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第二章 赤い暴走 その1 策謀は密かに蠢く

【第2章 赤い暴走】 

〈その1 策謀は密かに蠢く〉 

「監督。昨日のことは聞いている。君を責めるつもりはない。わたしの油断だ。まさか盗賊ごときがあれほどの戦力とは思わなかった。その中で、君はよくやってくれた」

「ありがとうございます!」

遺跡発掘士ミズランド。この辺りではヤマシで通っているこの男は、他の同業者が贅沢三昧の結果一ほぼ様に肥満しているのに対し、異常に痩せた長身である。もっとも初対面のだれもが気にするのはその目の細さだ。ほとんどの客が、あれでは何も見えないのでは?とお節介にも心配してしまい、逆に本人を怒らせている。左目の片メガネも似合ってはいない。

 しかし、その左目が非情に光る。

「ただ……この黒いゴーレムの件、これはいただけない。これはただの発掘品ではありえない。他人に譲るなど、考えられないことだ」

「し、しかし、あの時はあの若いのに戦ってもらわないと、それこそ全滅してヤマも……」

「それとこれとは別だ。そいつに謝礼を与えることはよい。ただ、それがこのゴーレムでなければいい、それだけだ」

「ええっと……つまりはかわりにべつな褒美をやるから、そのゴーレムは返してくれっていうんですかい?」

「一度は正式に譲渡したモノだ。返してくれ、ではなく売ってくれ、になってしまうのだが……それしかあるまい」

 不機嫌そうな主の声に、監督は大きな身をちぢめた。それでも、意を決して言い始める。

「ですが支配人の旦那。あのゴーレムは、確かにつええしえらく頑丈ですけど……『主殺し』ですぜ?それほどご執心になるほどのモノでは……」

 どんなに言葉を変えても「くれたモノを返してくれ」なのだ。しかもあの若いのはなかなか見所があるヤツだ。恩人でもある。監督のそんな気分はしっかり読まれている。

「……なるほど。ではこの件は、君を通さずに進めることにする。さがっていいぞ」

 ミズランドは、30代の若手で成り上がっただけあって、それなりに優秀だ。人を見る目もある。監督は発掘現場を管理・統率するには実に優れていたが、交渉は今一つのうえに、相手に情が移っているようだ。ならば、別な者に命じればいい。今回の交渉相手が優秀ならば、そのゴーレムごと抱えこんでもよい。

 しばらく考え込んだミズランドは、部屋の奥に隠された魔鏡を出した。彼の半身くらいは映る大きなものだ。

「……ミズランドです。新たなゴーレムを発見しました。……はい、しかし『脳なし』です。音声指示型の『主殺し』……一応ご報告です……存じております。わたしがこんな大きな遺跡をお任せいただいているのは、ユーデラス様のおかげです……はい。では」

 無人の部屋で話す様子は、まるで鏡の前の一人芝居である。が、魔鏡をしまうと、さっきまでとは違う口調で彼は独り言を続けた。

「ふん。少しは事情とやらを探ってからにさせてもらおう。場合によっては……」


 いくら南方とは言え、冬も近い季節である。生物的に虚弱なホムンクルスには、野宿はこたえたようだ。クローナは目覚めてすぐに不調を訴えた。主に自分の状態を報告するようにできているらしい。まぁ素直なのはいいことなのだが。

「ジョー……ボク、あたまがいたいよぉ、それにさむけがするよぉ、のどもいたくて……」

などと自己申告を始め、ジョーに怒られている。

「君は……だからクロガネの心臓部に行けって言ったじゃないか!」

「くしゅん、くしゅん……だってジョーが……」

「僕は君を捨てない!だから今日は大人しくして、夜は心臓部で寝るんだぞ」

 口では厳しく叱りながら、それでも人がいい彼は心配で、不安そうなクローナを優しく抱いている。クローナも、くしゃみを繰り返しながらも、主に抱きつき甘えている。

「まったく。こんなの姉ちゃんには見せられないよ」

 珍しくジョーが自分たちを起こしに来ない。不安になって見にきたミアルにとっては「ああ、やっぱり」な光景だ。猫人族なら絶対この季節に外で寝泊まりなんかしないのだ。ちなみに寝起きのルミアが半分死んでいるのはいつものことだ。何度も声はかけたのだが、反応がほぼない。

