029 ギルド入会試験①
「まず、目利きのおばあ様に会ってもらいます。荷物はこちらに」
試験を受ける前に建物の奥の部屋に案内された。
受付嬢がドアを開けると老婆が座っていた。
「この子かい?」
「はい、戦闘要員希望の方です」
「そうか。まあ座りな」
老婆に対面する形で置かれた椅子。
俺は軽く一礼してから座った。
それを見ると受付嬢は部屋から出ていった。
「名前は?」
「ゼオライトです」
「姓はないのかい?」
「ないですね」
「はぁ、農民出身かい。珍しいね」
紙になにか書いている老婆。
質問は続いた。
「じゃあ両親に姓はあったかい?」
「すみません。僕小さい頃に両親を亡くしていまして」
「あー、すまんね。じゃあ親戚とかは?」
「祖母はアイリーン・ステラウスです」
「ええ!」
突然声をあげて驚く老婆。
目もまん丸になっている。
「あんたアイリーンの孫かい!」
「そうです。知っているんですか?」
「昔ここに住んでいて、ギルドで一緒に働いてたんだよ」
「はえ~、ばあちゃんはクリストロフにいたことがあったのか」
「それで結婚して、孫ができて、今は西ユーバーに住んでいるのかい?」
「はい、そうなんです」
ん?
「なんで西ユーバーってわかってたんですか?」
「そりゃあんたが西ユーバー訛りだからさ。頑張ってこっちの訛りに寄せようとしているけど、あたしの耳はごまかせないよ」
パーキングさんに教えてもらって違和感がない話し方をマスター出来たと思っていたが、この目利きの老婆には通用しなかったらしい。
「若いの、覚えておきな。大抵の人間はね、自分と共通の知り合いがいたり、趣味があうとつい緊張が緩んでしまうのさ。だから本性を知りたい時は噓をついて話を合わせ、機嫌良く話させるのが一番さね」
「え、それって」
「そう。アイリーンなんて人は知らないね」
目利き、恐るべし。
「噓だよ」
「え?」
「いや、さっき説明したのはあたしがよく使う手法だから本当なんだが、アイリーンの方は噓さ。アイリーンのことはよく知っているよ」
老婆は二カッと笑った。
なんだ、ばあちゃんのことは知ってたのか。
「あの脳筋男勝り野郎だろう。よくダリオスとテミーと一緒に依頼を受けたものだ」
「王道の四人パーティーですか」
「王道?いやそんな大したものじゃないけどね。まあ楽しくやっていたもんさ」
しかしばあちゃん、クリストロフにいたことがあったのか。
色々話聞いとけば良かったな。
「で、思い出話をそれぐらいにして、色々と聞いていこうか」
一瞬で真面目な顔に戻る老婆。
俺はゾッとした。
「アイリーンの孫だからといって、君がスパイだという容疑が晴れたわけではない。言ってること、わかるね?」
そう、これが一番恐れていたことだ。
俺が西ユーバー出身だとばれたらティロニアンがクリストロフに送り込んだスパイだと思われてしまうだろう。
普段なら訛りぐらいでとやかく言われることはないだろうが、今は事情が違う。
前科・職歴不問とはいえ国家の安全を脅かす存在をギルドに入れるわけにはいかない。
ギルドは様々な情報が飛び交う場所だし、国からの依頼もある。
上手く立ち回ればその日の兵の動きを把握することだってできるだろう。
だからギルドには入れないし、逮捕されるかもしれないし、下手すれば処刑されるかも。
俺がこっちの訛りを勉強したのも疑われないようにするためだ。
「こっちの大陸に来たのはいつかね?」
「三年前です」
質問には正直に答えていこう。
この人の前で噓をつくのは危険だ。
「今までは何をしていたんだい?」
「エルフの集落で魔術の修行を」
「へ?あいつら魔術なんて使わないだろう」
「そうなんですけど、一人すごい方がいまして」
「聞いたことないけどねえ」
この流れはまずいか?
「それが目的でこっちに来たのかい?」
「いえ、来たのは成り行きというか」
「成り行き?成り行きで大陸を渡ってくる人がいるかね」
「ええと、いや、飛ばされてきたんです」
「は?」
「ジェネスって人に魔術で飛ばされたんですよ」
「……」
そうだよなぁ。
こんなの信じてくれないよなあ。
俺だって話してておかしいって思うもん。
「まあいい。とにかく君が一年間この大陸にいたという証拠が欲しいんだよ」
「は、はあ」
証拠なんてそんなもの……。
「おばあ様。失礼します」
突然扉が開き、受付嬢が部屋に入ってきた。
手にはなにかを持っている。
「手荷物と寮の所持品を検査したところ」
嬢は老婆の横に立つとそれを広げた。
「このようなものが見つかりました」
「あ」
それは姉さんの服だった。
「エルフの衣装のようですが」
「うーん、本物だねえ。生地も縫い方もバッチリだ」
もしかして、それ証拠になったりしますか!?
