044 武の国
シュンメイに入国した。
シュンメイは『ティロニアン』『オステル』『クリストロフ』に並ぶ四大列強の1つであり、その中でも最も古い歴史を持つ国であると知られている。
ユーバーランドの東側を支配し47の属国を持つ、正真正銘の大国である。
そしてこのシュンメイ、『武の国』とも呼ばれている。
世界最強と謳われるティロニアン。
荒野の土地を実力で制したオステル。
セイエナ大戦の主戦場でありながら一度も滅びることのなかったクリストロフ。
これらを差し置いて何故シュンメイが武の国なのか。
それは八大武術の内、『兵士乃沢』『地動』『天道』がシュンメイ発祥の地であるからだ。
特に地動は、
「一流なるもの、一度はシュンメイに赴き、地動を学ぶ」
と言われているほど戦士にとって重要な武術であり、名のある武人であれば全員が使うそう。
それに加え、武術を学びやすいというのもあるだろう。
シュンメイには武の聖地『シバナーシュ』がある。
他の聖地のトーラバルトやアレスマルスは選ばれた実力者のみが入門できるのに対して、シバナーシュは誰でも入門できるのだ。
だから単純に武道経験者が多い。
そこら辺に地動習得者がいる。
他国の騎士が料理人のおばさんに喧嘩を売ったら、返り討ちにあったという有名な話もある。
またこの国では、武術は生活の一部になっている。
ここシュンメイは他の地域に比べて平均寿命が長い。
それは武術を健康目的で習っている人が多いからだと言われている。
なんとも不思議な話である。
「強さ」ではなく「健康」の為にも武術があるとは。
こんなことは他の国では一切ない。
武術が日常に溶け込んでいる。
まさに『武の国』と言えるだろう。
そういうわけで、イヴやライサンドはウキウキしている。
本場で学ぶのはやはり憧れなのだろう。
一方で魔術は盛んではない。
というか忌避されている。
魔術は神から与えられるものだと考えられているからだ。
じゃあいいものじゃないか、と思うがそうではない。
彼らの価値観からすると神と悪魔は近いものだそうだ。
神は悪魔にもなれるし、悪魔が神になることもある。
早い話、魔術を使うのは悪魔の手先かもしれないぞ、ということだ。
正直よくわからない。
まあ文化の違いというやつだろう。
シュンメイは『天』を信仰しない珍しい国だし。
他にも料理が美味いとか、雷の古竜がいるとか色んな話があるが、それは都についてから。
20日ほど滞在できるらしいし、時間があれば異文化に触れるとしよう。
がその前に、俺にはやることがある。
「今日もお願いします」
「はい。では始めまししょうか」
都に着くまではまだまだ時間がある。
それまでにシュンメイの言葉を覚えようと思っている。
シュンメイとその周辺の地域は独自の言語を持っており、俺たちが日常的に使っているそれとは全く違う文法構造や文字を使っているのだ。
シーリンさんの祖先は東ユーバー出身であり、お嬢様の通訳もしているのでペラペラ。
せっかくの機会なので学んでおこうと思い、お願いしたのだ。
「しかし、本当に独特な言い回しが多いですね。覚えるのが大変です」
「文化が違いますからね。シュンメイは『義』を重んじる国です。ですから目上の人に対しては失礼のないようにしなくてはなりません」
単に「お願い」をする言葉であっても、日常で使ってもいいものと、高い位の方に使うと一発アウトのものが同じだったりして、非常にややこしいのだ。
「一ついいことを教えましょう。もし貴方が不義で捕まってしまったら、相手を論破すれば良いのです」
論破?
余計に怒りそうな気がするけど。
「『義』とは、単に上下関係を指すものではありません。道理も重視されます。貴方が理にかなった反論をすれば、見逃してもらえるかもしれません」
「そんなこと、本当にあるんですか?」
「ありますよ。現にこの国では王が自ら自分を叱ってくれる人を雇うのですから」
ええ。
そんなこと他の国ではありえない。
「王の政策にケチをつけたり、時には王よりも冷酷な提案もすることもあります。過去には王に殴りかかった者もいましたね」
「それでも許されるんですか?」
「勿論です。それが仕事ですから」
面白い国だなあ。
捕まらないことが一番だが、いざという時に備えておこう。
そのためにはもっと勉強をしなければ。
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ついに都にやってきた。
かなりの距離を移動してきたが、道が舗装されていることもあり、思ったよりも日数はかかっていない。
ほとんどが馬車での移動だったし、宿にもちゃんと泊まれた。
快適だったね。
入国審査はすんなりと通過し、そのまま市街地を通り抜ける。
街は綺麗に区画分けされており、建物も角張ったものが多い。
全体的に四角いな。
馬車は王城の横に止まった。
髭を生やしたおじさんが出迎えた。
「ようこそ、我らが王朝へ」
ぺこりとお辞儀をする。
そして頭を上げると綺麗な女の人たちがやってきた。
「お荷物をお預かりします。お部屋まで運んでおきますから、どうぞお気兼ねなく。ではお客様はこちらに…」
そう言って案内されたのは、大きな部屋。
壁には大きな絵が描いてあり、天井には派手な照明が。
他にも武器が置いてあったり、変な仕切が置いてあったりと装飾が凝っている。
「こちらにおかけください」
言われるままに中央の円卓に座る。
するとお茶が出された。
多分、まだ飲んじゃダメだよな?
