008 目覚め
「ん?」
気がつくと、俺は真っ白い空間にいた。
だだっ広い空間。
辺りには薄く霧がかかっている。
そうだ。
俺はあいつに吹き飛ばされたんだった。
死んだんだ。
ふと後ろを向くと、誰かが立っていた。
金髪で白いドレスをきた女性。
背中には羽が生えている。
「天使……お迎えか」
どうやら俺は天国に行けるらしい。
歩いて女性に近づく。
それに合わせて女性も近づいてくる。
そして女性は跳んで…
「え」
ドロップキックをお見舞いしてきた。
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「ぶはぁ!」
目が覚めると、見知らぬ家にいた。
パチパチと焚火の音もする。
丁寧にかけられた毛布をそっと除け、上半身を起こす。
ここは……。
ドーム状の木造建築の家だ。
真ん中に火を焚けるスペースがあり、奥には大きな木の幹が見える。
近くの窓、というか開口部から外を見ると高い位置にあることがわかった。
ツリーハウスのようだ。
人もいる。
足元の方に美人のお姉さんが寝ていて、焚火の向こうに老人がいる。
「目覚めたか」
老人が立ち上がり、杖をつきながら向かってくる。
「あの、僕は…」
「空から降ってきた」
「は、はぁ」
「立てるか?」
ベッドから降りる。
身体に問題はなさそうだ。
老人は頷き、焚火の傍に座って手招きをした。
俺は老人の横に座った。
「腹は?」
「……すいています」
「ちょっと待っとけ」
老人は傍にあったスープ鍋のようなものを天井から吊るし、焚火で煮込み始めた。
「あなたが僕を助けてくれたんですか?」
「儂はここまで運んできただけじゃ。落ちて来たお前さんには魔法防護が張ってあった。それで助かったんだろう」
魔法防護。
完成していたのか。
「それでも、ありがとうございます!」
「ふん。で、何があったんだ?」
老人は暖かいスープを差し出しながら、そういった。
そして俺はこれまでのことを話した。
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「なるほどな。オストロルに天才が現れたか」
「はい。もうとんでもない天才ですよ」
話を聞き終えた老人は、少し考える素振りをし、
こう言った。
「お前さん、流れ星を見たか?」
「?」
「流れ星だ。何日か前に落ちて来ただろう」
ああ、思い出した。
ってあれ?
なんでそんな大事なこと話してなかったんだろう。
「流れ星。見ました。その近くにマサキがいたんです。」
「……お前さん、それを誰かに話したか?」
そういえば話してない。
正確に言えば、流れ星が落ちて来た次の日から話していない。
なんでだ?
なんで話してなかったんだ?
オロオロしだした俺を見て悟ったのか、老人は続けてこう言った。
「あるいは、流れ星について誰か話していたか?」
ゾッとした。
「誰も話していませんでした…」
そうだ
流れ星が落ちて来たんだ。
街で噂になっていてもおかしくないし、
魔導学校の教授たちが調査しに行くはずだ。
なのに誰もそのことについて語っている人はいなかった。
そして俺自身も誰かに話そうと思わなかった。
「やはりか」
「やはり、とは…?」
「そのマサキという奴は『星の子』じゃ」
星の子……。
「つまり、流れ星から生まれたってことですか?」
「そうだ」
老人は真剣は顔をして語りだした。
「『星の子』は前世の記憶を持っており、強大な力をその身に宿している。そして自分の正体がばれぬよう、周囲に呪いをかける。そういうお告げがあった」
「お告げ…」
「そうじゃ。そして『星の子』は災厄を呼ぶ」
お告げとな。
「儂はそいつを殺さねばならない」
「殺すんですか?」
「ああ。そういう運命じゃ。だがもう寿命だ」
なんか怪しくなってきたな。
もしかしてボケ老人では?
いや、でもさっき鋭いこと言ってたもんな。
「そこで君に頼みたい。儂の代わりに奴を殺してくれ」
とうとう殺人依頼されちゃったよ、俺。
やっぱいイタイ奴じゃね?
「君、名前は?」
「……ゼオライトです」
「うむ。儂はイルセンド・プディオ」
は?
イルセンド・プディオ。
この世界でこの名を知らぬ人はいないだろう。
セイエナ大戦末期に現れた大天才。
魔術の第二の開祖。
まさに伝説の耳長族。
あろうことか、この老人はそのイルセンド・プディオと名乗ったのだ。
待てよ。
老人の耳を見る。
尖っている……ように見えなくもない。
寝ている女性は?
尖っている。
明らかに人間とは違う耳の形状をしている。
ということは……。
「ゼオライトくん。ようこそセイエナ大陸へ」
……。
「うわあぁぁぁ!! エルフだぁ! 襲われるぅぅ!!」
ダメだ。
ここは危険すぎる!
「いくらエルフでも、嫌がる人を襲ったりせんよ」
老人は呆れた顔をして、部屋の隅でガタガタしている俺にそう言った。
嘘だ。
だって……。
「エルフって、あの淫乱エルフじゃないですかぁ!」




