5.剣聖アイザックと剣聖IXAC(最終話)
男は冷たくなった紅茶をかまわず啜った。
ヘーゼルは目の前の男に実際にニヤリと笑みを作ってみせながら話を続ける。
――オレはニヤリと笑って言った。
「さてバリー、揉んでやるから掛かってこいよ」
(男、ヘーゼルのセリフに紅茶を吹き出しそうになる)
――ほほほ。
ちょっぴり恥ずかしいセリフですわね。
この時には、あれほど恐ろしかったバリーがただの筋肉達磨に見えておりましたわ。
――続けますわね。
「ヘーゼル嬢、ここまで煽ったからには手加減は期待するなよ」
バリーの野郎が凄んできやがったが、動きはまだオレを無礼ている動きだった。
奴の実力的にはそれも仕方ないだろうが、あまりあっさり殺ってしまってももったいない。
バリーの全力を引き出した上で余裕で勝つ。
それで、オレはわざと奴の顔ギリギリを撫でるように細剣の連続刺突技を放ってやった。
奴の両頬から鮮血が吹き出した。
ははは、奴の驚いた顔ったらなかったね。
「おら、打ち込んでこい。筋肉達磨」
少し挑発してやったら奴は簡単にぶち切れて、奴の長剣でこのヘーゼルの身体を両断にする勢いで振り落としてきた。
まあ、オレが細剣で受ければ簡単に剣身が折れるのを狙っていたんだろう。
その時にはもうヘーゼルの身体のクセは完全に掴んでいたから、バリーの一撃は余裕で避けた。
奴の長剣が床を削った。
「どこ掘ってんだ。目ん玉ちゃんと付いてんのか? 筋肉達磨」
(男、相変わらずのヘーゼルの悪口に顔をしかめる)
――ほほ、これぐらいの口の悪さは『ランカー』として嗜み程度ですのよ。
更に煽ってやったら、奴は余計ぶち切れたのか、めちゃくちゃに切ってきた。
一発一発が当たればでかいんだろうが、大振り過ぎて、剣聖でなくても余裕で避けれるレベルだった。
しかし、素人目にはこれくらいがオレの強さを理解するのに丁度いいだろう。
オレはバリーの剣をひょい、ひょいっと気安く避けながら、奴の懐にゆったりと入っていった。
バリーはとうとう、何かおかしな事が起こっていると理解したようだったが、もう遅い。
オレは奴の両手首と両足首を息を吸うかのごとくに切断してやった。
――あ、この辺りの描写は必要無かったですかしら?
(男、問題ないと首を横に振る)
ああ、同じ世界が見えているかを確認したいという事で、そのまま続けた方がいいのですわね?
承知ですわ。
こほん。
かなり綺麗に斬ってやったから、さほど痛みも感じなかっただろう。
奴は痛いとも何も言わず、そのまま顔面から床に突っ込むように倒れていった。
『君スキ』でひとり泣いていたあのヘーゼルたんの仇を打ってやったぞ。
「ヘーゼルたんの恨みを思いしったか!」
(男、たんに反応するが、ヘーゼルは気付いていない)
「バリーを倒したぞ。次の騎士、前に出ろ」
手足を失くしたバリーが引きずられて退場してゆく。
王が指示して王の周りにいた近衛騎士が数名オレの前に出てくる。
「第一騎士団と第二騎士団もさっさと呼びに行っとけよ。あっという間だからな」
この時には気の毒に、生徒会の奴等はモブになっていたな。
舞台の最前列で退出の機会を失くしてオロオロしていて、内心ざまぁだった。
(男、『モブ』について質問したいが、ヘーゼルは気付いていない)
さすがに現役の近衛騎士は見習いとは違って少しは能力が高かったね。
『鑑定』で確かめたけど、一人一人がバリー2、3人分の強さというか。
だけど、こっちは元剣聖のスキルマスターだから。
みんなちょっと背伸びしている子どもというかね。
バリーで暖気も終わってたから問題なかったね。
ていうか、『鑑定』チートだわ。まじで。
けして油断はしないけど、久々の戦闘を平常心で戦えたね。
もう、決闘とかじゃなくて、実戦組手というかね。
順番待ちのように列をなしている近衛騎士6人、第二10人、第一12人、第二騎士団副長、第一騎士団団長のバリー父の合計30人の両手首と両足首をバリーと同じように切ってやった。
『君スキ』のヘーゼルたんに120本の花を捧げた気分だったよ。
バリーの分も合わせたら124本だな。
そして、王が最後の騎士を呼んでいるのを待つ間にデモンストレーションとして、バリー以外の生徒会メンバーの5人と戦うことになった。
レックスとロアーナが魔法を使うからな。
それ以外の3人は雑魚だが、無礼れない。
……とおもったが、ロアーナはほとんど動かなかったから、気を使ったのは最初のレックスだけだったな。
レックスの魔法を斬ってやったら驚いていたな。
この世に斬れないものなんてないのにな。
魔法使い、ロアーナ、兄も王子sも漏れなく両手足首を斬ってやった。
皆、痛みの声ひとつあげないんだから、オレの腕もまだまだ衰えていないんだな。
まあ、この日は学園と王城の治癒術師は大忙しだったろう。
全手足を失って横たわるロアーナを説教してやった。
やっと邪魔する奴がいなくなったからな。
それからついでに色々聞いてやった。
そもそも、だれか好きな人はいないのか?
