005 学校に行こう
さあ今日から学校だ。
ユナに家を任せて出発する。
留守番よろしくね。
ではここで魔導学校についての話をしよう。
4000年前、グイド地方で一人の魔族が魔術を生み出した。
それは魔族の中で広まり、魔族が強いとされる所以となった。
そして3000年前、第一次セイエナ大戦が起きる。
耳長族の領土に魔族が攻め込んだのだ。
耳長族は人間と協力し魔族を迎えうったが、圧倒的な力の前に苦戦。
その後約800年の間、戦争したり休戦したりを繰り返していたが、転機が訪れる。
天才プディオの登場である。
第二十一次セイエナ大戦の時、一人の耳長族が魔術を観察して学んだのである。
それを機に耳長族側が優勢になり、結果魔族の敗北となった。
大戦の後、耳長族は協力してくれた礼として、三人の人間に魔術を教えた。
その内の一人が建立したのが、「オストロル魔導学校」である。
天才プディオはその後に行方不明になってしまうが、魔導学校があるお陰で今も本格的な魔術を教わることができるのだ。
なぜ魔術師を目指すものがオストロルに憧れているか、わかってくれたかな?
そして今!
俺はその門をくぐろうとしている!
さあ、星の神秘を学ぼうではないか。
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「はあ……」
「主様。最近、元気ない?」
「うーん」
魔導学校に通い始めてから10日たった。
正直に言おう。
つまらん。
レベルが低いわけじゃない。
むしろちょっと高いぐらい。
なにがつまらないというと、授業の方針だ。
一日中ずっと発音の練習なのだ。
先生が、教科書の中から呪文を指定し、それを順番に読むだけ。
廻ってきた先生にオッケーをもらったら合格。
これの繰り返し。
しかも魔力を込めてはいけないので、達成感が無い。
でも、わかるよ
詠唱魔法というのは、ただ力を込めて詠唱すればいいというものではない。
天に対して褒め称える歌、讃美歌のようなものだ。
正しく発音できなければ効果はない。
魔力を込めてはいけないのも事故が起きないようにするため。
すべて理にかなっている。
それにしても。
それにしてもだ。
「面白くない」
昔、山の中で魔力が尽きるまで練習していたのが懐かしい。
一応、オストロル魔導学校の名誉を守るために、いいところも紹介しよう。
まず設備。
星を観測するための巨大な望遠鏡に、世界に十数個しかない『念話室』。
他にも図書館、製陣室、魔術器具博物館と見どころは色々だ。
研究内容もすごい。
巨大魔法陣を使った天候操作や、星を観測して新たな魔術の開発する、といった研究をしている。
面白そうだ。
2年間授業を受け、試験に合格すれば好きだけ研究できるらしい。
それまでは我慢我慢。
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「あれ」
魔導学校に着いたら、ざわざわと騒がしかった。
いつもはもっと静かだ。
何かあったのか?
誰かに聞きたいが、友達もいないし、仲の良い教授もいない。
ちなみに友達作りは頑張ったぞ。
誰も平民なんか相手にしてくれなかったけどな!
まあいじめられなかっただけ良しとしよう。
今日は大講堂での授業だ。
そちらに向かいながら、情報収集していこう。
「波は力なり。そして海は深く、落ちる。我、深海なり」
これで何の話で盛り上がっているのかわかる。
覚えていて良かった。
「あの天才くん。今日からここに来るらしいよ」
「無詠唱であれだけの魔術を……」
「俺は見るまで信じないぞ!」
「先生たちも首ったけらしい」
ほうほう。
どうやら魔術の天才が現れたらしい。
噂ではちょくちょく聞いていたが、どんな奴だろうか。
因みに俺は、そいつのことをちょっと恨んでいる。
とある教授のお手伝い係になろうとし、結構いいところまで行ったが、
その天才の件でなしになった。
おかげさまで金を稼ぐ手段がなくなっちまったよ!
でも意外と普通に暮らせてるんだよな。
食費がそろそろヤバいと思っていたが、ユナ曰く、
「まだまだ、大丈夫」
だそう。
あいつ、意外と値段交渉が上手かったりするのか?
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大講堂では実際に魔術を使った授業を受けることができる。
といっても公開処刑みたいなもので……。
「じゃあそこの君。前出てきて、この粘土を触らずにバラバラにしなさい」
「は、はい!」
と、生徒を呼び出しては、
「我が肉は地より産まれ、血は地を食らう。敵は目の前。星の産まれはいかにか」
「うーん。失敗だな。勉強不足だ」
と、酷評する。
せっかく魔術を授業で使えると思ったのに、これじゃあねえ。
あ、ちなみに今のは、「血は地を食らう」ではなく「骨は地を食らう」だね。
あと少し声が震えていたのもダメだ。
詠唱するときは歌を歌うように美しく滑らかに…ってね。
「ん? おいそこの黒髪!」
教授が一人の男を指差す。
最前列で両側の女子生徒とイチャイチャしている、けしからん奴だ。
「君! 名前は?」
「あー、マサキです」
「ほう。君があのマサキか」
なんだと。
俺はそいつに身に覚えがあった。
流れ星の近くで倒れていた奴だ。
そして教授と周囲の反応を見る限り、あいつが例の天才らしい。
「まあいい。ほら前に出てきなさい」
「はあ」
マサキとやらが頭を掻きながら前に出て来る。
「では、あそこの壁に掛かっているロウソクに無詠唱で火をつけなさい」
講堂内がざわついた。
無理だ。
手元にロウソクがあればまだしも、
あんなに遠くにあるロウソクに無詠唱で火をつけろなんて。
「ふん! いくら天才と言われていても、できないことも……」
「じゃあいきます」
「え?」
マサキが何かを投げるような格好をした。
「ファイヤーボール!」
ボワッと右手から砲弾の十倍ほどある火の玉が現れ、それを投げた。
火の玉がロウソクに当たり、火が付いた。
いやいや。
なんだよ今の。
あの大きさの火の玉を作れる人がこの教室に何人いるだろうか。
そしてあいつはあろうことか無詠唱でやってのけた。
「あれ? 今のダメでした?」
講堂は静まり返っている。
皆、啞然としていた。
「もっと大きい方が良かったですか?」
「いや! もういい! 席に着きなさい」
教授が汗を流しながら指示すると彼は、
「なにがいけなかったんだろう?」
といった顔で席に着いた。