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2.どうして悪役令嬢は主人公(ヒロイン)を嵌めようとしたのか。

 ヘーゼル・エントリー伯爵第二令嬢――いや、もう只の平民となったヘーゼルは、学園の寮の応接室を借り、一人の男と面会をしていた。

 男は痩せた体付きだが、背中、肩、腕の筋肉は程よく付いており、何より顔つきは精悍であった。


 この面会は訪問者である男の方からの求めであったが、ヘーゼルもこの男に少なからず思うことがあり、快く面会を承諾した。

 ヘーゼルは自らに起こった出来事を男に少し語ったところで、この話が少し長いものになる気配を感じ、男と自分に紅茶を入れる事にした。


 ヘーゼルは男に紅茶を飲む様に勧め、向かいのソファーに座り、男が一口(すす)ったところで先ほどの話を男に向かって再び語り始めた……。








 ――えっと、どこまで話してましたっけ?

 そう、そうでしたわ。


「ヘーゼル嬢、お前をここで断罪する!」というアーロン王子のセリフを聞かされたところまでお話しておりましたわね。


(男、コクリと頷く)


 この時、私は完全にこのシーンについて思い出していました。


 "ああ、これ『君スキ』の断罪シーンだ"と……。






 少し時間を巻き戻させていただきますわね。



 私ことヘーゼルはエントリー伯爵第二令嬢としてこの世に生を受けました。

 父母姉に蝶よ花よと育てられ、自分でいうのも何ですが、だいぶワガママに育っていました。

 そして5才のスキル判定の儀で『(技能スキル)鑑定』を引き当ててしまいました。


 この『鑑定』のスキル、かなりレアで貴重だったらしく、また家柄も伯爵であったので問題無しということで当時私の1才年上、6才になられたばかりのアーロン王子と婚約をすることになったのです。


 幼い私はアーロン王子と初めて出会ったときに理由は忘れてしまったが叩いて泣かしてしまった。

 おそらくアーロン王子のイタズラか何かに、その当時気が強かった私の右手が唸りをあげてしまったのでしょう。


(男、同意できかねるという顔をする)


 え、今も変わらない?

 や、やだわ、おほほ……。


 その結果、アーロン王子は私にどこか怯えるようになってしまった。

 私はもう分別もついているしアーロン王子を叩いたりするような事はないのに、アーロン王子はいまだに私を怖れているご様子。

 あと、どうやら私の顔がどちらかというといわゆる悪人顔系なのです。

 あ、私は私の顔が気に入っているのでお気になさらずに。


 アーロン王子は将来この国の王となられる方、王妃を怖れている王なんて良くないに決まっている。

 そんな王が治めている国なんてすぐに傾いてしまうでしょう。

 私はいつからか、アーロン王子に相応(ふさわ)しい方が現れたら婚約者の座を辞する事を密かに心に決めておりました。


 私は――アーロン王子は1学年上ですが――8才になり聖ドラゴンハート学園の初等科に入学し、そのまま11才には中等科、14才には高等科に進学しました。

 初等科と中等科では私の代わりとなれるような、アーロン王子に相応しい方は見つかりませんでした。

 でも、高等科から入学してきた聖女候補ロアーナさんを初めて見た時、「ああ、この方ならアーロン王子、いや王に相応しい王妃になられるかもしれない」と思いました。


 しかし、それは間違いであったと、今ならはっきりしておりますね。


 ロアーナさんはご存知の通り元々は平民の方だったのですが――、ロアーナさんが5才のスキル判定の儀で『(職業スキル)聖女』と判明し、アップロード男爵家養女となったというのは有名な話ですわね?


『君スキ』でも主人公、元平民の聖女、超いいこちゃん、ゆるふわ巨乳と高スペックのキャラクターでした。

 でも、彼女は超悪質な『無自覚八方美人たらし』だったのです。


 ロアーナさんが『無自覚八方美人たらし』と判明したのは、割りと早い高等科1年目の春でした。

 入学式のすぐ次の新入生歓迎の野外オリエンテーションではすでに形が出来ていましたね。

 当時、新2年生だったアーロン第一王子、将来の騎士団長バリーと、新1年生になったアルフレッド第二王子、魔法の秀才レックス、私の同い年の兄である将来のエントリー伯爵家当主ジェレミーという学園の主要メンバーが彼女に無自覚に籠絡(ろうらく)されていました。