どういう男がタイプなのか?
ってな。
そしたら、あ、あ、あの女……。
「ヘーゼル様のような方が好み」だとぅおおお!?
正直少し、いやほとんど落かけたわ!
ヘーゼルたん派のこのオレが……!
お、恐ろしい、主人公の魅力値……。
『鑑定』したら、9999だってさ。
『カンスト』してんじゃん、って。
(男、今度こそ『カンスト』について説明を求める)
――あっ『カンスト』は、カウンターストップの略で、もうこれ以上は測定不能という事ですわ。
「わ、私以外で誰かいませんの?」
思わず、『剣聖アイザック』から素の私に戻ってしまいましたわ。
そしたら、え、「ヘーゼル様が認めた人と付き合いたい」、ですって??
アルフレッド王子、レックス、バカ兄、ロアーナ親衛隊、ロアーナファンクラブ、これからの学園生活でひたすら自分を磨きなさい!
私がロアーナさんの彼氏を選んで差し上げますわ。
アーロン王子とバリーは3年生で学園卒業なので、私は面倒見切れないですけど、ひたすら仕事に励んで私にレポート提出していただいたら、読んで差し上げても良いですわ。
ほほ、おーほほほっ。
それにしても、どうやら、ロアーナさんが『無自覚八方美人たらし』のような行動をしていたのは、アップロード男爵とエルマー王の差し金だったようですわ。
『無自覚』も、振りだったという事でしたわ。
私にそっと教えてくれましたの。
アップロード男爵とエルマー王はこの先も絶対認めないと思いますけど。
そして、とうとう最後の騎士が舞台に現れたんですわね。
そう、この世界の本当の『剣聖アイザック』である貴方が……。
余裕で勝利しましたけど。
私が。
(男、苦笑しながら、肩をすくめる)
だって、貴方の『剣聖スキル』がまだマスターLv.に達していないと私の『鑑定』で分かってしまいましたからね。
前世の私って『剣聖スキル』だけでなく派生も含めてあらゆる『剣技スキル』をマスターLv.制覇でしたから?
両手両足首4本追加――って感じでしたわね。
まだ青二才の自分乙――って感じで。
余裕でしたわ。
おほほほほほ。
でも、不思議な感覚ですわ。
元の世界では、私が『剣聖IXAC』をキャラメイクしたんですのよ。
名前も容姿も私が決めたはずなのですけれど……。
『君スキ』には、『剣聖アイザック』というキャラクターは登場しなかったはずなので、そこに何かしらの存在の介入があったのかもしれませんわね。
(ヘーゼル、1人で「うんうん」と納得している)
それから、本当はこの日の主役だったハズの3年の先輩方と1年の後輩のみなさん、心配させた2年の皆に謝罪の挨拶をしたのですわ。
そしたら「いい余興だったよーヘーゼルたん」ですって!
それから、噂では私のファンクラブが学園の有志によって創られたらしいですわ。
でも、名称が『オレっ娘ヘーゼルたんファンクラブ』というらしくて……。
私は確かにロアーナさんと同じようなファンクラブが欲しいとは思った事がありますけども……何か複雑ですわ。
それから、国王からは形上の謝罪をうけました。
(男、心配する顔をする)
――もちろん「実家に何かあったら分かってるだろうな?」とドスを効かせて忠告しておきましたわ。
学園に急ぎ招いた両親に報告し、両親から私への謝罪も受け入れました。
一緒に呼んだ大好きな姉と中等科にいる弟との涙の別れもしましたわ。
そして、私は会場にいるみなさんに最後の挨拶をしました。
「平民になった私は授業料も払えないので、明日からこの学園には来られなくなると思います。でも、可哀想だとか思わないでください。私は明日から冒険者になって、オレつえーをするんですの。何かあったら冒険者ギルドで私への指名依頼をお待ちしておりますわ!」
なかなか良い挨拶ができたと自己満足に浸っていたら、それまで静かだった王妃様が「学費は妾が出すから明日からも学園に通いなさい」ですって。
何か締まらないですわね。
ほほほ。
あれから、エルマー王は王妃様にかなり絞られたらしいですわ。
ほほほほっ。
というお話ですわ。
(男、とても気になっている事を質問する)
えっ、私の心は今は男、女のどっちなのか、ですって?
――そ、そうなんだよ。
半分、この間まで日本の普通の男子高校生だったオレがここにいるんだよ。
いったいこの先、どうしたらいいんだろうな。
オレはやっぱり、男なんて好きになれないというか、気色悪いというか……。
――で、でも私としてはやっぱり、女性より男性が好ましい……というか、きっと女性は同じ女性を相手にしたくない筈というか……。
――そこで、ロアーナだよ!
――ええっ、ロアーナさん!?
しばらくヘーゼルの1人2役の一人芝居が続いたが、男は突っ込み時を逃がしたのか、暫らく呆然とヘーゼルの一人芝居を眺めるのだった……。
END
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