035 渦
俺とイヴは受付を済ませた後、城内の広場に案内された。
そこには既に沢山の人が集まっていた。
50人ぐらいはいるだろうか。
「おいおい。こんな奴らに大使様の護衛が務まるのかよ」
イヴは集まったメンバーを見て嘆いている。
気持ちはわからんでもない。
ほとんどが第五星で、お世辞にも素行がいいとは言えない奴だからだ。
見たところ俺と同じ第六星は他に6人ほどしかいないし、第七星に至っては1人である。
「まあ、強い奴らは国防の方に回っているらしいからな。仕方ねえか」
ギルドの階級にはざっくりとした基準がある。
第五星は一般兵レベル。
第六星は精鋭兵士。
第七星は隊長あるいは団長。
第八星ともなれば将軍レベルになる。
国によって異なるが大体はこんな感じだ。
確か、うちのギルドには第七星が12人いた。
もしその全員がこの任務に参加すれば、クリストロフは12の軍隊を失ったことになる。
大げさに聞こえるかもしれないが、大国では『隊長百人力』という言葉があり、隊長は一軍隊と同等の力を持っているとされているのだ。
クリストロフとしてもそこまでの実力者は手元においておきたいのだろう。
また大使様の護衛といっても、敵国の中を突破するようなことはしない。
途中で訪れるシュンメイだってクリストロフと比較的仲のいい国だし、ユーバーランドにさえ入ってしまえば後は開拓されたジャマルロードを通っていくだけ。
仮に戦闘になってしまっても、相手はせいぜい身代金目当ての輩だろう。
50人+お付きの兵士がいれば大丈夫だ。
つまり、途中で魔神でも襲い掛かってこない限り、今回の任務は成功したのも同然だ。
なんて考えてると、奥から兵士がぞろぞろと歩いて来た。
おそらく、大使様の登場だ。
俺たちは急いで庭の端の方に集まり、跪いた。
兵士たちは俺たちの前に並ぶと、中央から分かれるように行進し、再びこちらに向いた。
そして開いた隙間から、昨日の3人が出てきた。
仮面を被った男と老人、背の高い黒髪の女。
「皆の衆、良く集まってくれた」
老人はそういうと一歩踏み出し、巻物を広げた。
「今より、国王陛下からの有難いお言葉を伝える」
その場にピリッとした空気が走った。
国王からの直接のお言葉。
そう聞けるものではない。
「諸君ら、我が国の未来のために集まった戦士たちよ。この度の国事を手助けしてくれることに感謝する。命を掛け、全ての力をもって任務を遂行するべし。諸君らの意志と誉は我が魂と共にあり、我は諸君らの功績を忘れることはない。…以上だ」
なかなか重たいお言葉じゃないの。
死を恐れるなってか?
「改めて説明しよう。君たちの任務は私カーリーとこちらの大使様、そして大使様の侍女をティロニアンまでお守りすることじゃ」
大使様はあんたじゃなくて、仮面をつけている方だったのか。
てかなんで大使様は仮面をつけてるの?
ギルドの者たちも俺と同じように考えていたのか、辺りがざわざわとした。
「静かにしたまえ。大使様について色々思うところがあるかもしれぬが、詮索してはならぬぞ。余計なことをすればただではすまない。わかっているな?」
ひゅー、こえー。
こりゃ秘密を探ったら殺されるな。
まあ元より王宮の依頼なんだから、俺たちがこれから知るような情報は全部極秘情報であることはわかってた。
もし極秘情報を関係者以外に話そうもんなら、それ相応罰を受ける。
口は堅い方だけど気を付けとかないと。
詮索してると思われるような行動も謹んでおこう。
とは言っても、そう目の前に謎をぶら下げられると、ねぇ?
