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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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050 悪人


 案内されたのは路地裏の半地下になっている建物。

 中に入ると大量の袋が吊るされている。

 変な匂いもするし、薄暗い。


 そのまま奥に進むと、豪華なテーブルと椅子に座った男性がいた。

 片目のところを斬られており、隻眼となっている。


「お前か。最近うちのシマに出入りしているのは」

「は、はい」

「ダメだよ~。一般人がこんなところに来ちゃあ」


 男が煙草を取り出すと、横から若い男が寄ってきて魔術で火をつけた。

 よく見ると周りに同じような格好をした男がずらりと並んでいる。


「うちんとこと絡んだっていいことないぞ」


 煙草を吹かし、ミョウジンを手に取る。

 しばらくの間それを見つめると静かに頷いた。


「本物だな」


 そういうと、ミョウジンを袋に入れて突き返してきた。


「悪いけど、これは受け取れないよ」

「どうしてですか?」

「勘違いするんじゃねえぞ。あんたのために言ってるんだ」


 男は煙草を置いた。


「私たちから金を受け取ったら、もう二度と普通の暮らしはできねぇ」


 なるほど。

 ()()()()人たちか。

 でも今回の目的はお金じゃない。


「私は情報が欲しいんです」

「情報?」

「ええ。魔術に関する情報です。この国特有の魔術について知りたいんです」


 男は腕を組んだ。

 そして眉をひそめた。


「ミョウジンを4本も持ってきておきながら、情報が欲しいだけだと」

「はい」

「そうかぁ~」


 肩をすくめる。

 どうやらこのミョウジン、そうとう価値があるらしい。


「わかった。今回私はただの鑑定人。これが本物かどうか確かめただけ。それでいいだろ?」


 男はそう言いながら袋から1本取り出した。


「この1本は鑑定料として貰っておく。だがあとは好きなように取引するといい」

「いいんですか?」

「別に魔術師たちが誰と取引してもこっちは関係ない。一応、そういうスタンスだからな」


 ミョウジンは残り3本。

 これだけあれば十分だ。

 さあ、術師たちに話を聞きに行こう。



-----



 翌日の朝。

 お嬢様との会話は弾んだ。


「なるほど。そういうことなのね」

「その写しがこちらになります」


 ミョウジンのおかげで術師からたっぷりと話を聞けた。

 魔術の起源から、薬学との関係、魔法陣の書き方。

 正直頭がパンクしそうだったが、何とか詰め込んだ。

 メモ禁止はきついよ。


「たった10日でここまでの情報を集めるなんて、もっと褒美が必要みたいね」

「いえいえ。私の方も勉強になりましたので、お気になさらないでください」


 実際、かなり勉強になった。

 薬学の方は難しそうだが、それ以外なら自分の戦術に取り込めるだろう。

 詠唱のさらなる高速化。

 魔法陣の簡略化。


 そして魔術とタオの関係も少しわかった。

 この国にとって、エネルギーの根本とは『波』だという。

 もちろんそれはタオとも強く繋がっている概念だ。

 で、魔術詠唱の根底は声の高低にある。

 『高低』と『波』。

 なにか共通点を感じないだろうか。


 あくまで仮説に過ぎないけどね。


「なんだお前気持ち悪い顔して」

「いや、ただ学問の楽しさに酔いしれていただけさ」

「あんなの何が楽しいんだか」


 ベッドで転がりながら本をペラペラとめくるイヴ。

 まあこの脳筋女にはわからんだろうな。

 学問の真の楽しさとは、『繋がり』を発見するということに。



-----



 この日も術師たちのところに行き、色々と情報収集をした。

 まだ昼だが、もう帰ろう。

 たくさん情報を集めるだけじゃダメだ。

 ちゃんと整理をしないと。


「あの、すみませーん」


 背後から声をかけられる。

 振り返ると体格のいい男がいた。

 背も高いし、威圧感があった。


「さっき、宮殿から出てきていましたよねぇ」

「は、はあ」


 宮殿の出入りは特に見られて困るものではないが、なんだか嫌な予感がする。


「その、こちらで私も宮殿に入れてもらえませんかね」


 胸元から金貨をちらりと見せる。

 もちろん受け取るわけがない。


「お断りします」

「そんなぁ……。じゃあこの三倍は出しますから、ね!」

「結構です」


 立ち去ろうとしたら、腕を強く掴まれた。

 こいつしつこいな。


「じゃああの噂は本当なんです? クリストロフからものすごい美人が来たとか」


 ドクン。

 心臓が強く跳ね上がった。


「……美人ですか」

「ええ、黒髪で背の高い女性です」


 シーリンさんの方か。

 お嬢様のことがバレたのかと思った。

 ならまだ大丈夫か。


「知らないですね」

「そうですか。いやあ、貴方ここらの人じゃないから何か知っているのかと思ったんですけど~」

「じゃあもういいですかね。手、放してください」

「いえ、放しませんよ」


 男はグッと俺の腕を持ち上げた。


