022 大人
目が覚めた。
優しげな日光が差し込んでいる。
小鳥のさえずりが聞こえる。
いい朝だ。
しかし、右頬に違和感がある。
なんだこれは。
俺は頭を右へ向けた。
プニッ
「おはよ、ゼオ君」
「……ふはようほはいまふ」
「うふふっ」
そこには天使がいた。
天使が俺の頬をつついている。
おお、なんて素晴らしい朝なんだ。
「……ふぅ」
俺は仰向けになり、天井を見た。
いつも通りの景色だ。
全裸の姉さんが横にいることを除けば。
やっちまった。
誘ったのは向こうとはいえ、がっつりいってしまった。
今からでも言い訳できるだろうか。
「これは何かの間違いで~」って。
いやもう無理だな。
横を見ると姉さんが俺の腕に抱きついている。
まるで夢でも見ているかのような優しい表情をしている。
はぁ……。
言い訳するなゼオライト。
潔く認めよう。
俺はレティシア姉さんのことが好きだったんだ。
何のことはない。
2年間ずっと一緒に暮らして来たんだ。
お互いのことはよく知っているし、助け合ってきた。
そこに愛が生まれるのは当然と言っていいだろう。
だが俺はその感情から目を背けていた。
いや、気づいていなかった。
まあ今となっては、三つの理由が思いつく。
まず、姉さんはエルフだということ。
今まで何度か姉さんから好きだと言われたことがあった。
もちろんそれは本心だろうし、俺も同じ気持ちだった。
だがそれは「愛」であり「恋」ではない。
そもそもエルフは人間と違い結婚をしない。
そうなれば恋という概念を知らない可能もある。
異性に対して好きだと言い、身体を重ねることがどれほどのことなのか知らないのかもしれない。
次に、身体のこと。
はっきり言って姉さんはまだ子どもだ。
100歳になった?
大人になった?
エルフの中ではそうなんだろう。
でも、彼女の身体はどうみても12歳…多めに見ても14歳ぐらいにしか見えないのだ。
俺ももうすぐ18になる。
人間としては体裁が悪いのだ。
それに、こんな小さな身体に自分の欲を吐き出してしまって良かったのだろうか。
今でも少し後悔している。
そして、ユナのことだ。
誰も信じてくれないだろうが、俺はまだユナのことを気にしていた。
いや、多分ユナのことも好きなんだ。
てか俺、ユナのことをほったらかしで何してんだろうな……。
「もう。何考えてんの?」
「いや、別に…」
「ていうか、いつになったらおはようのキスくれるの?」
エルフにもそういうのあるのか。
「はあ…。もうこっちからしちゃうね!」
俺の顔を掴んで強引に引き寄せる。
唇が軽く触れる。
「ん……ぷは」
短いキスだった。
そうだな、今はこれでいい。
今はこの幸せを噛みしめておこう。
そうだ。
俺は起き上がり、鞄の中を探った。
姉さんにあれを渡すのを忘れていたよ。
「はい姉さん。100歳の誕生日おめでとう」
「え、首輪?キラキラしてて綺麗…」
稽古終わりに山道を歩いていたら偶然にも綺麗な石を見つけた。
それを丸く磨いたものをネックレスに加工したのだ。
姉さんはそれを急いでつけて見せてくれた。
胸元の玉がキラッと光る。
「似合ってます」
「えへへ! ありがとう」
さて、ずっと裸でいるのもなんだし服を着ますか。
いつ誰が覗きにくるかわからんし。
着替えは一瞬で終わった。
通気性だけじゃなく、脱ぎ着が簡単なのもイーデの特徴だ。
お陰で昨夜もスムーズに…ってそれはいいんだ。
振り向くと姉さんも服を着終わったところだった。
そして俺にこう言った。
「それで、式はいつする?」
「はい?」
「え、結婚式」
……なにを言っているんだこの人は。
「あれ?今のって人間のプロポーズってやつじゃないの?」
「なるほど。姉さん勘違いしてますね」
どうやら人間の風習が間違って伝わっているらしい。
訂正しとかないと。
「お揃いのネックレスの片方をプレゼントするのがプロポーズです。今のはただのプレゼントです」
「じゃあゼオ君はこれ持ってないの?」
「そうですね。世界に一つだけのネックレスですね」
「なんだぁ」
まあ実際ちょっとややこしかったか。
とは言っても、親密な未婚の女性に贈るのは磨かれた石のネックレスと相場が決まっている。
宝石が付けばそれ以上の意味を持つことになるが。
でも結婚か。
姉さんにはその気がある?
