032 炎のように熱い女
「おい、何してる!助太刀間に合ってねぇぞ!」
「はい~、すみませ~ん」
ギルドに加入してから数十日。
あれからありがたいことにほとんどの依頼をイヴと受けている。
二人の相性はいいと思う。
前衛のイヴ、後衛の俺って感じで。
彼女は頼りになるし、色々気遣ってくれからいい人ではあるのだが……。
「あっちに弓兵!早く始末して!」
「わかりました!」
「っておい!魔法壁は付けたままにしろ。私が焼け死ぬだろ!あと顔が近い!」
「だから何度も言ってますけど遠距離攻撃と魔法壁は同時に出せないんです~。あと魔法壁は掌からしか出ないので顔が近いのは許して下さい~」
「ああもう!わかったから弓兵倒してこい!」
「了解!」
この人、人使いが荒いのだ。
そりゃ命と生活が懸かっているのでマジになるのは理解できる。
でももう少し初心者には優しくしてもいいんじゃ……。
ちなみに今は山賊の討伐をしている。
クリストロフとその同盟国の貿易ルートで山賊の被害が多発しているので駆り出された。
「弓兵は?」
「撤退しました」
山賊はすでに半壊状態だ。
士気もだいぶ下がっているのか、ちょっと攻撃しただけですぐに逃げてしまう。
あとは拠点にいる大将をぶちのめすだけだ。
といってもすでに拠点にまで攻め込んでいるんだけどね。
「おらぁ!2人まとめて殺してやらぁ!」
大きな棍棒をもった太った男がのっしのっしと向かってくる。
「お前がここのボスか」
「そうだ。久しぶりだな、イヴちゃん」
「知り合いなんですか?」
「ああ。私の処女を奪った奴さ」
わお。
そういうの普通に言うんだ。
「気を付けろ。あいつの握力はギルド随一だった。捕まったら首の骨を折られる」
「うかつに近づけないですね」
「そうだ。だからあれをやるぞ」
え~、マジで~。
あれきついんだよなぁ。
イヴは俺の返事も聞かずに剣を構えた。
しょうがない、やるか。
俺は彼女の剣を握り、イヴと対面するように構えた。
「いくぞ!ゼオ!」
くぅ~、もってくれ俺の身体!
二人で呼吸を合わせて、同時に踏み込んだ。
剣を持ち上げ魔力を込める。
するとイヴの大剣に白色の魔術がまとわりつき、人の五倍ほどもある巨大な剣とった。
「「グレート・イヴライト!!」」
掛け声とともに剣を振る。
「な、なんじゃこ、ぶへぇ」
大剣の刃がボスに叩きつけられる。
さらに衝撃波も発生し、地面は割れ、剣先の方向にあった山賊の拠点までも真っ二つにした。
「ひいいい!」
周囲にいた山賊たちが一斉に逃げ出す。
ボスも拠点もなくなれば、もう彼らに居場所はない。
「おーい山賊どもめ。これに懲りたらちゃんと足を洗っとけよ~!」
「そうだそうだ~」
イヴは剣を担ぐと山賊のボスに近づいた。
ボスは半分地面に埋まっており、正中線がぐしゃりと凹んでいる。
「死んだな」
「そりゃそうだ」
「よし、耳と金品剥いでてくれ。あたしは物の方見てくる」
俺が剥ぐのか。
まあ慣れてきたからいいけど。
というのも死体をいじるのはなかなかに慣れないことだった。
いやそもそも人を殺すのも最初は抵抗があった。
ギルドの戦闘要員ともなれば相手するのは魔物ばかりではない。
山賊、盗賊、海賊と人間だって依頼となればやっつけなければならない。
当然生きたまま捕縛した方が賞金も高くなるが、死なない程度に相手の戦力のそぐのは大変なことだ。
生かすより、殺した方が楽だ。
何という嫌な思想だろう。
でも最近は忙しすぎて罪悪感もすぐに消えてしまう。
一日に何人も殺せば感覚も麻痺する。
もしかしたらイヴはそれを見越してわざと忙しくしたのかもしれない。
俺に「悪い奴だからって殺してもいいのか?」と考えさせないようにしてくれたのかもしれない。
「金品はこんなものかな」
現に今日もそんなことを考えている余裕はない。
あとは酒を飲んで寝たい。
いや、その前にアレがあるか。
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日が沈み、辺りがすっかり暗くなった頃。
俺たちは山賊の拠点の近くにある洞窟にいた。
「ガハハハッ!!今日も決まったなぁ!」
豪快に酒を飲み、上機嫌に笑うイヴ。
そう、アレとは宴のことである。
依頼が終わった後は毎回これである。
最低でも瓶5本飲まないとやっていけないらしい。
「ブンと振り落として、目の前の邪魔者が一掃される快感!たまらねよな!?」
「そうですね」
「チッ、しけてんなぁ。まあ狡い魔術師にはわからんだろうなぁ、ガハハハッ」
彼女の流派は炎鷹流だ。
というかドワーフといえば炎鷹流である。
己の力のままに敵を一撃でたたき切る。
シンプルな流派だ。
「そんなこと言うんだったらもうしませんよ」
