030 ギルド入会試験②
クリストロフ南西部は世界的な穀物の産地だ。
王宮から小さな山を一つ超えれば広い平原を見ることができる。
現在は穀物が芽吹くかどうかの時期なのだが、夏になれば一面の金色世界になるらしい。
そして収穫量はこの大陸の実に3割を占めるという。
そんなわけでここはクリストロフにとって重要な耕地であると同時に、最も獣害に悩まされている地域でもある。
極寒の国とはいえ徐々に暖かくなるこの時期。
冬眠を終えた動物が森から出て来て最初に食べるのが栄養たっぷりの植物の芽だという。
つまりこの時期が一番危ないのだ。
しかし危ないのは動物だけではない。
同じく冬眠から覚め、獲物を狙うお腹をすかせた肉食の魔獣。
年間1000件を超える被害を出している今回のターゲット、オオヒクラ。
巨大な毛の生えた蜥蜴みたいな奴で、俺も何回か見たことがある。
丸焼きにすると美味い。
ただし尻尾に毒針がついており、刺されれば死亡する可能性もある危険な奴だ。
「だから、まずは尻尾を切り落とすのが基本だな」
「なるほど」
ジャックさん曰く、後ろから近づいて素早く尻尾を捉えるのがいいそう。
尻尾は鞭のように動くが力はそこまでない為、握ってしまえば切り落とすのは簡単らしい。
「おい、しゃがめ。いたぞ」
森の中を歩いていると、くねくねと動く尻尾が見えた。
「ありゃ今食事中だな。飯を食っている時はより獰猛になる。気を付けろ」
「わかりました」
「それと試験に関してだが、魔術師は二つのやり方がある。俺が奴と戦っているところに補助に入るか、君一人で戦うかだ」
オオヒクラがどの程度の強さかわかんないし、まずは一人でやってみたいな。
まあ試験で倒せっていわれるぐらいだからそこまで厄介ではないのかも。
「じゃあ、後者でお願いします」
「うん。俺も何かあったらすぐに助けられる位置にいるから安心してやっちゃってくれ」
そういうと少し後ろに下がるジャックさん。
第八星に「安心して」って言われるのは心強いな。
目の前の獲物だけに集中できる。
さて、どう魔獣を倒すかだが、魔術師なんだし取り敢えず遠距離攻撃をすればいいでしょ。
オオヒクラの後ろに移動して、そばにある木に登る。
ずっとエルフの森で暮してきたんだから木登りもおちゃのこさいさい。
それに上を取るのは狩りの基本だ。
オオヒクラは相変わらずご飯に夢中だし、一発魔弓を打ち込んでやろう。
俺は奴の尻を目がけて矢を放った。
バコン!という爆発音と共に煙が上がる。
多分命中した。
だが確認している時間はない。
すかさず隣の木に移った。
「うお」
オオヒクラが物凄い勢いでさっきまでいた木に突っ込んだ。
枝が揺れ雪がパラパラと落ちる。
そしてそのまま登ってきた。
まだまだ元気なようだ。
尻尾は…チッ、切れてないのか。
でも次で終わりだ。
「よいしょ!」
魔法壁を展開しながらオオヒクラに飛び込む。
ガツンという音とともに魔法壁が頭に衝突した。
一瞬動きが鈍る。
そのうちに落下しながら尻尾を切った。
よし、予定通り。
そして本番はここからだ。
「グキキキキキ!」
いくら毒針を失ったとはいえ、奴は魔獣オオヒクラ。
人の身の丈ほどある体躯に鋭い牙と爪は健在だ。
まだ油断はできない。
オオヒクラは木から降りて来ると、俺の目の前に構えた。
そして突っ込んでくる。
俺は剣を左手に持ち替え、魔術剣との二刀流に切り替える。
「ジイイイイ・・・」
喉を鳴らしながらかなりのスピードで迫ってくるが、まだここじゃない。
あと、あともう少し。
「グバア!」
「そこ!」
口を開けて飛び込んでくるオオヒクラ。
そこに剣を突っ込んでやった。
衝撃が身体中に走る。
上手くいってなかったら一発アウトだったな。
オオヒクラはビクビクと痙攣し、やがて息絶えた。
「素晴らしい!」
拍手をしながら近づいてくるジャックさん。
「オオヒクラをソロで討伐するなんて、なかなかの実力者だな。もしかして、ホントは討伐したことあったんじゃないの?」
「いえ、討伐は初めてです。倒し方は祖母から教えてもらいましたが」
「ほほー、すごいおばあさんだな」
ジャックさんは先ほどオオヒクラが登っていた木のそばまでいき、切断した尻尾を拾った。
そしてそれをぽいと投げてきた。
「それが戦利品だ。これを受付まで持っていって初めて討伐したことになる。忘れるなよ」
「これは売れたりするんですか?」
「いや、好んで買ってくれる人はいないだろう。でも専門の店に行けば加工して武器にしてくれるぞ。まああんまりお勧めしないが。そういう店はなんか怪しいし」
毒の剣とか作ってくれるんだろうか。
そうなら狩りが楽になっていいんだが。
「じゃ、帰るか」
「これは置いていくんですか?」
え?と歩き始めたジャックさんが振り返る。
俺の人差し指の先を見る。
そこにあるのはオオヒクラの死体だ。
「置いていくけど」
「え、食べないんですか?」
「・・・毒あるでしょ」
この人、知らないんだ。
オオヒクラの毒は専用の臓器で作られていて、そこさえ取り除けば安全なこと。
丸焼きにすれば血中の毒も完全に消えて食べられること。
「ジャックさん!今日は焼肉パーティーですよ!」
「・・・はい?」
-----
「しかし、いい立ち回りだったよ」
「ありがとうございます」
俺たちは近所の農家から荷車を借りるとそこにオオヒクラを載せて帰路についた。
「緊張してなったようだけど、こういうことには慣れていたのか?
