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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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041 受け継がれるもの


 俺たちが大使様の元に駆け付けた時、そこには3人しかいなかった。

 大使様と侍女。

 そして1人の騎士。


「おお。無事であったか」


 俺の顔を見て微笑む騎士。

 俺は絶句した。


「ああ、この身体か…。こうなってはもうどうしようもないだろう」


 彼には、下半身がなかった。

 胸の辺りから腹にかけて凍っており、出血も一切していない。

 古竜のブレスをまともにくらってしまったのだろう。


 しばらく何も言えずに突っ立っていると、侍女が俺に声をかけた。


「初めに貴方を助けようと言われたのは、この方なんですよ」

「おい。それは言わないでくれと…グホッ」


 言葉を発しようとした瞬間、咳き込み吐血した。

 大使様は彼の傍にしゃがんで、その様子をじっと見ていた。


「そんな顔するんじゃない。確かに私が言い出したことではあるが、お前を恨んでなんかいないぞ。他の兵士たちも同じ気持ちだろう」


 騎士はそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。


 俺は何も言うことが出来なかった。

 彼に対して何か言わなければならない言葉があるはずなのに。

 でも、それが出てこなかった。

 

 喉が詰まる。

 それでもなんとか、その言葉を口に出そうとした時だった。


「何も言うな!」


 騎士が叫んだ。

 目を見開き、歯を食いしばっている。


「その言葉は、絶対に言うな」


 必死の制止だった。

 今まさに死にゆく人だとは思えないほどの気迫を感じた。


 彼は一度天を向き、呼吸を整えた後、俺たちを見てこう言った。


「頼みがある。大使様を必ず、ティロニアンまで送り届けてやってくれ。私が無能だった故か、あるいは運が悪かったのか。公爵殿と仲間は死んだのだ。大使様とシーリン嬢を支えられるのはもう君たちしかいないのだ。どうか私の…、いや、我々クリストロフの民の想いを分かって欲しい。我々は、クリストロフを愛しているのだ。そしてこれが我々の故郷を守るための…重要な、任務なのだ」


 彼は兵士の中でもリーダー的な存在だった。

 洞窟での襲撃の時も、皆に指示を出し、常に大使様の近くで戦っていた。

 そして古竜に襲われた際にも、彼の傍に落ちている盾で大使様を守っていたのだろう。

 立派な男だ。

 それに俺よりも強いはず。

 このような事態にならなければ、きっと大使様をティロニアンにまで導いたはずだ。


 俺は騎士の傍にしゃがんだ。

 隣にイヴも、ライサンドも来た。


「わかりました」


 イヴがそう言った。

 俺とライサンドは強く頷いた。


「うむ。ありがとう」


 そう言った後、再び吐血した。

 もう限界か。


 すると大使様が自身の手袋を取った。


「あっ、それは――」


 侍女が止めようとしたが、大使様は騎士の手を握り、顔を近づけた。

 握った手から優しい光が漏れ出し、騎士を包み込んだ。


「た、大使様!おやめください!」


 騎士が叫ぶ。

 あれはおそらく『火の施し』。

 身体を温める魔術。

 大使様はそれを使っているのだろう。

 せめて苦しまずに死ねるように。


「私だけこのようなことを…。これでは死んだ仲間に申し訳が立ちません!」


 騎士が制止しようとするが大使様はそれを無視し、手を強く握った。

 その瞬間、騎士の顔色が変わった。


「ああこれは!…そうか、そうだったのですね」


 先ほどまでの悲しみと苦しみが混じったような表情から、柔らかい表情になっていった。

 

