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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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059 邂逅


「剣聖フィリップス・ロベルト。あんたがここにいるのは、まあ想定内だ。だが、何故かあんたがここにいる」


 白髪の男が背の高い男に話しかける。

 状況がわかっていないのか、あるいはわざとそうしているのか。

 余裕がある雰囲気だ。


「妻がここの地下に眠っていてな。たまに来るんだ」

「それにしても厄介な時に来やがって。あんたのせいで計画が破綻しそうだ」

「そうか。それはすまなかったな」


 その時、どこからか爆発音が聞こえた。

 かなり近い。


「ま、それはそれとして実行するんだけどね」


 爆撃!

 さっきの話にあったやつか。

 てことはこいつが……。


「わざわざ親玉から出てくるとはな。どういう了見だ」

「おっとそういう話はこいつを処分してからだ」


 俺を指さす。


「よくわからん一般人に話が聞かれたなんてなれば、教会も大変だろう。なあ、剣聖さん」

「別にお前を消して全て解決してしまっても構わないが?」

「俺がそんなこと考えずにここにいるわけないだろう。それともやってみるか?」

「まあ待て」


 背の高い男が仲裁する。

 2人ともそれに黙って従った。


「彼らは君を処分しようとしているようだ。君の方から何もなければこのまま死ぬだろう。どうだ、ここは1つ命乞いでもしてみたらいいんじゃないか」

「え?」

「物は試しだ」


 そんなこと、急に言われても。

 今さら命乞いだなんて。


「どうせ何もねえよ。おいマレー、やってしまえ」

「はい。ご主人様」

「いや、待ってください。えと。その」


 わかってる。

 ただの命乞いじゃあダメだ。

 お嬢様の話をしても響かないだろう。

 多分こいつらはそんなこと聞いたって鼻で笑うだけだ。

 そういう次元で生きてる奴らじゃない。


 背の高い男と目が合った。

 何かを試すように、じっと見ていた。

 そうか。

 俺のもう1つの生きる目的か。


「時間がもったいねえ。もうさっさと――」

「私は……」

「ああ?」

「私は、最後の使者だ!」


 全員の注目が俺に集まった。

 さっきまでの無関心とは違う。

 明らかに俺に興味を持った。


「ほう」

「くくく……アッハッハッハ!!」


 白髪の男が笑い出した。

 腹を抱えている。

 そんなに可笑しいのか。

 まあ、それはわかっている。


「使者、使者だとぉ? 貴様、目の前にいるこの男が誰か分からないのか?」


 背の高い男を指さす。

 腕を組み、ため息をついた。


「この方は『神殺しの英雄、ストロマイト』! そして『最初の使者』8番目の継承者だぜぇ!」


 いやいや。

 さっき言ってた豪華なメンツってこういうことかよ。

 こっちは『剣聖』、こっちは『英雄』。

 こんなところにいていい人たちじゃない。


「最初の使者の前で、最後の使者を名乗るとは。こんな弱い奴が認められるわけないだろう」

「いや、使者であることに強さは関係ない。それにこの男は、少なくともお前より強いぞ」


 もしかして、俺に肩入れしてくれているのか?

 それならこの状況もどうにかなるのかもしれない。

 ていうか、神封じの英雄が最初の使者?

 しかも、8番目って何?