「皆様、長旅でお疲れでしょう。それにせっかくシュンメイに訪れたのですから、是非とも我が国の美食を堪能してもらおうと思い、お食事を用意させていただきました」
正直、滅茶苦茶腹が減っている。
というか、もういい匂いがこっちまで漂ってきている。
よだれも出てきた。
「これはこれは。急な訪問にもかかわらず、貴国の料理もいただくことができるなんて。このような歓迎、感謝します」
「いえいえ。今回の件はクリストロフにとって重大な任だと知らされております。同胞としてできる限りの助力をしたまででございます」
「その友情、熱く受け取っておきます」
シーリンさんとおじさんが話している。
2人ともにこやかにしているが、どこか目が笑っていない気がするのは気のせいではないだろう。
クリストロフとシュンメイは比較的仲の良い国。
そう、比較的にはね。
基本的に大国同士というのは仲が悪い。
だがこの両国は大戦時にお互いを助け合ったことから、『表向き』は友好的にしている。
実際は貿易でも軍事でもバチバチだ。
「では、ありがたくいただきましょう」
そういうとシーリンさんとお嬢様はお茶を手に取った。
俺たちもそれに続く。
こうして食事が始まった。
食べ方とかは見様見真似だが、失礼のないように気を付けた。
こっちの2人は全く気にしていないようだが。
料理はというと、滅茶苦茶美味かった。
流石美食を名乗るだけのことはある。
まあ、そもそもこんな高級料理を食べたことないのだが。
といっても、市街地でも高級料理と遜色ないレベルの物が食べられるらしいので、やはり美食の国なのだろう。
特に美味かったのが、パリパリした揚げ物だ。
あれで一食はいけるね。
他にも甲殻類を辛く仕上げたのとか、白い饅頭も美味かった。
雰囲気づくりも良い。
どこからともなく音楽は聞こえてきたし、料理の説明は丁寧にしてくれた。
まるで自分が偉い人になったかのような待遇。
正直、気持ちがいい。
ま、ここに来るまで大変だったし、これぐらいはご褒美として受け取っておこう。
食事が終わると部屋に案内された。
家具はやたらとデカいベッドと机が置かれてある。
なんかいい匂いもするな。
一人一部屋あるし、のんびりと出来そうだ。
ベッドに横たわると、急に睡魔が襲う。
飯もいっぱい食べたしなあ。
まだ昼過ぎだけど今日はもう何もないし、このまま寝るかぁ。
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「おい!起きろぉ!」
翌日、俺はイヴに叩き起こされた。
「…まだ朝じゃん。もうちょっと寝させてくれ」
「なに言ってんだ。半日以上ぐっすり寝てただろ」
だいたいなんで勝手に部屋に入って来てるんだよ。
「いいから起きろよ~」
顔を見る限り、なにか緊急のことが起きたわけではなさそう。
お嬢様と違って俺たちはなにも用事はないんだし、ゆっくりさせてくれ。
「お~い!聞こえてんのか?」
「ああもう。なんの用だよ。ぼかぁ疲れてんだよ」
「それがよお!お嬢様があたしたちに武道の先生を紹介してくれたんだ!」
そういやそんな話をしていたような?
だけど俺に関係ないこと。
「良かったじゃねえか。頑張ってこいよ」
「お前も行くんだよ!」
布団をはがされる。
「へっ。なんだ、もう元気そうじゃないか」
「どこをどう見てそう判断したんだ」
ま、実際のところ、昨日の食事といいベッドでぐっすり寝たお陰で体力は十分に回復出来てる。
それにこいつは俺が動くまで叫び続けるだろう。
行きゃあいいんでしょ、行きゃあ。
着崩れた服を直しながら、立ち上がる。
「で、誰に会いに行くって?」




