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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星

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016 ナイスアイデア


 魔術を戦いで生かすのはそう難しいことじゃない。

 この一年で俺は多くの実践的な魔術を開発・改良してきた。

 それを紹介しよう。


 まずは「火炎弾」。

 既存のものとは違い、投げる動作をせずに火を飛ばすことができる。

 また小さな爆発を起こすことができる。

 威力は低いが射程は長いので牽制に向いている。

 もちろんに火なので可燃物に当たれば燃やすことができる。


 「小さな魔力弾」。

 既存の魔力弾を小さくしたもの。

 当然威力は大幅に減ったが、広範囲に大量まき散らすことができる。

 こちらも牽制やガードに使えるだろう。


 「魔術剣」。

 魔力で造られた剣を召喚する。

 質量がほぼゼロなので、普通の剣よりも振りやすい。


 「魔弓」。

 完全オリジナル魔術。左手に弓と矢を召喚する。

 他の魔術と違い、あくまで弓にすることで飛距離や威力の調整が可能。

 限界まで引けば俺が使える魔術で最も威力が高い。

 普通の矢と当たった爆発する矢の二種類ある。

 ちなみにこの魔術を作るのに一年間かけたと言っても過言ではない。

 それぐらい苦労した。



 他にも「小型魔法壁」とか色々あるけど、攻撃するという点においてはこの4つになるだろう。

 ただこれらの魔術を使うには問題がある。


 実際に師匠相手に使ってみたが火炎弾や魔力弾は避けられるし、詠唱が長い魔弓とかは距離を詰められてしまう。

 さすが魔術の天才といったところか。

 弱点は知り尽くしているのだろう。

 師匠相手に魔術は悪手ということになる。


 とはいってもなんとか魔術は使っていきたい。

 むしろ絶好の相手ともいえよう。

 師匠に魔術を一発でも当てれば自信もつくしね。


 さて、どうしよっか。

 詠唱をこれ以上短くする方法はないだろうか。

 あるいは隙を見せないように武術に組み込めないか。


「ゼオ君。どうしたの難しい顔して」

「ああ。おかえりなさい」


 姉さんが帰ってきた。

 もうそんな時間か。


「久しぶりだね。ゼオ君の方が先に帰ってるなんて」


 姉さんは荷物を置くなり服を脱ぎ始めた。

 慌てて目を逸らす。

 相変わらず羞恥心というものはないのだろうか。

 まあ人前で平気に交尾する種族だ。俺がなにを言っても無駄だろう。

 ユナの半裸癖も治らなかったしな。


「あ、姉さん。桶とタオル、そこに用意してあるので」

「ほんと?ありがと!」

「いえいえ。いつも用意される立場なのでたまにはと」

「そんなこと気にしなくていいのに。君はお客さんなんだから」


 後ろからピチャピチャと身体を洗う音がする。

 本当は泉とかで洗った方がいいのだが、ここはツリーハウスでも上の方なので往復する間に汗をかいてしまう。

 なので桶に水を汲んで部屋に置いてくれるのは非常にありがたいのだ。

 それを毎日してくれるなんて、姉さんには頭が上がらんな。


 にしても「お客さん」か。

 もう一年半も居候しているのに客人として扱ってくれる。

 嬉しいような、少し寂しいような。


「剣の稽古もう終わったんだ。今日は早かったね」


 姉さんは髪をオイルでほぐしながら俺の横に座った。

 チラッと見る。

 服は着ていた。良かった。


「はい。結構上手いこといったんで」

「じゃあもっと嬉しそうにすればいいのに」

「一つの問題が解決すると、新しい問題が出てくるんですよ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんです」


