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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星

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021 ビジョー


 ついにこの日が来た。

 エルフの100歳の誕生日を祝う祭り、ビジョー。

 村の修復工事のことあって、広場に造られた会場はちょっと傾いている。

 見栄えは決してよくないが、無事開催できただけ良しとしよう。

 それにオウの花も満開で花びらはフワフワと舞っている。

 人を祝うにはもってこいだ。


 今はみんなで円になって姉さんを待っているところ。

 食事、というか菓子のようなものが振る舞われているので頂いている。

 祭りと言ってもれっきとした儀式。

 流石に厳粛な雰囲気で行われると思っていたが、結構ラフな感じだ。

 エルフらしいっちゃ、らしいが。



 少し、あの事件の後の話をしよう。


 俺は結局今日まで家の中で安静。

 祭りの準備の様子を見ることは出来なかった。

 でも姉さんが帰ってきてから話してくれたのでだいたいはわかった。

 それに身の回りの世話もしてくれたので、回復も早かった。

 なんとしてもビジョーに参加して欲しかったようだ。

 ありがとう、姉さん。


 一方、村の方には大きな問題が残っていた。

 飛竜の死体の処理だ。

 村の中心にドンと横たわっていた上に、血が飛び散りまくっていた。

 相当処理は大変だったようだ。

 結局、飛竜をなんとか村の外まで運び、山の近くに埋めたらしい。

 飛竜の鱗は高値で売れると聞いているので勿体ない気もするが、エルフは金に興味がないのでどうでもいいのだろう。

 人間って愚か。


 しかし、なんで飛竜がこんなところまで?

 縄張りに入ったわけでもないし、誰かが攻撃したわけでもないだろう。

 それに俺が駆け付けた時には、かなりのダメージを負っていた。

 普通は逃げてもおかしくないはずだ。

 そこまでして村を破壊したかったのだろうか?



 そう考えていると、歌声とともに音楽が流れ出した。

 木の棒を並べて叩く楽器の音、笛の音色、太鼓の音。

 さらにはどこからか鈴の音も聞こえてきた。

 

