026 また会う日まで
「村の皆さん。今までお世話になりました」
ついに旅立ちの日がやってきた。
朝早くだというのに村のみんなが総出で見送りに来てくれた。
姉さんの姿だけ見えないが。
「本当に行くんだね」
「はい」
「でもいつか戻ってくるんだろ?」
「はい、必ず」
こんだけのことをしてくれたんだ。
必ず恩返しをしにくるよ。
「俺が生きているうち戻ってこいよ」
「いやいや、あなたの方が長生きするでしょ」
「そういやそうだな。ガハハハッ!」
長寿ジョークで場が和んだところで、出発しますか。
村の入り口で師匠とパーキングさんも待っているしな。
「では、いってきます!」
「「「いってらっしゃーい!!」」」
馬車に向かって歩き出す。
背後から感謝の言葉や激励の言葉が聞こえる。
天気も晴れ。
いい旅立ちだ。
さて、感謝を伝えなければならない人はまだいる。
馬車に荷物を積むと、村の入り口で立っている師匠に近づき屈んだ。
「師匠、今まで――」
「まあそれは待て。それより旅費の話なんだがな」
え~。
今の流れは気持ちよくお礼言わせてくれよ。
まあ大事な話だけどさ。
ここからクリストロフまでパーキングさんの馬車に乗っていくわけだが、当然タダというわけにはいかない。
向こうも商売で来ているわけだしな。
村の人たちが出すと言ったのだが、お断りした。
さすがにそこまではね。
「昨日も言いましたけど、ちゃんと働いて返します」
「いや、それはもういいんだ」
パーキングさんはそう言うと、荷車の中にあった袋を開けた。
そこには大きな石のような物体が大量に入っていた。
「これは飛竜の鱗だ。こんなものを捨てるなんて勿体ない!だから私が君から買い取らせてもらったよ」
「それって」
「聞くところによると君がこの飛竜を倒したそうじゃないか。つまりこれは君の物なんだ。そうでしょう?長老さん」
ニヤッとして師匠の方を見るパーキングさん。
師匠は鼻で笑っている。
「すみませんねぇ。商売になるものには目がないんです。でもあなたにとっても悪い話ではないでしょう?なんなら小金貨2枚のお釣りも出るんです。あ、一応こちらにサインを」
確かにこちらとしては旨い話だ。
小金貨2枚は普通にありがたいしね。
「取引は終わったかい?それならこっちも話があるんだ」
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鱗の売買の契約書にサインを終えた後、よく師匠と魔術の勉強をした岩場に連れてこられた。
「せっかくだから、とっておきの魔術を教えておこうと思ってな」
杖を置いて、岩の上に力強く立つ師匠。
「ゼオ君。これからの旅、強敵と出会うこともあるだろう。そのためには先人たちが作った強い魔術も知っておくべきじゃ。だから今から2つの魔術を一度だけ見せる。それを見て自分のものとせよ。これが儂からの最後の試練だと思え」
俺は静かに頷いた。
師匠は右手を掲げると詠唱を始めた。
いつか教えてもらった言語ではない音の高低だけの詠唱。
その数秒間の詠唱が終わると、バチッという音とともに黒い槍が現れた。
槍とてつもない速度で回転していて、頻繫に火花が散っていた。
「これが『竜殺しの槍』だ。魔力はかなり消費するが、その分威力は絶大。これが竜の鱗を貫く伝説の魔術よ!」
師匠はそう言うと槍を投げた。
槍は周囲の空間を歪ませながら、はるか遠くに飛んでいった。
「次はこれだ」
握り拳を作り詠唱する。
すると拳が金色に光出した。
師匠が腕を動かす度にヒュイン、ヒュインと妙な音がする。
「『黄金の拳』だ。これはただ光っているだけではない。触れた物に衝撃を与え破壊する。まあ単純に言えば、徒手での攻撃力が上がるな」
師匠から教わった2つの魔術。
確かに受け取りました。
「これを、どうするかは、お前さん次第、だな。ふぅ」
息が切れかけている師匠。
少々足元もおぼつかない。
でも目には力が入っていた。
「では、行ってきます」
「うむ」
跪いて師匠を抱きしめる。
師匠も腕を回してきて、背中をポンポンと叩いてきた。
言いたいことは沢山あるが、もう多くを語る意味もないだろう。
だから俺は最後に一言だけ伝えた。
「今までありがとうございました」
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馬車が出発する。
ついに村を離れるのだ。
「だいたい20日間かかる。それまではゆっくりしていてくれ」
手綱をとるパーキングさん。
ザ・商人って感じで様になっている。
一方俺は荷車の中でゴロリ。
荷車の中には色んな箱や袋があるが、工夫すれば寝れないことはない。
快適な空間とは言えないが、なかなかワクワクするシチュエーションではある。
商人の荷車に乗って旅立つ勇者。
いいじゃないか。
「ん?」
ふと荷車の中を見渡していると妙な袋があった。
他の袋とは違い、丁寧な刺繡がされている。
しかも口に何やら紙が巻き付けてある。
よく見ると「ゼオ君へ」と書かれてあった。
まさかと思い、紙を広げた。
『ゼオ君へ
多分私は出発の時、見送りに行かなかったと思います。ごめんなさい。でも許して欲しい。もしもう一度あなたの顔を見るようなことがあれば、私はあなたを引き止めてしまうでしょうから。
三年間、とても楽しかったです。それだけにあなたのいない生活はつらいものとなるでしょう。でもそれはあなたも同じでしょうし、あなたが選んだ道だから私も応援しようと決めました。そういうわけで私からあなたに贈り物があります。旅の役に立てば嬉しいです。
まず『レティシア特製手袋バージョン2』。愛をこめて作りました。以前の魔術剣と魔弓に加えて、両手から二重魔術結界が出るようにしました。手のひらを合わせれば四重立体魔術結界になります。魔法陣の位置が複雑でややこしいでしょうが、あなたなら使いこなせると信じています。
次にコートです。特に細工などはしていませんが、吹雪の中でも暖かく感じることでしょう。お体を大切にしてください。
そしてネックレスです。山道を歩いていたら偶然にも綺麗な石を見つけたので、丸く磨いてネックレスにしました。
あとついでに私がよく着ていた服も入れておきました。
昨日の夜、あなたは「必ず帰ってくる」と言いましたね。男は約束を破らないものだと母から聞きました。約束、守ってくれますよね?あとなるべく早めに帰って来てください。他の男に盗られても知りませんよ。
では、またいつか会いましょう。 レティシアより
追記
実は昨夜、自白剤と媚薬を混ぜた薬をあなたに盛っていました。ごめんなさい。でもちょっと尋問しているみたいで楽しかったです。一番聞きたかった言葉も聞けたし、私は大満足です。あと当然ですが、記憶がなかったからってあの発言は無効になりませんからね!!』
なんだよこの手紙。
やたらとかしこまっちゃってさあ。
こんぐらいのこと直接言いに来いっての。
「ぷっ、うふっ……アハハハハ!」
ダメだ。
あの姉さんが真剣な顔をしてこんな堅苦しい手紙を書いたと思うと、面白くてしょうがない。
笑っちゃダメなんだろうけど、我慢できない。
だいたい自分の服を贈るってなんだよ。
「なにか面白いことでも書いてあったんですか?」
パーキングさんが尋ねてくる。
「いやあ、別になにもないですよ」
「そうですか。泣くほど笑っていらっしゃたので」
「うん。ちょっと面白すぎてね」
俺は涙を拭うと手紙を綺麗に折り畳み、それをポケットに入れた。




