表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人質として隣国の貴族令嬢の家に嫁ぎまし……え?

作者: 笹 塔五郎

 私――ルティア・エルフェシアは今日、隣国の貴族の家に嫁ぐ。

 エルフェシア王国の王女という立場にある私は、人質として他国に送るのに『ちょうどいい』存在であった。

 私がこれから向かうのは、ヴァールフェルト帝国という、エルフェンシア王国に比べれば国力があまりに違い、従う以外の選択肢はない。

 帝国が求めたのは、王国の従属とその証として、王族の一人を帝国に対し、嫁がせるというもの。

 私は仮にも第一王女ではあるが、すでに母は他界しており、次期『王』になるための弟がいる。

 故に王国からすれば、私は人質であってないようなもので――簡単に見捨てられる存在なのだ。そういう国であるということはよく知っているし、その上で私は、人質として嫁ぐことを了承した。

 すでに帝国領内にいる私は、馬車に揺られながら、ただ外の景色を静かに眺めていた。

 たった一人、見知らぬ土地に嫁ぐというのは、さすがに不安だ。

 けれど、あのまま王国で暮らすよりはいいのかもしれない――私が嫁ぐ先は、帝国でも有数の貴族の家柄だそうだ。

 アヴァンス家といったか、相手のことを全く知らないのだが、向こうも向こうで、私のことを知らずに受け入れるというのは、何とも思い切りのいい話だ。

 まあ、それも人質としての価値しかないと、判断してのものなのかもしれないが。

 それから町中へと入り、馬車は小さな屋敷の前で動きを止めた。


「ここが、アヴァンス家の屋敷……?」


 確かに屋敷ではあるが、大貴族が暮らしているというには、小さく感じる。

 もしかすると、使用人はあまり雇わずに生活をしているのか。

 そう言えば、現当主は軍人だとも聞いた――家を空けることが多いのかもしれない。

 その当主が、私の夫となる人なのだが。

 馬車を降りると同時に、屋敷の門が開き、誰かがこちらにやってくるのが見えた。


「来たか。遠路遥々、ご苦労なことだな」


 帝国軍の正装だろう。黒を基調とした軍服がよく似合っている。

 帽子でも隠しきれないほどの長い銀髪に、整った顔立ち。

 美しい、と表現するのが正しいだろう。

 凛とした声もまた、『彼女』によく合っていた。


「……?」


 そこで私は一人、首を傾げる。

 アヴァンス家の屋敷からやってきたのは、少女ともう一人、後ろに控えるメイド姿の女性だけであった。


「お前がルティア・エルフェシアで間違いないな?」

「は、はい。その通りです」

「ふむ、そうか。話には聞いていたが、確かに美人だ」


 話というのは、当主から聞いていた、ということだろうか。彼女はひょっとすると、アヴァンス家の当主の妹なのかもしれない。

 ――となると、当主は屋敷の中で待ち構えている、というところだろうか。

 気を取り直して、私は挨拶をする。


「お出迎え、感謝致します。アヴァンス家のご当主様の妻となるため、エルフェシア王国より参じました」

「ああ、堅苦しい挨拶はしなくていい。今日からうちの者になるのだから」

「お気遣い、感謝致します。それで、ご当主様は中に……?」

「む、ここにいるではないか」

「……え?」


 再び、ルティアは首を傾げた。


「なんだ、先ほどから首ばかり傾げて。梟の真似でもしているのか」

「い、いえ、そうではなく……聞き間違いをしてしまいまして」

「ほう、何を間違えた?」

「貴女様は、ご当主様の妹君ではなく……?」

「私に妹はいない、独り身だ。当主になったのは半年ほど前のことだが」

「……?」


 ルティアはまた、首を傾げる。


「お名前を、お伺いしても?」

「レイ・アヴァンスだ」


 ――聞いていた名前と一致する。

 つまり、彼女が当主というのは間違いないようだ。

 そうか、見た目で判断してしまったのがいけなかった。


「まあ、結婚するにしたって女同士だ。気楽にいこうじゃないか」


 ――何も間違っていなかった。やはり、この家の当主は目の前にいる少女で、私の嫁ぐ相手だった。


「え、だって、女同士、ですか……?」

「人質としてエルフェシア王国から王族を一人、もらうと聞いてな。私は最近、皇帝から褒賞をもらう予定があった。そこで、お前をもらうことにしたんだ」


 ……全く意味が分からない。

 いや、レイの言っている通りのこと以外、事実はないのだろう。

 こうなると、目の前の少女は私の妻になるということだろうか。私も妻になるのか――もう、訳が分からない。

 混乱する私の傍に近寄り、レイは私の耳元で静かに囁いた。


「心配するな。この帝国で一番、幸せにしてやる。そうでなければ、私が誰かを娶るなどしないのだからな」


 そんな宣告を受けて、私はただ頷くしかなかった。

 こうして、私は人質王女として、貴族令嬢に嫁ぐことになったのだ。

 どうしてこうなった――それは私が一番聞きたい。

このあとめちゃくちゃ幸せになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最高です!
[一言] 続きをよろしくお願いします!!
[一言] 読みた過ぎるよ(´;ω;`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