「慣れたというか、なんというか」
飛竜と対峙した時のインパクトが強すぎて、これぐらいでは動じなくなったのだろう。
だから全く緊張しなかった。
ただ「飛竜を倒したことがある」なんて言えるはずもない。
変に目を付けられても困るし、やたらと階級上げられても困るし、そもそも俺だけの力で倒したわけでもないし。
「実はあれでも緊張してたんですよね」
「は!謙遜するなよ!俺の目はごまかせんぞ~」
やはり達人の目はごまかされんか。
話を変えよう。
「そういえば、今回の依頼はいくら貰えるんです?」
「ああそうだな。大事なことを忘れていたよ」
忘れないでください。
「オオヒクラは1匹で銀貨3枚だ」
「おお!結構貰えますね!」
「でも、今回は2人で討伐したから半分だな」
「あ、そうか」
「はは!冗談だ!俺はなあ~んにもしてないから今日は全額持っていけ!」
「いいんですか?」
「気にするな!銀貨の1枚や2枚くれてやる!」
まあ第八星ともなれば相当稼いでるだろうし、銀貨数枚程度じゃ問題ないのだろう。
「ただもちろん、これは今回だけだ。オオヒクラは大体3人で討伐するからこれからは実質銀貨1枚だと思ってくれ」
うぅ。
いきなりシビアな数字になったな。
寮や食費などの生活費を引けば銅貨20枚が残るかどうか。
俺はいつになったら暖かい布団が買えるんだ?
「ちなみにオオヒクラは第五星以上じゃないと討伐許可が下りない」
「てことは」
「そう!君は第五星以上は確定というわけだ」
まあまあ上出来なんじゃないか?
第五星ならサービスもつくし。
ああそうだ。
聞きたかったことがあったんだった。
「質問なんですけど、一日で最高どのぐらい稼いだことあります?」
「ん~一日かぁ。遠征で金貨2枚はあったけど・・・」
遠征というのは確か泊まり込みで任務を行うものだ。
魔神の討伐だったり、敵地への進軍だったりとデカい依頼が多い。
「一日なら小金貨2枚かな?緊急依頼で魔の手の群れが現れた時だな」
「魔の手?」
「知らないかな?魔族の親戚みたいな魔物さ。人間を見つけ次第食べるんだ。まああれはきつかったね」
そんな魔物がいるのか。
まあだいたい魔族もくわしくは知らないしね。
そういうことも勉強していかないとな。
「で、なんでその話をしたんだい?」
「実は知人に一日で小金貨3枚を稼いだ人がいまして、本当なのかな?と」
「う~ん」
知人とはもちろんユナのことだ。
「確か2年前だったかな?オストロルの冒険者ギルドに大型新人が現れたって噂で聞いたよ」
「オストロルですか」
「うん。突如現れた飛竜を討伐したらしくてね。生還者がその新人だけだったから小金貨3枚を独り占めしたんだったかな?」
え?
ユナやばくない?
獣人だから強いのは知ってたけど飛竜倒せるレベルだったなんて。
『俺の従者が最強戦士だった件について』って小説でも書こうかな。
-----
ギルドに戻った後、ジャックさんは奥の部屋に呼び出された。
目利きの婆さんと話し合いをするらしい。
暇になると思って飯でも食べようとしたらもう出てきた。
即決だったようだ。
「えーこの度、我々ギルドはゼオライトを第五星冒険者と認める!」
よし。
第五星なら依頼の幅も多いし、頑張ればなんとか暮らせていけそうだ。
「なお特例により次の昇格条件を緩和する」
ん、特例?
「ゼオライトさんは試験で優秀な成績を収められました。なので通常の第五星よりも第六星になりやすい、ってことですよ」
受付嬢が説明してくれる。
学校の飛び級みたいなものか。
なら尚更頑張らないと。
その後も色々と説明を受けた。
規約の確認とか昇格の方法とか。
なかでも大事だったのが、保険だ。
どうも俺が依頼の最中に死亡した際、家族や知人に自身の成果分のお金が送られる仕組みらしい。
ついでに怪我や病気の最低限の治療代も出してくれる。
加入は任意だったが入っておいた。
保険料は年額小金貨1枚だったが、もしものことを考えると安いほうだ。
「ではこちらがバッチとドックタグになります。ドックタグをあなた以外の人が持ち帰った時点で死亡したとみなします。ですからゼオライトさんも遺体からのドックタグの回収にご協力ください。ドックタグは2枚ついていますが、1枚は遺体に付けたままにしておいてください」
「付けとくのが難しかったら口の中にでも入れておいてくれ」
保険にせよ、このドックタグにせよ、死が絡まることばかりだ。
いい気分ではないね。
でも目を背けてはいけないのだろう。
人生とは常に死と隣り合わせなのだ。
そこらへんの覚悟はしておかないとな。
とはいっても、早死にするのはごめんだね。
せめて結婚してから死にたいよなぁ。
まあなんにせよ、今は頑張るしかないんだけどね。




