017 プレゼント
こっちに来てからだいたい2年がたった。
少し前までは頑張って日付を数えていたが、諦めた。
四季とかあると時間の変化がわかりやすいのだが、ここは一年中湿っているだけ。
エルフは人間のように一年を8つの期に分けたりしないし、当然カレンダーもない。
これでは感覚が狂う。
そもそもエルフは日数なんて数えない。
1000年も生きるのだからいちいち気にしていられないのだろう。
ただエルフも一年の周期はわかるのだ。
花が咲いたら新しい一年が始まる。
あらロマンチック。
ここの花は年中咲いているのだが、特定の花は一年ごとに咲くのでそれを参考にしているようだ。
特にオウという名の木に咲く花は一段と綺麗で、ここの村はそれを基準にしている。
そういえば、次にオウの花が咲くとレティシア姉さんの100歳の誕生日らしい。
普段は誕生日を祝わないエルフも100歳と800歳と1200歳は盛大に祝う。
特に100歳はビジョーという大層な儀式をするそう。
人間でいうところの成人式にあたるものだと師匠は言っていた。
まあ人間の成人式といっても貴族のやるものなので、俺も詳しくは知らない。
なんか25歳になると土地の権利とか投票権とかが貰えるらしい。
その代わり重い責任も伴うことになり、やらかしてしまうと公開処刑されてしまうわけだ。
貴族も貴族で大変なんだな。
一方でエルフの成人式は責任とかとは無縁だ。
まあ簡単に言うと、
「あなたはこれからセックスできますよ」
と宣告されるだけ。
人間よ、これがエルフだ。
まあ彼らにとって重大な儀式なのだ。
文句は言うまい。
しかしそうとなれば、姉さんに何かしてやらんとな。
といっても、もうちょっと先の話だ。
まずは自分のことに集中しなければ。
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「よぉーし。一旦休憩だ、ゼオ君」
剣の稽古の方はまずまず。
かなり腕は上達していると思う。
師匠の癖もわかってきた。
しかし、師匠も俺の癖を理解し始めたのでなかなか上手くはいかない。
「良い勝負」はできるようなったが、俺は師匠に圧勝しなければならない。
結局魔術も使えてないしな。
まだまだ課題はある。
「ん?」
汗を拭こうとタオルを置いている場所に行ったら、木の影に姉さんの姿が見えた。
手招きをしている。
何やら話があるらしい。
俺は姉さんに招かれるまま森に入った。
「ゼオ君おつかれ!」
「どうしました?」
「ええっとね、はい!」
手袋を手渡された。
黒い革の手袋だ。
「姉さんこれは……」
「前さぁ稽古中に爪割れたって言ってたでしょ? だから手袋あったほうがいいかなって」
「あ~、ありがとうございます」
そんな前の話、まだ覚えていたのか。
すぐに直ったし、別によかったのに。
ふと姉さんの顔を見ると、何かを期待している表情をしていた。
ワクワクしているような、ソワソワしているような……。
じっと俺の顔を見ている。
ああ、そうね。
手袋をつけてみる。
少し硬いがしっかりと手になじんだ。
サイズもピッタリ、俺の手に合わせてくれたのだろう。
黒一色というのも洒落てる。
これなら稽古にも使えるし、オシャレにも使える。
手を怪我することもなくなるだろう。
うん、これは素晴らしい。
「ありがとう、姉さん。早速使ってみるよ」
姉さん、無言のサムズアップ&ドヤ顔。
なんだいそりゃあ。
「そろそろ行ってくるよ」
「うん!頑張ってね!」
「ありがとう。じゃあ」
「あっ待って!」
なんだい?
まだなんかあるのか。
いっぱい貰っても逆に困るぞ。
「ゼオ君。たまには魔術も使ってみたらいいんじゃないかな~」
「はあ。でもまだ――」
「口答え禁止!年上の助言は素直に聞くものだよ」
そうは言われましても。
「じゃ! 終わったら感想聞かせてね~」
姉さんはアドバイスを言うだけ言って去ってしまった。
年上と言っても魔術に関してはこっちが上でしょうに。
まあプレゼントをもらった身だ。
確かに最近は全然魔術を使ってなかったし。
今回は姉さんの顔を立ててやるか。
師匠の元に戻りながら魔術を使う感覚を思い出す。
全身に魔力を流して巡回させて……。
あれ?
