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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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051 ルール無用の闘い


「あ? なんだと?」

「お前は何者かと、聞いている」


 奴の腕が持ち上がる。

 俺のつま先が地面から離れた。


「今更そんなことを聞いてどうする」

「あんた、ただもんじゃないな」


 お前にただならぬ何かを感じた。

 そこらの暴漢や戦闘狂とはわけが違う。

 だから何者か知りたかっただけだ。

 答えてくれないのなら、結構!


 剣を召喚し、腕を斬りつける。

 奴の腕から血が噴き出た。


「ぐうう……せこせこと仕込みやがって!」


 それでも頭を離さない。

 今度は両手で剣を持ち、さらにえぐる。

 それを止めようとする奴の手を足で邪魔する。

 さっさと観念しろ!


「きさまぁ!」


 ガシッと足を掴まれた。

 そして引っこ抜かれた。


 次の瞬間、俺は宙に浮いていた。

 咄嗟に受け身を取った。

 おかげでダメージはない。

 だが、袋小路に追い込まれたようだ。


「なかなか小賢しい奴だな」

「あんたにだけは言われたくないね」


 奴は置いてあった樽の中から砂を取り出した。

 そして砂を握り込むと、投げつけてきた。


 魔法壁でガードする。

 それでもお構いなしに砂を投げつけてくる。

 砂塵が舞い始め、視界が悪くなった。

 このままではまずい。


 魔術剣を構え、奴に向かって突進する。

 が、手ごたえがない。

 いつの間にかいなくなっていた。


「こっちだ」


 背後から声。

 振り返った瞬間、目に大量の砂が入る。


「ああ!! 目がっ!」


 両手首を掴まれる。


「なるほど、そうなっていたのか。上手い事考えるな」


 そういうと奴は俺を持ち上げ、地面か壁か、とにかく何かに打ち付けた。

 同時にベキッという音が聞こえた。


「チッ。左は折れなかったか」


 なんとか目を開け、ふらふらと立ち上がった時には、奴はもう目の前に来ていた。

 まだ使える左手で魔法壁を張る。


「ふふっ……」


 奴は笑っていた。


「なにが可笑しい」

「お前、下半身がガラ空きなんだよ」


 奴の足が動いた。

 それは俺の股の間に入ってきた。

 身体が固まった。

 そこからは時間がゆっくりと流れているように感じた。


 迫りくる奴の足。

 もうどうしようもできない。

 あの痛みを受け入れるしかない。

 男なら一度は経験するあの耐え難い痛みに……。


 ゴチュッ。



-----



 まだばあちゃんと暮らしていたころ。

 俺はよくちびっ子たちに誘われて戦いごっこをしていた。

 棒きれを剣に見立てて振り回したり、鍋の蓋で盾にしたり、まあわちゃわちゃとやっていた。


 ある日、七歳の女の子がそれに参加した。

 女の子が戦いごっこに混ざるのは初めてだったが、それでも楽しそうにしていた。


 戦いごっこの最後は大将戦で締めくくられる。

 その日は俺と女の子との素手でのタイマン勝負。

 もちろん手加減してわざと負けるつもりだった。

 ポカポカと叩いてくる彼女に対してオーバーリアクションを取る俺。

 ちびっ子たちはみな笑っていた。


 しかしその時、悲劇が起こった。

 女の子の拳が股間に当たったのだ。

 俺は地面に倒れ込んだ。


 男の子の中には暗黙の了解があった。

 それは絶対に金的に攻撃しないこと。

 この意識は根強く、今でも続いている。

 男同士で喧嘩するとき、なぜ股間を狙わないのか。

 当たれば問答無用で動けなくなるのに、なぜ使わないのか。

 それはやはり暗黙の了解があるからだろう。


 この女の子はそれを知らなかった。

 俺はその時認識の齟齬がどれほど恐ろしいものか理解した。

 そして自分の年の半分しかない女の子のパンチで倒れてしまう金的の恐ろしさも知った。



-----



「やっと立ったか」


 奴はまだニタニタと笑っていた。

 おそらく地面に伏し、悶え苦しんでいた時もずっと笑っていたのだろう。

 嫌な奴だ。


「随分と余裕なんだな」

「なんだ? まだ策があるのか?」

「いや、ないけど」


 拳を構えた。

 剣はもう使えない。


「俺は、お前との闘いを『試練』と捉えたよ」

「なに言ってんだ」

「ぬるま湯から脱出するための試練だ」


 意味のわからないことを!

 奴はそう思ったに違いない。

 そして突っ込んでくる。

 策がないのはお前の方だ。


 左手を突き出す。

 魔法壁を張った。

 そしてそのまま呼吸を整え、力を入れた。


 気づけば俺の身体は飛んでいた。

 そして奴も白目を向きながら吹き飛んでいくのが見えた。


 ガシャンと木材置き場に身体がぶつかる。

 辺りに砂ぼこりが舞う。

 背中が痛い。

 が、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 奴はすぐにでも起き上がるだろう。


「仮説は、正しかった!」


 ロセイさんから教えてもらった『王道』。

 それを練習している時に、気づいたことがあった。

 魔法壁を発動する時と似ていると。

 正確には、姉さんから貰った手袋で魔法壁を発動する時だ。

 エネルギーを掌に集中させる。

 うん、似ている。


 それだけじゃない。

 魔術もテントウも自然のエネルギーを利用している。

 アプローチの仕方は少々違うが、本質は同じなのだ。

 そうなんだろ、師匠。


 ならば、魔法壁と王道を同時に使うことで攻撃が可能になる。

 あの硬い魔法壁が飛んでくるのだ。

 恐ろしいことこの上ない。


「いってえなぁ」


 砂ぼこりが晴れると奴はもう立ち上がっていた。

 かなり効いているようだが、ノックアウトとまではいかなかった。

 タフな奴だ。


「あれ、逃げないのか?」

「あんたからは逃げられないのはもう十分わかったからね。ここから宮殿までは距離あるし、普通に逃げてたら何度捕まることか」


 その度にボコボコにされたら、もうやってられない。

 というか、死んじまう。

 だいたいまだ股間が痛くて走れないよ。


「だから()()()()だけ逃げることにした」

 

