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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星

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018 祭りの準備


 ついにオウの花が咲いた。

 一年の始まり、春が来たのだ。


 つまり姉さんは100歳になったというわけ、ではない。

 ビジョーが行われるのは十日後で、それが終わって初めて100歳になるのだ。

 なぜ十日後なのかというと、オウの花が満開になるのが十日後らしい。


 この村では4年ぶりとなるビジョー。

 今回の該当者はレティシア姉さんただ一人だ。

 しかし一人だけだからといって規模が縮小したりはしない。

 早速女性たちは儀式のための衣服を縫い始めているし、男性は姉さんを運ぶための荷台のようなものを作っている。


 そう、この十日間は盛大な祭りのための準備期間でもあるのだ。

 だからみんなせっせと仕事をしている。

 そして、


「おーいゼオく~ん!こっちこっちぃ!」


 俺も忙しくなりそうだ。



-----



 本来なら俺も男衆に混じって力仕事をする予定だったのだが、姉さんの提案で彼女の付き添いをすることになった。

 ぜひエルフの文化を体験して欲しいのだと。

 こんな重要なイベントを間近で見られる機会なんてそうそうないだろう。

 もちろんOKした。


「えへへぇ~。いっつも師匠に取られてたけど、今日はゼオ君を独り占めできるね!」


 この前も相手してあげたじゃないですか。

 それに他にも女の人いっぱいいるし。



 さて、まずは川に来た。

 洗髪をするそうだ。

 もちろん、ただの洗髪ではないらしい。


 女性が川の浅瀬に椅子を置き、姉さんに座るように言った。

 姉さんは川に近づき、服を脱ぎ始めた。


 うわお。


 早速ですか。

 エルフのことだから絶対裸になるイベントがあると思っていたが、いきなりきたな。

 真正面から見るのもあれだし、後ろから見ますか。

 いくら幼子の身体とはいえ、レディの裸をまじまじと見るのはよくないしな。

 まあ向こうは何とも思ってないんだろうけど。


「あれぇ~。ゼオ君まだ恥ずかしがってんの?私の裸なんて何回も見てるじゃん」


 やっぱりね。


「レティシア。今は儀式に集中しなさい」

「は~い」


 確かに水浴びとかでお互いの裸を見たことはあるが、あれは偶然だ。

 それと正面からまじまじと見るのはわけが違う。

 あと恥ずかしいわけじゃない。

 断じて。

 ちょっと気まずかっただけだ。


 なんて言い訳にもならないことを考えていると、姉さんは椅子に座った。

 すると女性が一人ずつ手に水を汲み、姉さんの頭にかけ始めた。


「あれはね、水の精霊に守ってもらうための儀式なのよ」


 隣に立っていたお姉さん、この村で畑の長を勤めているエルタナさんが解説をしてくれる。


「私たちが自然を崇拝しているのは知っているでしょう?

 山や川、木、葉の一枚一枚に至るまで、すべてを崇めているの。

 今日は川に来て水の精霊の加護を得る儀式をしているけど、

 明日は木、明後日は火、それから土、鉱石の順に回っていくわ。

 こうやって全ての精霊を巡って信仰を告白し、自然との同化を願うの」


 ほうほう。

 興味深い話だ。

 せっかくなので手記にしたためておこう。

 でも気になる点がある。


「自然との同化というのは、どういうことですか?」


 エルタナさんは「そうね……」と少し悩んだ後に俺の質問に答えた。


「あるべき姿に戻る、あるべき場所に還る、簡単に言うとこうかしら」

「えーっと、自然こそがエルフの故郷である、って感じですか?」

「そうね!」

「つまり、死ねば自然そのものになると」

「やっぱりあなた賢いのね。その認識であってるわ」


 我々人間の多くは天を信仰しており、今自分が生きているのは主神のおかげだと思っている。

 そして死ねば天に召される。

 一方エルフは、自然から自分たちが生まれ、死ねば自然に還ると信じている。


 これ、エルフの方が理にかなっているんじゃないか?

 死んで土葬されれば身体は土になるし、そもそも自然がなければ俺たちは生きることはできない。

 魔術も天からの贈り物かどうかもちょっと怪しくなってきたし。


「ほら。あんたの番だよ」

「え?」


 エルタナさんが手招きをしている。

 俺も水をかけろってことか。


 川に足を入れる。

 まだ少し冷たい。

 俺は手に水を汲み、姉さんの前に立った。

 姉さんは目をつぶっていたが、チラッと片目を開けて微笑んだ。

 からかっているのだろう。

 さっき集中せいと怒られてたのに何やってるんだか。

 本当にこれで成人したといっていいんですかね?