「いだだだ!!」

「だって貴方、噓ついてますよね」


 そして首筋の匂いを嗅いできた。


「やっぱり、女物の香水の匂いがする」

「べ、別に女ぐらい、抱きますよッ」

「いや、違うね。これはクリストロフの香水だぁ」


 こいつ、今の一嗅ぎでそこまで……。

 何者なんだ一体。


「シュンメイには品質の良いお香がたくさんある。なのにわざわざクリストロフの香水をつけるなんて考えづらいよなぁ!」


 男は俺を掴んだままおおきく振りかぶった。

 そして俺の身体を地面に叩きつけた。


「お前ぇ、何か知っているだろぉ!」


 いきなり声が荒々しくなる。

 これが奴の本性か。


 起き上がり、剣を構える。

 男も拳を構えた。


「これは強引にいくしかなさそうだな」


 奴が突っ込んでくる。

 魔法陣を張って対抗するが、身体は吹っ飛ばされた。

 なんというパワー。

 相手が拳じゃ流水派も使えないし、これは距離取って魔術でどうにかするしかない。


 棒きれを拾い、それを素に炎の槍を作り飛ばした。

 これには予想外だったのか、まともに当たってしまった。


「ああ!! あじいいいいい!!!」


 服が燃え上がる。

 奴は転がり続けた。


 弓を構え、奴に狙いを定める。

 これで終わらせる。


「ま、待ってくれぃ! 俺の負けだぁ!」


 奴は地面に伏したまま、頭を下げた。


「すまない。ちょっとした出来心だったんだ。どんな美人が来たのかなって、気になって」


 突然の降参。

 半泣き顔で、何度も頭を下げる。

 プライドとかはないのだろうか。


「あ、あんた、思ったより強くて、へへッ。喧嘩売る相手間違えたよ」

「ホントに?」

「もももちろん! とにかく、その弓さげてくれな、な? そんなの食らったら死んじまうよぉ」


 必死な命乞い。

 なんだか可哀想になってきた。

 どこにいっても、こういう奴はいるんだなぁ。


 俺は弓を構えるのをやめた。


「ありがとう。助かったよ」


 ふらふらと立ち上がる。

 もう服も髪も焼けてボロボロだ。


「あと、あんたってお人好しなんだな」

「え?」


 気づいたころには、俺の肩はがっちりと掴まれていた。


「ほらよ」


 奴の膝がみぞおちにめり込む。

 ベキッと音がした。


 奴が手を放す。

 俺の身体は地面に伏した。

 指一本動かせない。

 呼吸が出来ず、魔術も使えない。


「立場逆転だな」


 顔面を蹴られる。

 俺の身体はゴロゴロと転がっていき、仰向けになった。

 そんな様子を奴は笑いながら見ていた。


「さっき攻撃していれば、あんたの勝ちだったのに」


 奴は俺の髪を掴むと身体を持ち上げ、後ろから羽交い絞めにした。

 首が圧迫され、息がが出来なくなる。

 吐き気を催し、涙が出てくる。


「こうなったら、魔術師は終わりだな」


 ガシャンッ。


「ぐあああ!!」


 奴の腕の力が抜ける。

 その隙に腕を振りほどき、転がりながら距離を取った。


「くっそお。トラップなんて仕掛けやがって」


 魔力トラバサミ、大活躍だな。

 こういう時には本当に役に立つ。 


 俺は立ち上がると、剣を構えた。

 何とか息はできるし、これで戦える。


「騙し討ちって、プライドとかねえのかよ」

「あるぜ、ちゃんと。でも勝たなきゃ意味がないよなぁ」


 奴は焼けた服を脱ぎ捨てた。

 身体には無数の魔法陣が書かれていた。


「術封じか」

「詳しいんだな。これを知らずに突っ込んでくる馬鹿とは違うわけか」


 あいつに掴まれるとあらゆる詠唱が無効になる。

 さっきのようなトラップや魔法陣なら発動できるが、それでも苦しい。

 ここは逃げよう。

 無理に戦う必要はない。


 踵を返し、走り出す。


「逃がすかぁ!」


 追いかけてくる。

 そうだと思った。

 

 ドンと爆発音がした。

 激昂してる時っていうのは案外周りが見えてないもんで、単純な罠にもかかってしまうんだよね。

 逃げながらこんなに大量の爆弾をばらまいているのにさぁ!


 爆発は絶え間なく続く。

 暴れれば暴れるほど起爆して、痛いぞこれは。


 ただこれぐらいでは奴も死なないことは分かっている。

 道を曲がり、路地裏を進んでいく。

 とにかく宮殿に入りさえすればそれ以上は追ってこないはずだ。

 距離はあるが、こうやって後ろに攻撃しながら逃げていけば……。


 そう思った時だった。

 隣の建物の壁が壊れ、中から奴が飛び出してきた。

 そのまま体当たりをされ、吹き飛ばされる。


「俺は鼻がいいってこと、忘れたのか?」


 起き上がろうとしたが、頭を掴まれてしまう。


「普通の爆弾なら火薬の匂いでごまかせたんだが、残念だったなぁ」


 俺は恐怖を覚えた。

 それは飛竜や古竜、裏切り者の第七星と相対したときのものとは違う、初めての感覚。

 俺に向けられた明確な殺意。

 そして奴の背後に蠢く闇。

 底の見えない悪意を感じた。


 頭蓋骨がキリキリと絞められる。

 このまま割る気だ。

 早く何とかしなければならない。


 だが、俺は質問をした。


「お前は、何者なんだ……」


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