「ジョー。今のうちに降りて、朝ごはん作ってよ。その子はあたいが面倒みるからさぁ」

 今のうち。鬼のいぬまに、姉の寝ぼけてるうちに言質をとって既成事実にしてしまう。ミアルの作戦通り、ルミアが朝食を食べ終え、いつもの毅然とした様子に戻ったころには、もうクローナは家の中にいて、毛布にくるまっている。ミアルに蒸したルアンの実の皮をむいてもらい、ジョーには雑穀のおかゆを「ふう、ふう、あ~ん」されている場面である。

「あなた、そこで何をしてるの!」

 「あなた」がだれで、どの行為を咎めているのかは謎だが、おそらくはクローナとジョーが許可なく家にいることとか、ジョーが他の女に「あ~ん」してるとか、そんなところだろう。それを察しながらも、しゃあしゃあと答えるミアルは確信犯である。

「ええ?姉ちゃん、さっき聞いたら『いいにゃあ』って返事したよぉ?」

 そう言われてしまえば自信がないのが朝のルミアだ。しかも「にゃあ」!?猫っぽく返事したことをジョーに聞かれたと思うと、つい赤面してしまう。それで、結局うやむやになった。

 ジョーは、ルミアの視線をかいくぐって、ミアルに頭を下げる。

「お礼は今日のお土産がいいなぁ」

 そういう含みのあるミアルの笑顔は、ジョーにはまるわかりである。尻尾が機嫌よくゆっくり左右に揺れているし。ジョーはしかたなくうなずいた。

「幸い、今日からヤマで、こいつで働くんだ。監督が、ゴーレムもちなら、一日金貨1枚で、でも当分人手不足だから倍払ってくれるって!」

 これは、昨日の騒ぎでヤマシの発掘用ゴーレムにはかなりの被害が出たので、外部から持ち寄るゴーレムにはボーナス価格ということなのだ。

「金貨2枚!十日で20枚!二十日なら40枚!一か月なら60枚!!」

 唐突にそう叫んだのは、ルミアである。貨幣の感覚がないミアルはちょっとひいている。猫に小判ではないが、猫人族の集落では貨幣経済が十分には浸透していないのだ。

 ちなみに、我々の感覚でいえば、金貨1枚は10万円くらいである。銀貨1枚が5000円で、それが10枚で大銀貨、銀貨20枚または大銀貨2枚で金貨1枚。銀貨の下に銅貨。1枚250円くらい。その下に銭貨……1枚10円ちょっとくらいの……がある。どれも10枚で大貨幣、20枚で上位貨幣になるしくみだ。

 ルミアは困った。ゴーレムは嫌いでゴーレム使いは許せない。しかし……目の前には冬支度で困窮している現実がある。激しい葛藤、しかし次の瞬間

「ジョォ~、もう、しかたないですねぇ。ゴーレムもその子も今だけ見逃しちゃいます♡」

 とってもかわいくジョーに微笑みかけるルミアである。大きな耳もまるで飛び出すように元気がいい。ジョーも思わずデレデレである。

「だからぁ、頑張って働いてねぇ♡」

「うん!ルミアのために働いて来る!」

「姉ちゃん……そのお金がからむと人変わるの、なんとかならない? ジョーもそんなわかり易い反応、ちょろすぎじゃん」

 と呆れるミアルも、食べ物にはめっぽう弱い。単にお金の価値がわからないだけとも言う。

「ミアル、金貨1枚あれば……フラスが食べ放題よぉ♡」

「ウソウソ!ジョー様、ゴーレム様、お土産はフラスの山盛りでお願ぁい!!」

 こちらは評判のかわいさが残念なことになるほどのクイツキ具合である。その余裕のなさが幼い証拠なのだろう。ちなみにフラスとは、この辺りでとれる甘い果実で、一つ銅貨2枚くらいであろうか。確かに金貨1枚で文字通り山ほど買えるが、そんなに置いている店はない。

「キメラってやっぱりナゾ……くしゅん」

 しかし、クローナのくしゃみを聞くと、ジョーは迷った。

「でも、今日はムリかな。クローナを放っておいてヤマに行くのは……」

 ついそう言いかけた優しい少年なのだが。

「それはいけません。今日働かないと言うことは、金貨2枚を損すると言うことです。それは断じて許されません!一刻千金のためなら、そこのロウニンギョウの世話はわたしがします」

