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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星

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031 同居人


 さあ、ギルドの会員登録も終わったところでお料理タイムだ。

 受付嬢に獣をさばける場所があるかと聞いたら、ギルドの寮の裏手の共同スペースを勧められた。

 共同スペースといっても高級ホテルのように綺麗でもなければ、田舎のように子どもが遊べる場所ではない。

 賭け事、売春が日夜行われている場所だ。

 だが俺がオオヒクラを運んでくると、途端に散り散りになった。

 というのも簡単な話で、基本的にここで群れているような奴は俺より階級が低い奴はばかりなのだ。

 階級が高く、お金をちゃんと稼いでいれば賭け事もする必要ないしね。


「大丈夫ですか?」


 倉庫の中で暴漢に襲われていた女性に声をかける。

 うんうんと頷きながらもまだこちらを警戒しているようだ。

 まあしゃーないか。

 俺はそこらへんに落ちていた布をかけて離れた。

 ギルドもいいことばかりじゃないねえ。


 ま、暗い話は置いといて。

 早速オオヒクラを頂くとしよう。


 まずお腹を切って内蔵を取り出す。

 胃や腸は食べれるが、肝臓と毒袋は食べられないので捨てよう。

 次に皮を剥いで、骨を砕きながら肉を切り落としていく。

 部位とか切り方とかあるんだろうけど、適当にぶつ切りでいいでしょ。

 ここまで来たら後は焼くだけ!

 鉄板とかは倉庫に置いてあったし、薪も帰り際に拾ってきた。

 今日の夕食には一切お金をかけていない。

 節約していかないとな。


 さてオオヒクラのお味は?


「う、旨い!」


 肉食動物の肉はクセがあって食べるのには向かないとよく言われている。

 だがオオヒクラをはじめとするヒクラ系の動物はクセがほとんどない。

 不要な物質を毒袋に貯めているからなんだろうか?

 よくわからん。

 でも旨いからよし!


 思えば肉を食べたのはずいぶんと久しぶりだ。

 エルフの森でも食べていたといえば食べていたが、シワシワの干し肉では、ねぇ?

 それにこんな量もなかったし。


 ていうか、さっきの女性がめっちゃ見てくる。

 まるで化け物を見ているかのように。

 よく見ると俺が来るまでここにいた人達も建物や木の陰からこちらを覗いている。

 オオヒクラを食うのは一般的ではないみたいだし、異常者だと思われているのだろう。

 誤解されたくないが、その方が変な奴に絡まれなくなって良いのかもしれない。



-----



 日が沈み始めた頃に寮に帰ってきた。

 結局ジャックさんは来なかったし、流石に1日で食える量ではなかったので調味料を入れて漬けることにした。

 調味料は高かったが、今後のことを考えると損ではないだろう。

 ついでに布団や耳当てなどの必需品も買いそろえた。

 防寒具をフル着用すれば完全に現地の人だ。

 これなら寒さもへっちゃら。

 まあ貯金はあとわずかだが。


「ただいまー」

「ん?」


 何の気なしで寮の扉を開けてしまった。

 ばっちりと椅子に座った薄着の同居人と目が合う。

 こちらに背を向けているが、目線は俺の顔をロックしていた。


「あ!すみませんでした!」


 ヤバイ!

 殺される!


「別にいいから早く入れ。寒いだろうが」


 扉の前であたふたしていると怒鳴られた。

 これ以上怒らせてはいけない。

 急いで中に入ってドアを閉めた。


「裸じゃあるまいし、そんなに慌てることじゃねえだろ」 


 下着姿を見られているというのにえらく堂々としている。

 もしかしてこの大陸の人ってみんなエルフ並みの貞操観念なの?


「もしかして、あんた童貞なのか?」

「い、いえ」

「それならこれぐらいのことで動じちゃダメだろ」


 どうやら僕がヘタレだっただけのようだ。

 でもしょうがないと思う。

 この数年まともに女性と話したことがないのだから。

 あ、エルフはノーカンね。

 隙あらば誘ってくるような奴を人間の女性と一緒にするのは失礼だから。

 受付嬢とも話したけど、あれは事務的な話だからなあ。

 全然緊張しなかった。


「今日は少しあったかいですね」


 とりあえず無難な世間話をしよう。


「ああ。昨日部屋の隅に穴が開いていてな。今日はそれを直したんだ」

「なるほど。ありがとうございます」


 昨夜の寒さは異常だったのか。

 あれが日常じゃなくて良かった。


「まあ今日はもともと休みの予定だったからね」

「そうなんですか」

「毎日なんて働いてらんないよ」


 いい感じに会話が出来た。

 厄介な人ではなさそうだし、一安心。

 ここでもう少し距離を詰めておきたい。

 

 そうだ。


「よかったら、これ食べます?」


 彼女に近づいて肉を差し出す。

 こういう時は飯が一番だ。


「なにこれ」

「オオヒクラです」

「あー、懐かしいね」


 どうやらいける口だったみたいだ。

 よかった。


 彼女は身体をこちらに向けると肉を受け取った。


「ありがたくもらっておくよ」

「……」

「どうした?」


 え、でかくない?


