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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星
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002 星の子


 城塞都市オストロル。

 魔術師を目指す者にとっては憧れの場所だ。

 そして今、それが俺の目の前に現れた。

 途中で山賊に襲われたりと散々な目にあったが、何とかたどり着いた。

 感無量である。


「噂以上だな」


 高くそびえる城壁。

 中央にどっしりと置かれた宮殿。

 そして少し奥に見える魔導学校。


「えっと~、あれが天文台かなあ」


 で、山頂から遠眼鏡を覗きながらニマニマしているのが俺、ゼオライト。

 この度故郷の村を出て、一流の魔術師になるべくこの街にやってきた。

 産まれてから14年の天才魔術師見習いだ。


 え?

 自分のこと天才って言うのはイタイって?

 地元では実際に言われてたんだからセーフだろ。

 まあ、30人ぐらいの住民の中では一番魔術が使えたってだけなんだけどね……。


 断じて自惚れてるわけじゃないぞ。

 自惚れてたら魔導学校に入学しようなんて思わないだろ?


「よし、いくか!」


 俺は一人で大声を出し、気合いを入れた。

 目的地が見えてきたとはいえ、もう一山超えなければならない。

 そろそろ日が暮れるころだ。

 急いだ方がいいだろう。



 さて、オストロルに入ったらどうしようか。

 ばあちゃんの古い友人が空き家を用意してくれているから住む場所は問題ない。

 となると食べ物か。

 さすがに友人様も俺のメシのことまでは援助してくれないだろう。

 何か仕事を見つけなければならない。


 候補はある。


 一つ目は家庭教師。

 これが一番儲かるだろうが、まあ無理だろう。

 何故か?

 一言でいえば身分の差というやつだ。

 基本的に家庭教師を雇うのは貴族たちだ。

 あの貴族たちが平民である俺を雇うだろうか?

 いや、ないな。

 食料と交換で子どもたちに勉強を教えていた田舎とは話が違う。


 二つ目は魔導学校の教授のお手伝い。

 お金を稼げて勉強も出来て、まさに一石二鳥!

 が、これも厳しい。

 理由は家庭教師と同じ。

 教授だってコネが欲しい!

 雇うなら平民より貴族のご子息!

 って、ばあちゃんが言ってた。


 最後は冒険者ギルド。

 危険だが金のためならしょうがない。

 魔導学校は2日授業で2日休みの繰り返しだからそこそこ稼げるだろう。

 ……ぶっちゃけ苦しいな。

 都会は田舎と比べて物価が高いらしいし。


 やれやれ。

 せっかく魔導学校に通うことになったというのに、メシの心配をしなきゃいけないなんて。

 都会に出るっていうのはそういうことなんだろう。


 なんて思っていると大きな門の前に着いた。

 街の入り口だ。



-----



 ちょっと遅かった。

 街に入ろうとしたら、


「日が暮れてからの通行は認めていない!」


 と門の前で衛兵に言われた。


 そんなのないよ。

 こっちは五日間連続で歩いて来たんだ。

 だいぶ疲れてる。


 賄賂とかどうだろうか。

 いや、逆効果だな。

 怪しい奴だと思われても困る。

 ここは清廉潔白にいこう。


 しょうがねえ。

 木の枝でも集めて焚火でもするか。


 幸いにも目の前は山だ。

 木の枝はすぐに集まった。

 後は火をつけるだけ。


 よっと。


 ボッと木の枝に火をつける。

 辺りがフワッと明るくなった。



 火はいい。

 暗いところを明るくしてくれるし、暖かい。

 それに、なんか落ち着くだろ?

