土地だって地主の許可が下りれば買っても問題ない。

 でも、これは明らかな侵略行為だ。


 彼らはこれを「見えない戦争」だと訴えている。

 いわばすでにティロニアンはオステルに戦争をしかけているのだから、それに反抗しているだけだ。

 そういう言い分だ。


 そして悲しいことに国は彼らを救ってくれない。

 国は彼らを脱走兵として処理するからだ。

 もし彼らを正規の兵と認めるならば、それすなわちオステルがティロニアンに戦争しかけたことになってしまうからだ。

 だから彼らの処遇に関しては何も言えない。

 言ってはいけないのだ。


 もちろん、ティロニアンはすべて分かってやっている。

 こちらにジェネスがいる以上、文句は言えないと。

 誰も逆らえないと。

 そう思っているはずだ。


「クソが」


 調子に乗っている。

 ティロニアンも、ジェネスも。

 そういう奴らにぎゃふんと言わせてやればスッキリするのだろうが、俺は無力だ。


「構え!」


 ティロニアン兵たちが斧を掲げる。

 今日もいつものように、この広場に首が転がる。

 悲しいことだが、この世とはこういうものだ。


「お父ちゃん!」


 軍曹が「やれ」の合図をしようとした時、子どもの声がした。

 広場に向かって走る少年。


「なんだこいつ」


 軍曹が少年を蹴とばす。

 少年はすっころんでしまった。

 するとずっと静かにしていた囚人の一人がいきなり立ち上がった。


「やめろ! その子に何もするな!」

「ほう。なるほどなぁ。確か2親等以内の親族も処刑対象だったよなぁ」

「なあああ!!」


 囚人が走り出すが、止められる。

 勇猛なオステル戦士であっても、手を縛られては何も出来ない。

 そして彼らを助ける者も誰もいない。


「じゃあまずはこの小僧からだ」


 少年を踏みつけ斧を振りかぶる兵士。

 が、そのまま動かなくなる。


「ありゃ?」


 その隙に少年が這い出る。

 兵士たちも広場にいた者たちも状況が理解できていないようだ。


 だが、隣にいたユナだけは分かっていた。


「主様……」

「俺に出来るのはこれぐらいだ」


 何もあんな小さな子どもまで殺される必要はない。

 ティロニアンとオステル。

 どちらが正義でどちらが悪か。

 それは見方によって変わるだろうが、まだ10も行っていないような無垢な子どもを殺すことは正しいことではない。

 それだけはこの世の理であって欲しい。


「帰ろうか、ユナ」


 ここから先は見ていて面白いものではない。

 俺たちは広場を後にした。


 こうしてまた、つまらない一日が終わった。


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