「水をかける時はね、その人の未来を想うのよ」


 姉さんの未来か。

 まあでもこの手の類のものは一つしかない。


『姉さんが幸せになれますように』


 姉さんの頭上でそっと手の緊張を緩める。

 水は髪と身体を伝い、あっという間に川に還った。


「ではオイルを塗りましょうか」


 俺が川から出ると、女性たちが手にオイルを塗り、姉さんの髪をとかし始めた。


「あのオイルは特別製なのよ。いつも使っているものとは違うわ」


 再び解説してくれるエルタナさん。


「いつもは植物性のオイルですよね」

「あれもそうよ。でも……ほら、香ってきたわ」


 確かにいい香りがしてきた。

 この感じは……。


「花、ですか?」

「正解。あのオイルには花弁や蜜も混ぜてあるの。いつもと全然違うでしょ?」


 香水のような甘い香り。

 でもしつこくなく、ずっと嗅いでいられるような。

 なんだか気が抜けそうだ。


「エルフはね、100歳になったらあのオイルをつけていいの。私も今つけているわ。流石にあそこまでいいものじゃないけど」

「子どもの間はつけちゃダメなんですか?」

「そうね」


 ちょっとだけエルタナさんに近づき、匂いを嗅いでみる。

 同じような匂いがした。

 ただエルタナさんの言う通り、効力はあっちの方が上だろう。

 離れていてもこんだけ香ってるからな。


「ちなみになんで子どもはつけちゃダメなんですか?」

「それはね、男が欲情しちゃうからよ」


 ……聞かなきゃよかった。

 やけに頭がふわふわすると思ってたんだよな。

 なんだか股間も熱くなってきたし。


「あら?あなたもしかして」

「違いますよ。全然大丈夫です」

「そう。まああのオイルだけじゃ効果は発揮しないからね」


 股間が熱いのは勘違いだったようです。

 ごめんなさい。


「おほん。つまり何かと合わせると、そういう効果が出るということですか?」

「そうよ。なんだと思う?」


 なんだと思うと言われても。


「わからないです」

「そんなに知りたい?」

「知りたいですね」

「今ここで試してみる?」

「じゃあいいです」

「そう。つれないのね」


 怖いよーエルフ。

 隙あらば誘ってくる。

 この2年間よく我慢できたものだ。


「ちなみにあのオイルはこの十日間毎日塗り続けるわ。そうすると半年は香りが持つの」

「結構長持ちするんですね」


 おっと。

 儀式が終わったようだ。

 姉さんが川から上がって、身体を拭いて貰っている。

 そんな光景を見ていると故郷の子どもたちを思い出すな。

 あいつらは元気にやっているのだろうか。


 しかし、姉さんももう大人なんだよな。

 あんな華奢な身体をして性格も子どもっぽい姉さんが、これから大勢の男に抱かれると考えるとなんだか複雑な気持ちになるな。


 いやいや、ここはめでたく祝うべきだぞ、ゼオライト。


「ゼオ君!ちゃんと見てた?」


 服を着るや否や駆け寄ってくる姉さん。


「見てましたよ」

「うん。で、なんてお願いしたの?」

「へ?」

「んもう!水をかける時!」


 ああ、あれか。

 でもそれって本人にいうものじゃなくね?


「まあ、ありきたりなやつですよ」

「ええ~。教えてくれたっていいじゃん!」


 ぷんすか怒ってしまった。

 困った人だ。


「レティシア!こっちに来なさい!」


 ほらまた怒られた。


 口をとがらせながら戻って行く姉さん。

 そんな様子を見て皆がクスクス笑い出した。

 その瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


「!?、何かしら今の音」

「村の方よね?」


 まるで地鳴りのような音がした。

 さほど大きくなかったが、ちょっと気になる音だ。


「ちょっと村の方見てきますね」


 女性たちは次の儀式の準備をしている。

 俺が行ってやった方がいいだろう。


「ゼオ君、気を付けてね!」


 なあに、ちょっくらばかし村の様子を見て、みんなの安全を確認するだけさ。

 すぐ戻ってくるよ。



-----



 どうやら俺の考えは甘かったらしい。


 倒れた巨木。

 崩れ落ちた家々。

 逃げ惑うエルフの女たち。

 弓を張り、()()に向かって矢を放たんとする男たち。


 村は恐ろしいことになっていた。

 そしてその元凶は村の中央にいた。



 飛竜だ。


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