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災厄の落とし子  作者: 特教機関ゲリュオン
第一章:落ちてきた星

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009 師匠と条件


「いやぁぁぁぁ! 犯されるぅぅ!」

「まあ落ち着け」


 貞操が!

 俺の貞操が!


「俺は一流の魔術師になるんだ! それまではなんとしても……」

「ああ。その話、嘘じゃよ」

「……は?」


 老人はニヤッとしてこう言った。


「『童貞じゃないと魔術師になれない』。これは儂が人族に広めた嘘じゃ。実際はその真逆で、いっぱいヤッた方が魔力量は上がるぞ」

「……」

「だから『淫乱な』耳長族は人族よりも魔術との親和性が高い。もっとも、理由はそれだけじゃないがな」


 衝撃的だった。

 天才プディオを名乗る老人が、魔術界の常識を覆すようなことを言っている。


「なんでそんな噓を?」

「だって人族に強くなられすぎても困るしなぁ」

「じゃあ僕が今まで童貞を守ってきたのは……」

「無駄なことだった、というわけじゃな」


 ありえん。

 このジジイは過去何千年もの間、健全な少年たちを騙していたのだ。


「ゆ、ユナァ! あの時ヤッとけばよかった!」


 俺は寝転がり、虚空に向かって腰を振った。

 畜生!

 あの雰囲気ならきっとユナはOKしてくれたはずだ。


 振り返るとエルフの女がそばにいた。

 俺が大声を出したから起きたのだろう。

 心配そうな目で見てくる。


「ゼオライトくん。その子は儂の娘だが、手を出しても構わないぞ」


 ごくり。

 めちゃくちゃ美人だし、胸も大きくて……。


「って、そんなこといい!」


 老人の傍に駆け寄る。


「あんた本当にあのプディオ様なんだろうなぁ!」

「そうだぞ」

「そうだぞ、って。長生きし過ぎだろ」

「エルフだからな」

「それにしたって長生きだ」


 耳長族の寿命は人族の10倍以上だと言われており、何事もなければ1000歳までは生きる。

 しかし、この老人がプディオ様なら少なくとも二千年は生きていることになる。

 1500歳で長寿と言われていることを考えれば、この老人の発言がいかにおかしいかわかるだろう。


「だからもう寿命じゃって言っとろうが」

「でも……わかりました」


 俺は姿勢を正した。

 そして頭を下げた。


「プディオ様。私に魔術を教えてください!」


 ぶっちゃけ、この老人がプディオ様かどうかは怪しい。

 でも流れ星のことも知っていたし、この人なら真の魔術を教えてくれるかもしれない。

 だいたいエルフに魔術を教えてもらえる機会が一生の内に何度あるだろうか。

 それに俺は約束した。

 一流の魔術師になってユナに恩返しすると。


「構わないよ。でも二つ条件がある」

「二つ……なんでしょうか?」

「一つ目。お前さんには武術も習ってもらう」

「武術、ですか?」

「まあ最後まで聞いてくれ」


 なぜ武術なんだ?

