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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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049 ミョウジンサマ


 シバナーシュ、『餓鬼の森』。


 俺はそこにやってきた。

 ここに目当てのモノがあるはずだ。


「にしてもこれ、完全に不法侵入だよな」


 カルコとの取引成立後、すぐに出発した。

 彼曰く、チャンスは今しかないのだとか。


 今日は『山神拝拳廻り』の日でシバーナシュの門下生が一晩中山々を歩くという行事があるそう。

 だからいつもより警備が甘くなっているらしい。

 実際教えてもらった脇道を通れば数人の衛兵しかおらず、簡単に領地に入ることができた。

 あとは一定のルートとタイミングで移動していけば、誰にも見つからずに侵入できるのだ。


 武の聖地にしては警備がザル過ぎると思うのだが、割といつもこんな感じらしい。

 というのも、シバーナシュとしては「侵入者歓迎!でもただで出られると思うなよ!」というスタンスを取っている。

 市街地と距離が近いこともあり、道場破りもたくさん来るからだ。

 だから「シバーナシュから無事に帰って来れた」と言えば自慢になるのだ。

 ちなみにカルコはそういった自慢話を千人以上から聞かされたそう。

 果たしてのその内の何人が本当のことを言っているのだろうか……。


 にしてももう真っ暗だな。

 一応シーリンさんに手紙で伝えてあるが、あいつらがいらないことしないか心配だ。

 まあ土産話してやるから、それで我慢してくれよな。

 ……無事に帰れたらだけど。


 タイムリミットは明日の日の出まで。

 それを越えると人の目も多くなる。

 昼過ぎに入って今この時間なのだから、そろそろ見つけないとまずいな。

 というか、これだけ歩いてもまだ領地の端の方だというのだから、驚きだ。

 領地のほとんどが山岳地帯とはいえ、広すぎだろシバーナシュ。


「ん、これか?」


 根は白く、上に行くにつれ真っ赤になっている。

 先っぽは四つに分かれているし、間違いない。

 これがミョウジンか。

 確かに逆にすると人のような形になってるな。


 とにかく、何本か採っておこう。

 そう思って抜いてみようとするが、なかなか抜けない。

 まあ一欠けらでも十分価値はあるんだ。

 切断してしまっても大丈夫だろう。

 刃物を取り出し、根元の方を斬った。

 とりあえず1本目。


「アア……」


 背後から音がした。

 慌てて振り返る。

 誰もいない。


 とりあえず光球の明かりを消す。

 結構明るさを抑えていたけど、誰かに気づかれたか。


 でも、誰もいないよね……。


 生えているミョウジンに手を伸ばし、三本ほど採り、袋に詰めた。

 こんだけあれば十分だろう。


「ア……アア……」


 まただ。

 

「ウ……アアウ……」


 これは、声?


 辺りを見回す。

 誰もいない。

 だが、声はする。

 いったいどこから……。


 そのとき、ミョウジンを入れた袋がもぞもぞと動いた。

 虫でも入ったのか?

 袋に手を突っ込む。

 ミョウジンが四本。

 そのうち一本を取り出した。


「なっ……」


 それはミョウジンではなく、子どもの手だった。


「うわああああ!!!」


 驚いてそれを手離す。

 今度は足を何かに掴まれた。

 俺は転んでしまった。


 するとひたひたと顔を何かが這った。

 目を開け、上体を起こすと、そこには恐怖を絶する光景が広がっていた。

 地面から無数の手が生えていたのだ。

 

