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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第三章:黄金の夢

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069 術師狩りのゼーラ


 北オステル。

 中央オステルとラマーナの間に位置し、また海と面していることから貿易の地として栄えている。

 人口だけでいえば帝王のいる中央オステルよりも多く、世界中の富豪の別荘が立ち並ぶ。

 気候も悪くなく、食物もよく育つ。

 治安も周辺地域に比べるとマシであり、飯もうまい。

 高い税に目をつぶれば、まさに理想郷。

 そう話す人も多くいる。


 しかし、それは2年前までの話。

 ティロニアンがクリストロフに宣戦布告してからは状況が一変。

 行商人の流れが滞り出し、金が回らなくなる。

 富豪たちがティロニアンに移住し始める。

 そしてついには野盗がはびこり出した。


「だからこそ、俺たちが頑張らないとな」

「ああ。富豪たちの自警団が居なくなった今、この街を守れるのはギルドだけだ」


 冒険者ギルド、北オステル支部。

 富豪たちが離れたことによって依頼金が減りつつあるも、今だ仕事を続ける者たち。

 皆、この街を愛していたのだ。


「てことで新入り! 今日もよろしくな!」

「……」

「おいおい、あいつは……」

「え?」


 男が話しかけた新入り。

 十日ほど前に急に現れた『ゼーラ』と名乗る青年。

 ギルドの入団テストで第五星となったが、その実力は第七星を超えるとも噂される。

 依頼成功率は驚異の87.3%。

 これはかの第八星ジャック・ランドロの記録を超える数字であり、さらにたった一日で八つの依頼を達成するなど化物じみた活躍を見せていた。


 ある人は言う。

 簡単な依頼しかやってないんだろう、と。

 またある人は言う。

 一緒に依頼を受けている獣人の女が強いだけだろう、と。

 そもそもあの獣人は第八星じゃないか、と。


 しかし、彼の闘い様を見た人々は言う。

 あれは思ったよりも厄介な奴だと。


「噂のゼーラだよ」

「あいつが? マジかよ。そんなに強そうには見えないけどな」

「でも、実力は確からしい。今日も……ほら、全部成功だ」


 報酬を受け取った青年はいつも通り階段下の席に座る。

 連れの獣人の女も一緒にだ。

 そしていつものように酒を一杯だけ飲む。


「あいつが贅沢してるところ、見たことないんだよな。宿もボロいところだしさ」

「あんなに稼いでるのにな」


 その時だった。

 ボンッと遠くから破裂音が聞こえた。

 花火か。

 いやそうではない。

 ギルド内に緊張が走る。


「野盗だ! 野盗が来たぞ!」


 大きな荷物を背負った細い男がそう叫びながら部屋に入ってくる。

 皆武器を持ち、装備を整え出した。


「どこだ?」

「港の食糧倉庫だよ! あいつら火ぃかけやがったんだ!」

「なんだとぉ!」


 ただでさえ穀物や肉の供給が滞り始めているというのに、倉庫が襲われたとなれば街の存続の危機に繋がる。

 あそこだけは何としても守らなければならない。


「マジありえねえ!」

「これ以上好きにさせてたまるかよ!」


 皆我先にと現場に向かっていく。

 ギルドに残ったのは、たった7人だった。

 かなり酔ってしまっている者たちと、青年だけが残った。


「第八星と七星は行ったか」

「ええなんて?」

「そういやおっさんは大丈夫なの……か」


 残った者たちが異変に気付きだす。

 この手足がしびれる感覚。

 酒のせいではない。


「なんだこれ……」

「もう終わりだということだよ」


 やせ細った男が剣士に触れる。

 その瞬間、剣士の身体ががくがくと震え出した。


「何をするんだ!」


 別の剣士が助けようとするも、()()は伝染する。

 二人の男は立ったまま、ただ震え続けていた。


「ふふふ……やはりここにいる奴らは頭が弱いのだな」


 やせ細った男の袖から無数の紐が射出される。

 既に酔ってしまっている者たちに、それを避ける術はなかった。

 紐が巻き付いた者は皆、動くことができなくなった。


 ただ一人を除いて。


「珍しい魔術だな。どこで覚えたんだ?」


 階段下に座っていた男、ゼーラが話しかける。

 彼だけは魔法壁によって身を守っていた。


「それにしても奇襲とはな。さっきのあれは嘘の情報か?」

「サボっている奴がいると思ったら、『術師狩り』か」

「術師狩り?」

「ああそうさ。魔術師たちの術を封じ、そして奪い取る。あんたのことだろう」


 ゼーラが立ち上がる。

 魔法壁を展開したまま男に近づく。


「結構有名人なのね、俺って」

「知略に長け、相手の弱点を一瞬で見破る。そういう噂だ」

「へえ~」

「だが、噂は噂だな」

「あん?」


 背後だった。

 男の足元から伸びた一本の紐。

 それがゼーラに襲い掛かったのだ。

 ゼーラもそれに反応し、魔法壁を展開するが、一手遅かった。


 胸元にブスリと刺さる杭。

 それを何とか引き抜こうと紐を引っ張るが……。


「もう遅ぇんだよ馬鹿が!」


 突如として襲い掛かる痺れ。

 いや、それはもう痺れという生易しいものではなかった。