「そうはいってもなぁ」

「それより、君も名乗ったらどうだ? 彼はちゃんと身分を明かしたぞ」

「……わかったよ。俺はブラスだ」


 ブラス。

 どっかで聞いたことのあるような、ないような。


「ほう。君が『暗き海』の頭領、ブラス卿か。グールラット事変の首謀者だと聞いているが、実際の所はどうなんだ?」

「火のない所に煙は立たねえよ」

「ふふ。そうか」


 思い出した。

 マカカ村の住民を皆殺しにした奴か。

 相当な悪人じゃないか。


「で、そんな大物が何故ここに?」

「へッ。ここにくる目的なんて1つしかないだろう」

「聖典か」

「そうだよ」


 また、遠くから爆発音がした。

 お嬢様の安否だ心配だ。


「おい。てめえどこに行こうとしてんだ? まだ処分しないと決まったわけじゃないぞ」

「え?」

「本当に使者かどうかもわからねぇしな」

「ハハハ。世界的な犯罪集団の頭にしては器が小さいな」

「慎重なだけだ」


 ストロマイトと目が合った。


「君の抱える使命を少しでいいから教えてやれ。最初の使者が最後の使者に許可しよう」


 微笑んでいた。

 そして相変わらず、こちらを試すような眼力。

 あるいは小さな子どもが頑張っている姿を見るようにも見えた。


「俺は、ジェネスの秘密を知っている」

「……なるほど、それが君が背負っているものなんだな」

「はい」

「よし。いいだろう。私が君を使者として認めよう。『最後の』というのは少し気に入らないがな」


 認められた。

 ということは。


「教会から出るまで私が君を保護しよう」

「はぁ。あんたがそういうならこっちとしては、もう何も言えねえよ」


 白髪の男が折れた。

 こう宣言した以上、俺を襲えば英雄ストロマイトと敵対することになる。

 流石にそこまでのリスクは背負えないのだろう。

 これでこの場は収まった。


「どういうつもりかね」


 しかし、1人これに突っかかった者がいた。

 剣聖ロベルトだ。


「どうもなにも、後輩に少しばかり手を貸そうというわけだ」

「そんな理由で私が納得するとでも?」


 心臓が跳ねた。

 突然ストロマイトから放たれる強い気。

 身体が再び動かなくなる。

 彼が部屋に入ってきた時と同じだ。


「やめておけ。闘うことになれば、この教会どころか、都の方にも被害が及ぶことになるだろう。聖典を守りながら私とやり合うつもりか?」

「私にそれが出来ないとでも?」


 ロベルトの方も凄まじい闘気を発してきた。

 場の空気がさらに重いものになる。

 例えるなら、キヴォルクの吹雪。

 冷たさが身体の芯、骨の芯まで侵入してきた。

 息をすることさえ躊躇いたくなる。


 この人は例外だ。

 この中で唯一ストロマイトと対等に出られる存在。

 無敵の英雄を超えるかもしれない男だ。


「挑発のつもりか。目的を達成するためならさっさと斬ればいいものを」

「戯言を。端から斬らせる気など無いのに」

「君なら、あるいは可能かもしれないだろう」


 今にも押っ始まりそうな雰囲気。

 さっきまで調子こいてたブラス卿とやらも若干引いている。

 この状況を止めることは、もう誰にも……。


「ロベルト。そこまでにしなさい」


 気付けば、ロベルトの後ろに男が立っていた。

 細身で背中が曲がった老人だ。


「アルダ神父……」

「これ以上することはないだろう」


 老人はロベルトの横に立つとこちらを見てきた。

 表情は穏やかだ。


「儂も詳しくは知らんが、今回の任務は目立たないことも重要視されていたはずだ」

「そうでしたかな」


 ロベルトが引いた。

 あれだけ闘気を放っていたのに。

 それを感じたのか、ストロマイトも気を緩めた。


「あれだけ爆破されているのに、今さら何を」


 ブラスがそうボソッと言った。

 おそらくロベルトにも聞こえていたのだろう。

 少し視線をそちらにやったが、すぐに振り向いて立ち去っていった。


「では、今回はこれでお開きということで」

「そうしようか」

「へっ」


 神父とブラス一行が立ち去っていった。

 色々やばいメンツが集まっていたが、何事もなくて良かった。


「助けてくださってありがとうございます」

「例などいらん。そんなことより、これからのことを気にしたらどうだ?」


 確かにそうだ。

 今からお嬢様のもとに行かなくては。


 身体を動かそうすると全身に痛みが走る。

 刺傷からも血が噴き出た。

 かなり限界が来ている。

 だが、やるしかない。

 一度は諦めかけたこの命。

 まだ動けるのなら、それだけのことをしなければ。


 俺はゆっくりと歩きながら教会から出た。


「はは。こりゃあひどいな」


 ラマーナは燃え上がっていた。

 大聖堂の塔は既に崩壊しており、つい先ほどまであった美しい街並みは無くなっていた。

 未だに爆発音のようなものも聞こえる。


「さて、私が君を守るのはここまでだ。ここから先は君の味方ではない」

「敵、とういうことですか?」

「それは君の今後の選択次第だな。最初の使者として君の存在が不要だと判断すれば、相対することになるだろう」


 師匠は言っていた。

 すべての使者を終わらせるための最後の使者だと。

 それを真に完遂するならば、彼にもご退場していただなければならない。

 大賢者と英雄の両方に喧嘩を売らないといけないのは、キツイな。


 だが、問題はそこまで行けるかどうか。

 俺に()()は訪れるのか。


「苦しそうだな。だが、今が正念場だぞ」


 ストロマイトはラマーナを眺めながらこう言った。


「今から君の過去の行いに対する清算が始まる。何をしてきたのか。どんな人と仲良くなったのか。

あるいは敵になったのか。それが全て返ってくるのが、よりによってこういう時だ」

「誠実に、生きてきたつもりです」

「ふふ。そうか」


 ストロマイトはラマーナの方に向かって歩き始めた。

 そして最後にパタパタと手を振った。


「安心しろ。天はいつも君を見ている」


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