 「一刻千金」とは「一攫千金」の誤用ではなく、わずかな時間も大金に値するという意味であり、この場面でも正しい用法であろう。金銭に関することわざは間違わないルミアである。

 が、ロウニンギョウと聞いて驚き、動きが止まったジョーとミアル。あからさまな人の悪口など、およそ品がいいルミアらしからぬことである。そして、風邪を忘れて毛布を払いのけ、寒い中、すっ裸で仁王立ちするクローナだ。

「ロウニンギョウだってぇ!ボクはたしかにヒトじゃないけど、キメラにニンギョウあつかいされたくないね!……くしゅん!くしゅん!」

「ああ!もう裸で何やってるの!クローナ!」

 慌てて彼女に毛布を被せ、横にするジョー。しかし

「……キメラ」

 ぼそっ。その微かなつぶやきを聞いて、ミアルはぞ~っとし、ジョーは再び固まった。

「ジョー、あんたの彼女の暴言、なんとか謝らせて」

「でも、ルミアもロウニンギョウなんて言い出したんだし……確かルミアの言いつけにあった、ケンカ両成敗、かな?それにクローナは僕の彼女って訳じゃあ……」

「ああ、もういちいち細かいわね、ジョーのくせに。あんたがこの場を何とかしないと、金貨もフラスもあの子の看病もうまくまとまんないでしょう!」

「全部僕に押し付けないでくれよ」

「この役立たず!」

 ルミアの言いつけに収まらないことには、消極的なジョーなのである。そんな時は判断不能で行動不能。いつもの果断さも器用さもすっかり影を潜めて、端的に言って役立たずと化し、ミアルが下僕のポンコツぶりを罵倒することになるのだ。

「そこのちっこいキメラ!ボクのジョーをこまらせるな!」

「このロウニンギョウ!わたしたちをキメラって呼ぶにゃあ!」

「ルミア!ゴメン!ゴメンなさい!この子、ちょっと常識がなくて!」

「だからジョーがあやまるな!」

「もう……姉ちゃんも、落ち着いてよ、『にゃあ』ってなってるよ」

 ……こんな狭くておソマツなあばら屋の中でも、ちゃんと争いの種は絶えないのである。しばらく4人(?)入り乱れての混戦が続くのだが。


 最終的にジョーはヤマに発掘に、ルミアは川に洗濯に、ではなく魚を捕りに向かい、クローナの介抱はミアルがすることになった。ジョーから離れたがらないクローナの説得は手間であったが、何しろ弱った状態でクロガネに乗せるのも心配である。体調不良のままではよけいに消耗してしまいかねない。最終的にジョーの「命令」が発動した。

「病人」がいる内、この辺りの事情を詮索しないことにしたのはルミアの優しさか金銭欲かはわからない。それでもジョーがほっとしたのは確かである。

 話がまとまったところで、ついオブラートにくるまれた本音が出る。

「……それにしてもジョーの恋人は変わった人族ですね」

「ホント。姉ちゃんよりも変わってる」

 姉妹ともども、かなり薄いオブラートではあるが。

「だから違うんだ。クローナは恋人じゃなくて、その、トモダチだよ」

「なにいってるんだい、ジョー。トモダチなんかじゃないよ。ボクはキミの『生体部品ハート』だよ!……くしゅん、くしゅん」

 結局は「生体部品」のことを説明しない限り、姉妹にとっては「ハート」=「恋人」にしか聞こえないのである。

「ああ、もういいから、大人しく寝てて。いい子だから……」

「あらあら、そんなに仲のいい所を見せちゃって……ジョーもスミにおけませんね」

「だからルミア、違うんだよ」

 慌てるジョーを、いつになく執拗にからかうルミア。先ほどの喧噪よりは相当マシであるが、それを見ながらミアルはちょっと首をひねった。

「姉ちゃんの不機嫌の理由って……まさかね」

 

 クロガネはゆっくりと歩き続ける。猫人族の集落はもともと密集しておらず、住居はところどころに散在している。なのでこんな大きなものが歩いてもそれほど迷惑にならないのだが、物珍し気に見に来る呑気な猫人が意外に多い。さすがは生きた好奇心である。

