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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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048 取引


 俺の朝は早い。

 いつも日が昇るまえに置き、軽い運動をする。

 意識しているというよりかは、もう癖だ。


 外賓用の建物の横の広場に出ると、まずは柔軟体操。

 そして素振りと筋トレ。

 最近はそれに加えてロセイさんに教えてもらった天道(テントウ)のトレーニングもしている。

 実際成果は出た。

 わずかにではあるが、掌から風を出せるようになった。

 木の葉が揺れる程度だ。


 朝の運動が終われば、朝食の時間。

 食堂に行くと、お嬢様がいた。


「おはようございます」

「おはよう。昨日はどうだったの?」

「昨日もダメでした。お酒も飲むどころか、受け取ってもくれなくて」


 数日前、都の外郭に魔術師たちが交易を行っている場所を見つけた。

 しかし全く相手にしてもらえない。

 話しかけても無視。

 金を払って商品を買おうとしても断られる。

 他にも色々試してみたが、ダメだった。


「そう……まあ、しょうがないわね」

「彼らとの接触は今後も続けていきますが、これからは他の方法も試してみます」

「頼むわ」


 お茶を飲み干し、手招きをする。

 彼女に近づき跪いた。


「ムーガンのことだけれど、役人は何も話してくれなかったわ」

「そうですか」

「都合が悪くて嘘をついているのか、単に知らないだけかわからないけど、確定的な情報が出るまでは予定通りにいくわ」

「わかりました。こちらの情報が誤っている可能性もあるので懸命なご判断かと」

「あと、あれから襲われたりしたの?」

「いえ」

「ならいいわ」


 お嬢様は立ち上がった。

 俺は後ろ下がった。


「では、また」


 お嬢様はシーリンさんを連れて食堂から出ていった。



-----



 さて、今日は流石に何か成果を上げないとな。

 もうシュンメイを旅立つ日も近い。


 いつも通り風俗街に行く。

 そしてふと路地裏を見る。

 やっぱりあった。


「これ、マジでなんなんだよ」


 そこにあるのは例の杖。

 数日前からずっとここにある。

 売れば相当の値段がするだろうに盗られることもない。


 もちろんこのことはお嬢様に話した。

 彼女の見解によれば、杖自体に何らかの防衛機能がついており、使おうとすると反撃を食らうようになっているのだとか。

 それが「触るだけで大変なことになる」と解釈をされたので、このまま放置されている。

 あり得る話だ。


「あんたもそれが気になるのか?」


 どこから声をかけられる。


「こっちだよ、こっち」

 

 男の人の声だ。

 路地の奥か?


