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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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067 一撃必殺


 オストロル郊外、シロ砦。

 大賢者ジェネスの生まれ故郷を記念して作られた彼の別荘である。

 しかしその実は、グレーゾーンであるオストロルをティロニアンの支配下にするためのもの。

 本来であればオステルあたりが反発するのだが、そのようなこともなくこの砦は完成した。

 多くの兵士が駐屯しており、普段であれば四方八方に睨みを利かせているのだが、今日は違った。


「おいー遅いぞー」

「わりぃ! なんか、足ががくついてよぉ」

「お前は飲みすぎなんだよー」

「そういうお前も、半分寝てるじゃないのぉ!」


 兵士のほとんどが酔いつぶれていた。

 過半数はまだ寝ており、辛うじて持ち場についているのは約30人。

 まともに仕事をしているのは5人もいないだろう。


 しかし彼らが咎められることはない。

 何故なら、もう戦争は終わったからである。

 まだ世のほとんどの人は知らぬが、クリストロフなどという国は何十日も前に消滅しており、故にティロニアンに歯向かう国はもうない。

 それに昨晩は城主公認の酒盛りが行われた。

「戦争は終わった。明日のことなど忘れて今夜は楽しむといい」

 その言葉は疲弊しきった兵士たちにとってまさに救いであり、


「そういえば、昨日の途中からジェネス様の姿が見えなかったが、何かあったのかなぁ?」

「新しく連れて来た女とさっそくお楽しみしてたんだろー。いつものことだー」

「そういえば、そういう話だったかなぁ」


 正門前の守衛を任されているこの二人も例に漏れず二日酔いになっていた。


「頭いてー」

「早く家に帰りたいなぁ」

「お前どこの生まれだったけぇー?」

「俺はノーズ半島の方だ。綺麗なところでよぉ、クリストロフの人も多かったが、まあもう――」

「おいー! ありゃなんだー」

「俺が今喋っているところだろぉ!」

「いいからいいからー。ほらー見てみろよー」

「はぁ」


 二人の兵士が塀から顔を出す。

 はるか向こうから何かが向かって来ている。

 馬に乗った人のように見える。


「えー警告出しとくかー?」

「旗もつけてねえしなぁ」

「あー弓構えたぞー」

「マジィ?」


 どうやら門を狙っているらしい。

 だがこっちは鉄板の門だ。

 大砲でも持ってこない限り破れない。

 いつかあったような冷やかしだろう。

 男はそう思った。


「んー、なんかあの弓光って――」


 それは矢というより光線だった。

 馬上から放たれた輝ける直線は固く閉じた城門を貫き、奥の塔に当たり弾けた。

 一瞬の出来事。

 男はまだ状況を理解できなかった。

 塔が崩れていくのを見ながら、まだ幻覚あるいは夢だと思っていた。

 目が覚めたのは次の一発が来てからだった。


「おい! これやべえぞ!」


 城門に出来た大きな穴。

 これでは簡単に侵入出来てしまう。

 そのようなことはあってはならない。


「バリスタだ! あれで撃ち殺せ!」

「ダメだぁ。あっちに誰もいねえ」


 クロスボウを取り出し撃つも、寝起き同然の頭と身体では当たるはずもない。

 いや、仮に正常だったとしても結果は同じだったのかもしれない。

 最初の一発を撃たせた時点で決着は決まっていたのかもしれない。


「侵入だ! 警戒! 警戒!」


 鐘の音が鳴り響く。

 やっと兵士たちが持ち場についた。

 そして目の前に彼が現れた。


 一本の剣を持ち、ゆっくりと階段を登ってくる。

 その姿に覇気はなく、むしろ弱っているようにも見える。

 だが、彼の顔を見たとき、そこにいた皆が気付く。

 恨み、憎しみ、憤り……。

 彼の原動力はそれだと。

 それだけで動いているのだと。


「止まれ! それ以上動くと攻撃する!」


 忠告の言葉をかける。

 当然その意味もなく、男は階段を登り続ける。


「おい! 聞こえているのか!」


 一段、一段と近づいてくる。

 どちらもまだ手を出さない。