 今まで俺がミョウジンだと思っていたものは、人の手だったのだ。


「アア……」


 また声ッ。

 今度は……。


「アエ……アエ……」

「ウウウ……」


 周りに、いる。

 無数の人影。

 人間ではない。


「オオオオ……」


 こちらに向かって歩いてくる。


「来るなッ!」


 剣を取り出し、構える。

 それでもヤツらは歩みを止めない。


「オオア!!」


 ヤツらが遅いかかってきて、右腕を掴んだ。

 そのまま物凄い力で剣の先を俺の首に向けてきた。


「ぐぐッ……」


 左手で剣を抑え、抵抗する。

 だが刃はじりじりと迫ってくる。

 なんて力だ。

 魔術も全く使えないし、いったいどうすれば……。


「ふんッ」


 身体を逸らし、剣を避ける。

 剣は後ろにあった木に刺さった。


 だが、まだ右腕はがっちりと掴まれており、剣を動かそうとしている。

 今度は首を斬る気か。


「な、なんなんだよ、お前ら!」


 ヤツらは一切答えない。

 そのかわりにただ「アア……」と発声している。

 まさか、怨霊か。


 ここは『餓鬼の森』。

 ひどい名前だとは思っていたが、もしかしたら昔何かあったのか。

 いや、そんなこと考えている時間はない。

 なにか俺にできることは……。


 左手で鞄を漁る。

 この状況をどうにか出来るものはないか。

 いや、そんなものあるはずがない。


 ダメだ。

 俺はここで終わるのか。

 これじゃあ無駄死にじゃないか。


「ユナ……姉さん……」

「ゼオ君、聞いてる?」


 目の前に姉さんがいた。


「このキノコ、ゆっくり採るんだよ。傷つけちゃダメだからね」

「傷がつくとどうなるんですか?」

「近くにいる人が発情しちゃうだって」

「ええ……。てか、何に使うんですかこれ」

「花とかと混ぜてオイルにするんだよ。あとはね――」


 もう一度鞄を漁る。

 そして小さくて丸いものを見つけた。


 俺はそれを飲み込んだ。


「んぐッ!」


 腕の力が抜ける。

 頭が重くなる。

 心臓の鼓動が速くなる。


 だが、ヤツらの気配は消えた。


「抗狂薬……持ってて良かった」


 いつだったか、エルフの村で貰ったこれがまさか役に立つとは。

 人生、色んなことがあるものだな。



-----



「そうだっかのか……なるほどぉ」

「『なるほどぉ』じゃあないんですよ。危うく死にかけたんですよ、こっちは!」

「だって、不思議だったんだよ。なんであんな高級品、誰も盗りに来ないのかって」


 翌日、俺はカルコのもとへ行き、事の顛末を話した。

 終始彼はその話を興味深そうに聞いていた。


「だけどお前の話を聞いてわかった。あれは自然が仕掛けたトラップだったんだよ」

「トラップ?」

「そう。盗りに来ないんじゃなくて、盗れなかったんだよ。ミョウジンが盗人に幻覚を見せて自殺させ、その人間を養分にしていたんだ。だからあの土地でしか採れない、育てようのない希少種になったわけだ」


 自らが稀少な存在となることで人間をおびき寄せ、それをエサにしていたのか。

 恐ろしい。


「知能があるわけでもないのに、そんなことができるなんて」

「そうでもない。知り合いの魔術師から聞いたんだが、人間の脳とキノコの根って似てるらしいぜ」

「冗談でしょう。ただの菌類ですよ」

「さあな。でも人間にできることがキノコにできないとも限らないだろ?」

「それは天に対する冒涜では?」

「これぐらいのことでは主神はお怒りにならんだろう」


 知恵とは天が人間に与えた特別な物。

 それを否定するなんて、なかなか度胸のある奴だ。


「それに、あんたも完全な善人ってわけじゃないだろ? 結婚前に女の子とイチャイチャしたりしなかった?」

「それは……」

「まあ、あんたよりも俺の方が悪人なのは間違いないだろうけどな」

「そうかもしれません」

「でも気をつけな。この世には俺みたいな小悪党とは比べ物にならないほど黒い悪がある。そいつに取り込まれないようにしろよ」


 悪か。

 あらゆるものを飲み込もうとする悪。

 関わりたくないものだな。


「じゃ、ほら。それ持っていきな。俺を出すのはその後でいいからよ」

「そうします。まだ本物かどうかもわかりませんし。ある程度成果が出れば解放します」

「うん。あと迷惑かけたお詫びにお前のボディーガードになってやろうか?」


 この人の強さはわからないが、おそらくシバーナシュで修行を積んでいたのだろう。

 内部の情報、入山へのルートどり、どれも完璧にあっていた。

 何度も出入りしているか、何年も住んでいたに違いない。

 それに様々な国を旅してきたと言っていた。

 だとすれば、彼が適任かもしれない。


「私が旅に出ると言っても、ついてきてくれますか?」

「まあ、1年ぐらいならいいぜ」

「ならそういうことで」


 ミョウジンの入った袋を握りしめ、路地裏を後にする。

 風俗街と術師たちのたまり場は近い。

 区画を三つほど抜ければ、もう着いた。


 一瞬自分に視線が集まる。

 だが、それはすぐになくなった。

 露店を出している術師に近づく。

 屈んで声をかけても何の反応もない。

 

 うん、いつも通りだな。

 

 袋からミョウジンを取り出し、目の前に置く。

 それが術師の目に留まる。

 そしてゆっくりと顔を上げた。


「キューワカ(話がしたい)」


 次第に術師が集まってくる。

 ミョウジンに興味深々のようだ。


「タイ!キュータイ!」


 差し出された男が慌て始める。

 

「シンフー、モーワゼン!」

「レン!カーレン!」

「ア、ケンシシンフー」


 どうやら、ここのまとめ役に会わせてくれるようだ。

 カルコの言う通り、ここらの一般魔術師じゃあこれが本物かどうかなんてわからない。

 だからわかる人に会わせてもらえる。

 詳しい話が聞ける。


 これでこの国の魔術に近づける。


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