 突然、派手な衣装を着た男たちが立ち上がり踊りだす。

 なるほど、足に鈴を付けているのか。

 踊りが即音楽になると。

 こういうのは人間の方では見たことないな。

 また踊りといっても優雅なものではなく、力強い印象を受ける。

 大地を強く踏みしめ、天を仰ぐような踊りだ。

 歌も踊りと同様に覇気がある。

 讃美歌とは違い、しきりに「ハッ」「ホッ」っと叫ぶ。

 そういう息づかいで自然と会話するそうだ。


 音楽が止まり、踊りがひと段落着いた。

 すると奥から台に乗った姉さんが男4人に運ばれながら出てきた。


「おお……」


 思わず唸った。

 それぐらい綺麗だった。


 服は普段のイーデよりもさらに派手になっており、露出度もちょっと高くなっている。

 首にはこれでもかというぐらいの石の首輪。

 頭には羽がたくさん着いた冠をかっぶっており、男たちの動きに合わせて揺れている。

 また両頬には赤い二本の横線が描かれている。

 独特なメイクだ。


 姉さんは円の真ん中につくと、台から降りた。

 地面に足がつくとシャンと鈴の音がなる。

 姉さんを運んでいた男たちは捌け、再び音楽が流れてくる。

 メインイベントの始まりだ。


 姉さんは両手を広げ、ジャンプした。

 片足で着地し、再びジャンプし、逆の足で着地する。

 これを繰り返す。

 衣装を着た男も踊りだした。

 鈴の音が何度も鳴る。

 それが音楽と共鳴した。


 妙な感覚がした。

 音が身体に染み込んでくる。

 骨が振動し、心臓も音楽と共鳴する。

 そんな感覚だ。


 暖かい日差しに照らされ、花びらが舞いながら降ってくる。

 そして下からは突き上げるような音の衝撃。

 俺は今まさに、自然と共鳴しているのだ。



-----



 祭りは案外早く終わった。

 メインイベントである姉さんの舞いが終わると解散。

 あとは自由に料理を食べて…という感じ。

 あっさりしてるが、人間の成人式も同じようなものなのだろうか。


 いや、時間の長さは関係ない。

 大切なのは密度だ。

 実際俺も時間を忘れて姉さんの舞いを見ていた。


 で、肝心の姉さんなのだが……。


「遅いな、帰ってくんの」


 今日姉さんと会ったのは朝とビジョーが終わって食事している時だけ。

 しかもどっちも一瞬だった。

 早く色々と話がしたいものだ。


 ……思えば、姉さんと会話をしなかった日はなかった。


 ここに来たてのころは俺が警戒していたこともあり、夕食の時間だけ一緒だった。

 それからゲームをするようになったり、畑仕事を手伝ったり。

 まあ、自然と一緒にいる時間は増えた。

 一年後にはほぼ同居と言っていいぐらい家に居たな。

 何度も同じ屋根の下で寝たし。


 もし姉さんがいなかったら、俺はこの村に馴染めていたのだろうか。

 無理だったかもしれない。

 そう思えるほど姉さんの存在は俺の中で大きくなっていた。


「ゼオ君ただいま!」

「うわ!」


 噂をすればなんとやら。

 姉さんが走って帰って来た。


「どうしたの?」

「いや、いきなりだったのでビックリしただけです」

「あ、そう」


 服はいつも通りの物に戻っているし、メイクも落ちている。

 今日の衣装のまま帰ってくるんじゃないかとちょっと期待していたが、残念。

 細かいところまで見たかったのに。


「それより、今日どうだった?」

「楽しかったですよ」

「ふーん……ならよかった」


 俺の返答に少しガッカリしている様子。

 まあなんて言って欲しかったのか大方予想はつく。


「あと……とても綺麗でしたよ」


 姉さんは少し睨んで、脇腹をつついてきた。


「んもー、それを先に言うの!」

「そういうものですか。ごめんなさい……フフッ」

「絶対わかっててやったでしょ!」


 大人になってもおてんばな性格は変わらないようだ。

 そっちの方がいい。

 俺は姉さんの……。


「そういうところが好きで、愛おしく感じるんですよねぇ」

「え?」


 おっと。

 どうやら口に出ていたようだ。

 まあいいや。

 

「……ゼオ君は、私のこと好きなの?」



 ちょっと待て。

 なんかおかしいぞ。

 めっちゃ頭がフワフワする。

 思考が変になっている気がする。


「ねえ、どうなの?」


 姉さんが詰め寄ってくる。

 取り敢えず答えなきゃ。 


「……好きですよ」


 ちがーう!!

 さっきから何を口走ってんの俺は?

 確かに姉さんのことは好きだが、あの言い方の答えとしては間違っている。

 いや、間違ってるのか?

 

「ゼオ君」


 気付けばすぐ隣に姉さんがいた。

 俺の手に指を絡めてくる。

 そして目を合わせた。


「私も好き」


 多分違う。

 ()()()()好きとは違う。

 勘違いするなよ。


「そうですか」


 なんとか振り絞って答える。

 頭がどうにかなりそうだったが、頑張った。


 と、なんとか気を確かにしようとしていると、姉さんがもたれかかってくる。


「じゃあさ」

「はい」

「私もう大人だから」

「そうですね」


 姉さんは俺の手をギュッと握った。


「だからね、……しよ?」



 いつの間にか姉さんを押し倒していた。

 肩を掴んで馬乗りになっている。


 正直興奮している。

 それはもうえらいほど。

 でも、言わなければならないことがある。


「それは、無理です」


 ダメなんだ。

 何故かはわからないが、ダメな気がする。

 言語化できない。

 よくわからない。

 心臓に針が刺さっているようなこの感覚をなんと伝えればいいんだ。


「それ、押し倒してる人が言うセリフじゃないよね」


 もっともなことを言われた。

 何も言い返せない。


「素直じゃないなぁ…。ま、いっか」


 姉さんは俺の襟元を掴むと、勢いよく引き寄せた。

 顔が、近い。


「さっき好きって言ったのは噓だよ」


 腕を首に回してくる。


「ほんとはね、大好き」


 そう言った直後、二人の唇が触れた。


 俺の理性は吹き飛んだ。




-----




 オステル砂漠。

 深夜にもかかわらず、その中心部に一人の男が立っていた。


「うむ。流石に多いな。冒険者ギルドも手を焼くわけだ」


 彼は『神封じの英雄ストロマイト』。

 そう呼ばれている。


「魔神たちよ。何故そう躍起になっている」


 彼の後ろには大きな塊があった。

 それは彼が半日に渡る激闘の末に打ち倒した巨大ワーム、『砂の魔神アブテビ』だった。


「うーむ…。これも奴の影響か」


 ストロマイトはワームを蹴り、まだ生きていることを確認すると鞄から依頼書を取り出した。

 そしてそこに「討伐完了」と書き込んだ。


「これに懲りたらあと100年は静かにしてくれよ」


 彼はそう言うと、北へ歩を進めた。

 しかし直ぐに立ち止まり、西の方をじっと見た。

 そこには何もなく、ただただ砂漠が広がっている。


「悪いな。お前とは戦わん。お前を殺すなんて俺には出来ん」


 そう言うと、再び歩き始めた。



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