 優しくて、包容力があって……。

 とにかく、生きるためのエネルギーを分け与えてくれてる気がする。


「君、魔法使いだったんだな」


 火に思いをはせてると、後ろから声がした。

 振り返ると若い衛兵がいた。

 俺を追い返した奴の後ろで申し訳なさそうにしていた人だ。


「いや、さっき指から火を出してたから」

「ああ。まあそんなところです」


 衛兵はゆっくりと近づいてきて焚火の前に座った。


 なんだ。

 ちょっと語り合いましょうってか。


「凄いじゃないか、君!今の無詠唱だろ?」


 褒めてくれた。

 正直嬉しい。

 でも謙遜しておこう。


「これぐらいなら簡単ですよ。それに、この街では珍しくもないでしょう?」

「いやいや!初めて見たよ」


 ここは魔術の街。

 無詠唱で使える奴なんて山ほどいるでしょうに。


 俺は真面目な顔をして衛兵に聞いた。


「衛兵さん。ホントのとこ、どうなんです?」

「……」


 若い衛兵は「はぁ」とため息をついて話し始めた。


「この街には毎年たくさんの魔術師見習いがくるんだ。でもすぐに出て行ってしまう人がほとんどでね……」

「なぜ?」

「自分よりもすごい奴がうじゃうじゃいるのを知って、やる気を無くしてしまうみたいなんだ」


 そうか。

 俺もそれは覚悟している。

 が、いざそんな奴らを目の当たりしたら、きっとガックリしちゃうんだろうな。


「とにかく! 君には自信を持ってほしかったんだ」

「お気遣いありがとうございます」

「うん。じゃあ僕は仕事に戻るよ」


 衛兵は立ち上がり、去っていった。


「あ! あと魔物とか出てきたら遠慮なくよんでくれ!」

「ああ、それは助かります!」


 ふぅ。


 見上げると星空が広がっている。

 指で星をなぞってみる。

 なにも起きない。


「あ」


 流れ星だ。


 すーと、ゆっくりと、流れ星が俺の真上を通りすぎようとしている。

 きれいだ。


 でもなんか変だな。

 あまりにもゆっくりすぎる。

 しかもどんどんゆっくりになっていく。


 もしかして、落ちてきてない?



 俺は立ち上がった。

 青い光は一瞬赤くなったかと思うと、爆音とともに目の前の山に落ちた。


 急いで走り出す。


 ウへへへッ!

 こんなチャンスは滅多にないぞ!


 え? 

 なにをそんなに興奮してしているのか、だって?


 おいおい!

 流れ星が落ちて来たんだぜ!

 神秘が落ちて来たんだぜ!

 そりゃあ興奮するってもんよ!


 急げ!

 俺が第一発見者になるんだ!


「このへんだったよな」


 結構大きかったはずだ。

 すぐに見つかるだろう。


「見えるものは真、あるいは光。我に従え」


 呪文を詠唱して光源を作り、辺りを照らす。


 あった!


 ボコボコとした窪みがたくさんある巨大な岩。

 間違いない。


 ああ天よ!

 我に啓示を……。


 ビキビキッ


 え?


 岩に亀裂が入り、どんどんと崩れていく。


 ま、まだ触って無いのに。

 まだ神秘に触れて無いのに。

 そんな俺の思いとは裏腹に、岩は崩れきってしまった。


 ああ、せっかく神秘が。

 と思ったが、何か残っている。

 いや、何かがいた。


 人だ。


 恐る恐る近づいてみる。


 間違いない

 人間だ。


 それも男。

 年は俺と同じぐらいだろうか。

 てか、めっちゃ美男子じゃね?

 危うく惚れそうになったんだけど。


 いやいや。

 そうじゃない。


 青年の上半身を起こし、肩を叩きながら呼びかけてみる。


「おーい、聞こえますか?」


 数回呼んだが反応がない。

 脈は、ある。

 死んでるわけではないようだ。


「よいしょ」


 俺は青年を背負った。


 とにかく、街まで運ばなくては。


 結構重いが、大丈夫。

 山育ちだからこれぐらい慣れてる。



-----



 街へ向かっていると衛兵たちに出会った。

 流れ星の件で調べにきたらしい。


 まあ、あんだけでっかい音がしたんだ。

 俺以外にも気付く人は大勢いただろうな。


 衛兵たちに事情を説明すると街に入れてくれた。


 まあ、意識不明の青年と、その青年を救おうとした人をほったらかしって訳にはいかないもんな。

 俺を追い返した衛兵も「なにかあった時の責任は私がとる」っていってたし、真面目な奴なんだろう。


 俺はすぐにばあちゃんの友人のところに行こうとしたが、


「日が明けたらにしなさい。今晩は二人とも教会にいるように」


 と言われたので、今日は教会でお泊りだ。

 こうしてオストロル最初の一夜が終わった。


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