 まったく、能天気な種族だ。

 エルフの辞書には苦労という言葉は存在しないらしい。

 いつもポジィティブで元気だ。


 まあそういうところが好きなんだけどな。


 暗い顔をしていれば誰かが声をかけてくれる。

 「これでも食いな」と料理を分けてくれる。

 わざわざここまで上がって来て、歌や踊りを披露してくれる。

 本当にお節介な種族だ。


「で、なに?」

「なにとは?」

「悩んでるんでしょ。こういう時は口に出した方がいいよ」


 姉さんは特に親身になって接してくれる。

 悩み事やくだらないぼやきを最後まで聞いてくれる。

 聞いてくれるからといって何かが解決することはないが、なんだかすっきりする。

 やはり口に出すというのは精神衛生上いいんだろうな。


「実はですね。今日やっと師匠の技を受け止めることができたんですよ」

「えー!おめでとう!」



 それから俺は姉さんに経緯を話した。

 ずっと練習していた流水派の技が上手くいったこと。

 でも師匠に攻撃が当たらないこと。

 なんとかするために魔術を使いたいこと。



「ってことなんだよね」

「へぇ~」


 話し終えると姉さんは上を向いて考えて始めた。

 そういや昔は「一緒に考えてあげる!」とか言っておいて、10秒後には「わかんないや」と諦めていたっけなあ。

 流石に一年も経てば俺が言っていることぐらいはわかるようになってきたらしい。

 ちょくちょく的確なアイデアを出してくれる。

 まあそれは全部俺が一度考えたやつだったけどね。


「そうだ!ゼオ君本作ってたじゃん。それ持って闘ったらいいんだよ!」

「これですか?」

「そう!それ!」


 ここでいう「本」というのは、俺が作った魔法陣を描き貯めた魔導書のことだ。

 魔法陣は魔力を込めれば瞬時に効果を発揮する。

 詠唱のように隙は生まれない、というわけか。


「悪くないアイデアですね」

「へへん!」


 姉さんがドヤ顔する。


 現に魔導書を持って戦う魔術師は多くいる。

 ページだけしっかりと覚えていれば難易度の高い魔術もすぐに使える。

 魔術師として魔導書の有無は大きなアドバンテージになるだろう。


「でも、問題があります」

「え?なんで?」

「はたして師匠が僕に魔導書を開く猶予を与えてくれるでしょうか?」


 普通魔術師というのはパーティの中でも後衛を務めることが多い。

 前衛に守られながら魔術を使うわけだ。

 しかし今回は一対一の勝負。

 本をはたきおとされて終了だな。


「んあ~なるほど……。いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」


 実際いいアイデアでしたよ。


 姉さんはツーンと口をとがらせながら魔導書を捲っている。

 魔法陣をじっと眺めては、指でなぞり、魔力を込めてみたりしている。

 俺の作った図形を召喚して遊んでいるようだ。


 しかし、詠唱のことばかり考えていたが、案外魔法陣も使えるかもしれないな。

 いいヒントをもらった。


「あれ?これ発動しないよ」


 振り返ると、「これこれ」と指を指す姉さん。

 そこは魔術剣のページだった。


「ああ、それは10ページで一つの魔法陣になっているんですよ」


 該当のページを重ねて魔力を込める。

 剣が召喚された。


 魔術剣は一つの魔法陣でもかけるが、かなり複雑になってしまう。

 というか、ちゃんと描こうとするとこの本に入りきらないぐらい大きく描かないといけなくなる。

 そこで役割ごとに魔法陣を描き分け、重ねてみたのだ。

 「魔力取り込み口」「剣の造形」「威力調整」などといった感じでね。

 そうするとコンパクトだし、見やすい。


「あーなんだっけ、立体魔法陣って言うんだっけ?」

「ちょっと違いますが、似たようなものです」

「ふーん」


 立体魔法陣はもっと立体的でごちゃごちゃしている印象だ。

 あとオシャレ。


「あのさ。魔法陣って地面削って描いても効果あるんだよね?」

「そうですね」

「形になってたらなんでもいいの?」

「だと思います」


 えらく詳しく聞くな。


「なるほど…。形になってたら大丈夫なのか…」

「なにか思いついたんですか?」

「いや、別に」


 姉さんはぶっきらぼうにそう答えた。


 しかし、その口元は少し微笑んでいるように見えた。


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