053 祟り目
早朝。
ライサンドと王宮の外で馬車を待っていた。
「身体の方は大丈夫か?」
「動けるから、まだなんとか」
右腕は棒と肩からかけられた包帯で固定されており、自由に使うことはできない。
魔法剣はギリ振れるか。
お腹はシンプルに痛い。
なのに特に施術はしてもらっていない。
ほっといたら治るらしい。
ホントに?
「安心しろ。お前は魔術が使えればいいんだ。前衛は俺がやるし」
「ありがとう、ライサンド」
なんだかんだこいつの実力は信用している。
今回は頼むぜ。
「よう。ゼオライトくん」
「あ、カルコ」
役人にロープで縛られたカルコが門から出てきた。
「もう出国するんだって? その身体で『腹』とは、大変だねぇ」
「まあ……」
するとライサンドがカルコに近寄った。
「貴方が、あの斧足のカルコライトですか?」
「ん、そうだけど」
嫌な予感がした。
しかし、その予感は外れた。
ライサンドは手を合わせ、頭を下げた。
「大使様をよろしくお願いいたします」
「おう」
てっきりいつもみたいに興奮して質問攻めをしたりするのかと思っていた。
武術マニアのライサンドのことだし、カルコも有名な武闘家だし。
でも、それをせず、ただお嬢様の身を案じた。
俺もまだこいつのこと知らないな。
「あ、そうそう、ゼオライトくん。プレゼントがあるんだ」
カルコがそういうと隣にいた役人の一人が、布に包まれた何かを手渡してきた。
中身は例の杖だった。
「『ウルガの杖』。それが本当の名前だ。呪術師たちが教えてくれた」
「でもこれは――」
「心配するな。それには位置を特定する魔術が仕込んであったが、ちゃんと取ってくれたよ」
魔力を流し込んでみる。
なるほど、通りがいい。
これが何も入ってない杖なのか。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
「呪術師たちにもそう伝えておくよ」
頼もしい相棒がもう一人増えたな。
「おっと、迎えが来たみたいだな。じゃあ俺はこのへんで」
カルコが役人に引っ張られながら連れていかれる。
本当にお世話になりました。
しばらく2人でその様子を見た後、馬車に乗り込んだ。
「そうだ、ゼオちゃん。なんで『腹』って言われているかしってるか」
「いえ」
「そこに入った者の金も、身体も、そして人としての尊厳までも搾り取ってしまうからだそうだ」
「まさに、胃の腑」
「そう。だから俺たちも消化されないように気を強く持たないとな」
お嬢様のことも気掛かりだ。
でもまずは自分たちが生き残ることを考えなくては。
「さて、出国しようか」
「行きましょう」
こうして男2人の旅が始まった。
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やられた。
有り金全部持っていかれた。
「最悪だ……、マジで最悪だ」
ライサンドもガールフレンドに貰ったペンダントを盗まれてこの有様。
いくらなんでも幸先が悪すぎる。
では、なぜこんなことになってしまったのか。
説明しましょう。
まず俺たちは馬車で郊外まで移動した後、ラードラゴンに乗った。
ラードラゴンは滅茶苦茶デカい蜥蜴みたいな生き物で、この地域では荒野の移動手段として使われている。
馬で移動するよりはるかに速いのだが、餌代が馬鹿にならないらしく運賃は高め。
まあ俺たちはお金いっぱい持ってる……、いや持ってたのでラードラゴンを利用することにした。
ここまでは問題なかった。
ラードラゴンはシュンメイを出た辺りの荒野で一休みをし、さあ日が暮れるまでに街に向かおうという時にアクシデントが発生。
走り始めた時の衝撃で同乗していた老人の荷物が落ちてしまった。
もちろんすぐ止まったのだが、操縦士は自己責任だと言わんばかりに知らんぷり。
荷物の量も多かったため、老人1人で全部回収するのは大変。
こんな状況でこの2人がなにもしないはずがなく、ラードラゴンから降りて荷物を取りにいった。
すると、何故かラードラゴンが走り出した。
こういうことである。
鞄を乗せたままで降りてきたので、今もっているのは水とわずかなお金と杖だけ。
ライサンドも剣はなんとか持っていたが、そのほかは似たようなものだ。
老人が落とした荷物はいわゆるゴミしか入ってない。
あいつもグルだったのか。
「どうしようかな」
頭を抱える。
これでは無事にモーダン・スチラまでたどり着くことは……。
いや、諦めるのはまだ早い。