「でもいささか小さいように見えるねえ。これ女物だし」
「それについてはこれを」
受付嬢が老婆に紙を渡した。
とても嫌な予感がした。
「えーと、『ゼオ君へ、多分私は出発の――』」
「うわあああああ!」
その手紙はダメだあ!
恥ずかしすぎる!
なんとか取り返さないと……。
ガシッ
「おっとぉ、何するつもりかな?」
椅子から立ち上がった瞬間、何者かに羽交い締めにされた。
暴れてもびくともしない。
なんて強さだ。
「なんだい急に慌てて。もしかして機密情報かい?」
「いえ、ただの惚気話でした」
「うごっ」
全身の力が抜ける。
時すでに遅し。
受付嬢にはもう読まれていたようだ。
「なんだいそりゃ」
「注目して頂きたいのはここです。この手紙によるとゼオライト様は約三年間エルフとともに過ごしていたようです」
「ふーん。紙もこの大陸のものだし、字の書き方も古代文字っぽいね。エルフが書いたのは間違いなさそうだ」
「で、どうなのよ。この子は大丈夫なわけ?」
「まあ、入れていいんじゃないかね。でもしばらくは軍事関係の依頼はなしで。君もそれでいいだろ?」
なにかよくわからんが、オッケーらしい。
俺は無事冒険者ギルドに加入できた。
それと引き換えに精神に大きなダメージを負ったが。
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「改めて、ジャックだ。よろしく頼む」
「ゼオライトです。よろしくお願いします」
俺を羽交い絞めにしていたのはジャックという人だった。
質の高そうな鎧を着ていて、二対の斧槍を背負っている。
ガタイもよく、顔には無数の傷がついていた。
年齢は30後半ぐらいだろうか。
立派に髭も蓄えている。
まさに雪国の男って感じだ。
「彼は『嵐の貴公子』と呼ばれていて、このギルドで一番の実力なんですよ」
でしょうね。
なんかね、オーラが違うもん、オーラが。
「おいおい、そのあだ名は照れるからやめてくれってぇ」
「僕はかっこいいと思いますけど」
「よせやい」
「それにこの人、第八星なんですよ」
「ええ!!」
そこまでの人だったとは。
格上も格上じゃないか。
「では試験について説明しましょうか」
受付嬢は紙を取り出すと2人にそれを見せた。
クリストロフ南西部での魔獣の討伐の依頼書だった。
「お二人でこの依頼を受けてもらいます」
「それだけですか?」
「ええ、それだけです。ジャックさんは様々な経験をされていますから、共に依頼を受けるだけでその人の実力がわかるんです」
「だいたいだけどな」
「依頼が終わった後、先ほどの目利きのおばあ様との協議で貴方の階級が決定されます。異議はないでしょうか?」
目利きと実践のクロスチェックで判断されるわけか。
問題はないね。
「異議はありません」
「では早速向かってください」
というわけでジャックさんとギルドを出た。
「じゃあまずは魔獣は探すところから始めるんだけどぉ」
ジャックさんはすぐに立ち止まり、俺の格好をまじまじと見た。
「君、その装備で行くわけ?」
「え?」
「腰に差してるのは木の剣だろ」
「あ、僕は一応魔術師なので」
「だったら杖はいらないのかい?」
改めて自分の姿を見てみる。
腰にはお粗末な剣。
コートを着ているとはいえ魔獣の攻撃に耐えれそうもない軽装。
魔術師なのに杖を持っていない。
なるほど、ツッコミどころがあるわけである。
でも一つ返すとしたら。
「杖っているんですか?」
杖、もとい『杖型魔術増幅装置』というのはその名の通り魔術の威力を向上させるもの。
デザインは色々あるが共通してシリケルという水晶がついているものが一般的だ。
ただ一般的と言っても、魔術師全員が持ってるわけではない。
理由はもちろん高いから。
まともに使えるものだと最低でも小金貨1枚は必要で、高機能なものだと金貨5枚にもなる。
銀貨2、3枚で買えるものもあるが、そういうのは大抵パチモンだ。
仮に本物だとしても増幅の上限がしょぼくて今の俺では使い物にならないだろう。
「俺の周りの奴はみんな持ってるけどなぁ」
「それはジャックさんの周りの人がすごいからでは?」
「うーん、確かに」
いっぱい稼いでる人と同じにしないでくれ。
そりゃ俺もお金いっぱいあったら買うさ。
「杖はいらないですけど、確かに剣は欲しいですね」
「そうか。ならお勧めの店を紹介しよう」
いざ近接戦闘になることも想定してないとな。
師匠も言ってたし。
そうして俺たちは武具屋に行き、ちゃんとした剣を買った。
木剣とは重さが全然違うがすぐになれるだろう。
剣がどうなろうと立ち回りは一緒だ。
では魔獣討伐、始めようか。




