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ルイス編 3.「練習試合」

練習試合当日、この日は長崎も芝原も授業が入っていたため、試合途中からの参加となった。彼らがグラウンドに着いた時には試合は5回の裏5-3で常飛大学が2点リードしており、丁度ルイスが3番手として登板するところだ。立ち上がりは順調で難なく2アウトを奪ったが、2年生捕手の駒谷の後逸による出塁を許して焦りが出たのか2者連続でフォアボールを出し、制球を乱し始めた。

駒谷がルイスを宥めにマウンドへ向かった。

「ルイス!気にするな!ここは一つずつ抑えていこうな!」

その時、ルイスは駒谷の胸倉を掴み怒鳴りつけた。

「お前がちゃんと取ってくれねぇからこんなピンチになったんだろう!!試合あるのわかってるんだからちゃんと準備しておけよ!!」

突然の怒声にグラウンドは静まり返った。

「わかった…すまん…。」

ルイスの気迫に委縮したのか、駒谷は逃げるように守備位置に戻った。

その後、ルイスは150キロ近くの速球を連発するものの、ストライクが入らずますます制球を乱し、フォアボールとパスボールのみで一挙5点を奪われた。


 一方、授業を終えた長崎と芝原もベンチからルイスの様子を見守っていた。

「見てください長崎さん!ルイスさんの球、150キロですよ!」

スピードガンを手にした芝原がルイスの急速に目を丸くしていた。

「150キロ?通りで早すぎると思ったら・・・流石に俺達でも太刀打ちできなさそうだ。でも最初の後逸と連続四球で相当焦ってきてフォームも段々と崩れてきているな。」

「そりゃそうだ」

前の回で代打を送られベンチに戻った篠村が険しい表情でグラウンドを見つめていた。

「彼は軟球に触れてからまだ一ヶ月も経っていない軟球初心者だ。だから必要以上に肩に負荷をかけて投げている。あのまま行くと必ずどこかで怪我をする。何とかここは踏ん張ってほしいんだがな・・・。」

 そして上位打線に入るタイミングでルイスは降板を告げられた。しかし、彼は頑なにしてマウンドを降りようとはしなかった。

「この俺が降板?冗談じゃない!まだいけるぞ!!」

激高するルイスにマウンド上に集まったメンバーは必至で彼を宥めた。しかし、彼のフラストレーションは溜まる一方だった。

「ルイス、もう今日は投げない方がいい。今の君は必要以上に肩の筋肉を使い過ぎている上にコントロールを欠いている。」

伝令と共にマウンドに向かっていた長崎がルイスに降板するよう話した。

「でも!!」

「それに!今ここで怪我でもしたらチームに大変迷惑がかかる。だから今はゆっくり休んだほうがいい!」

長崎に納得したのか、ルイスは渋々とベンチに引き揚げた。


そして試合は再開され、チームは一度逆転されるも、6回・7回で勝ち越しに成功し、9-8で何とか勝利を収めた。


試合終了後、ルイスは一人ベンチで俯いていた。


「ルイスさん、今日の試合お疲れさまです。」

「あぁ」

「日本での初めての試合はどうでしたか?」

「色々と大変だった…。そして迷惑もかけた…。」

 芝原は頷きながら黙ってルイスの話を聞いていた。

「なぁ優、俺ってそんな大した投手じゃないのか?」

「そんなことないと思いますよ。たしかにコントロールが定まらなかったことに関してはそう思いますけど、あの剛速球はとても大きな武器になりますよ。」

「本当か?」

「はい、正直ルイスさんの球は私達のレベルでまともに挑んでも勝ち目はありません。でも、どんなに優れた投手でも制球を乱せば簡単に打者を塁に出してしいます。」

 そして芝原は続けて話した。

「それに、ルイスさんは今日何球か150キロ近くの球を投げましたが駒谷さんは捕球することができませんでした。あれはバッテリー同士の呼吸があっていなかったからだと思います。」

「それは駒谷がしっかり準備しなかったことが問題だろ!こっちは練習試合に向けて試したいことを色々と用意してきているのに!!あいつには真剣さが足りないんだ!!」

「たしかにここの野球部の風潮からして真剣さはなかったかもしれません。でも、駒谷さんにそのことを伝える機会は何回かあったのではないでしょうか?」

「・・・・。」

「ルイスさんの勝負に対する姿勢が強いのはわかります。でも、もう少し周りの仲間と向き合ったほうが良いと思います。」

 「向き合う・・・?たしかにあの時もそうだったな。仲間を信用しきれなかった挙句、チームから追い出されたな・・・。」

 「・・・・一体何があったのですか?」


「実は俺、高校の最高学年の時に公式戦前にチームから追い出されたんだ。」

 ルイスは顔を上げ、当時あったことを芝原に話した。

「11年生までの俺の高校野球人生はまさに順風満帆だった。州大会2連覇に大きく貢献し、全米代表にも選ばれるほどの選手として大活躍したんだ。そして迎えた12年生の春、俺はキャプテンとしてチームを引っ張ることとなった。しかし勝つことに熱くなりすぎたせいか、必要以上に結果を求めすぎて1人の部員を精神的に追いやってしまったんだ。それをきっかけに部員からの不満は爆発し、ストライキを起こされるという事態に発展したんだ。」

衝撃の事実に芝原はハッとした。

「その結果、俺は公式戦途中に部を追放さた。」

「そうだったのですか・・・その年の公式戦はどうなったのですか?」

公式戦は散々なものだった。3連覇はおろか、地区予選最下位で敗退するという最悪の結果となったんだ。」

「大変でしたね・・・。」

「あぁ・・・しかもまたあの時と同じことを繰り返した。せっかくやり直せるチャンスだったのに・・・。」

 頭を抱えるながら嘆くルイスの背を置きながら芝原は話した。

「もう1回頑張ってみることって・・・できないのですか?」

ルイスは首を横に振った。

「怖いんだよ。みんなから馬鹿にされるのが・・・。俺は今まで勝つことだけを第一に考えてきた。そうしないと周りから認めてもらえない。努力だけじゃダメなんだ。だからどんなにマウンドにしがみついてでも結果がほしかったんだ。でも結局1回5失点。本当に情けないよ・・・。」

「勝ちたい気持ちは皆一緒ですけど、ルイスさんだけが気負う必要はないと思いますよ?」

「え?」

「たしかにルイスさんほど真剣だったかどうかはわかりません。ですが打てなかった人、守れなかった人、みんなが反省してもっと頑張ろうとしています。5失点後の逆転劇がその証です。だからルイスさんだけが気負う必要はないと思います。」

「でも俺はチームの練習を馬鹿にした挙句、結果が出せないまま降板した。そう簡単に奴らは許してはくれまい!!」

「だったらスポーツで解決したらどうだ?」

着替えを終えた長崎がベンチに戻ってきた。

「もし心配なら、その問題、スポーツの中で解決してみたらどう?」

2人のやりとりを聞いていた長崎は一つの提案をした。

「スポーツの中で解決?」

ルイスは首をかしげた。

「そう、スポーツであったことはスポーツで解決した方がいいってことだよ!ところでルイス、今週の土曜日って暇?」

「暇だけど・・・。」

「 だったら、その日ちょっと付き合ってくれないかな?」

「いっいいけど・・・。」


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