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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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057 運命の十字路


 ある日の昼下がり。

 相変わらずここの地域は暑い。

 ユーバーランドの南の方だから当然なのだが、それにしてもどうにかならんのか。

 草木が全然ないから直射日光を浴びることになるし、空気は乾燥しているし。

 ただ、こういう地形だからこそのお楽しみもある。


「確かに、これは気持ちいいわね」

「でしょう。あたしの故郷ではこういうところが山ほどあるんですよ」


 天然温泉だ。

 ここらは火山地帯にあたるらしく、こういった温泉が所々に湧き出ている。

 ちょっと臭いが、汗を流すのにはいい。


「でも、外でこうやって裸になるのは恥ずかしいわ」

「そうですね」

「この開放感がいいんです。心がすっきりするんですよ」


 お嬢様とシーリンさんは初めてのご様子。

 いいところのお方だからか、人前で裸になるのはなれていないようだ。

 だいたいクリストロフにこんな温泉があったとしても、入ることはしないだろう。

 だって寒いし。


「そうはいっても、その、男の人が近くにいるのは、緊張するわ」

「大丈夫ですよ。なあゼオ! お嬢様の裸体をジロジロ見るわけないもんな」

「見てませんよ」

「ほんとか~?」


 余計なこと言いやがって。


「まああたしの裸ならいつでも見せてやるけどな」

「やかましい」

「……まあでも、そろそろ交代しましょうか。2人も早く汗を流したいでしょうし」


 お嬢様、やはり貴方は素晴らしいお方だ。

 まだ僕たち入ってないんですよ。

 こんな蒸し蒸ししたところに突っ立てたら余計に汗をかいちゃうんです。


「じゃあ出ましょうか。……おい、まだ振り向くなよ」


 おまけに温泉に背を向けて厳重注意態勢。

 リラックスできないっつーの。

 ライサンドは反対側にいるからしゃべれないしな。

 しかたないから、試作した魔術をポンポン撃っていたところだ。


「あの、イヴ。前から思っていたのだけれど、ゼオライトとはどういう関係なの?」

「えーと、まあ、一応裸で抱き合って一夜をともにした仲ですよ」

「まあ」


 良くないやり取りが聞こえた気がしたが、あえて無視しておこう。

 あながち間違いでもないからな。


「……ふん」



-----



 その夜。

 俺も部屋の扉がトントンとなった。


「どなたですか?」

「あたしだ」


 イヴか。

 ちょうど寝ようと思っていたけど、まあいいか。

 扉を開けて、中に入れてやった。


「何のようだ?」

「いや、最近元気がないように見えたから、気になって」


 そういいながらベッドに座る。


「マカカ村の跡地で合流した時からもうすでに違和感があって、もしかしたら別行動してる間になにかあったんじゃないかって思ったんだが、どうだ」

「いや、特にどこも怪我してないぜ」

「そういう元気じゃなくて」


 どういうことだよ。


「その、男としての元気?」

「は?」

「おまえ、ちょっと女々しくなったよな」

「ええぇ」


 そんなことある?

 自覚はないぞ。


「いや、やっぱり変だ」

「どこが?」

「前まであったギラギラ感がない」


 そういうとイヴは自分の服のボタンに手をかけた。


「ちょっと待て! なに脱ごうとしてんだぁ!」

「うるせえ! あたしの身体で男を思い出せてやる!」


 イヴは俺の頭を掴むと胸に抱き寄せた。

 凄まじい力だ。

 だが、痛くはない。

 柔らかいものが顔面を包んでいるからだ。


「むぬッ!」

「お前、この間まではあたしの胸こそこそ見てたよなぁ。まあそんなことは男なら当然。別に怒ったりはしねぇさ。だが!」


 そのままベッドに押し倒される。

 依然頭は胸に埋まっている。


「最近はどうもおかしい。男としての当然の反応がない。あたしに対して、そしてお嬢様に対してもだ」


 なんでそんなことが分かるんだよこいつは!

