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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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047 願いはきっと


「貴方に頼みがあるの」


 ライサンドらと買い物に行った夜。

 俺はお嬢様に呼び出された。


「頼み、ですか?」


 案内された部屋にはシーリンさんを含めた3人しかおらず、鍵をかけられ密室になっている。

 中央には四本の棒が経っており、その他には机と奇妙な台しかない。

 普通の部屋ではないな。

 まあ、どういう部屋か大体予想はついているが。


「貴方には、このシュンメイの魔術を調査して欲しいの」

「魔術……、しかし――」

「わかっているわ。ここでは魔術は忌避されている。そう言いたいのよね。だからこそ、貴方に頼んでいるの」


 んん?

 なるほど?


「この部屋、いったいどういう用途で使われているかわかる?」

「念話ですか?」

「そう、ここは念話室。動力源は魔術。そして王直属の魔術師もいる。結局忌避しながらも魔術を使っているのよ」


 魔術は恐ろしいもの。

 だけど、無視できるものではない。

 そういうことだろう。


「ここからが本題なのだけれど、私はこの国の魔術に興味があるの」

「それで私に調査をして欲しいと」

「その通りよ。本当は高名な魔術師に教えてもらいたかったけど、国としては魔術師はいないってことになっているから無理だった。私は自由に動けないし、シーリンは魔術がわからない。だから貴方が適任だと思ったの。どう?この依頼引き受けてみない?」


 逆に言えば、俺自身もこの国の魔術を勉強できるということ。

 となれば断る理由はない。


「わかりました。このゼオライトにお任せください」

「いい返事ね」


 お嬢様は微笑んだ。


「そうだ。もう一つ頼まれてくれない?」

「なんでしょうか?」

「人を雇って欲しい」


 人を、雇う?


「貴方たちの実力を疑うわけじゃないけど、この先護衛が3人だけというのは少し心もとないわ。だから私はシュンメイに護衛の増援をお願いしたけど、断られちゃった」

「なぜ?」

「これはあくまでもティロニアンとクリストロフの問題。そう言いたいのでしょう」


 余計なことに手は出したくないよな。

 クリストロフの件を見て、余計に慎重になっているだろうし。


「だから、強そうな人を雇って欲しい。出来るだけ誠実で、地理にも詳しい人。まあこれは難しそうだったら無理に探さなくていいわ」

「努力はします」

「お願いね。……さて時間ね」


 お嬢様は台の方へ向かった。


「ちょっと早いけど、報酬を用意したの」


 台の上で何かを動かした。

 すると壁に描かれた巨大な魔法陣が光り、薄暗かった部屋が明るくなった。


「念話室を使うところ、見せようと思って」

「いいんですか!?」

「ええ、今はこれぐらいしか用意できないから――」

「これで十分ですよぉ! こんなの滅多に見れるものじゃない!」

「そ、そんなに喜んでもらえるのなら、良かったわ」


 壁に描いているこれは、防音と盗聴の防止か。

 外部から一切干渉出来ないようになっている。

 んで、中央のこの柱は……水晶か?

 中に黒い点が見える。

 なるほど、これは魔法陣を何層にも重ねているのか。

 百層は優に超えている。

 これで通信を行っているのかな?


「少し離れてくださる?」


 気づけばお嬢様が傍に来ていた。


「今から念話をするわ」

「こんな時間からですか?」

「ええ。この時間はお父様が暇だから」


 そうか。

 今クリストロフは朝になるのか。


 ていうか、お父様!?

 お父様って、ジオ王子だよな。

 そんな方との会話を聞いていいのか?


「ではシーリン。始めてちょうだい」

「はい」


 シーリンさんが台で何かを動かした。

 その瞬間、水晶の棒が光る。


「これは……」


 部屋の中が魔力で満たされる。

 同時に自分の身体の輪郭が曖昧になるような感覚がした。

 そして、繋がった。

 

 何がどうやって繋がったのかは、わからない。

 しかし、確実にその声ははっきりと聞こえた。

 

