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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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037 尾の谷


 ガシャンという音。

 そして「ぐあ!」という声。


 なんだ?


 目が覚め身体を起こすと、目の前に手から出血して座り込んでいる男。

 ふと目線を下に向けると、ナイフが転がっていた。


「え?」


 慌てて自分の首に触れる。

 寝る前に仕込んで置いた魔力トラバサミが既に起動していた。

 胸元には血が飛び散っており、お腹には指が転がっていた。

 もう一度男の手を見る。

 人差し指がなかった。


「お前、なにして…」

「はああ!」


 男はナイフを手に取り、襲い掛かって来る。

 俺は魔法壁でガードし、魔術剣でナイフを持っている手を突いた。

 男がのけぞって倒れる。

 俺も無理な体勢で反撃したことで、寝ている人の上にドシンと乗ってしまった。


 だが、反応はなかった。

 顔を見ると、口から血を吹き出し死んでいた。

 

「敵襲だああ!」


 目の前にいるこの男。

 確かギルドにいた奴だ。

 まさか大使様を狙っているのか?


「ここに敵がいるぞ!」


 急いで寝袋から抜け出そうとするが、ジッパータグが見つからない。

 男はよろめきながらも立ち上がり、再び襲い掛かろうとしている。

 その手には剣が。


「誰か!助けてくれ!」


 さっきから何度も叫んでいるが、誰も反応してくれない。

 火が焚いている方にイヴの姿が見えた。


「イヴゥ!ここに裏切り者がいるぞ!」


 ダメだ。

 これだけ叫んでも誰も反応していないということは、こいつ『雪暗(ゆきぐれ)』を使っているな。


「やああ!!」

 

 男が振り落としてくる剣撃に脚をぶつける。

 僅かであるが、寝袋に穴が開いた。

 そこから手を突っ込み、なんとかして片脚を出した。

 これで立てる。


「そい!」


 男の剣筋に剣を交わらせ、攻撃をいなす。

 即座に反撃すると、男はあっさりと倒れた。


 俺はナイフを手に取ると、寝袋を切り裂いて脱ぎ捨てた。

 

「おい!イヴ!」

 

 まだ反応はない。

 ということはこいつ以外に雪暗を使っている奴がいるってわけだ。

 確かにこいつにこのレベルの雪暗を使えるような実力はないだろうな。

 周囲を見回すが起きている人は見えない。

 だが術者は間違いなく近くにいる。


 石を手に取り、イヴに向かって投げる。

 石はイヴの背中の装甲に当たった。

 流石に気付いたのか、こちらを向いてきた。


 ハンドサインでこっちに来いとすると、剣を構え、猛ダッシュしてきた。

 狙っているのは、俺!?


「いや、ちょっと待って…」


 違う、後ろか!

 急いで振り返る。

 俺の背後には、剣を振りかざしたライサンドがいた。


 ダメだ。

 この距離ではかわせない。

 ガードも間に合わない。

 俺は身体をすくめた。



 ズガギンッと、鉄と鉄がぶつかった鈍い音がした。

 目の前にイヴの大剣とライサンドの双剣、そして鋭く尖った短剣が交わっていた。


「おいおい、まさかあんたが裏切るなんてな」

「チッ、余計なことをしやがって」


 俺の後ろに誰かがいる。

 そいつが襲い掛かって来ていたのか。

 疑ってごめんライサンド。

 

「何の理由があってか知らんが、ダチを殺そうとした奴を許すわけにはいかないよなぁ、イヴちゃん!」

「ああ、全くだ」


 イヴが左に倒れろとアイコンタクトをしてきた。

 でも今下手に動いたら首が…。

 いや、俺はイヴを信じる!

 ええいままよ!

 

 左脚に体重をかけ、身体が少し傾いた瞬間、頭上で剣と剣のぶつかり合いが始まった。

 急いで転がり、距離を取る。

 

「ひいいぃ!」


 思わず情けない声が出る。

 今髪の毛かすったぞ。

 

 体勢を取り直して敵の顔を見る。

 ってあいつ、第七星の奴じゃないか!

 とにかく俺も戦わなければ…。

 

「ぐふっ!」


 突如訪れる激痛。

 これは、背中か。


 振り返ると背中に槍が刺さっていた。

 そしてその槍を握るギルドの男。

 腹から血が出ている。

 おそらくもう死んでいる。


 槍を抜き、洞窟の中を眺める。

 寝ている間に喉を切られ死んだ人。

 身体中から血を吹き出しながら闘う兵士。

 槍に貫かれ苦しむギルドのメンバー。


 地獄だった。


 裏切り者は数人じゃねえ。

 もっとたくさんいたんだ。


「ちっ!」


 どっちがどっちかわからないが、俺にやれることは一つ。

 イヴたちと協力して、この第七星を倒すことだ。


 剣を構えて後ろから斬りかかる。

 だが奴は素早く振り返ると、俺の顔面を思いっきり殴った。

 頭がくらくらして、体勢が崩れる。

 鼻血も出てきた。


「ゼオ!お前は大使様を守れ!」

「ああ、ここは2人に任せてくれよな」


 役に立たなくてすまん。

 3対1なら行けると思ったのだが、流石に実力差があったか。

 ならよし!


 急いで王国兵と争っている奴を斬り付けた。

 よくわからんが、大使様の方に襲い掛かろうとしている奴が悪者だろ。

 群れているが、個人個人のレベルはこの前の山賊と変わんねえなぁ!

 これなら…て、待てよ。

 敵の数増えてないか?