 いや、身体は小さいよ。

 子ども並みだ。

 顔も幼い感じだし。

 でもでかいのだ、あれが。


「ん、これが気になるのか?」


 彼女はそういうと自分の胸をタプタプと弾ませた。

 そう、彼女の胸が異様に大きかったのだ。


 異様に大きいというと語弊があるか。

 彼女のサイズ自体は大きい方ではあるが珍しいサイズではない。

 つまり身長に対して胸がかなり大きいのだ。

 よく見ると腰回りもかなり大きい。

 スタイルのいい人をそのまま縮めたようだ。

 って、これって。


「気づいたようだね。あたしドワーフなんだ」


 ドワーフといえば、ドリオ高原を主な生息域とする人種だ。

 男女ともに身長が低く、それ故に狭い空間でも効率的に作業ができる。

 特に鉱山での採掘能力に長けており、また金属加工も得意としている。

 その腕前は古くから『武器を作らせるなら小人(ドワーフ)かアシハラ人だ』と言われているほど。

 またドワーフは皆赤髪で、同じく赤髪の戦神ギル・シューゲンを信仰している筋肉モリモリ武闘派集団でもある。


「で、いつまで胸見てんだ?」

「すみません、ドワーフを見るのは初めてなもんで」


 つい見てしまう俺も悪いけど、そっちも薄着なのどうにかしてくれないかなぁ。

 

「まあほれ、あんたも飲みなよ」


 そう言って彼女は瓶を突き出して来た。

 『ウォード・ジン』と書いてある。

 多分お酒だろう。


「受かったんだろ?入会試験。それのお祝いさ。まあ落ちる奴なんてそうそういないけどな」

「ありがとうございます」

「じゃ、かんぱ~い」


 彼女は新しい瓶を開けるとそのまま一気に飲み干してしまった。

 俺も後に続こうとゴクゴクと力強く飲んだ。


「ウッ!」


 なんだこれは。

 喉が熱い。

 鼻がジンジンする。

 舌が痺れる。


「なんだこの酒!?強すぎるだろ!」

「アハハハハ!!」


 瞬く間に顔が赤ったのがわかるぐらい全身が熱くなる。

 咳も止まらない。

 同居人はそんな俺の様子を見ながらゲラゲラと笑っている。

 

 忘れていた。

 ドワーフは酒豪なのだ。

 こんな強い酒でも水のように飲んでしまう。

 彼女と同じように飲もうとしたことが間違いだったのだ。

 そしてもう一つ。

 クリストロフの酒は他の地域と比べて強いものが多いことも忘れていた。

 

「なんだお前、酒飲んだことないのかよ」


 もちろん飲んだことはある。

 でも故郷のちょっと苦い発泡酒とエルフの果実酒ぐらいしか飲んだことがないからこの強さは初体験だ。

 

「あらら。ちょっときつすぎたみたいだね。でも、身体は暖まってきただろう?」


 まあ確かに、汗をかくぐらいには熱いが。

 でも、なるほど。

 クリストロフの人々はこうやって寒さをしのいでいるのかもしれない。


「ああそうだ。あたしの名前、まだ言ってなかったよな」

「ゲホッ……そうですね」

「あたしはイヴフェール。18だ」

「18、同い年ですね」

「そうか。なら気軽にイヴと呼んでくれ」


 同い年といっても先輩にあたるわけだから、呼び捨てはどうなのだろうか。

 でも本人がいいって言ってるし、いいか。


「改めてゼオライトです。僕のこともゼオって呼んでください」

「ゼオライトね。そういやそんな名前だったな。ん?」


 イヴは突然口元に手を当て、何か考え始めた。

 だがすぐに諦めたようだ。


「気の所為か。まあいいや。明日からよろしくな」

「よろしくお願いします」


 話しやすいし、優しそうな人だ。

 同居人としてやっていけそうな気がする。


 その後はなんとかお酒を半分まで飲んで、後はぐっすり。

 自分の布団に入ってからは記憶がない。

 酒飲んで眠り込むのは翌日に響くから嫌だったのだが、差し出された以上飲まないといけないのが礼儀だ。

 まったく、誰だよこんな礼儀考えた奴は。



-----



 翌日。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 イヴは俺より少し遅れてギルドにやってきた。

 初めてあった時のようにガッチリと鎧を着込んでいる。

 この状態だと胸の大きさとかわかんないよなぁ。


「早起きだな」

「なんか習慣なんですよね」

「いいことじゃないか。あたしも昔じいちゃんに『早起きできない奴は愚者だ!』ってよく怒られたよ」

「僕もばあちゃんにたたき起こされてましたね」


 気が合うのは育ってきた環境が似ているからかもしれない。

 いくら人が良くても貴族とは全然仲良くなれなかったしな。


「ところでイヴ、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「もし差し障りがなければ、今日の依頼一緒にやりませんか?」

「あー、どうしよっかな」


 イヴは俺より階級が一つ上だ。

 もし俺と仕事をするとなるとレベルの低い依頼を受けなければならない。

 それはあまりいい話ではないが……。


「いいよ。初心者はよくケチ付けられて報酬を横領されたりするし、仕事のこともあんまりわかってないだろうから一緒にやってやるよ」

「ありがとうございます」


 変にあっち行ったりこっち行ったりするよりは信頼できる人と組んだ方がいいだろう。


 しかしその考えは間違いだった。

 イヴはとんでもない女だった。


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