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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第二章:蛇王の旅路

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034 緊急依頼


 ライサンドという男が読み上げた緊急依頼の内容は次のようなものだった。


 緊急依頼。

 内容:停戦協定のためにティロニアンに向かわれる大使様の護衛。

 報酬:一人につき金貨10枚。

 条件:第五星以上

 クリストロフ王宮から出発し、ダネル海峡を渡ってユーバーランドに入る。

 その後シュンメイ王朝を訪れ、ムーガン、北オステル、オストロルを通ってティロニアンに入城。

 任務中の食費・宿代などの最低限の費用は全て王宮が支払う。

 報酬はティロニアンに着いた時点で受け取ることができる。

 希望者は明日の日が昇る時間までに王宮まで申し出ること。

 人数が揃い次第出発する。


「おいおい、なんだこの依頼は!」

「金貨10枚って」


 周囲から驚きの声が上がる。

 それもそうだ。

 ここにいる人達の給料は一日頑張って働いてもせいぜい銀貨1枚。

 金貨10枚は余りにも魅力的だ。

 余程無駄遣いしない限り一生遊んで暮らせる額だ。


 そしてこの内容。

 まるで俺のために作られたかのような依頼だ。

 これに参加すればオストロルに帰ることができるんだから。


「……なあ」


 突然横に立っていたイヴが話しかけてきた。


「お前はこれに参加するのか?」

「ああ、えっと」

「参加するよな。前から言ってたもんな、オストロルに帰りたいって」


 そういや酔った時にそんな話したかな。

 

「参加しようと思っている」

「あたしとの約束はどうするよ」


 一緒に住むって話だったか。

 もちろん覚えている。

 

「相談しましょう」


 イヴは見るからに拗ねている。

 そりゃ約束した次の日に「やっぱなしで」はあまりにも酷い。

 だが俺にもやるべきことがある。

 

 姉さんの時はなあなあで別れてしまったが、今回はきっちりとケジメを付けよう。



-----



 その夜、俺は身支度をしていた。

 なにせ出発は明日の早朝。

 今日のうちにやっとかないと大変なことになってしまう。


「……」


 それにイヴのこともあるしな。

 彼女は俺の財布を握りしめて、こちらをじっと見つめている。

 納得するまで返してくれないみたいだ。

 

「さて、お話しますかね」


 ベッドに腰かけている彼女に対面するように椅子に座った。


「頼む!行かせてください!」


 手を合わせて頭を下げる。

 まるで母親に玩具をねだる子どものようだ。

 そういやばあちゃんにもこうやって魔術学校の進学を頼み込んだったっけ。


「まずは、理由(わけ)を聞かせてもらおうか」


 おおう、意外と冷静。

 もっと怒っているものかと思っていたが。

 まあこの方が話はしやすい。


「理由は一つだけです。故郷に帰りたい」

「そんなに帰りたいのか?」

「祖母も友人も置いてきているんです。その人たちとできるなら今すぐににでも会いたい。この気持ち、イヴにもわかるだろう?」

「いや、わからん」

「え?」


 イヴはため息をついた後、こう言った。


「あたしは故郷を捨ててきたんだ」


 故郷を、捨てる?


「まあ簡単に言うと、親と喧嘩したんだよ。女が戦士になれるわけがないって親父がずっと言っててな。それは何とか我慢していたんだが、ある日勝手に婚約者を決めてきた。で、家出したのさ」

「そう、だったのか」

「だから故郷に帰りたいとは微塵も思わないね。もちろん、あんたの気持ちを疑っているわけじゃない。ただ同情はできない。それだけさ」


 昨日の処女の話もそうだが、こいつもこいつで大変な人生を送っているようだ。


「まあそれはいいんだ。それよりも…」


 イヴがぐっと顔を近づける。


「まだ、あたしに言っていないことがあるよな」

 

 今まで見たことのないような真剣な顔と声色。

 思わずゴクリと唾を飲んでしまった。


「受付の姉ちゃんに聞いたんだ。あんたがティロニアンの諜報員かもしれないってな」

「ああ、そのことですか」

「それにエルフの村に二年半ほどいたんだってな。何してたんだ?」

「魔術の修行を、ちょっと」

「魔術を使わない種族に教わったのか」


 え、なにこれ。

 尋問?


「ちょっと、怖いですよ。イヴ」

「黙れ。あたしの質問に答えろ」

「…はい」

「お前がこの依頼に参加する理由は、故郷に帰りたいからだけじゃないよな」


 あれか?

 使者のことか?


「他にもあるんだろう?」


 ゴトッと音がした。

 恐らくイヴが剣を動かした音だ。

 いかん、返答次第では命はないようだ。


 ただ俺にはやましいことなんて一切ない。

 正直に言おう。


「僕はジェネスを憎んでいる」

「なに?」

「僕は奴を倒すためにエルフの森で秘密の修行をした。今回の依頼に参加したのもティロニアンにいる奴をぶっ飛ばすためだ」


 嘘ではない。

 少し濁したが。


 イヴはそれを聞くと顔を離した。

 そして目を見開いた。


「やっぱりかぁ~!そうだよなぁ、そうこなくっちゃ!」


 え?