 魔術師なんだから武術なんて要らないだろう。


「二つ目。儂の代わりに『星の子』を殺してくれ」

「……いや、無理ですよ」


 武術はまあいいとして、二つ目の条件は飲めない。

 飲めないというか不可能だ。

 不可能なことは条件にならない。


「どうして無理だと決めつける?」

「だって、あいつは物凄い魔術師なんですよ」

「誰も殺すことができないほど凄いのか?」

「そりゃそうでしょ。あんな魔術、デーモンだって使えない」

「でも奴は人間だぞ」


 なんだよその「不死身じゃないから殺せる」理論は。


「まあ安心せい。奴を倒すすべも教えることになるからな」

「……なぜ殺すんですか?」

「災厄を呼ぶからじゃ」

「なんですか、それ」

「知らん。そういうお告げじゃ」


 はぁ。

 どうにも折れないらしい。


「あくまで、奴を倒すのは目標ということでいいですか?」

「まあ、それでいいじゃろ」

「では『師匠』と呼ばせてもらっても良いでしょうか?」

「勝手にどうぞ」


 師匠は立ち上がり、家の外にいった。

 俺もついていく。


「おお。これが耳長族の集落…」


 大きな樹が何本生えている森。

 エルフはそこにツリーハウスを作って生活していると本で読んだが、まさにその通りだ。

 ドーム状の家が、まるでキノコのように何十個と木にくっついている。


「レティシア。そこにいるんだろう」

「……ばれてた?」


 家の横からひょこっと金髪の女の子が出てきた。

 人間で言えば10~12才ぐらいだろうか。


「レティシア。この方を空き家に連れていってあげなさい。確かシュアの木の上の方が空いていたはずじゃ」

「はーい!」


 師匠は女の子にそう頼むと、こっちを見てきた。


「稽古は三日後からじゃ。飯はこいつがしてくれる」

「ありがとうございます」

「あと、女を何人か抱いてからこいよ」

「な、なに言ってんすか…」

「魔力は生命力。そして生命力は性欲なり。もう童貞にこだわる必要ないし、エルフの女は誰にでも股を開くぞ。なんせ『淫乱』だからな!」


 俺が「エルフは淫乱」って言ったこと、まだ根に持っていたのか。


「まあとにかく、今日は休め」


 師匠は俺の肩をポンと叩いた。


「じゅあ行こっか!旅人さん!」



-----



「旅人さんはどこからきたの?」

「オストロルからだよ」


 木の間の橋を何度も渡り、目的地の空き家に着いた。

 特に変わりのない家だ。

 今はレティシアという女の子が軽く掃除をしてくれている。


「遠くから来たんだね~」

「まあそうだね」

「爺さんに魔術を習いにきたの?」

「うん。プディオ様、すごい人だからね」

「あー……」


 レティシアちゃんが俺の横に駆け寄ってきた。


「確かにすごい人だけど、最近ボケてきてるから、あんまり鵜吞みにしない方がいいと思うな~……」

「え? そうなの?」

「んー。『星の子』だとか『使者』だとか。わけわかんないことばっかり言ってるからね」


 師匠、同族からも疑われてんじゃん


「でも性欲の話は本当だよ。旅人さんも試しにヤッてみたらいいよ」

「ヤッてみたら、って」

「あ! 私はダメだからね! まだ成人してないから!」

「あ当たり前だよ! 子どもには絶対に手を出さないから」

「こ、子ども……」


 いくらエルフでも「子どもには手を出してはいけない」という概念はあったのか。

 よかった。


「そもそもレティシアちゃんみたいな子どもに欲情したりしないよ」

「は?」

「え?」


 あれ?

 なんかマズいこと言った?


「あのねぇ旅人さん。年上にはある程度敬意を持って接するべきだと思うな!」

「と、年上?」

「私こう見えても、君よりお姉さんなんだからね!」

「……うそん」


 そう。

 レティシアは98歳だったのだ。



-----



 ついに稽古を受ける日がきた。


「ほうほう。魔力、増えておるなぁ」

「そうですか?」

「増えておるとも。儂の言った通りじゃろう?」


 女を抱けば魔力量は増える

 師匠はそう言った。

 だが……。


「ん?でもこの感じ……お前まさか!!」


 師匠はハッと何かに気づいたようだ。


「まだ童貞なのか!?」

「……はい」

「毎日サカっているエルフと生活しているのにも関わらず、まだ手を出していないのか!?」


 エルフが常時サカっているのは認めるんかーい。

 まあそれはいいとして。


「師匠は『魔力は性欲』だとおっしゃいましたね?」

「ああ…」

「ならば、性欲を極限まで堪え、さらに高めてもいいわけだ」


 師匠は口をポカンとあけ、「ありえん」とでも言いたげに首を振った。


「……お前のような奴、初めて見た」


 そう。

 そりゃどうも。


「とにかく!魔力量は上がったんだ。さっさと稽古つけてください!」


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