 恐る恐る裏路地に入っていくと、少し開けた場所に出た。

 そこら中に鞭や拘束器具が転がっている。

 薄暗く、排泄物の匂いが漂っている。

 目を凝らすと、檻に入れられた女性たちがいた。

 風俗街に売られた奴隷たちだろう。


「そっちじゃない。こっちだ」


 再び男の声が。

 今度は下から聞こえた。


 足元を見ると小さめの金属の檻があった。

 そこから手が伸びて、パタパタと振っている。


「な、なんのようですか?」

「頼む! こっから出してくれ」


 檻の中にいたのは金髪の男。

 外見と訛りからして西ユーバーの人のようだ。

 小さな檻に無理矢理入れられており、身体はかなり縮こまっている。

 が、それでも体格がいいことがわかる。


「おい、あんた魔術師だろ? この封印解いてくれよ~」

「その前に、これはどういう状況ですか?」

「見たまんまだよ。これから奴隷に売られちまうんだ」

「それはわかってるんですが……」

「あ、でも拷問ショーか処刑クラブに送られるんだっけ? そうなると俺は奴隷じゃないのか。じゃあ俺はなんなんだ?」


 何やらブツブツと独り言を言っている。

 変な人だ。


「まあとにかく、ほらここ。ここを見て欲しいのよ」


 檻に付いている円盤を指さす。

 魔法陣が描いてあった。


「あんた、これ解ける?」


 どうやら魔術を利用したパズルになっているようだ。

 解読に時間はかかるが、パズル自体は簡単に解けそうだ。


「多分、解けます……」

「良かった。これが鍵になっててさ。それじゃあ、早く出してくれ」


 え、いや、そう言われても。


「分かった! 報酬が欲しいんだろう! 金は持ってないがパワーだけは自慢でね――」

「ちょっと待ってください!」

「お、どうした? 誰か来たか?」

「違います。何故僕があなたを助ける前提で話を進めるんですか」

「うん、そりゃあ、可哀想な奴隷がいたら助けてあげそうな雰囲気があったし、魔術師だし?」


 それは、そうかもしれないな。

 否定できない。


「でも、あなたを助ける義理はないでしょう。もしかしたらあなたは危険な人かもしれない」

「たしかに、こんな格好だしな」


 ただでさえ丈夫な金属の檻が魔術によってコーティングされている。

 よっぽどの危険人物に違いない。


「そういうわけで、失礼します」

「ああ! 待ってよ~!」


 グウゥゥゥ……


「あらやだ。恥ずかしっ」


 男の腹の音だ。

 かなりデカかった。


「そうだな……とりあえず、なんか食い物持ってない?」



-----



「ん~! やっぱあそこの店の揚げ餅は最高だな、間違いねえ!」


 彼の名はカルコ。

 自称百年に一人の天才ビジネスマン。


 協力者である友人に奴隷として売られ、自力で脱出し、友人と報酬を山分けするという何とも狡いやり方で大金を稼いでいたそう。

 しかし、それを繰り返していくうちに業界の要注意人物になってしまった。

 その結果奴隷商人と金に目がくらんだ友人にハメられてしまい、今に至るのだという。


「で、どうよ。経緯は話したし、出してくれる気になった?」

「今の話を聞いて出そうとする人は、この世に一人もいないですよ」

「まあ、そうだよな」


 ヘラヘラと笑うカルコ。

 あと数日で殺されてしまうというのに呑気な人だ。


「やっぱ悪いことはするものじゃないねぇ。これが因果は巡るというやつなのかな」

「もう諦めちゃったんですか?」

「いや、諦めていないね。死ぬその瞬間まで抗い続けるよ、俺は」


 揚げ餅の包みを綺麗にたたんで俺の目の前においた。

 手を合わせお辞儀をする。

 確かこの国の挨拶・お礼の仕草だ。


「で、君は何が欲しい?」

「結局僕だよりなんですね……」

「他人に頼るのは悪いことじゃないだろ? これもエニシ!ってやつだな」


 まあそうだけどさ。


 しかし、なんだかんだ言って悪い人ではないと思い始めている自分がいる。

 話ぶりっていうか、雰囲気?

 善人とは言えないものの、やったことだってそこまで悪いことじゃない。

 あの奴隷商人たちに一杯食わせてやったのだから、むしろ大した人だ。

 

「貴方は、何ができるんですか?」

「あら、いいのぉ? そんなこと言ってぇ。」


 協力の意志を示すと、途端に俺の正気を疑ってくる。

 なんだこの男は。


「俺、詐欺師だよ。今まで多くの人を騙して来たんだ。次の標的は君かもしれない」


 ニタニタと笑うカルコ。

 ムカつく顔だ。


「いいですよ、別に。もしそうなったら、私は貴方を一生見下すでしょうけどね」

「……あんたやっぱり、お人好しだね」


 それは、自覚している。


「ダメだよぉ、そんなに他人を信用しちゃあ。ろくな人生送れないよ」

「人生の良し悪しは私が決めます」

「ふん。まあでも、それで救われる人もいるだろう」


 カルコはそう言うと、指をパチンと鳴らした。


「じゃあこうしよう。俺が褒美を先にやる。その後出してもらう。これでどうだ」

「いいでしょう」

「良し。しかしそうなると今俺があげられるものか」

「何かありますか?」

「蓋の固い瓶を開けるとか、殻砕くとかは? あと、まあケツぐらいは貸してやるけど」

「そっちの趣味はないです」


 ろくなものがないな。

 この状況だし、しょうがないか。


 いや、あれはいけるか?


「あの、この国の魔術について何か知っていますか?」


 確かこの国に長いこと住んでいるはずだ。

 何か少しでもヒントがあればいいのだが。


「魔術か。悪いな詳しくないんだ」

「そうですか」

「だが力になれるかもしれない」


 ニヤリと笑った。


「ミョウジン……」

「え?」

「ミョウジンというキノコを探せ。そうすればこの国の魔術に近づける」


 カルコはそのまま話を続けた。


「この国の魔術と薬学は密接に繋がっている。現に術師はみな『薬壺』というものを持っていて、そこに虫や植物なんかを入れて薬を作っている。そのとき、最も重要なのはレシピじゃねえ。壺に住む菌だ。そしてその菌を育ててくれるのがキノコであり、その最高級のものがミョウジン。術師なら誰もが欲しがる一級品だ」


 それを持って彼らと交渉すれば、何か教えてくれるかもしれない。

 そう言いたいのだろう。


 彼の話が本当かどうか。

 それはわからないが、今は信じるしかない。

 行動を起こすしかない。

 とにかく、お嬢様のために何かしてやりたいのだ。

 そして俺の好奇心のためにも。

 

「んで、俺はそれがどこで採れるのか知っている。あんたになら教えてやってもいい」

「教えてくれ」

「じゃあ取引成立だな」


 カルコは右手を檻から出してきた。

 俺はその手をがっしりと掴んだ。


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