 塀の上にいる射撃隊もまだ撃ち込まない。

 場になんとも言えない緊張が走る。

 だが……。


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 その空気に耐えれなかった兵士が襲い掛かる。

 それが開戦の合図となった。


 放たれた矢は彼を覆う何かで弾かれ、彼の眼前に立った者たちはこれまた何かによって吹き飛ばされた。

 その後も炎が舞い、光線が飛び交い、爆発が起きる。

 兵士たちは何が起きているか理解できないまま、倒れていった。

 決着はすぐに着いた。



-----



 自分でも不思議だった。

 何故俺はこんなにも怒っているのか。

 何故こんなところまで来てしまったのか。

 いや、その理由は分かっているじゃないか。

 このままじゃ俺の気が済まないんだよ。

 お嬢様の悲しませるような奴は許せないんだよ!


「おい、ジェネスはどこにいる」

「い、言うかバカ……」

「そうか」


 兵士を投げ捨てる。

 答えないのなら結構。

 後は虱潰しに探すだけ。

 いや、それも必要なくなったか。


 強い魔力を感じる。

 全身で、それはもうビリビリと。

 奴は近くにいる。

 だが、まずは腕試しというわけか。


 目の前に降り立つ白い人影。

 頭がなく、その代わりに球体が浮いている。

 手には不気味な形状をした槍。


 ジェネスの召喚した化身だ。

 自分が直接手を下すまでもないと。

 そう言いたいのだろう。

 なめられたものだ。


 化身が動いた。

 かなり速い。

 昔のゼオライトならば避けられなかっただろう。

 でも、今は違う。


 槍と剣が交差する。

 ドロリとした感触が全身に伝わる。

 身体が勝手に動き、自然と化身の背後に回る。

 そして一撃を食らわせる。

 剣が身体をすり抜けた。


 そうなるとは分かってた。

 魔術でないとダメージを与えられないことも想像できていた。

 知りたかったのは、その構造。

 どこからエネルギーを得て、どうやって動かしているのか。

 それが分かれば、自ずと弱点も知ることができる。

 まあ確認するまでもなかったと思えるほど、分かり易いところにあるが。


 化身が振り向く。

 再び斬りかかるが何度やっても同じこと。

 いなし、反撃体制に入る。


 剣を捨て、杖を強く握りしめる。

 足を稼働させる。

 腰を稼働させる。

 肩を……。

 そして掌に。

 魔力を一極集中。

 狙うは奴の顔面。


 俺はこの旅でいろんなことを学んだ。

 魔力を封じる方法。

 詠唱の高速化。

 天道という技。

 そして一瞬で決着がつく戦いがあることも。

 目を背けたいほどの敗北の歴史。

 だが、そこから学んだ。


 一撃に。

 たった一撃にすべてを込める。

 それが今の俺にできること。

 今の俺だからできること。

 これが俺の歴史が作り出したもの。

 『聖杭(イシュ・パイル)』。


 耳をつんざくような衝突音。

 そしてその後に残るキーンという余韻。


 掌から射出された黄金の杭。

 それは化身の球体を撃ち抜いた。

 しかし化身は倒れない。

 球体から魔力が漏れ、全身を覆う。

 化身は自身の身体の修復を始めた。

 と思いきや、その流れは急に停滞し、遂には砕け散った。

 化身の身体も崩れていった。

 魔力反応が消滅した。


 しかし、それと同時にさらに強い魔力を受信した。

 ついに奴が現れたのだ。


「ジェネス!」

「は~……気持ち良く寝てるところ邪魔しやがって」


 4年ぶりに見た奴の姿。

 顔も背も体格も、あの時と何も変わらない。

 生意気な表情も変わっていない。


「ふわああ」


 そうか。

 お前は何も変わっていないんだな。

 いや、変わる気もないのか。


「おい」

「は? なんだその口の利き方。てかお前誰だよ」

「お嬢様は、連れ帰らせてもらう」

「うるせーな。はいさよーならー」


 突然の攻撃。

 極太の光線がこちらに向かってくる。

 素早く魔法壁を展開した。

 次の刹那、杖が折れた。


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