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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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056 顔


「本当に1日ですべての依頼を終えるとは。ふん、流石第六星といったところでしょうか」


 結果からいえば、決着はすぐについた。

 ああなればもうライサンドの独壇場だ。

 ジャキもマスクもいい仕事をしてくれたしな。


「そして、これでは追加報酬も払わなくてはなりませんね。少し困りました」


 受付嬢が金庫を開ける。

 そこにはカスみたいな金額しか入ってなかった。


「申し訳ありませんが、追加の報酬は――」

「いや、別にいいんだ。それより、なんか隠してねえか?」


 ライサンドは真剣な顔でそう言った。


「それは、どうして?」

「なんかさぁ、出来過ぎてるなって」

「……」

「大型の魔物や獣に有効な特大ショットガン。宝探し。そして行方不明者の捜索。何が言いたいのかわかるよなぁ」


 受付嬢は依然黙ったまま。

 表情をピクリとも動かさない。


「都合が良過ぎるんだよ。すべてが噛み合っていた」

「……それは貴方たちのため、と言えば満足ですか?」


 ライサンドが口を尖らす。

 まあ、その辺にしとけって。


「そういうことにしておくよ」

「懸命な判断です。女性から根掘り葉掘り話を聞くのは、よろしくないことですから」

「……確かに。じゃあ俺たちはこれで。追加報酬はあんたが貰っといてくれ」


 冒険者ギルドを後にする。

 受付嬢は笑みを浮かべたまま俺たちを見送った。


 ライサンド、俺も実はそう思っていたよ。

 特大散弾銃。

 あれはどう見てもラードラゴン用に作られたものだ。

 もちろん他の動物にも使えるんだろうけど、あの大きさはちょっとオーバー過ぎる。

 恐らく受付嬢は俺たちがラードラゴンと対峙することを想定していた。

 つまり、ニムロデと戦うことになるとわかっていたんだ。


 そして『宝』と行方不明者。

 財力も武力も持ったニムロデたちが唯一得ることが出来なかったもの。

 それが人だったのだろう。

 紛争の続くこの地で他国と戦えるだけの戦力を保持するにはそれなりの人手が必要。

 しかし、街を襲って物を奪うことは簡単にできても、生きている人を拉致して自分たちの仲間にするのは少し難しい。

 その過程で殺してしまうかもしれないし、今回の宝のような組織の秘密が漏洩するかもしれない。

 だったら最初から忠誠心のある奴を増やせばいい。

 幼いうちから教育、いや洗脳をして、立派な戦闘員にする。

 それがニムロデが代々行ってきたやり方なのだろう。


 ライサンドは浮かない顔をしていた。

 朝に風俗店に行こうと言っていたが、もうその気は無いようだ。

 まあ宝の正体を知ったのだから、そうなるよな。


 そりゃあ、()()()()ことはあるとは思っていたぜ。

 俺だって実際に見てきた。

 でもそれを『宝』と呼び、それを手に入れるためなら命すら犠牲にする。

 そういったニムロデの状況を見て、1人の男としては、なんというか、やるせない気持ちになる。

 

「さて、お前たちをどうするかだな」

「なんだよ」


 ジャキとマスクが睨みつける。

 あの後も宝を運ぶためにともに行動していた。


「モーダン・スチラまで連れて行ってもらおうかな」

「いいぜ。どうせ行くとこないんだ」

「ここにいたってニムロデに捕まるだけだしな」


 2人がラードラゴンに乗る。

 もう俺たちの荷物は積みあがっていた。


「ほら、早く。たったと行かねえと捕まっちまうぞ」

「そうだな。じゃあなるべくニムロデのいないルートで走ってもらおうかな」

「任せとけ」


 振り返り町を見渡す。

 そういえばさっきから人の気配がない。

 というか、あの町で受付嬢以外の人と出会っていないな。


 まあ、いいか。

 俺もラードラゴンによじ登った。


「よし、じゃあ出発するぞ」



-----



「そういえば、お兄さんたち何者なの?」

「俺たちはちょっと西の方に用事があってね。旅をしてるんだ」

「嘘つけ。どう見てもそんな顔じゃないだろ」

「顔?」

「ああ、顔に出てる。旅人の顔じゃねえ」

「それじゃあ、戦士の顔ってことか? 嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「あんたの方はな。魔術師のお兄さんの方は戦士じゃねえ」

「あら、そうなの。ゼオちゃん、こんな生意気なこと言われているけど、どうする」

「俺は戦士って柄じゃないからな」

「じゃあ、この男はどういう顔なんだ」

「……わからねえ」

「そっか」



「でも、その顔を俺たちは見たことがある」

「ほう」

「昔、グールラットでニムロデに育てられていた時、ある男に出会った。とても強い男だった。俺たちがニムロデに捕まった人質だと勘違いしたのか、みーんなぶっ飛ばしやがった」