 なんでこの人喜んでんの。


「男なら挑戦こそが人生。たとえ無謀であっても挑み続ける……。いや~素晴らしい」

「おい、ちょっと待て」

「へ?」

「話が見えん」

「ああ、すまんな、だまして」


 だ、だます?


「目利きの婆様から聞いた知識がまさかこんなところで活きるとはな。やっぱり、何か言うことあるよなって聞かれたら隠してること言っちゃうもんなんだな」

「それって、誘導尋問じゃねえか!」


 畜生!やられた!

 あのババア一般人になに教えてんだ。

 

「悪い悪い。いやさ、あんたほどの人間がただ故郷に帰るためだけにあんな危険な任務に参加するとは思えなくてね。ちょっとかまかけてみたんだよ」

「普通に聞けばいいじゃないですか!俺死ぬかと思ったんですよ!」

「ごめんね」


 てへっ、じゃないんですよ。

 まあ確かに使命のことはこうでもしないと喋らなかっただろうけど。


「はぁ。このことは誰にも言わないでくださいよ」

「わかってるって。あたし口は堅いから安心してくれ」


 安心できねえよ。


「まあともかく、そういうことなら堂々と行ってこい」

「なんじゃそら」

「ああ、あとそれと」


 イヴがポイッと何かを投げてきた。

 慌ててキャッチする。


「おめでとうな。第六星さん」


 手を広げると、そこには六つ星のバッチがあった。


「おいおい。これはもったいぶらずに早く出してくれよ」

「へっ、しょうもない理由だったら捨てようかと思ってたぜ」

「それはお前も困るだろう」


 そう言いながらバッチを付け替える。

 うん、かっこいいね。


「じゃあもう寝な。明日早いんだろう?」

「そうだな」

「んん~、あたしも朝から新しい宿見つけないといけないからな」


 イヴは布団に潜って寝ようとしている。

 いつもなら今から一杯やるのだが、こちらに遠慮しているのだろう。


 ああ、そうだ。

 これは言っておかないとな。


「イヴ、今まで…」

「おっと、それ以上は言うな」


 急に起き上がって待ったをしてきた。

 そしてニカッと笑った。


「すぐにまた会えるさ」



-----



 早朝、まだ日が昇ってないころ。

 俺は王宮の入り口に着いた。


 入り口は大きな門になっていて普段は鉄格子の扉で堅く閉じられているのだが、今日は開いている。

 この門が開くのは国王の誕生日とか戦勝記念日とかの重要な日にしか開かないと聞いていた。

 今回の依頼はそのぐらい重要だということだろう。


「やあ、ゼオライト君」


 知った声がした。


「ジャックさん」

「よっ」

「あなたも参加するんですね」

「いや、俺は参加しないよ。ホントは凄く行きたいんだけどね」


 ジャックさんは周りを見渡すと近づいて来て耳打ちした。


「正直ティロニアンは信用ならないから、俺みたいな重要戦力は国に残らないといけないんだよ」

「休戦協定を持ちかけたのは油断させるためだと」

「そう!戦争を仕掛けてきたのはあっちのくせに…」


 その時、こもった声が聞こえた。


「おい、ジャック」

「…やべ」


 振り返ると昨日ギルドの前で仁王立ちしていた騎士がいた。


「ごほん!紹介しよう、こちらは白銀の…」

「つまらない真似はよせ」


 騎士はジャックさんに近づくと腕を組んで叱り始めた。


「今の話は国家機密だ。それを一般人に喋るとはどういうことだ」

「国民全員が思っていることじゃねか」

「そういうことではない」


 騎士はやれやれと首を振ると、ジャックさんに王宮内に戻るようにハンドサインをした。


「カーリー公爵がお呼びだ」

「はぁ、またかよ」


 ジャックさんは小さく手を振ると去っていった。


「まったく。奴が我が軍の最高戦力のでなければ、とっくに死罪になっていることをいつになったらわかってくれるんだ」


 騎士はボソッとそう言うと、こっちを見てきた。


「今の話は、どうか内密に」

「あ、はい、もちろん」


 騎士もジャックさんの後を追うように歩いていった。

 あの人も強いんだろうな。

 なんかでっかい剣と盾背負ってるし。


 さて、俺も入ろうか。


「おい、そこでなにボケッとしている」


 これまた知った声がした。


「ってイヴじゃねえか。どうしてここに?」

「ああ。いやあたしも参加しようと思って」


 ……。

 

「は?」


 え、何言ってんのこいつ。


「昨日言ったじゃないか。『またすぐに会えるさ』って」

「回収はや」


 それはもっと大事なところで回収するやつでしょ。


「まあまあ。ほら、早くいくぞ」


 イヴは俺の手を掴むと門に向かって進み始めた。


「お、おい!え、なんで?なんで参加するの?参加するんだったら昨日の下り要らなかったよね。ねえ、ちょっと。どういうことなの?え、え?」


 俺の質問を無視してぐいぐいと手を引っ張るイヴ。

 その顔はニヤニヤしているように見えた。


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