「こちら、クリストロフ。そちらの名前と話したい相手を伝えよ」


 正面の壁あたりだろうか。

 そこから男性の声がした。


「こちらは23号よ。ジオ王子に繋いで欲しい」

「23!? わ、わかりました。しばらくお待ちを」


 ドタドタと走り去っていく音が聞こえる。

 まるですぐそばに人がいるようだ。


 なるほど。

 この念話室というのはてっきり遠くの人と『念話』ができるためだけのものだと思っていたが、それは誤った認識だったようだ。

 実際はお互いの部屋で出た音をそのままこっちに送っているんだ。


 おそらく最初は本当に念話しか出来なかったのだろう。

 だがそれだと色々と不都合が出たはずだ。

 会話の内容をまとめる人も必要だし、複数人で話したいこともあるだろう。

 その結果、部屋全体の音を送るシステムに改良された。

 こうなるともはや念話室という名前はおかしい気がする。

 まあでも、昔の名前をそのまま使うことは多々あるか。


「リオ! リオなのか!?」


 そんなことを考えていると爽やかな声がした。


「お父様!」


 お嬢様が笑った。

 今まで俺たちに見せてきたような、微笑ではない。

 目を見開き、瞳は輝いているようだった。


 流石父親だな。


「リオか。ああそうか、無事だったんだな……」

「心配をおかけしました」

「いや、いいんだ。とにかくお前の声が聞けて、はぁ、良かった。ふぅ……」

「お父様。息が上がっておられますよ」

「そうだな。尾の谷で賊に襲われ、キヴォルクではヌシが現れたと聞いて、居ても立っても居られなくてな」

「ご連絡が遅くなり申し訳ございません」

「ははっ。どうせ申請に時間がかかったのだろう。シュンメイはいつもそうだ」


 そこからは他愛ないが続いた。

 ご飯のこととか、買った服のこととか、読んだ本のこととか。

 そして深刻な話もちょっとだけ。


 お嬢様は終始嬉しそうだった。

 王宮の事情は知らないが、こんなにも長い間父親と離れていたのは初めてだろう。

 そしてもう二度と会えない。

 こうやって話ができるのも、後3回ほど。

 だからこそ、今この瞬間を精一杯楽しんでいるのだろう。


「ああそうだ。これは伝えておかなければならないな」

「なんでしょうか?」

「レオに息子が産まれたんだ」

「お兄様に!?」

「うん。もう二十日ほど前だがな」

「そうですか……それは良かったです。お兄様とお義姉様を祝福していると伝えてください」

「うん……。だから、気にしなくもいいぞ」


 王子の声が真剣になる。


「え?」

「こっちのことは気にしなくてもいい。お前はお前で、しっかりと生きるんだ」

「……」

「わかったな?」

「はい……」


 その後は沈黙が続いた。

 お嬢様は俯いており、その表情を伺うことはできなかった。

 しかし肩は震えており、拳はグッと握られていた。



-----



 翌日、俺は手紙を書くことにした。

 宛先は師匠と姉さん。

 ばあちゃんは……きっと俺からの手紙だと知ったら読まずに焼き捨てるだろうから、いいか。


 なぜ急に手紙を書きたくなったのかというと、昨日のことがあったからだ。

 王子が娘を心配するように、俺のことを心配してくれている人もいる。

 その人たちにちゃんと近況報告をしておかないと。


 残念ながら手紙に具体的なことを書くことはできない。

 機密情報があるからね。

 でも、しっかりと自分の意志を綴った。

 どうしても守りたい人ができたから、しばらくはそれに集中する、ってね。


 姉さんが読んだら嫉妬するだろうか?

 まあ、嫉妬してもらうだけありがたいか。


 都から出て、指輪の笛を吹く。


「どうも!ハーピー郵便です!」

「これをお願いするよ。セイエナ大陸のエルフの村、レティシアって人に届けてくれ」

「んー、エルフのところか~。ちょっと時間かかりそうだけど、大丈夫だよ」


 時間がかかるといっても、他の郵送方法よりは早いだろう。


「そうだ。ここから西の諸国の様子はどうなんですか?」

「西? 相変わらず紛争が続いているね。あと最近ムーガンが封鎖されたよ」

「ムーガンが封鎖だと」

「うん。よく分からないけど海路は遮断されてるし、見えない壁の所為で私たちも入れないの」


 学術都市であり、シュヴァルサ魔術学院を保有するムーガン。

 確か目的地の一つだったはずだ。

 これは困ったことになる。


 というか、お嬢様はこのことを知っているのだろうか。


「その最近というのは、いつ?」

「私が聞いたのは3日前。だから10日以内だと思うけど」


 おそらく情報伝達能力において、彼女たちはこの世界で最速。

 シュンメイでこのことを知っている人物はまだ少ないかもしれない。


「ありがとうございます。じゃあお願いします」


 笑顔で飛び立つハーピィ。

 俺はそれを見送った。


 そのまま帰らずに都から離れていく。

 そして草木の茂っているところに着いた。

 振り返ると、刃物を持った男たちがいた。


「何者だ」


 王宮から出た辺りからずっとついてきていた。

 ぶらぶら歩いていれば興味を無くしてくれるかと思っていたのだが。

 ここらで追っ払っておかないと。

 

「俺に何の用だ」


 向こうも何かを訴えかけているが、早口すぎてなんて言っているのかわからない。

 ただ少なくともこちらに敵意はあるようだ。


「よしてくれよ~……」


 男たちが刃物を振りかざしながら走り出す。

 その瞬間、彼らの足元が吹き飛んだ。


 こんなこともあろうかと、すでに足元に爆弾をしかけておいたのだ。

 草が茂っていたせいで分からなかったのだろう。

 それにしても新魔術の威力は抜群だな。

 全員ノックアウトか。


 そう思ったとき、一人の男が立ち上がった。

 手には杖が。

 こちらに向けて魔術を撃とうとしているのか。


 冷静に魔法陣を展開する。

 しかし相手の様子がおかしい。

 杖の先端をこちらに向けたまま動かない。

 びびっているのか。

 それとも何か伝えたいことがあるのか。

 

 辺りを警戒する。

 他に人はいない。

 魔法陣を展開しながらゆっくりと近づく。

 剣の間合いに入っても男は全く動かなかった。

 流石におかしい。


 男の様子を観察していると、杖に視線がいった。


「ん?」


 俺はその杖に見覚えがあった。

 何を隠そう、昨日捨てた杖だったのだ。


「な、なんでここに!」


 杖の先端が光る。


 しまった。

 

 反撃しなければ。

 そう思い、剣を召喚した時だった。


 相手の腕が燃え出したのだ。


 叫ぶ男。

 杖から手を離し、彼は走り去っていった。


「今のは……」


 自身の足元に落ちた例の杖。

 いったいこれは、なんなのだ?


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