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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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・エルフの少女のお話①


「おうレティシア。こっちじゃ」


 ある日、長老である爺ちゃんに呼び出された。


「最近調子はどうじゃ。悪いところはないか?」

「別にないけど」


 むしろ爺ちゃんの方がどうなのさ。

 昔はちょっとボケていたとはいえ、ちゃんと歩けていた。

 でもゼオ君がいなくなってから急激に老けてきたように思う。

 階段も手すりにもたれかかるようにしないと昇り降りができないし、食事の時もお母さんが付きっきり。

 この前は湖でおぼれかけるし、心配だよ。


「で、お話ってなに?」

「お前、最近交尾しとらんのだろう」

「え。そう?」

「100歳になってからもうすぐ半年じゃ。いったい何人と寝たんだ」

「さ、3人かな」


 爺ちゃんがため息をつく。


「その若さでその人数は、ヤバいぞ」

「いいじゃん! 気分だよ気分!」

「とは言ってものう。レミィから聞いたぞ、お前毎晩1人で寂しそうに――」

「わーー!! 違うよ、そんなことしてない!」

「そうか……」


 そりゃ確かに欲はあるけど、なんか違うっていうか、全然満たされないっていうか。

 ゼオ君と一緒の時はそんなことなかったんだけどな。


「話は変わるが、よく本を読んでいるそうじゃな」

「まあそうだね」

「なんで?」

「興味があったからだよ」

「それだけか~?」


 う。

 もしかしてバレてる?


「なんか考えているんじゃろ。例えば、村を出ていこうとしてる、とか」

「なんでわかるの?」

「そんな奴、いっぱい見てきたからなぁ」

 

 流石にあからさま過ぎたかな。


「でも、別にいいでしょう? もう大人なんだし」

「もちろんじゃ。村の長としては、旅に出ることに反対したりせん。儂が聞きたいのはどうして旅に出ようとしているか、じゃ」

「それは、言わなきゃダメ?」

「ダメじゃ」


 ま、まあ秘密にするともないか。

 確かに変なことじゃないもんね。


「その、ゼオ君に、会いたいなって」

「……マジで?」


 その返答は以外だったらしい。

 目を見開いてポカンとしている。


「なんで会いたいんじゃ?」

「え、理由はないけど、その、夜になるとゼオ君のこと思い出して寂しくなったするし、逆に考えすぎてもちょっと顔が熱くなったりして、耐えられないってわけじゃないけど、ね。でもいつ戻ってくるかわからないのに、このまま苦しんだままでいるのはちょっとしんどいかな……。もちろんゼオ君のことは信じてるよ! 絶対に戻って来てはず。ううん、戻って来るに決まってる。だけど――」

「あー、わかったわかった。一旦落ち着け」


 しまった。

 つい全部言っちゃった。

 少し恥ずかしいな。


「その、だな。レティシア、お前もしかして『恋』しとるのではないか?」

「コイ?」

「そうじゃ。エルフの間ではあまり馴染みのない言葉かもしれんな」


 どういう意味の言葉なんだろう。

 すごく気になる。

 だって、もしかしたらこの言葉は私の今の気持ちの正体を暴いてくれるのかもしれないもん。


「要するに、ゼオ君のことが好きなんだろう?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ儂のことは?」

「もちろん好きだよ」

「レミィは?」

「大好き」

「村の男たちは?」

「好き」


 何が言いたいの?

 そんなのみんな好きに決まってるじゃん。


「じゃあ、儂に対する『好き』とゼオ君に対する『好き』は同じものか?」

「ちょっと、違うかも」

「レミィとはどうじゃ」

「どっちも大好きだけど、まあ違うかな」


 あれ?

 なんだろう。

 なんか……。


「具体的には、どう違うんじゃ?」

「えっと、みんなの好きはこう、私を包み込んでくれる感じ。だけどゼオ君のは、肌の奥の方まで染み込んでくるの。あとね、目線が合う時ってあるでしょ。みんなは別になんともないし、笑い返したりできるんだけど、ゼオ君の時は一瞬ドキッてするの。驚いたわけじゃないし、その後は普通に会話したり――」

「あー。もうよい、もうよい」


 またやっちゃった。

 どうしてかわからないけど、ゼオ君のことを考えると頭が回らなくなる。


「まあ、儂も詳しいことは知らんが、それが恋というものなのじゃろうな。ある個人に対して特別な感情を抱く。きっと、お前もそうなのだろう」

「うん、……そっか、これって『恋』って言うんだぁ」

「それのせいで村を出て行った者も少なくないがな。夢中になってしまうのだろう」


 確かに、そういう考えはエルフにはないもんね。

 そういう感情があっても親ぐらいなものだし。

 そりゃ夢中になっちゃうよ。


「素敵な言葉だね」

「はは、気に入ったか」

「……あ、で、そういうわけだから、私は村を出てゼオ君に会いに行ってくるからね!」


 これですっきりした。

 大好きな人に……。

 ううん、特別な人に会いに行く。

 これほど大事なことはないよね。

 これで爺ちゃんも納得してくれるはず。

 だよね?


