・とある獣人の少女のお話
あるところに、獣人の少女がいた。
少女は家族や仲間と仲良く暮らしていた。
しかし7歳のころ、住処の森を人間に焼かれ、一人となった。
彼女は様々なところを転々とし、獣を狩り、食物を盗み、生活をしていた。
彼女に勝てる人間はほとんどいないが、弱っているところを襲われたりして、
奴隷に売り飛ばされたことも何度かあった。
そして飯を貰い、体力が戻ったところで脱走する。
それの繰り返しだった。
彼女を買った人間も酷いものだった。
肉体関係を迫ってくる者。
魔獣と闘わせて賭博をする者。
兵士の訓練相手にしようとした者。
そして彼らは決まって彼女に名前を付けるのだ。
「雌犬」「狂犬」「カカシ」「猛獣」「肉」・・・
酷い名前だった。
ある時、彼女に新たな主人が現れた。
何十人目かの主人だ。
しかし、その主人はいつもとは違った。
まず、一人だった。
いつもなら大掛かりで、まさしく猛獣を運ぶほどの人数でくるのだが、一人で、その上自分よりも小さい奴だった。
大した胆の座った奴だった。
いや、今思えば逃がす気だったのかもしれない。
そして、自分に名前を付けてくれた。
今までのような酷い名前ではなく、素敵な名前。
主人の考えはわからないが、きっと神話の女神の名前からとったのだろう。
いい名前だ。
最後に、本気で自分のことを心配してくれた。
秘密で冒険者ギルドで金稼ぎをしていたこと、そして魔獣との戦いで顔に傷が付いたことを知ったとき、主人は泣いたのだ。
本当のことを言えば、彼女は主人の元から逃げる気だった。
冒険者ギルドで金を稼ぎ、十分に貯まったら家から出ようと思っていた。
この『首輪』があれば怪しまれることはないだろうし、主人は家を空けることが多いのでチャンスはいくらでもあった。
「どうせいつか本性をみせるはずだ」
彼女はそう思っていた。
でも、ミスをした。
大型の魔獣との戦いに手こずり、帰るのが遅くなった。
隠せない場所に傷が付いた。
そしてバレた。
主人は泣いた。
「彼女は自分ために命をかけていた」と勘違いをして。
彼女も勘違いをしていた。
「主人は自分のことを大事に思ってない」と。
彼女は主人との生活を振り返った。
主人は自分のために動いていたし、自分を喜ばそうと色んなことを試していた。
頻繫に性的な目で見てきたし、自分を材料に発情していたのも知っていたが、絶対に手は出して来なかった。
そして自分はそれに気づいているつもりだった。
しかし、彼女は自分が「幸せ」であることに気づいていなかった。
『自分のことを大事に思っている人がいつも傍にいる』
これを「幸せ」といわずに何と言おうか?
彼女は主人に伝えた。
初めて自分の名前を口にし、伝えた。
自分が幸せである、と。
その後、なんと主人は剣をくれた。
しかも、自分のために使ってくれと言った。
断れなかった。
いや、断りたいと思えなかった。
彼女はこの瞬間、身も心も主人に仕えようと決心したのだ。
そしてその夜、彼女は主人を襲った。
しかし、別れは突然に来る。
主人が目の前で消えたのだ。
彼女は決意した。
必ず主人を見つける、と。
主人は強い人だ。
必ず生きているはずだ。
死んでてもいい。
その時は墓を建てて、自分が死ぬまで守り続ける。
ちょうどいいことに、昨晩に主人の匂いはたっぷり嗅いだし、味わいもした。
自分の嗅覚も頼りになるだろう。
彼女は主人を探す旅に出たのだ。