 激痛と呼ぶべきか、あるいはそれは火あぶりに例えられるか。

 そしておまけに神経毒のような呼吸困難も付いてくる。

 ゼーラにとって初めての経験となった。


「な、なるほど、これは」

「動けないだろう。この苦痛をたっぷり――」

「いや、もう十分だ」


 紐を握りしめた手から剣が飛び出す。

 紐が切断されると痺れは消えてなくなった。


「術は術でも、魔術ではなく技術か」


 再び紐が射出される。

 ゼーラは飛び上がってそれを避けるが、方向転換をし空中にまで追ってくる。


「いい精度だな」


 紐が足に巻き付いたが、剣を抜き切断する。

 ゼーラが腕を振るうとそれに合わせて剣が宙を舞い、他の人に巻き付いている紐も切断された。

 先を失った紐は男の背後に格納されていった。


「もう諦めた方がいい。タネは……まあなんとなく分かった。よってお前に出来ることは何もない」

「なんだと」

「そもそも奇襲を仕掛けている時点で、お前の実力はそこまでではない。それにさっきの一撃で俺を殺せなかったことを見るに、()()には限界があるのだろう? 長期戦になった時点で――」


 突然男が手刀を繰り出してきた。

 それをスイと避ける。


「おいおい。それはもうさっき見たよ」

「この野郎!」


 男が突っ込んでくる。

 やたらめったら手刀を振り回しながら。


「しつこいな! さっさと降参した方が身のためだぜ」

「黙れ! てめえこそ時間稼ぎしてんだろう!」

「けッ」


 その言葉に反応したのか。

 ゼーラは後ろの壁を蹴って飛び上がり、男の背中の荷物の上に乗った。

 剣を突き立てようとするが、何らかのエネルギーによって弾かれてしまった。

 剣が手から離れて床に刺さる。


「そっちも対策済みだよ!」

「マズいな」


 男は手刀を繰り出し続ける。

 ゼーラはテーブルに乗り移ったり、壁や棚を蹴りながら攻撃を避ける。

 グラスが瓶が落ちて割れていく。


「へへへッ。そうやって逃げてばかりでいいのか? いい加減気づけよ! どんどんお前に不利な状況になっていることに!」


 男が再び紐を射出する。

 ゼーラは魔法壁でそれをはたき落とす。

 紐の先端が床に、いや、零れた酒に触れた。


「決まったぁ!」


 床を何かが、何かのエネルギーが拡散し始める。

 それは瞬時にゼーラに届いた。


「これでここにいる馬鹿どもは全員終わりだぁ!」


 拡散したそれは他の者にも伝染し始める。

 そしてついにギルドハウス一階のすべてを制した。

 もう誰も打つ手なし。

 そう思われた。


「……誰が馬鹿だって?」


 ゼーラは平然と立っていた。

 足元からそれが登ってくるというのに。


「な、なぜ……」

「すまないね。遊んでしまって」


 ゼーラは肩を鳴らしながら男に近づく。


「実は一瞬で終わっていた。あんたがこのギルドハウスに入ってきた時点で勝負は決まっていた」


 そして静かにまだ割れていない酒瓶を手に取った。


「昔から警戒心が強くてね。特にこういう新天地ではびびりまっくてるわけよ。誰が、どの程度の魔力を、エネルギーを持っているのか。それを知らないと安心できないぐらいにはね」


 酒瓶を放り投げる。

 狙うは男の眉間。

 それは紐によって弾かれ割れるも、男の身体はずぶ濡れになった。


「なあ!!!」


 慌てふためく男。

 しかし、瞬時に異変に気付く。


「はッ! まさか!」

「そうだ。あんたの背負っているそれは、文字通りもうお荷物ということさ」


 男が背後を確認する。

 紐がぐるぐると結ばれていた。

 そしてその先には地面に刺さった剣があった。


「あの時かッ!」

「お気づきかな。別に正面から倒しても良かったんだけどね。あえて相手が嫌がる方法で成敗する方が気分がいいでしょ」

「貴様、なめやがって」

「さあどうする? あんたの武器はもうほとんど地面に流れて行ってしまった。もうじき誰か……」

「ふん!」


 男はゼーラに背を向け、そして扉から出て行った。


「逃げちゃった」


 ゼーラも外に出る。

 通りをよたよたと走る男の後ろ姿があった。

 が、突如として男が爆発した。

 

「だから言ったろ。勝負はギルドハウスに入って来た時点で決まってたって」


 そう言いながら男に近づいていく。

 男は辛うじてまだ息が合った。


「つまり、いつでも殺せていた、と?」

「ああ」

「じゃあなぜ、泳がせていた?」

「それもさっき言った」


 男はギッとゼーラを睨むと、立ち上がった。

 半身が焼けただれているというのに、まだ戦う意志が残っているようだ。


「へへ、へへへ……」

「まだやるのか」

「ああ。やってやるとも!」


 男が魔術を放つ。

 が、それよりも一瞬早く、ゼーラは魔術を放った。

 男の左肩が吹き飛んだ。

 勝負は一撃で決まった。


「そうか、小細工なしでも……そうか……」


 男は跪いた。

 もう戦意はないようだ。


「なぜ負けたわかるか?」

「……」

「情報不足だったんだよ。『猛毒使いのジニー』さんよぉ」

「なぁ!」


 ゼーラをくるりと後ろを向くとその場を去っていった。

 隙だらけの背中。

 しかしジニーは、何もしなかった。

 ジニーは自らの敗北を受け入れたのだった。


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