 そんな猫人の群れに配慮をしながらの、こんな歩調だが、何しろ一歩が大きい。もう鉱山町が見えた。揺れに強いジョーは、ここからの眺めに上機嫌であったのだが。

「あれ?」

 そこで今更ながら疑問が浮かんだのである。しかし、この謎は記憶したトリセツにも書いてなかったし、クローナ自身指摘しなかった。それでも今ごろ疑問に思うことかよという突っ込みは覚悟してほしいところだ。

「なんでコイツ、動いてるんだ?」

 魔力供給を行うはずのクローナがいないのである。現代種のゴーレムであれば、操縦者から魔力を受け取っているが、古代種のはずのクロガネは「魔術師」が魔力を供給する仕組みのはずだ。敢えて言えば自分に魔力適性があって、ここからでも供給してるとか?しかし、それは昨日の戦闘中にクローナに否定されたような気がする。では魔結晶か何かで魔力を蓄積してるのか?……一番ありそうではある。今までそんなゴーレムは聞いたことがないが。

「そういえば、地下に落っこちた時に動き出したのは、クローナの指示が出る前だったかな」

 まさか自律式?頭はいいて言ってたし。そもそもなんでこいつは動きだしたんだ?いや、もっといえば何でクローナと眠ってたんだ?

 昨日同様の曇天の下で、鉱山町に着くまでの短い時間、多くの疑問がジョーを悩ませた。


「ジョー様でいらっしゃいますね。お話は伺っております。担当の者がお話をしたいということですので、ご面倒でもこちらまでおいでください」

 鉱山町でヤマシの事務所の受付に行き、仕事の申し出をした途端、ムズムズするような応対だ。普通に名前を名乗れば「金貨2枚」の契約ができると昨日監督に約束されただけなのだが。

「人族なんて人でなしで、内輪もめばかりの欠陥種族です。ジョーも騙されてはいけませんよ」

 ルミアがいつも言い聞かせているせいか、それとも記憶がないせいか、同族でありながら人族に親近感をもたないジョーである。もっとも猫人族も姉妹に冷たいので、結局「種族」ではなく「個人」を見極めようとするジョーが一番公正かもしれない。

 しかし自分ごとき若輩の貧乏人に、雇い手であるヤマシ側がこうもへりくだるのがわからない。ジョーの中では昨日の件はクロガネをもらったことで対等の契約、もう済んだことだ。それでもここで退散する方が非礼なことだとはわかる。とりあえず案内のお姉さんについていった。ただのお人よしとか、女に弱いとか、そういう可能性も高いのだが。


「副支配人のアリエラと申します。ジョーさんですね。命の恩人の猫人姉妹に尽くす義理堅い若者と聞いております。しかも昨日は盗賊団相手に勇戦され、見事頭目を討ち取られたとか」

 そうあいさつするのは、飾り気はないが高級感漂うスーツ姿の美女である。ジョーより10歳ほどは年長だろう。肩で切りそろえた栗色の髪といたずらっぽく光るとび色の瞳が魅力的だ。左胸の花のコサージュも嫌味がなくて、ジョーもアリエラには密かに好感を持った。しかも……誇示するわけでもないのに、落ち着いた身なりに反する、双丘のけしからんほどの見事さ!ジョーならずとも、つい見入ってしまうのである。猫人族始め獣人族の女子は一般にスリムな体型で、胸の豊かさは人族に及ばない。ミアルは論外、ルミアも人造生物クローナも完敗である。

「そんなことはありません。僕は当たり前のことをしただけで、勝ったのはタマタマです」

 ジョーは、なんとか、そのはじけそうな胸元から目を離し、平静さを保とうとする。かなり意志力を要しながらも完全には成功できないのが自分でも情けない。

「そのようにご謙遜なさらなくても。監督からも一人で逃げられたのに、わざわざ戻ってヤマで働く者を守ってくださったと聞いております」

 監督の名が出たおかげで、少しは緊張がほぐれる。それにしても褒められ過ぎである。褒められ慣れていない彼は、美女からのお褒めに舞い上がりそうなのだ。しかし、ジョーの警戒レベルはかろうじて残っていた。昨日の今日で、自分について随分調べたようだと気づいたのだ。