妙な感じがした。
何故かわからないが魔力を感じた。
魔力を使ったのだから魔力を感じるのは当然なのだが、なにか違和感がある。
もう一度魔力を使う。
やはりおかしい。
この感覚は誰かが俺に対して魔術を使っているような。
「おーい! なにをしとるか!」
「すみませんすぐ行きます!」
師匠か?
いやそんなはずはない。
師匠が俺に魔術を使う意味がわからない。
もっと集中してみる。
わかった、手だ。
魔力を込めると手に魔力が帰ってくる。
違和感の正体はこれか!
そしてこの魔力は……。
なるほど姉さん、そういうことか。
上手いこと考えたじゃねえか。
帰ったらいっぱい褒めてよしよししてやる。
「よし。では始めるぞ」
「お願いします」
稽古が始まる。
師匠から攻めてきた。
俺はそれを受け流して、右手を剣から離す。
そして思いっ切り右手に魔力を込めた。
右手の掌から現れる金色の剣。
紛れもなく俺の作った魔術剣だ。
そしてその剣を、再び踏み込みつつある師匠に振りかざした。
「なっ!」
ジャキンっと魔術剣と師匠の魔防膜が当たった音がする。
やった。
魔術で師匠に攻撃できたのは初めてだ。
だがこれで終わりではない。
俺にはまだ左手の木剣がある。
「二発目ぇ!」
体勢の崩れた師匠に攻撃を当てるのは簡単なことだった。
さてこのままどんどんいきたいところだが、師匠が大きく後ろにジャンプした。
体勢を立て直すつもりだ。
でもそんなことさせねえよ。
今度は剣を納め、左手に魔力を込める。
現れる金色の弓と矢。
俺はその弓を構えて師匠が着地するであろう場所に照準を合わせた。
そこだ!
矢は師匠に向かって真っ直ぐに飛び、命中した。
「バカな」と言いたげな顔をする師匠。
2年間もエルフの森にいたんだ。
弓の腕もなめてもらっちゃ困るぜ。
にしても、姉さんありがとう。
手袋に魔法陣を仕込むとは、ナイスアイデアだ。
「魔法陣は形になっていればいい」「重ねることができる」
この二つだけで「魔法陣の刺繡を仕込んだ手袋」を思いつくなんて。
むしろなんで先人たちは思いつかなかったんだ?
実際には魔術器具という立体魔法陣を仕込んだものが存在する。
しかし、立体魔法陣は複雑なため彫刻などで作るのは難しい。
せいぜい魔法壁が張れる魔術ぐらいしか使えない。
だがこの手袋は違う。
俺が一年かけて作った、重ねて発動する魔法陣。
そして姉さんのアイデアと努力。
この二つが合わさって生まれた素晴らしい機能をもった手袋だ。
そう考えると調子上がってきたな。
一方、師匠は不思議な顔をしていた。
なにが起きているのかわからないらしい。
じゃ、タネがばれる前にとっとと終わらせますか。
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結局すぐにタネはばれてしまった。
しかし、連続で27回も攻撃を当てることができた。
今までは4回が関の山だったので、大きな進歩と言えるだろう。
そしてその夜はお礼ということで、姉さんのわがままに付き合うことになった。
一緒にカードゲームをしたり、光る蟲を取りに行ったりと、いろいろなことをした。
特に、稀少なキノコ探しは難航した。
全然生えていないし、見つけても慎重に取らないといけないらしく時間がかかった。
村に戻ってきた時には朝になっていた。
俺はクタクタだが、姉さんは元気だ。
キノコ抱えながら嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
かわいい奴だ。
「ああ!! ゼオ君見て見て!」
大きな声を出し、上を指差す姉さん。
俺はショボショボになった目を凝らしながら差した方向を見る。
オウの木に蕾が付いていた。




