013 夕食
「え?じゃあ私が見た流れ星はゼオ君だったってこと!?」
「そうなるんですかねぇ」
「へぇー…」
姉さんが作ってくれたスープと燻し肉を食べながら、これまでのことを語った。
都会に出てきたこと、ユナにあったこと、星が落ちて来たこと。
そしてマサキとかいう奴にここまでぶっ飛ばされて来たこと。
星の子とか使命とかの話はしていない。
話していいもんかわからんし、俺から話すのはなんかカッコ悪い。
「僕には使命があってぇ…」って言うのか?
いや、言えん。
「流れ星…というか隕石のことはエルフの間では話題になったんですか?」
「んー、あんまり?まあ星が落ちて来るのはままあることだし。私は初めてだったけど」
ままあるかなぁ?
まあ、エルフにとってはそうなんだろうけど
「えー、でもなんかがっかりだなぁ」
「え?なんで?」
「だって私、一生懸命お願いしたんだよ。『幸せになれますように』って。人間にもそういうのあるでしょ?あ、人間は三回だっけ」
確かに星が落ちて来て、お願いして、それが人間だったらがっかりするよな。
俺もその気持ちわかるよ、経験者だし。
「その節は、すみません」
「べ、別にゼオ君が謝ることじゃないと思うけど」
俺が頭を下げると、急にあわあわしだす姉さん。
本当にこの人俺より年上なんだろうな?
エルフをいいことに年齢詐称してない?
うーん。
ちょっと意地悪してやるか。
「いや、僕が悪いです」
「そんなことないよ!い、いいから頭上げてぇ!」
「僕が弱かったばっかりに。すみません、すみません……」
「あわわ……」
もはや何に対して謝っているのか謎だが、姉さんは面白いぐらいに焦り始めた。
必死に俺にかける言葉を模索しているようだ。
ちょっとかわいいな。
「僕にも……、僕にも守りたかったものがあるんです!」
もうちょっと意地悪すれば半泣き顔ぐらい見れるだろうか。
そう思い、少し感情的にしてみたら…
「んんー、もう!」
ギュッと姉さんに抱きしめられた。
「そんなこと言っちゃ、めっ、だよ。ゼオ君はこれから強くなるんでしょ?」
「……はい」
「それにユナちゃんはゼオ君が守ってくれたこと、きっと嬉しく思ってるよ」
「そうですかね?」
「ゼオ君の気持ちは届いてるよ。だからそんなに悲観しちゃダメ。いい?」
「そうだと、嬉しいですね」
「うん。ユナちゃんもきっと無事だよ」
「……あ、姉さん、もう大丈夫です」
俺の頭を拘束していた腕の力が緩む。
そっと姉さんから離れる。
今さっきまで、俺の頭は姉さんの胸元に抱き寄せられていた。
頭を撫でてもらったような気もする。
急すぎてなんにも覚えてねぇ。
なだめてもらってたような……。
なんにせよ、15にもなろう男が幼女に抱きしめられるなど滑稽な絵面だっただろう。
「元気でた?」
「まあ……」
俺の返事に姉さんは笑顔で返す。
大人が子どもを慰めた後に見せる優しい笑顔だ。
いや、これはあれだ。
姉さんは98歳だから、年上だから。
昔もこういうことよくあったじゃんね。
こんな言い訳しか思い浮かばない自分が恥ずかしい。
ええい!
黙っていたらもっと恥ずかしくなる!
なにか話の話題を…
「そういえばエルフってあんまり魔術を使わないですよね」
よしゼオライト!
いい話題だそれは。
「人間よりも魔術に適性があるのに、もったいなくないですか?」
「んー。それは信仰の違いかなぁ」
「エルフってなにを信仰してるんですか?」
「私たちは自然そのものを崇拝対象としているんだよ」
自然宗教ってやつか
「でもその違いがどう関係するんだ?」
「ゼオ君は何を信仰してるの?」
「『天』とその先いる『主神』です」
「うんうん。で、魔術は誰がくれたんだっけ?」
「あー、なるほど」
魔術は天からの贈り物。
天を信仰している人間や魔族はすんなりと魔術を受け入れた。
しかし、自然を崇拝する耳長族には抵抗があったのだろう。
「得体の知れない自然の理から外れたものなんて使わないよね、ってことだね」
違う宗教の教えをやってみようとならんもんな。
エルフが魔術を避ける理由がわかった。
しかしそうなれば気掛かりなことが一つある。
師匠のことだ。
あの爺さんはエルフ、それも長老でありながら魔術の天才だと讃えられている。
その場合立場はどうなるんだ?
仲間外れにされてるようには見えないが、裏ではなんかあるのかも。
「師匠のこと、村のみんなはどう思ってるんだ?」
「んー特にって感じかな。長老って立場も飾りみたいなもんだし」
「人間と違って政治も経済もないもんな」
しかし本当に尊敬されてないんだな。
俺の村の長老がプディオ様だったら拝み倒してるわ。
ま、不仲ではなさそうなので良かった。
「私も魔術勉強してみよっかなあ」
「じゃあ僕が教えますよ」
「いやいや!それなら爺さんに直接教えてもらうよ!」
「それはそうですね」
あはは、と2人の間で笑いが起きる。
いい時間だ。
「あ!じゃあ問題だしちゃおっかなぁ」
「どんな問題ですか?」
「爺さんから教わった真の一流魔術師を見分けるための問題だよ」
「おお。いいですねぇ」
これに答えれば俺も明日から一流魔術師らしい。
「じゃあ問題!魔術とはいったいなんでしょう?」
これは……。
師匠から初日に言われたやつじゃないか。
こんなので一流になっていいんかい。
「答えは神秘!っと昔の僕なら言っていたでしょうが…」
「でしょうが~?」
「……」
いや、これは言えんなぁ。
とてもじゃないけど俺の口からは言えんぞ。
魔術が神秘ではないことは心ではわかっている。
だが、天を信仰する者としてそれは禁句に近い。
今はレティシア姉さんだから大丈夫かもしれないが、人間ならどうだ?
「魔術は神秘ではない」
そんなこと言ったら異端扱いされ、迫害されるかもしれない。
現に歴史上でも処刑された人は何人もいた。
もちろん俺は天も主神もあると思っている。
天を否定する気は毛頭ない。
しかし、神秘の否定は天の否定だ。
第一、異端の者の話なんて聞いてくれない。
「…オ君?どうしたの難しい顔して」
「うーむ。どうやら僕はまだ一流魔術師ではないようです」
「ああ、そう。ちなみに答え聞きたい?」
「いや。いいです」
先ほど、俺の質問を無視した師匠の顔を思い出した。
エルフでありながら大魔術師である師匠には、天に対して思うところがあったのかもしれない。




