表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/90

024 最後の使者


「師匠。今日もよろしくお願いします」

「うむ。では始めようか」


 冬の涼しさも完全に消えたある春の日の午後。

 最後の稽古が始まった。


 師匠が最後と言ったわけではない。

 俺が「今日で終わらす」と宣言したわけでもない。

 期限が来たわけでもない。

 でも今日が最後。

 そんな気がする。

 きっと師匠もそう感じているだろう。


 剣と杖が交わり、激しい攻防が続く。

 流水派の技で剣撃を受け流す。

 魔術剣との二刀流で攻める。

 離れれば弓で打ち抜く。

 魔術鎖で隙を潰す。

 今までの糧の全てを師匠にぶつけた。


 気付けば90回を超えていた。

 俺は焦らずに攻め続けた。

 91…92…93…94……

 そして98回目を迎えた時だった。


 バリン


「えっ?」


 突然、不快な音が響く。

 師匠の防護膜が破れたのだ。


 俺は攻撃を止めた。


「ごふっ…」


 倒れかかる師匠。

 俺は剣を捨て駆け寄り、師匠の身体を支えた。


「大丈夫ですか師匠!」

「うう…」


 ダメだ力が入ってない。

 取り敢えず寝かさないと。


 師匠を抱き上げ、近場の岩の影に寝かせる。

 ヒューヒューと呼吸しづらそうにしていたが、だんだん整ってきた。

 よかった…。


「・・・じゃ」

「え?」


 師匠が俯いたまま何かを言った。

 そしてグッと顔を上げてこう言った。


「っかぁ~!完敗じゃあ!・・・ゲホゲホ」

「師匠、息が整っていないのに大声出しちゃだめですよ」


 咳き込む師匠。

 苦しそうな顔をしているが、口角は上がっている。


「ふぅ・・・100は行かなかったが、まあ合格でいいじゃろう」

「いいんですか!」

「うむ。儂に回復の隙を与えなかった立ち回りも良かった」


 立ち上がろうとする師匠。

 まだ足がおぼつかないので支えてあげた。


「だが!これで儂に勝ったなどと思うなよ」

「フラフラしながら言っても説得ないですよ、それ」

「カカッ!言いよるわい!」


 口ではそう言ったものの、実際は師匠の言う通りだ。

 なんせ師匠は魔術を使ってないんだから。


「ま、帰ろうか」

「そうですね」


 目標も達成できたし、師匠もお疲れのようだ。

 俺もこのことを姉さんに早く伝えるとするかね。

 きっと喜んでくれるだろう。

 夕食も豪華になったりして。


「ああ、そうじゃゼオ君」


 師匠が呼びかけ足を止めた。


「いや、まあよいか・・・」


 なんでもないと手をパタパタとふる。

 大した話ではなかったみたいだ。

 それならさっさと帰って、ってあれ?。

 師匠が憂いを帯びた顔をしたまま俯いている。


「師匠」

「あっ、そうじゃな、早く帰るか」


 苦笑いしながらそそくさと歩こうとする。

 これは、なんかあるな。


「あの、師匠」

「なんじゃ?」

「話してください」


 少しビクッとした。

 顔を覗き込もうとしても目を合わせようとしない。


「いやぁ、君には関係ないことじゃ」

「それでも」


 俺は師匠の前に屈んだ。

 がっちりと肩を掴み、目を合わせた。


「それでも、聞かせてください」


 師匠の口が微かに動いた。

 しかしその後、グッと閉じた。

 そして深呼吸をして俺にこう言った。


「帰ったら、伝えたいことがある」


 太陽が沈みゆく中、そう言った。

 真剣な表情だった。


「わかりました」



 俺は師匠を背負って村まで帰って来た。

 妙な心地だった。

 そりゃそうだ、あのプディオ様を背負ったんだから。

 ものすごいことよ。

 でも重さは感じなかった。

 その身体は不気味な程に軽かった。



-----



 師匠の家につき二人っきりになったところで、師匠はゆっくりと話し始めた。


「君は『使者』を知っているかね」 

「シシャ?」

「ああ。言伝や重要な物を運ぶ人、あるいは役職のことだ」

「それなら知っています」

「儂はな、君に『最後の使者』になって欲しいんじゃ」

「え」


 驚いた。

 俺が最後の使者になるだって?


「本気ですか?」

「もちろん」

「師匠のいう使者って、ただの使者じゃないですよね」

「そうだ」


 使者。

 もちろんさっき師匠が言ったような役職のことだ。

 でもそうじゃない。

 師匠のいう使者とは、特別な使者のことだ。


 例えば、

 セイエナ大戦の真実を知るとされる『最初の使者』。

 数学者であり、この世の仕組みを解明したと言われる『神界の使者ラプリエス』。

 旧都ロニアの秘密を知る『棺の使者』。

 世界のバランスを破壊する『混沌の使者』。

 全ての戦いを終わらせる『凱旋の使者』

 ・・・など。

 ラプリエス以外は実在したのかも怪しい最早神話上の人物たち。

 歴史や英雄譚に詳しくない俺でもこれぐらいは知っている。

 それぞれがこの世を乱しかねない真実を内に秘めており、時が来ればその真実を世界中に告げるとされている。


「君は『星の子』の真実を知っている。使者としてその真実を世界に告げて欲しいのじゃ」

「真実・・・」

「星の子は災厄を呼ぶ、そう伝えて欲しい」


 確かに、ジェネスもといマサキの秘密を知るのは俺と師匠だけ。

 本当に奴が災厄を呼ぶのなら、それはこの世を乱す真実である。

 つまりこの俺には『使者』になる資格があるということだ。

 いや、この件に関しては俺にしか資格はない。

 俺がやらなければならない。

 

「でも、なんで最後なんですか?」


 師匠は小さく頷いて、こう言った。


「本来、この世に秘密などあるべきではないのだ。誰か一人だけが知っている真実などあるべきではないのだ。儂はそう思っている」


 なるほどね。

 まあ概ね同意だな。


「だから使者など要らないのだ。君で最後にしたいのだ」

「それなら、僕に使者と名乗れというのはおかしいのでは?」

「ははっ、そうじゃのう」


 「君ならそう言うと思った」と言いたげに苦笑いする師匠。

 

「その通りじゃ。その通りなんじゃが、それでもゼオ君に使者になって欲しい」

「はぁ」


 おそらく理屈を超えた何かがあるのだろう。

 むしろ師匠の個人的な願いかもしれない。

 俺に対する想いなのかもしれない。


「それとも、使者になるのは嫌かね?」

「いえ。嫌ってわけじゃないんですけど・・・」


 なんと言ったらいいのか。

 俺に務まるのかどうかを悩んでいるわけじゃない。

 俺にしかできないんだし、やるしかない。

 元よりそういう約束だった。

 だけど引っかかる。

 しいていうなら・・・。


「なんか違う、って感じですかね」

「ほう」

「まだ2,3日ありますよね。ちょっと考える時間をください」

「・・・わかった。ゼオ君の人生に関わることだ。しっかりと考えなさい」


 そういう師匠の顔は少し優し気に見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