「ええ~!それは勘弁してくれ!毎日グレート・イヴライト撃たせてくれよ~」
イヴが胸倉を掴んで揺さぶってくる。
ちょっと涙目だ。
『グレート・イヴライト』。
彼女が命名した技だ。
大剣に魔力を付与し、斬撃の威力と範囲を大幅にアップさせる。
どうもドワーフには武器に魔力を込めて強化する『エンチャント』というものがあるそうで、俺の魔術剣を見たイヴがこの技を考案した。
非常に強力な技で、これまでも港から逃げようとした海賊船を真っ二つにしたり、そこそこデカい魔物を一撃でノックダウンさせたりしている。
ただその一方で魔力の消費が半端ではない。
なにせ彼女の大剣の3倍近くもある魔術剣を作り、威力を上げるために魔力をブースト。
さらに大剣本体から発せられる衝撃波を魔力と合わせて前方に飛ばす。
まあ大変なのだ。
これを撃った後はしばらく魔術が使えなくなる。
どうもこの一撃必殺技が炎鷹流の彼女の好みに合ったらしく、事あるごとにやろうと持ち掛けてくる。
迷惑な話である。
ちなみに理論上俺一人でもこの技を使うことができる。
ただ俺の力では衝撃波が発生しないので、実際にはでっかい魔術剣を振っただけになってしまう。
彼女の力あってこその破壊力なのである。
「お前もなんだかんだ言って気に入っているんだろ?あれ」
「気に入るっていうか、あなたがやろうと言ったら僕に拒否権ないじゃないですか」
「そうなの?」
自分のパワハラっぷりを理解してしていないようだ。
「んだよオメー、じゃああたしが誘ったらやってくれるっていうのか?ああん?」
「ヤル?」
「交尾だよ、交尾」
「ああ。別にいいですけど」
「は、はぁ!?」
イヴは一瞬俺から離れたあと、コツンとおでこにチョップしてきた。
「バカヤロー、既婚者が他の女に手を出してどうするよ」
「既婚者じゃないです」
「あれ、そうだったの?」
俺がギルドに入ってから学んだこと。
それは貞操観念なんてくそくらえ、ということだ。
スミラエル教の教えでは不特定多数の相手と関係を持つことは禁止されているが、そんなの守っている奴なんか見たことねえ。
男も女もやりたい時にやる。
それが人間だ。
悲しいかな、三年前の純粋なゼオライトは死んだのだ。
流石に誰彼構わず手を出すほど落ちぶれてはいないが。
ていうかまだ誰にも手を出していないが。
ただまあイヴならいいかなと思ったのだが、彼女は冗談のつもりだったらしい。
「って、既婚者じゃなのに童貞じゃないのはおかしいだろ」
「いやそれ言ったらあなたも……」
「あたしは嵌められたんだよ!当時はまだ強くなかったし」
イヴはギリギリと歯を鳴らしながら睨んできた。
なんか文句あるか、と言いたげに。
うん、言い過ぎたな。
かなり酔って正常な判断出来なくなっているとはいえ、言うべきでないことを言ってしまった。
「余計なこと言ってごめんなさい」
「分かればよし……。さー飲むぞぉ!! かんぱーい!!」
相変わらず切り替えの早い人だ。
ちなみに彼女が今飲んでいる酒は山賊の拠点にあったものだ。
つまり元々は商人のものだ。
本来ならばそのまま返さないといけないが、どうせわかりゃしないとがぶがぶ飲んでいる。
「ていうか、そうか、お前は人間だもんな。結婚はしなくていいのか」
「ドワーフは違うんですか?」
「まあな、ドワーフにはドワーフのルールがあるのさ」
やはり種族が違えば結婚の考え方も違ってくるのだろう。
頭のお堅いドワーフのことだ。
大方どんなルールがあるのか想像はつく。
「その辺の話は暗くなるからまた今度だ。それより今は明るい話をしよう!」
「それには同意ですね」
「今回の依頼は二人合わせて小金貨1枚だ! 嬉しい!」
「案外弱かったですね」
今回は遠征扱いなので賞金が多い。
それに山賊も大したことなかったので儲けもんだ。
「最近はだいぶ稼いでるし、これだけあればあの汚い寮からも卒業できるな」
「ちょっと、半分は僕のものですよ」
「あー、それなんだけど」
イヴがすぐ横によって来た。
「一緒に住まないか?」
「え?」
「二人で一部屋借りよう。そうすれば生活もなんとかなる。お前はいい奴だし、あたしともそりが合うと思うんだが」
まあ確かに。
この二人ならやっていけそうな感じはする。
「それにお前ももうすぐ第六星だ。金には困らなくなる」
あんなことろに住んでいたら気がおかしくなるかもしれない。
それよりもいい環境を作って、コツコツとお金を貯めていく方が良いに決まっている。
「そうですね、第六星になったら同棲しますか」
イヴはニッと笑うとコツンと瓶を俺の瓶にぶつけてきた。
その前に新しい魔術考えとく必要がある。
取り敢えず遠距離に設置できる魔法壁と手軽に使える近距離用の魔術、それに罠系の魔術も欲しいな。
この人についていくにはこれぐらいしておかないと。