いや、変なことは考えるな。
俺に結婚はまだ早い。
ふぅ、なんか喉が渇いてきたな。
桶を覗くと空だった。
夜に飲みつくしてしまったか。
しょうがない。
下まで降りるのは面倒だし、魔術で出すか。
俺は水を出現させる詠唱を行った。
ボシャっと水が手の中で弾けた。
服がびしょびしょになった。
魔力を込めすぎたみたいだ。
……違う。
これはまさか!
「姉さん、ちょっと外出て来る!」
「え? あ待って私も行く!」
家を飛び出てツリーハウスを駆け下りていく。
途中でロープを使ったりして最速で下りていく。
草をかき分け村の外へ走る。
とにかく、とにかく早く試してみたい!
必死に走って湖近くの空き地に出た。
姉さんも息を切らしながら走ってきた。
「急にどうしたの?」
俺は無言で空に手を掲げた。
そして詠唱すた。
掌から炎が出る。
炎が打ちあがる……。
次の瞬間、轟音とともに炎が拡散し、火の粉が飛び散った。
「なに今の。新しい魔術?」
「いや、ただの火炎弾だよ」
「火炎弾って、こんなおっきく爆発したっけ」
「いや、いつもよりちょっと力を込めただけだ」
上を向いていた姉さんがこっちを見た。
驚いているような顔から、だんだんと笑顔になっていく。
「ゼオ君すごい!」
駆け寄って抱きついてきた。
俺も抱きしめ返した。
まさかこれほどまでに効果があるとは。
「性行為をすれば魔力量が上がる」。
正直疑っていたが、本当だったようだ。
体感ではあるが、魔力の最大出力が2倍、魔力量が3倍になっている気がする。
今まで扱えなかった魔術も使えるようになるだろう。
これが大人になるってことか。
てか、なんか姉さんからいい匂いするんだけど。
そしてこの感覚は……。
「ゼオ君……。あの、お腹に……」
やばい。
昨夜と同じ感覚になってきた。
そういえば、今姉さんの髪に塗っているオイルには異性を発情させる効果があるんだったか。
でも何かと組み合わせないと意味がないはず。
「い、いつまで抱きついてるの?」
姉さんの反応を見るに、どうやら無意識のうちに効果が出てしまっているようだ。
となれば、あれしかない。
「ちなみに姉さん。なんで昨日の夜走って帰って来たんですか?」
「え?あ~、早くゼオ君の顔が見たいなって」
「ほんとに?」
「うん。ほんとだよ……。うん」
分かりやすい人だ。
「汗か」
「へ?な、なんのこと?」
あのオイルは汗と反応することで効果を表すのだろう。
そうならば今の状況にも説明がつく。
「てか、昨日の出来事は計画通りってことですか」
「えへへ、バレちゃった」
なんだこいつ、俺のこと好きすぎでしょ。
どのくらい好きで、どういう感じの好きなのかなんてもうどうでもいいわ。
俺は姉さんを抱き上げた。
「えええ!いきなりなに?」
「ここじゃ人目があるので…」
「うえぇ……や、優しくしてね?」
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目が覚めた。
木々の間から赤い夕陽が差し込んでくる。
って、この下りはもういいか。
寝転がっている俺の上に、服がはだけた姉さんが寝ている。
起こすのも可哀想だし、しばらくこのままにしておくか。
しかし、改めて見るとほんとかわいいよな。
100年後ぐらいにはすごい美人になっているだろう。
その時にはもう死んでいるけどね。
魔力量は、上がっていない。
やればやるだけ上がっていくわけでもないようだ。
はあ…
何か忘れている気がするが、まあいいや。
俺ももう少し寝よう。
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一方その頃。
「あいつ、遅いな」
師匠は一人寂しく、弟子を待っていたとさ。




