~Beginning~
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
アメリカ某国際空港にて短期留学を終えた長崎は日本に帰る便で偶然一人の少女と隣の席になった。
「Excuses me? Can I seat here?」
日本人でありながらも、流暢に英語で話しかけてきた。
「Sure.」
長崎も英語で返した。それから二人は日本人同士でありながらも、英語で会話をした。どうやら、高校の同級生と卒業旅行で来ていて、座席の都合で友人達とは別々の座席になってしまったらしい。それでも彼女はそれを気にしていなかった。離陸後、二人はたわいもない会話をした。
彼女の名前は芝原優。4月から都内の大学に進学する予定で帰国後はその準備で忙しくなるそうだ。そして飛行機が成田に到着した後、お互いの連絡先を交換し合い別れた。
「あんな前向きな子がうちの大学に入ってくれればな・・・。」
そう思いながら空港を後にした。
それ以降、彼女と連絡を交わすことはなかった。
海外留学を終えた後の日々は長崎にとって驚きの連続だった。今まで気にもしなかった大学の雰囲気に愕然とした。求心力もなく、将来のことも考えないでフラフラとした学生達がキャンパス内に溢れていた。2年目のキャンパスライフが始まったばかりだというのに長崎は早々に不安を抱いていた。
もうすぐ英会話の授業が始まるが、これといってやることもなかったので長崎は教室から見える手賀沼の景色をぼんやりと眺めていた。
「よう!!朝からボーっとして~朝飯でも抜いたのか?」
突然、同じサークルの釜橋が長崎の背中を叩きながら挨拶をした。
「うるさいな~ちゃんと食べてきたよ。」
突然後ろから背中を叩かれて少々機嫌悪そうに長崎は答えた。
「わりぃわりぃ!!でもお前が無事帰ってきてくれて俺はうれしいよ!!」
「ありがとう。でも、俺が帰ってきたところで、新入部員はゼロなんだろ?今のところ。」
長崎達が所属しているサークルは「ジューヌ」というボランティアサークルだ。ボランティアというよりむしろサポートという言葉がふさわしい。海外から来た留学生の相談を受けることを主にしている。つまり、語学で活動しているサークルだ。また、彼らとの交流を深めるため、文化祭で様々なイベントを企画している。
ごもっともなことを長崎に言われ、釜橋は落胆した。
「そうなんだよ。せめて一人ぐらいできる子が入ってくれればいいんだけどな~。」
「でも、うちの大学にそういったすごくできる子っていないんじゃ・・・。」
その時、長崎は留学生と楽しそうに会話している一人の女子学生に注目した。
「おい長崎、どうした?」
「いや…あそこで話している子、留学の帰りの飛行機で会った気がする。」
「まさか!?仮にそうだとしても、ああいう子ほど有名な部活やサークルに入りがちだ。もしくはどちらも入らない。これ俺の経験上ね。」
釜橋は笑いながら話した。彼はジューヌに入る前、複数の部活やサークルを掛け持っていた。その数はなんと校則違反に値するほどの数だったらしい。だから様々な視点から部活やサークルの事情を理解している。いわば大学一の情報通だ。
「でも、誘ってみる価値はあるんじゃない?」
「おぉ、お兄さんやるねぇ~。」
長崎の意外な反応に釜橋もテンションが上がり気味に言った。なぜなら、留学する前は自分から行動を起こすことがあまりなかったからだ。
「とにかく、授業が終わった後に話しかけてみるよ。」
「そうか、頑張れよ!」
長崎の立てた計画は良い形で期待を裏切ることになった。なんと、授業後半に行われた二人一組になっての課題付きの会話練習で一緒になったのだ。周りがたどたどしい英語を話していたり、英語の会話すら放棄して雑談をしている学生達とは対照的に、二人はスムーズに会話を進めていた。ネイティブと似たような流暢な話し方、生き生きとした表情から察し、やはりあの時飛行機で話していた少女に間違いないと感じた。課題を終えた後、長崎は意を決して彼女に話かけた。
「あの…すみません?もしかして先月飛行機の中でお会いしました芝原さんですか?」
長崎が恐る恐る質問した。
「はい、そうですが・・・?もしかして長崎さんですか?」
「そうだよ!久しぶりだね!」
飛行機で会った時のことを覚えてくれて長崎は安堵した。
「えーー本当に!?お久しぶりです!!」
思わぬ形での再会に芝原は興奮した。
「ところで、芝原さんって留学していたの?」
「いいえ、中学の時までカナダに滞在していました。」
「そうなんだ。すごいね!ちなみに、カナダの何処に住んでいたの?」
「バンクーバーです。」
「バンクーバーかぁ~いい所に住んでいたんだね?」
「いいえ、でも住んでいたのは田舎の方だったのでそんな大したものではないです。」
芝原は恥ずかしながら答えた。
「ところで、芝原さんはサークル何処入るか決まった?」
「いいえ。まだです。」
「そうなんだ・・・俺ジューヌというボランティアサークルに入ってて、今日の4時半から4階の教室で活動してるんだ。もし良かったら見学に来ない?」
そう言って彼女にこっそりとチラシを手渡した。
「あ・・・・はい。ありがとうございます。」
芝原はチラシを数秒見てすぐに淡々と鞄に入れた。どうやら興味なさそうみたいだ。
そして、サークルが始まる30分前、長崎は歩きながら釜橋に授業での出来事を一部始終話した。
「そうか。でもお前にしてはよくやったよな。」
「ありがとう。でも釜橋みたいに匠にはできなかったけどな。」
「そんなのいいんだよ!!自分なりに誘ってみれば大丈夫だって!!」
そう言って釜橋は長崎の頑張りを称えた。
「そうだといいんだけど・・・。」
長崎は少し渋めの表情をした。会話そのものは弾んでも絶対見に来るとは限らない。そう感じたのである。そして部室に入ろうとした時、一人の少女が扉の前に立っていた。長崎達に気づいた彼女は一礼しながら笑顔で話した。
「あの…長崎さんですよね?本日の英会話でお世話になりました芝原優です。よろしくお願いします!!」
思わぬ形の出来事に固まってしまった長崎だが、表情を緩めた。
「こちらこそ!よろしくね!」
その日、彼女は正式にジューヌに入部したのであった。
(続く)
こんにちは!
小説初投稿の拓知です。
今回から大学内の異文化交流を描いたジューヌをお送り致します。
初投稿ということで不慣れな点があると思いますが、よろしくお願いします。