 ていうか、このままだと俺、強引に……。


「……まあ、無理矢理犯すのもしゃくだ。何があったか教えてくれれば出てくよ」


 イヴは頭の締め付けほどいた。

 そして俺に馬乗りになった。


「さあ、何があった」

「別になにもない。前話した通りだ」

「いや嘘だね。まだあたしに話してないことがあるはずだ」


 荷物を盗まれた話も、ギルドの依頼をこなした話もした。

 ニムロデの話も、なんならお嬢様の前で喋った。

 他に言ってないことなんて……。


「ない、本当にない」

「本当か?」

「だいたい俺の男を取り戻す理由ってなんだよ」

「そりゃあ、男が男じゃなくなったら終わりだろ」


 なるほど。

 言いたいことはなんとなくだが分かる。

 だが、それはイヴが気にする問題ではないだろうに。


「とにかく、俺の目を見てくれ。なんだかんだ付き合いは長いんだ。嘘は言ってないってわかるだろ」

「うんん……」

「な?」


 顔を近づけ、目を合わせる。

 ぶれずに、ひたすらにイヴの目を見続けた。


「本当なんだな」

「ああ」

「その、ライサンドに……」

「え? ライサンドがどうした?」


 気づけばイヴは赤面していた。


「本当に、ライサンドに手籠めにされたりしてないよな?」

「……は?」

「だってあいつ、そういうの我慢出来そうにないし、それに前と比べて結構仲良くなってたから、もしかしてって思ってぇ」


 ええ。

 男としての元気がないって、そういうこと?

 まあ、男同士でそういう仲になる冒険者はいるにはいる。

 でも俺にはそういう趣味はない。


「大丈夫だ。俺は女が好きだ」

「そ、そうか。はは……」

「なんなら抱いてやろうか?」

「うるせえ! もうそういう雰囲気じゃねえだろ!」


 やっといつもの調子に戻ったか。

 さっきまではちょっと必死すぎた。

 怖いぐらいに。

 仮に俺が男を失っていたとしても、イヴには関係ないことだ。


 ただ、疑問は残る。

 いや正直答えは出てる。

 イヴの言う通り、確かに俺は自信を失いかけていた。

 人間として、1人の男として。

 それはもう話したことではあるが、ニムロデが原因であろう。

 まだ引きづっているのだ。


「おい、いつまで乗っかっているつもりだ。重いぞ」

「お前~、失礼なやつだな」


 15になって故郷を出てから、色んなものを見てきた。

 美しいものも、醜いものも。

 おかげで、この世界のことをほんのちょっと知ることが出来た。

 そして思う。

 俺はこの先、どう生きていけばいいのか、と。


「おい。どうした、ボーっとして」

「別になにも」

「……お互い、疲れているようだな」


 そうかもしれないな。

 身体は休めても、精神までは休みきれていない。

 この旅が終わればちょっとはマシになるだろうか。



-----



 聖都ラマーナ。

 かつては法王様が治めていた宗教都市である。

 1000年ほど前に大グリナド連合国に宗教的首都が移されるまでは、100万人を超える世界最大の都市だったと言われている。

 真偽は不明だが、その盛況ぶりは今でも健在だ。

 なんたって、我々にとって重要な2つの聖地の1つがここだからな。


 また、このラマーナはこんな風にも呼ばれている。

 『ユーバーの心臓』。

 ここは単なる宗教的な場所にとどまらず、人や物の流れから見ても重要な場所だ。

 なぜなら、ラマーナは大きな4つの街道と繋がっているからだ。

 北東方向には、オストロル及びティロニアンへ続く道。

 北西方向は、シュンメイへ。

 南西方向は、モーダン・スチラ及びムーガン。

 そして南東は、オステルだ。

 そう、ここはユーバーランドにおける4つの重要な都市と繋がっているのだ。

 まさに心臓。

 ここに世界最大の都市があったと言われるのも納得できる。


 ラマーナには3日間滞在する。

 とは言っても、1日目は宿屋で寝て終わったのだが。

 本日は2日目。

 お嬢様とシーリンさんは大聖堂で儀式に参加。

 本来はクリストロフの大使として堂々と参加する予定だったが、社会情勢を考えてこっそりと入っていった。

 俺たちは終わるまで外で待機だったが、お嬢様の計らいで療病院を紹介してもらった。

 護衛は2人に任せて、腕の治療に努めるとしよう。


 というわけで、十字教会にやって来た。

 大聖堂からかなり離れた丘の上。

 入り口からはラマーナの全貌を眺めることが出来た。


「実は大聖堂よりも先にここが建設されたんです」

「そうなんですか?」


 シスターが腕の調子を診ながらそういった。

 

「ここは世界で最も大きな十字路。言い換えれば、人生で最も大きな選択を迫られた人たちが数多訪れる場所でもあったのです。だから、主に助言を求めるべくこの教会が建てられたのです」

「じゃあ、大聖堂はいつですか?」

「しばらくしてからだったと言われています。聖典が発見された時期ですから」


 それは知らなかったな。

 言われてみれば、あんなでかい大聖堂が傍にあるのに、わざわざもう1個教会を建てる必要はないもんな。


「あなたも是非、礼拝堂の方へ行かれてください。人生の進路について考えるには良い場所ですよ」


 進路か。

 お嬢様をティロニアンに届けるのは当然の責務として、問題はその後。

 今までずっとなあなあにしてきたことに直面しなければならない。

 行ってみるか。


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