「天にいる皆にも、伝えます。きっと喜ぶでしょう」


 全身から力が抜けていくのがわかる。

 痛みを我慢する様子もない。

 とても幸せそうな表情をしている。


 騎士は空いている方の手を胸に乗せた。


「ああ。愛しのクリストロフに、栄光、あれ…」


 これが騎士の最後の言葉だった。



-----



「俺さあ、ああいうの弱いんだよね」


 宿の中で干し肉を齧っていると、ライサンドがポツリと言った。


「俺らってさぁ、言ってしまえば傭兵みたいなものじゃん。だから金を貰えばそれでいいわけで、忠義とかそういうものはないはずなんだよ」

「そうだな」

「だけど、ああいうこと言われるとなあ~」


 わかるよ、その気持ち。

 最初は単なる金目当てだったけど、今はそうじゃない。

 俺たちが大使様を守らなくてはならない。

 そういう気持ちになっている。


 もちろんそれは護衛する人数が減り、緊張感が増したのもあるのだが、やはりあの騎士の影響も大きいだろう。

 彼らが命を懸けてまで守ろうとしたものは大使様ではなく、国だったのだ。

 つまり俺たちは国を背負っていることになる。

 これはあまりにも重い。


 とはいえ、俺自身に迷いはない。

 目的は変わっていないからだ。

 結局大使様を王都まで送り届けなければ金ももらえないし、国を救うことも出来ない。

 ならば俺は任務を遂行するのみ。


「というか、大使様を見捨てるっていったら、あの騎士に申し訳が立ちませんよ」


 だって、彼は俺の為に死んだのも同義だろ?


「ゼオ。なんかお前、いい顔になってきたじゃないか」


 そう?


「なあイヴちゃん」

「そうかぁ?こいつは元々こんな顔だろ」

「いやそうじゃなくて、こう、オーラっていうの?なんか腹を決めた戦士みたいな感じ」


 彼の言っていることはわからない。

 しかし、今俺の気持ちは真っ直ぐだ。

 必ずこの任務を成し遂げる。


「そういうあなたはどうなんですか?まさかここで諦めるなんて言わないですよね」


 ちょっと挑発的に聞いてみる。

 ライサンドの眉がピクッと動いた。


「言ってくれるじゃねえか、ええ?あの男の意志を受け継げない様じゃ、戦士とは言えないだろ」

「そうですよね。で、イヴは?」


 イヴはため息をついた。

 そして面倒くさそうにこう言った。


「それ、わざわざ言わないといけないのか?」

「聞かせてください」

「はぁ…」


 イヴは瓶を手に取った。

 さっき宿主に貰った酒だ。

 

「一本だけなら、いいだろ?」


 そう言いながら杯に注いでいく。

 そして俺に渡してくる。

 次はライサンドに。

 最後は自分で持った。


「大使様を命をかけて守ると、この場で誓おう」


 腕を伸ばし、杯を天に突きあげた。

 俺も続いてそうした。


天に誓って(デュオレス)!」


 勢いよく酒を飲んだ。

 苦みが口の中に溢れ、喉にじんわりと快感が残る。

 次第に腹の中が熱くなる。

 その熱は胸に広がり、首を伝い、顔にまでやって来た。


「っかぁ~!」


 自然に声が出た。

 イヴやばあちゃんのような酒飲みの声だ。


「へっ。お前もいい飲みっぷりになったじゃないか」


 こんなに美味い酒は初めてだ。

 生を実感しているからだろうか。

 決意を胸にしたからだろうか。

 仲間がいるからだろうか。

 あるいは、後悔や責任感からの現実逃避だろうか。

 理由はわからないがとにかく美味く感じたのだ。



-----



「そろそろよぉ、お前たちの話も聞きたいぜ」


 酒を飲みながら大使様や侍女、そして今後のことを話していると、ライサンドがそう言った。


「どういう意味です?」

「うーん…、過去の話というか、意志というかそういうものを聞きたいんだよ。全員わざわざ故郷を離れて冒険者ギルドに入ったわけだろ。それには何か理由があるんじゃないのか?」


 酔っているのか、やけに熱くなっている。


「なあ~、聞かせてくれよ~」

「まあ別にいいですけど」

「いい機会だしな。お互いのことを知るのも悪くないだろう」


 これからこの3人で大使様を守っていくわけだし、結束力を強めるためにはそういう話も必要か。


 となると、俺の過去の話もしなきゃいけないな。

 まあこの2人なら、大丈夫だろう。


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