俺は辺りを歩きながら指笛を吹いた。
しばらくそうしてると、ハーピーが降りてきた。
「ここから一番近い町はどこかな?」
「えっと~、西の方にあるよ。今からだと真夜中になっちゃうけど」
「そこに冒険者ギルドはあるのか?」
「小っちゃいのならあるよ」
それなら何とかなりそうだ。
ハーピーに礼を言うと、ライサンドのところまで戻った。
「この先にギルドがあるらしい。行きましょう」
「うー……、最悪……」
ぺちん。
「ほら行きますよ」
「……はい」
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おそらくハーピーの言っていた町に到着した。
真夜中だが、酒場は開いているし、宿屋もまだ受け付けている。
だが金がなくてはなにもできない。
とりあえず俺たちはギルドに向かった。
冒険者ギルドでは借金をすることができる。
第六星なら金貨2枚を年1割増しで借りることができたはず。
それだけあれば十分なのだが……。
「それは出来かねます」
「なんでですか?」
「うちのギルドには登録されていませんし、そのような金額は急には出てきません」
どうやらここらは治安が悪すぎて、ギルドバッチの偽物が多く出回っているらしい。
その上ギルドの資金もほぼ無いようなものなので、お金は貸してくれないそう。
「私もかなりギリギリの状態で運営しておりますので、何卒ご理解ください」
そう言われてもなあ。
まあ言いたいことはわかる。
ギルドの中も4人掛けのテーブルと椅子だけ。
後は受付嬢用の小さい書斎があるぐらい。
昔の俺の部屋の方が広いだろう。
「なら、仕事をくれませんか? お金はなくとも、依頼はあるでしょう」
「……わかりました。それでは明日の朝にまた来てください。それまでに手早く、そして報酬が高いものを用意しておきます」
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翌日。
約束通りギルドの前まで来ると、何やら大きなな筒が用意されていた。
「あら。お早いですね。昨晩はよく眠れましたか?」
「豚小屋の隣じゃ、ねぇ」
良くはなかったが、地面が硬くなかっただけマシだろう。
「で、それは一体?」
「これが今回の依頼の内容になります」
受付嬢が筒を持ち上げ、ライサンドに渡した。
「おもっ」
「お二方とも腕に自信があるようでしたので、3つのややこしい依頼を同時に持ってきました」
「マジで?」
「先日唯一の所属パーティが全滅してしまったので仕事が溜まっているんです。ちょうどいいタイミングに来てくれましたね。良かったです」
面倒事全部押し付けたのか。
まああっちも大変そうだし、いいか。
「まず1つ目はその巨大散弾銃です。動物や魔物、人間に当ててその威力を調べてください。殺傷力も知りたいので対象はなるべく生きているほうがいい、とのことです。とある武器屋からの依頼ですね」
「これショットガンかよ……」
「2つ目は行方不明者の捜索。今年に入ってすでに14名の女性が行方不明になっています」
「ちょっと待ってくれ」
受付嬢の説明に口をはさむ。
「行方不明者の捜索って、何日かかるんだ。昨日の話では一日で終わるものを持ってくるはずだが」
「ええそうですね。だから探すだけでいいんです。誰も見つけてくださいとは言っていません」
なるほど。
金額はたいして高くないが、1日中歩いてるだけで金が貰えるということか。
「もちろん、見つけていただければ報酬は高く弾みますので、頑張ってください」
「で、3つ目は?」
「はい。あなたたちには『宝』を探していただきます」
「宝、だと」
「ええ。この辺りは盗賊団が多くいますが、そのほとんどを束ねているのがニムロデというグループです」
その名は聞いたことがある。
もう発足から1000年以上経つ盗賊団の元締め。
そうか、この辺りが縄張りか。
「このニムロデはもはや一つの国家と言えるほど力を持っています。周辺の小国もその傀儡のようなものです。そしてそのニムロデが大事にしているものがあります」
「それが宝というわけか」
「そうです。彼らが宝と呼んでいるナニカを探して欲しいのです。その正体を知る者はニムロデ以外にはいませんが、頑張ってください」
2人で目を合わせる。
やるしかないだろう。
笑う男に襲われて、荷物盗られて、荒野のど真ん中で宝探しか。
悪いことが起これば、次はいいことが起きるものだと思っていたが、人生はそう上手くはいかないらしい。




