068 終わりなき旅路
「だから言ったのです! まだ油断するべきではないと!」
「まあまあダリオス将軍。侵入者は既に無力化しましたし、問題はないでしょう」
誰かが話している。
「そういうことではない。オステルの悩みの種になっているシロ砦が攻撃され、さらには侵入まで許した。これは我が国にとって恥ずべきこと! それにこのことをガラハドが知ったら……」
「ハッ! ホントに貴方は心配性だ。ガラガラかガムシャラか知らんが、私がいる限りそいつもオステルも何もできませんよ」
鼻で笑い、生意気そうな喋り方をする若者。
それとドスの効いた声の老人。
「貴方は自分の力を過信しすぎている……。油断と傲慢が、いつか貴方の足を引っ張りますぞ」
「はぁ? 雑魚が俺に指図すんなよ!」
「待てい! それ以上の侮辱は許さん!」
もう一人、会話に入ってきた。
渋い声をした男性。
中年ぐらいだろうか。
「ダリオスは古くからこの国の将軍として務めを果たして来た。そして我に剣を教えてくれたのもこのダリオス。我が尊敬する数少ない人物の一人だ。侮辱するのは止めてもらおう」
「……はい。デュランタス様」
「だが、ジェネスの言うことにも一理ある。この件に関してはさほど心配する必要もない。属国同然となったオストロルの情報を操作することなど容易いからな。いや、むしろそうするためにジェネスをオストロルに置いたのだ」
視界が開けた。
ぼんやりとだが、人影が見えた。
でも一人だ。
声は三人分聞こえるのに。
ていうか、俺は……。
「しかし、こいつはかなり暴れ散らかしました。魔術教授四名を重傷まで追い込み、学生達もほぼ全員返り討ち……。もはやシロ砦襲撃だけの話ではないのですよ」
「うむ……そうだな。この件はジェネスに任せることにする。そしてこれを我の命令を無視した罰でもある」
「しかし――」
そうか。
俺は負けたのか。
それも、あんなにもあっさりと。
奴の前では、俺も何も変わっていなかったのか。
「では、男の処分はどのように?」
「処刑でよいだろう。そうだな、ちょうど北オステルの国境付近で革命軍の公開処刑を行う。同時にやってしまおう。魔術師であろうと我らにたてつく者はこうなると知らせてやるのだ」
「……我が主、デュランタス様」
「なんだ?」
「まだ全てが終わったわけではございません。くれぐれも慢心なきよう」
「うむ……」
次の瞬間、頭に袋をかぶされた。
そして強引に引っ張られる。
抵抗する力は微塵も残っていなかった。
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息苦しい。
何も見えない。
だが分かる。
俺は今、運ばれている。
処刑という言葉が聞こえた。
まあ当然か。
オストロル魔術学校をぶっ飛ばし、ジェネスの砦に殴り込み。
どこかで首でも斬られるんだろうか。
運ばれ始めてからかなり時間がたった。
体力も魔力も徐々に回復しつつあるが、何もすることができない。
俺が今入れられている檻は魔力を封じ込める仕掛けがされている。
ここまで完全に包囲されては魔法陣を描こうが魔術道具を使おうがなんともならない。
積みだ。
……結局俺は何がしたかったのだろうか。
何のためにここまでやってきたのだろうか。
だってこれじゃあ、今までの苦労や失ったもの、全部無駄だったってことじゃないか。
お嬢様のためにしてきたこと、使者としてしてきたこと。
それがあろうがなかろうが、何も変わらなかった。
最初から運命は決まっていた。
そうか。
この世とはそういうものなのか。
ガタンッ。
動きが止まった。
何やら壁の向こうから微かに叫び声がする。
誰かが戦っているのか。
しばらくそのような声や音がしたが、ぱったりと消えた。
ゴンッ。
次に聞こえた音は何かを叩くような音だった。
しかも上から、何度も、何度も。
まるでこの檻を壊そうとしているかのように。
そしてついに穴が開き、檻の中に光が差し込む。
見上げると、重そうな鎧を身に着けた騎士の姿があった。
「やっぱり、あってた」
兜を脱ぎ捨て、手を差し出す。
「主様。助けに来たよ」
【第二章 蛇王の旅路 終】