 奴に向かって右手をぐっと突き出す。


「杖だと。……いつの間に」


 風俗街の路地裏。

 例の杖が置いていた場所だ。

 なんとかここに来れた。


「これで互角だ」


 光弾を発射する。

 奴は避けたが、後ろの壁がボコりと凹んだ。

 いつもより威力は上がっている。


「確かに互角かもしれんな」


 奴は笑うと腕を顔の前でクロスし、飛び込んできた。

 それに対して王道を放つが――。


「ぬうううん!!」


 耐えただと。

 だがこの距離ならば、アレを使う。


 両手で杖を持ち、右手の剣の魔力を杖に送る。

 先端が黄金色に光ったかと思うと、その光はすっと伸び、巨大な剣となった。

 大きく振りかぶり、強く踏み込む。

 さしもの奴も焦りを見せたが、この狭い路地裏で避けることはできない。

 これを受けきるしかない。


「はああああ!!」


 イヴの使う炎鷹流のような、力強い一撃。

 辺りの小物は吹き飛び、あるいは壊れ、壁はミシミシと音を立てた。

 『グレート・イヴライト』ほどではないが、確かな手ごたえはあった。

 だけど、これでも不十分か。


「くうう……」


 瞬間的に魔力防御を張ったか。

 それでも五割以上は貫通したというのに、よく立っていられるな。

 タフな奴だ。

 でも、これならどうだ?


 振り下ろした杖を、今度は振り上げた。


 ゴチュッ。


「あああああああ!!!」


 奴の巨体がぐらりと揺れた。

 これはさっきのお返しだ。

 それと、あんたは知らないようだな。

 いい杖は鈍器として扱えるんだよ!


 垂れた頭にフルスイング。

 奴は地面に伏した。

 やっと完全なるダウンを取れた。


 すかさず飛び上がり、頭を思いっ切り踏んづけた。

 ストンピングなんて騎士道に反するだろうけど、知ったこっちゃない。

 だって、勝たなきゃ意味がないんだろ?

 確かにあんたの言う通りだ。

 勝者だけが矜持や理念を語れる。

 敗者は何も語れない!


「おおっと」


 八回目の踏みつけを中断し、奴から離れる。

 こいつ意識を取り戻したか。

 もう一回いってたら掴まれてたな、これは。


「『試練』だったか? うん、確かにぬるま湯からは抜けれたようだな。でもまだ甘いなぁ」


 奴はゆっくりと起き上がった。

 顔面には血が垂れていた。


「なぜ魔術で止めを指さない? てめえの足よりは強いはずだろ」

「さっきので結構魔力使っちゃったからね。あとは時間稼ぎかな」


 視界の端から黒い影が飛び出す。

 そしてその影は奴をぶっ飛ばした。


 奴はのけぞり、俺の前にそれは降り立った。

 華麗な襲撃だった。


「よく間に合わせたな」

「何とか解けたよ」


 目の前に現れた半裸の男。

 奴はその人物について知っているようだった。


「お前は『修羅堂の鐘番、斧足のカルコライト』!」


 やっぱりその道では有名な人だったか。


「なんでお前がこんなところに」

「むしろ風俗街って、俺が一番来そうなところだけど?」


 カルコを前に奴は焦りを見せていた。

 それだけの強敵だと認識しているのだろう。


「へっ、噂通りの男だな」


 しかし、奴は向かってきた。

 

「おいおい。俺とあんたの実力差は明確だ。あんたもわかってるだろ?」

「試してみないことには何とも言えないなぁ」


 自信があるのか?

 いや、そうではないようだ。

 発言こそは威勢がいいが、呼吸は荒いし、額には小粒の汗が滲み出ている。


「名は知れていても大したことのない奴は多く見てきた。お前もその一員かもしれん」

「そうか。なら、一撃でわからせる」


 カルコはくいくいと手招きした。


「かかってこい」


 奴はその挑発に乗った。

 そして少し足が動いた瞬間、カルコの蹴りが頭を襲った。

 辛うじて目視できた鋭い蹴り。

 美しかった。

 その軌道が黄金に輝いていると錯覚するほどに。

 奴は体勢を崩すも、なんとか踏みとどまった。


「どう? これでお分かり?」


 奴はぺっと唾を吐いた。

 その唾には歯が混じっていた。


「流石『斧足』としか言いようがないな」


 奴の闘気はすっかり失せていた。


「拳よりも威力、リーチに優れると言われる蹴り技。非常に強力だがへそより上を狙うとなれば大きなリスクを背負うことになる。足を掴まれたら抵抗できないからな」

「じゃあそれを顔面にもろに当てた俺は凄いってことでOK?」


 奴は苦笑した。

 そりゃそうだ。

 まさか本当に一撃で力量差を示すなんて。


 この男、底が見えない。

 まったく、やべえ奴らと出会っちまったもんだ。


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