「カーリー公爵!賊どももやって来ました!」


 げ、あん時ぶちのめしたはずなのに、一体どっからわいてきたんだ。

 これはきりがないぞ。

 

「おい!こっちに来い!」


 腕を引っ張られ後ろに倒れる。

 いきなりなんなのぉ?

 と思ったら目の前に大使様が。


「・・・」


 仮面の奥の目が見えた気がする。

 暗くてよく見えないはずなのに、そんな気がした。


「・・・」


 あれ、これ見下されてね?

 大使様はスッと俺と距離を取った。

 

「おら!いつまで寝転がっている!」


 兵士に蹴られた。

 急いで立ち上がる。


「お前は大使様の後ろに付け!今からここを突破するぞ」


 槍と盾持った兵士が隊列を作り始めた。

 あれは、密集陣形!?


「いくぞぉ!!」

「「おおおお!!」」


 隊列が盾を構えて進み始める。

 襲い掛かる攻撃は盾に弾かれ、近づけば槍に突かれる。

 向かうところ敵なしだ。


 それを見て流石にヤバいと思ったのか。

 第七星もイヴとライサンドから離れて、洞窟の外に走っていった。


「そのまま外に突き進めえ!とにかく洞窟から出るぞ!」


 揃った足並みで敵を蹴散らしながら前進する兵士。

 それにイヴたちも合流して、ついに外に出た。


「なんだこれ…」


 空はまだ暗い。

 だが外は明るかった。


「おいおい、なんだこの量は」


 地面を埋め尽くす松明やランタンの光。

 それが洞窟の外の岩場から森の中まで続いている。

 その数100、200…、いやもっとか?


「これ以上争いたくなければ、大使様をよこすんだな」


 第七星の奴が賊どもの先頭に立って、呼びかける。


「予定よりも少々数が足りないが、この人数とまともに戦えばただじゃ済まないのは、わかっているよな?」 

「なにが目的だ!」


 公爵が声を荒げる。

 

「ハハハッ。大使様をひどい目に合わせる気はねぇよ。そこまでしてクリストロフと戦いたいわけじゃない。ただ、ちょっと金が欲しいだけさ」

「下衆が…」

「金貨500枚ほど払ってくれればいいだけの話だ。王宮からしたらはした金だろうよ」


 公爵は頭を抱えた。

 一戦交えるか、奴を信じるべきか、悩んでいるのだろう。


「ああそうだ。そこにいるギルドの奴、こっちに来ないか?今なら取り分を多めにしてやるぜ」


 兵士たちがこちらを睨む。

 あいつ、余計なことを言うんじゃねえ!


「カーリー公爵。案があります」


 侍女がそう言った。

 そして公爵に何かを耳打ちした。


「…やむを得んな」


 公爵は後ろ兵士に声をかけた。


「使える馬をあるか?」

「は。2頭だけ無事でございます」

「ならよし。連れて来い」


 どういうことだ。

 まさか、敵陣を突破するつもりか?

 もうこっちは王国兵20人程度と冒険者7人しかいねえぞ。

 これじゃ流石に…。


 すると大使様と侍女は一緒に、公爵は1人で馬に乗った。

 そしてブツブツと何かが聞こえた。

 その瞬間フワッと光球が現れた。


「皆の衆、大使様に続けえ!」


 突然光球とともに大使様の馬が動き出し、岩場を下って行く。

 公爵もそれに続いた。

 兵士たちも一斉に走り出した。


 まじかよ。

 ホントに突っ込むつもりか!?

 だが、行くしかねえ。


 足元が不安定な岩場を必死に降りていく。

 いや、降りていくというよりも、転ばないように落ちているという方が正しいか。

 ぐんぐんと速度が上がっていく。

 このまま賊どもにぶつかってしまうのか?


 だが、大使様の馬が急に方向転換をした。

 今度は右に向かって思いっきり走り出した。


「おい!どこに行く気だ!」


 この方向は、まさか!

 『尾の谷(テールバレー)』に入るつもりか!?

 

 確かにそっちは手薄になっている。

 だがまだ日も上がっていないのに行くとなると…。


「へっ。ゼオ、覚悟決めろよ」


 ライサンドは肩をポンと叩くと走り出した。

 ああもう、どうにでもなれえ!


 俺も走り出した。

 底の見えぬ闇、『尾の谷』に向かって。



-----



 俺はただ歩いていた。

 走ることは途中で諦めた。


 ああ、寒い。


 尾の谷に入った瞬間、吹雪が吹き始めた。

 それはイヴの言った通り、強くうねり、方向感覚を奪っていくものだった。

 そして暴風は全ての声をかき消し、聞こえるのは轟音だけ。

 目も十分に開けられない。


 だが俺は迷わなかった。

 俺には薄っすらと光の筋が見えていた。

 おそらく大使様の傍にあった光球だ。

 それが今、俺たちを導いてくれているのだろう。


 だが、もうそろそろ限界だ。

 尾の谷に入ってからどれぐらい時間が経ったのだろうか。

 俺はずっとこの吹雪の中を歩き続けている。

 周りに誰がいるのかわからない。

 イヴはどこにいるのだろうか。

 ライサンドはちゃんと大使様についていけているのか。


 孤独だ。

 俺は今、たった1人で歩いているのだ。


 誰か…。

 誰でもいいから、俺に声をかけてくれ…。


「・・・!」


 何かがキラッと光った。

 そして風の音が徐々に静かになってくる。


 そうか。

 越えたのか。


「ゼオ、見ろ。ダネル海峡だ」


 イヴの声がする。

 顔についた雪を払う。

 そして前を見る。


 そこには光に照らされた、海があった。 

 

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