好奇心旺盛な私としては、その仮面の向こうになにがあるのか気になるところです。
「お前、まさかあの仮面を取ろうなんて考えてないよな?」
ぎくり。
心の内を悟られてしまったのか、イヴに小声で釘を刺されてしまった。
「まさか」
気になるってだけで、別に本気で探ろうとしているわけじゃないよ。
流石にね。
-----
大グリナド帝国 グレート・アロン教会 聖者の間
「やあ兄弟たちよ。久しぶりだな」
月明りしか光源のない部屋。
そこに口髭をツンと立たせた男が入ってきた。
「急に集めやがって。まさかいつものしょーもねえ雑学披露じゃあねえよなぁ!」
男に突っかかったのは、長い黒髪が特徴的な女。
服装こそシスターのようだが、その荒々しい表情と腰に付けた対の鉤爪から、ただの聖職者でないことがわかる。
「おお、ザットよ。雑学は素晴らしいものだ。雑学によって生活は楽になるし、心が軽くなることもある。それに君は私より遥かに年上だというのに、あまりに学がない。もっと本を読んで…」
「まーたロベルトのお小言が始まったよ」
そう言って呆れた顔をするのは、鎖をじゃらじゃらと付けた女。
いや、女というより少女といった方正しいだろう。
ハンモックのようなものを宙に浮かせてその上で寝転がっている。
「あたし、早く帰って寝た~い!ロングもそう思うよねぇ?」
「……」
少女が話しかけたのは、身長が人間の数倍もある巨人。
全身に金属のプレートが張り付いている。
彼女の問いかけには反応してないようだ。
「んあー、もう!なんも喋らないデクノボウに保護者面剣士!ビッチシスターに筋肉バカ!やだやだやだー!」
駄々をこねる彼女を横目に、シルクハットの男がちょび髭の男に話しかけた。
「ロベルトさん、そろそろ本題に入らないか。こうやって我々を呼び出したのも『上』からの大事な報告があるからだろう?」
「おお、アスファンドよ。すまなかった。今宵兄弟たちを集めたのは、他でもない法王様からのご命令だ」
その場にピリッとした空気が流れた。
全員の顔が一瞬にして真剣な表情となった。
「へえ。あのジジイからなんの命令だって」
ちょび髭の男は椅子に座るとこう言った。
「テオーシスの日は近いそうだ」
-----
北オステル マカカ村
早朝、まだ日は昇っていないのにも関わらず、西の空は赤かった。
「あいつ、またやったな」
そうつぶやくのは、白髪で黒いコートを羽織った男。
深いため息をつくと西に向かって歩き出した。
しばらくすると、轟々と燃え盛る村が見えた。
「ちっ」
男はため息をつくと、腕を組んでその場に佇んだ。
ただじっと燃える村を見ていた。
すると視線の先にあった家が崩れ、中から半裸の男が出てきた。
「あらぁ?ブラスさんじゃないですかぁ」
半裸の男は筋肉質な身体をしており、魔法陣のような刺青がいくつも彫ってある。
ニヤニヤと笑いながら白髪の男の前に立った。
「全員殺したのか?」
「その通りですよ」
白髪の男は再び深いため息をついた。
「お前なぁ…」
「いやいや!だってあいつら降参したくせに戦いに参加しないって言うんですよ。あんなの生かしていたって食料消費するだけの木偶の棒じゃないですか」
半裸の男はやれやれと首を振った。
「敗者は敗者らしく勝者のいうこと聞いていればいいんですよ。素直にしていれば全員が死ぬことはなかったのに」
「わかったよ」
白髪の男は踵を返すと、そそくさと歩き始めた。
「あれ、どちらに?」
「さっさとここから離れるぞ。オステルの軍が来たら面倒なことになる」
「あんなの私なら皆殺しにできますけど」
半裸の男の言うこと無視する白髪の男。
半裸の男もしぶしぶと歩き始めた。
「いいか、俺たちの目的はあくまでも『聖典』だ。星は降った。災厄はもうすぐ始まる。無駄なことをしている暇はない」
「…はいはい」
そうして二人は東に向かって進んでいった。
-----
ドーリス火山 噴火口
英雄ストロマイトは呟いた。
「酷え有り様じゃねえか」
世界最大の活火山の面影は、もうそこにはなかった。
マグマは涸れかけており、無数のクレーターは近くのドワーフの村にまで及んでいた。
「火の古竜。こうも簡単に逝くとは」
「どうせまた復活するけどね」
後ろから声がする。
振り返るストロマイト。
「執行官…リンダ」
「やあ、久しぶり」
リンダという眼帯をした女がそこにいた。
手には槍のような奇妙な物体を持っている。
「相も変わらず俺を狩りにきたのか」
「不死を野放しにしておくわけにはいかないからね」
フッと鼻で笑うストロマイト。
「秩序を乱すことなく、路銀を稼いで生きているだけの俺をそこまでして殺したいか?」
「いやまあ私も殺したいわけじゃないんだよ。でも法官様がうるさくてね」
槍の先をストロマイトに向けるリンダ。
「今回ばかりはいつものようにいかないよ。あんたの対策もばっちりしてきた」
「ならつべこべ言わずに、さっさと始めよう」
一段と風が強くなる。
涸れかけていたマグマが湧き上がる。
なにかただならぬ力が渦を巻き始めた。
「こい。遊んでやる」