「…‥僕はそれほどのことをしたとは思っていませんし」

 そのせいもあり、うぬぼれも謙遜もなく、素直にクローナとクロガネのおかげと言えた。

「それに、昨日の件は、監督との契約でもうお互い話はついています。これ以上のお礼も不要です。できればすぐにヤマに働きに行きたいのです」

 ジョーはそう言って、多少強引にでも話しを切り上げる方向に意志を固めていった。もっとも、そのたびにアリエラの微笑みと話術に引き込まれる。それをなんとか振り払えたのは「初対面の人族なんか絶対信じちゃいけない」というルミアの言いつけがあったからであろう。


「ちっ。あっさり断ったわね。あんな何の取柄もない貧乏人のくせに。おだてて金貨をちらつかせればすぐに売り払うと思ってたけど」

 ジョーが退室すると、アリエラはさっさと窮屈な胸のボタンを外して、忌々し気につぶやいた。先ほどと比べ品は下がったが、妖艶さはさらに数段上がった。

「やはり惜しいのではありませんか?せっかく手に入れたゴーレムですし」

 相手するのは、40代の一見、渋い男だ。アリエラの部下でマグダスという。

「それでもよ。アイアン・フレーム型の新品に金貨50枚つけるって言われてもうなずかないなんて、そんな価値があの中古の『主殺し』にあると思う?」

 あまり良くない例えだが、、ブルドーザーを装甲車+500万円と交換、みたいな感じであろうか。

「……正直に言えば、支配人がそこまで高値を付けることが分かりませんな」

「まぁ、そうなんだけどね。でもあの方がつけた値段だし……なんかあるんじゃない?」

「では、その『何か』をあの若造が気づいているのかもしません」

 率直に言えば、アリエラはジョーをそんな聡い少年とは感じていない。部下の買いかぶりと思う。それでも一応、慎重に対応することに決め、指示を出した。

「……あの坊やの身辺、それとヤマでのゴーレムの様子……もっと詳しく探って」


「……新品に金貨50枚かぁ」

 条件にもアリエラ自身にも心惹かれないわけではなかった。まして、それだけあれば、ルミアもミアルもどれだけ喜ぶだろうか。ルミアの喜ぶ顔を見たいという思いは強い。

 しかし、そう。しかし、それでもクロガネを人手に渡すことはジョーにとってあり得ない。クロガネ自体にも愛着がある。そして、何よりそれはクローナを捨てることになってしまう。あの、主に捨てられたという「ホムンクルス」を。今の主である自分から離れることをあんなに怖がっていた。更には、新しい主とやらが出てくれば間違いなく「リセット」される。クローナ自身もそれを望むことに間違いはない。それが自分を死なせることであっても、あの子に選択の余地はないのだ。

「監督……あれ、いないや。」

 監督はジョーに顔を合わせづらいので隠れていたのだが、さすがにそんなことはわからない。ちなみに転勤が決まっている。一応、「栄転」ではある。

 結局、オートマータがやってきて「雇ワレタごーれむハ、コチラデ作業デス」と案内された。今日一日はジミに働く。その予定通り、無事に終わった。自分を観察するものの目など、全く気付かなかった。


「例の猫人の家に、別なヒトを確認。会話の内容はよく聞き取れませんでしたが。種族も未確認です。あれ以上近づくと、猫耳に悟られてしまいます」

「黒いゴーレムは、その出力は飛びぬけています。動きは一見鈍重にも思われますが、とても滑らかで的確、動作の最適化がされているように見えるほどです。男の方に特筆すべき点は見られませんが……よく働き、気が利くということで仲間の評判はいいようです」

「見かけ通り、音声で指示を出す仕組みで……同乗者?そういう者の存在は確認できません」

 部下たちの報告を聞きながら、アリエラは考えをまとめている。

「こいつの魔力は?操縦者が供給しているの?」

「未確認です。しかし、それができるなら古代種ではなく現代種と同様になります」

「てっきり普通の発掘品と思っていたけど……猫の住処にいたのが魔術師じゃないの?」

「すみません。先ほどお答えした通り……」

 舌打ちをしながら、

「明日も調査を続けるしかないか……これじゃ何もわからないわ」

 つい愚痴が出る。

「いえ、それでも気になる点があります。その、猫小屋にいるのが何者か、ゴーレムの動力源がどうなっているのか……」

「でも、あんまりナゾに近づいても、お叱りを受けるかもよ?」

 それでもいたずらっぽく笑うアリエラだ。部下もニヤリと返す。

「そこはお互いうまくやりましょう」


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