「ダメじゃ」

「え……」


 何その顔。

 さっきまでの笑顔はどこに……。


「なんでダメなの?」

「お前がエルフで、あいつが人間だからだ」

「意味わかんない。そんなの関係ないでしょ」

「いや、大ありだ」

「どういうこと? 私知ってるよ。エルフと人間が結婚することもあるって」


 爺ちゃんは腕を組んだ。


「レティシア。結婚ってどういうものか知っとるのか?」

「え。なんか、他種族がやってる、男女が一生一緒に暮らす、みたいな」

「そうじゃ、一生じゃ。暮らせるか?」

「できるよ」

「あいつはすぐ死ぬぞ」


 ムッとした。

 何その言い方。


「ゼオ君は強いよ。そんなすぐには死なない!」

「そういうことを言っているのではない」

「じゃあどういうことなの?」

「お前は人間の寿命を知っているのか!?」


 ……。

 えっと、確かエルフよりは短かったはずだよね。


「300歳、ぐらい?」

「50歳じゃ」


 え。

 そんなに短いの?


「人間はだいたい50で死ぬ。長く生きても70歳がせいぜい。そんなものじゃ」

「じゃああと、30年ぐらいしか一緒にいられないってこと?」

「そうじゃ。お前はまだ100歳。あと900年は生きるのだぞ」


 ゼオ君が70歳まで生きたとしても、あと850年。

 850年間ゼオ君がいないこの世界で生きていくことになる。

 それは、辛いことだ。

 エルフの時間間隔は他種族とは違うといっても、これはあまりにも……。


「お前は1年も我慢できなかった。そんな奴が、900年も耐えることができるか?」


 痛いとこつくなぁ。

 そんなこと全然考えてなかった。

 もしかして、ゼオ君はわかってたのかな?

 だから出て行ったのかな?


「これでなぜエルフが結婚をしないかわかったじゃろう。エルフは繫殖期は700年。それで結婚しようものなら、相手が死んでから長い間孤独に過ごすことになる。ましてや寿命がはるかに短い他種族となればなおさらじゃ。だから我々はこうやって多くの人と交尾をし、個人に依存しないようにしているのじゃ」

「……」

「あきらめるんじゃ。その方がお前とゼオ君のためじゃ」

「……なんか腹立ってきた」

「え?」


 じゃあ私の恋は諦めろって?

 ゼオ君はユナとかなんとかいう彼女と幸せに暮らして、私はそれを眺めて見とけって?

 そっちの方が我慢ならないよ。

 だいたい、あんだけしておいて逃げるとか、卑怯だよね。


 ダメだ。

 どんどんムカついてくる。

 この手紙だってそうだ。

 送るだけ送っといて、どうやって返信するのさ。

 ナントカ郵便の会員じゃないからお手紙送れないんだけど。


「もう知らない。出ていく」

「ま、待て! なんか振り切れてないか? ちょっと儂言い過ぎたかも……」

「うるさい!」


 爺ちゃんを無視して部屋から出ていく。

 追いかけてきても無視無視。


「大体、どうやってシュンメイまで行くんじゃ! しかも女1人で!」

「これ!」


 履いていた靴を脱ぎ捨て、投げつける。


「え、これは……衝撃波?」

「そう。足の裏に魔法陣を刺繡したの。これで飛んだり、ジャンプしたりしながらいく」

「いつの間に」

「本当はゼオ君へのプレゼントだったんだけどね」


 そう言いながら、荷物をまとめる。

 魔導書も全部持って行ってやる。


「でも、お金はどうするんじゃ」

「丸薬を売るの。いっぱい作っといた」

「買ってくれるかわからんぞ」

「『エルフの長寿の秘密はこれだ!』って言えば売れるよ。あとその靴返して」

「さ、詐欺……」

「実際健康に良いからいいじゃん」


 靴を履いて、鞄を背負った。

 これで準備はできたかな。


「じゃあね」

「ええ、待って――」


 そう言ってツリーハウスから飛び降りた。


「レティシア!!」


 両足からバランスよく衝撃波を出し、上手く着地できた。

 そのままダッシュで村から出ていく。


 ここから先は見たことのない世界が広がっている。

 でも大丈夫。

 絶対にゼオ君に会う。

 それで彼女と一緒にいたら、顔面殴ってやる。



-----



「あら、家出ですか?」

「自分の娘だぞ」

「まあいいじゃないですか。そういうこともあります」

「人間に恋して村を離れるなんてな。全く、誰に似たんだか」

「うふふ」


「でも、私の時よりも大変になるわ」

「だから止めたんじゃ」

「それも彼女の選択です。それにちょっと面白くないですか」

「なにが?」

「なんでもないでーす」


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