014 四限目:武術
17歳になった。
セイエナの森に来てから1年と167日。
あってる、と思う。
魔術の方は順調だ。
魔法陣の仕組みも理解してきたし、詠唱もスラスラ言えるようになった。
ただ、魔力量は全然増えない。
原因はわかっているが、そっちの方はそう焦ることもないだろう。
魔術師としての実力は師匠のお墨付きを頂いた。
中位試験ぐらいは余裕で突破できるらしい。
5年で上位魔術師を目指しているのだからなかなかハイペースだ。
これには師匠もびっくり。
とはいえ実践的な訓練、つまり戦いでの魔術の使い方は全くやってない。
それどころか、武術の方も筋トレと素振りしかやってないわけで…。
まあ筋トレに専念したお陰か結構ガッチリしてきたんだけどね。
師匠も一区切り着いたと思ったのだろう。
今日から本格的な武術の訓練を始めるそうだ。
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「どうじゃった?この一年半は?」
「どうもなにも…」
魔術の方は楽しかったですよ。
でも筋トレはきつかったね。
もう慣れたけど。
「まあ、成長したんじゃないですかね。色々と」
「そうだな。成長度合いに関しては儂の予想を遥かに超えているな」
「真面目と勉強好きがアピールポイントですから」
生まれ持っての能力みたいなのは俺にはないと思っていたが、勉強好きというのは案外大事な能力なのかもしれない。
それがなければここまで来れなかっただろう。
天に感謝。
「魔術に対する理解が深まったのはいいが、今のままでは机上の空論だ」
「それで今日から実践していくわけですか」
頷く師匠。
いったいどんな訓練が俺を待ち受けているのだろうか。
「まあ、難しいものじゃない」
そう言うと、俺に木剣を投げ渡し距離を取った。
そしていつも身体を支えていた杖を逆に持ち直した。
まるで剣を持つかのように。
「ルールは簡単。儂に100回攻撃を当てろ」
「いや、結構難…」
「そしてお前さんが二回攻撃を受けたらリセットじゃ。では始めい!!」
「待って…ちょ」
突然突っ込んでくる師匠。
向かって左からの横薙ぎ攻撃。
それをなんとか弾く。
が、脚を蹴られ体勢が崩れてしまった。
ポカンッ
「痛!」
「まず一本!」
軽くではあるが頭を叩かれた。
杖とはいえ結構痛いものだ。
「あ、ちなみに魔術は使ってもよいぞ」
「そういうことは早く言ってくださいよ!」
「ハハハ!魔術を軽減する膜を全身に張っとるから遠慮なくこい!」
そう言うや否やグッとかがみ、力強く踏み込む。
そして次の瞬間、師匠は消えた。
バシンッ
腹だ。
今度は思いっ切り殴られた。
じわじわと痛みが広がってくる。
ついには脚に力が入らなくなり、膝をついてしまった。
「うげっ」
「二本目。カウンタリセットじゃぞ」
後ろから師匠の声が聴こえる。
完全に背後を取られたというわけか。
ていうか、武術の方もお得意だったんですね師匠。
「ぐくぅus…」
「おいおい。これぐらいで痛がっていたら稽古にならんぞ」
「うny$*&!+…」
「ん?」
「ice$・・・たあ!」
チェーンロック発動成功。
魔鎖を作り相手をその場に縛る魔術だ。
師匠が掛かったのがわかると同時に振り向き、木剣を振る。
ボスッと師匠のお腹に当たった。
このままもう一本……いや……。
慌てて距離を取る。
危なかった。
しかし凄いな。
チェーンロックを一瞬で解除するなんて。
「さすがですね。師匠」
「ちっ。反撃出来ると思ったんだがのう」
魔鎖がボロボロと崩れていく。
結構きつく縛ったんだけどな。
「しかし、今のは良い手だな。うめき声に見せかけて詠唱していたか」
「まあ使える場面は限られますけどね」
少なくとももう師匠には使えないわけで。
もうちょっと温存しておいても良かったかな?
「ていうか、百回はかなりきついと思うんですけど。僕が当たっていいのは二回だけだし」
「馬鹿言うんじゃないよ。お前さん、魔人を一撃必殺できるほどのパワーがあるのか?」
「いや、ないですけど」
「じゃろ?逆に向こうはお前さんを一撃で葬ることができる。二回でアウトなんて優しい方だ。」
「つまり、相手の攻撃を全部回避して、攻撃を当て続ければ魔人にもいつか勝てると?」
そのとおり!
っと言わんとばかりのニカッとした笑顔。
師匠が再び踏み込む。
わかったよ。
そんじゃさっさと終わらせてやるよこんな訓練!
右手に剣を持ち、左手からはいつでも魔法弾を出せるようにする。
おらぁ!
いつでもかかってこいやぁ!
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「それで?結局どうなったの?」
「全部避けられました…」
剣撃、魔術…すべていなされ、体力魔力ともに尽きボコボコにされた。
圧倒的敗北感。
そして今は姉さんに強制的に膝枕をされている状態。
みっともないが、反撃できる余力はもうない。
「最初はそんなもんだよ。魔術も努力して上達したんだから、ゼオ君なら絶対できる」
「勝てるとは思ってなかったけど、あそこまで負けるとは…」
「大丈夫大丈夫。よしよし。まだ時間はあるんだから」
姉さんの言う通り、これはじっくりと時間をかけて達成する他ないだろう。
リアルタイムに変わっていく状況に対して、適切な行動をとらなければならない。
しかもミスは許されない。
とにかく慣れるしかないのだ。
とは言っても、
慣れるまでとにかくやり続けるというのは俺のスタイルじゃない。
武術だって理論や近道があるはずだ。
「ごめん姉さん。そこの本取ってくれないかな」
「あ、いいよ。はい」
エルフの村にも図書館みたいなものがある。
50年ほど前に旅立っていったエルフの家がそれにあたる。
彼が収集していた本がそのまま置いてあるからだ。
そっからこれを持ってきた。
『武道全集』。
師匠は完全に感覚派らしく、言葉で教えるのは無理だそうだ。
俺も感覚派だったら良かったのだが、ガチガチの理論派なのでこういうものに頼るしかない。
本で武術が学べるわけがないという問題もあるが、それは置いておこう。
まず武術と言って色々ある。
大きく分けて8つあるらしい。
『炎鷹流』
力強い一撃に重きを置いた剣術。そこまで力もないし今回の訓練では不適だろう。
『流水派』
相手の攻撃を水のように受け流し反撃をする。これはいいかもしれない。
『風神流』
目に見えぬ詰め寄りと素早い連撃が特徴。師匠はこれを修めたそうだ。
『山王流』
剣と盾を使った武術。都の騎士たちに人気らしい。
『雷電派』
相手の攻撃を弾きカウンターで止めを刺す剣術。流水派と何が違うんだ?
『兵士乃沢』
武術というよりは兵法に近い。個人戦なので今回は却下。
『地道』
拳や足といった徒手をメインとした武術。これいきなりやったら師匠驚くだろうな。
『天道』
これはよくわかってないらしい。この本には詳しく載っていない。
取り敢えず一つに絞った方ががいいだろう。
うーん……。
流水派、やってみるか。