「その人の顔がゼオちゃんに似てるって?」

「わからん。雰囲気だ」

「だとしても、そんな強い人と一緒にされるなんて、ねぇ~」

「いや、強さは問題じゃねえ。俺たちが感じたのは、重さだ」

「うん。あれは確かに重かった」

「重いって、例えばどういう」

「背景、かな」

「え、ゼオちゃんなんか背負ってんの?」

「いやあ、お前とはそんなに変わらないと思うが」



「……今の話は気にしないくれ。所詮ガキの感想さ」

「でも、それがあったから今のお前たちがいるんだな」

「は?」

「目が違うんだよ。他の子どもや盗賊たちと。なあゼオちゃん」

「そうだな」

「チッ。余計なこと話すんじゃなかった」

「あとお前、褒められるの慣れてないだろ」

「うるせえ!」



-----



 3日後、夕方。

 俺たちはモーダン・スチラに着いた。

 役所や街の人に話を聞いたところ、確かにムーガンは航路を閉ざしていた。

 島の周囲に巨大な魔法壁を張り、海すらも断絶している。

 その様はまるでガラス玉の中にある模型都市。


 このことを知った俺たちはすぐさまお嬢様に向けて手紙を書き、送った。

 ハーピー郵便ならすぐに届くはず。

 返事が来るまではしばらく待機という手筈になっている。


「じゃあみんな昨日から休みなしで疲れているだろう。いい宿屋をとるから、そこでゆっくりしようぜ」


 ということでよさげな宿にチェックイン。

 贅沢に4部屋も取ってしまった。

 昨日はほとんど寝れてないし、仕方ないよね。


 部屋に入ると何やらいい香りが。

 その正体は机の上にあった香木か。

 確か下では色んな種類のものを売っていたな。

 有名なのだろうか。

 窓を開けると少しだけ涼しい風が吹き込んだ。

 そういやもうすぐ秋か。

 となると、姉さんと別れてから半年になるのか。


「元気にしているだろうか?」


 ……いかんな。

 姉さんのことを心配しているようで、俺が気弱になっている。

 こんな姿を見られたら、きっと叱られるだろう。


 まあとりあえず寝るか。

 もうクタクタだ。

 ベッドも柔らかいし、これはすぐに寝れそう……。


「……おい」


「ゼオちゃん! おーい!」


 喧しい声のせいで目が覚めた。

 今から寝ようと思っていたのに。

 起き上がるとライサンドがいた。


「何よ」

「鞄が盗まれた」

「そのことか……」


 じゃあ騒ぐこともないだろ。


「ある意味予定通りじゃないか」


 万が一のことを考えて、俺たちはダミーの鞄を用意していた。

 中にはそこそこの金が入っている。

 そしてジャキとマスクはそれを盗んだんだ。

 まあ、こうなる気はしていたが、だいぶ早いこと行動に移したな。


「だいたい、あいつらにそうやって金をあげようって言ったのはお前の方だろう」

「いや、そうじゃなくて。本命の方も盗まれたんだ」


 え?

 ポケットを確認する。

 手形も金も、全部ない。


「いつの間に!?」


 カーテンが揺れ、目に光の筋が当たる。

 窓の外を見ると、火の星が地平線から顔を出していた。

 あっちは、東だ。

 机の上には2つの香木。

 1つは熟睡用のものだ。


「そんな……」

「俺たちは、いつの間に半日も寝ていたんだ」


 やられた!

 そこまで狡猾だったとは!

 頭を抱えた。


「……なんてね」


 まあそんなこともある。

 俺は手首に付いた枷を外した。


「なんだそれは?」

「あいつらの脚に付いていた枷の片方さ。これは魔術師じゃないと外れない」


 これぐらいなら簡単に細工できて色々仕込める。

 例えば、もう片方がどこにあるか分かる魔術とか、一定の範囲外に行けなくする魔術とか。


「さて、1階に行こうか。うーん、裏手の倉庫辺りかな」


 正解だったようだ。

 宿屋の倉庫の端っこ。

 そこに2人はいた。


「なかなかやるねえ。盗まれたことに全然気づかなかったよ」

「けッ! しっかり対策していたくせに」

「同じ手を何度もくらうわけにはいかないからな。さて、荷物を返してもらおうか」


 手を差し出す。

 2人はため息をつくと、鞄を放り投げた。


「素直でいいねぇ。助かるよ」


 ライサンドは2人に近づいてしゃがんだ。


「善い行いをして、金を稼いで、真っ直ぐ生きていけ、なんて綺麗な事は言わないけどさぁ。ま、なんていうか、もう盗賊はやめた方がいい」

「簡単に言うぜ。そんなことが出来たら苦労しねぇ」

「あんたらに俺らの何がわかるっていうんだ」

「なんにもわかんねえよ。だが1つだけ言えることは、お前たちはもっと上に行けるぞ」

「は? 上?」

「俺はお前たちのその『目』を、信じているぜ」


 ライサンドはニコリと笑うと、2人の頭をガシガシと撫でた。

 ジャキとマスクは抵抗したが、ライサンドの力には及ばず、なすすべなく頭を撫でられ続けた。


「ゼオちゃん」

「ほいよ」


 もう片方の足枷が外れる。

 これでもう彼らを縛るものは無くなった。


「離せ!」


 ライサンドが手を緩めると倉庫から出て行ってしまった。


「いつかおめえらぶち殺してやるからなぁ!」


 遠くからそんなセリフが聞こえる。

 ライサンドと目が合うとクスリと笑った。


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