 そう、この5名にロアーナさんが加わった6名で、私とロアーナさんが高等科2年生時の生徒会のメンバーになりますわ。


 この聖ドラゴンハート学園は「王者の心を育てる学園」がモットーなのはご存知ですわね。


 そんな学園で、私は王国の将来の危機を目の当たりにしたのです。

 そう、『無自覚八方美人たらし』の王妃とその取り巻きの現生徒会、将来の国の重職を担う方々にメチャクチャにされるこのクオリス王国の将来が。


 私、何度もロアーナさんにはそれとなく注意しましたわ。

 複数の男性に色目を使うのは止めて欲しいと。

 でも、恐ろしい事に彼女は『完全無自覚』『ド天然』だったのです。

 仕方無しに私は自覚を促そうと、何回も丁寧に教えて差し上げようとしたのですが、その都度周りの男性に「ロアーナを苛めるな」と邪魔が入ってしまって不可能でした。

 その内、女子寮にもかかわらず彼女の部屋の前には、私が近寄らないようにと、男性の守護者が当番制で立つようにもなりましたね。


 私の元に多くの学園内の女生徒たちから陳情書(ちんじょうしょ)が集まってきました。

 学園の風紀の乱れを懸念(けねん)する声、女子寮に男性がいることの恐怖、『ロアーナ様ファンクラブ』の発足と会員数が爆増している事への恐れ。

 中には「婚約者に婚約を破棄(はき)された」「将来を誓った人がロアーナ様ファンクラブに入会してしまった」等、直接的な被害を被った方もいらっしゃいました。

 また、私と同じくこの国の将来を憂いる方も少なからずいました。


 私に陳情書が集まったのは、アーロン王子の婚約者としての私に期待しての事でしょう。

 実態はアーロン王子は私の事を苦手としていますから、私から王子に何か申し入れても逆効果となると思われました。

 仕方無しに私は学園の外にこの問題を知らせることにしました。

 そう、いわゆる『秋の竜神祭、ヘーゼル内部告発捏造(ねつぞう)事件』ですわ。


(男、『ヘーゼル内部告発捏造(ねつぞう)事件』は知っていたが、『秋の竜神祭』について知らなかったらしく、詳しい説明を求める)


 ――あっ、竜神祭は聖ドラゴンハート学園の文化祭のようなものですわ。

 外部からもお客様を招き、学園一体となって行うお祭り行事です。

 この時は第一王子と第二王子が在学中でしたから王様と王妃様もいらっしゃる予定でした。

 そこで私は学園内で起こっている事を学園外部に向けて告発しようと、陳情書の展示コーナーを極秘に準備していたのです。

 ですが、あと一歩というところで生徒会に情報が漏れ、未然に防がれてしまいました。


 ご存知の通り、この聖ドラゴンハート学園は創設の時から学園内のあらゆる政治や揉め事を外部に持ち出す事はタブーとされています。


 私は学園のタブーとされる方法をとった事で、それまで味方だった方たちをだいぶ失いました。

 そして、陳情書を書いた方々の証言を得られなかった事で、捏造という烙印(らくいん)を押されてしまいました。

 私の学園内で築いてきた地位や名誉等の権威は地の底まで失墜しました。


 今思えば、外部に協力者を得るなどの下準備と根回しが足りませんでしたね。

 学園内での汚名のレッテルが貼られてしまってからでは、私の発言は学園外でも信用されませんでした。

 私の両親でさえも。


 この時に私の50名を超えていた派閥は瓦解(がかい)し、わずか3名となりました。

 この時残った3名、ジャネットさん、グレタさん、ケイトさんとは今でも大の大親友で大戦友ですわ。


 こうして高等科の激動の1年目を終え、2年生となった私は表向きは目立たず静かに1人で過ごしておりました。

 しかし、ご存知の通り裏では『アンチロアーナクラブ』を結成し、影の首領となる事ができました。

 私の権威が失墜してもロアーナさんが変わったわけではなく、学園内の女生徒たちのロアーナさんへの不満と不安はそのままでしたから、私の名前は完全に伏せる事で学園の裏での地位を得る事ができたのです。


 私の側に残ってくださった3名には、(おおやけ)には私と決別の表明をしてもらって裏で私のために動いてもらう体制を作ったのですわ。


 私とロアーナさんの2人を除いて、全ての聖ドラゴンハート学園高等科2年生の女生徒が『アンチロアーナクラブ』に入会しました。

『アンチロアーナクラブ』の目的は次の3つでした。


 1.ロアーナに特定の彼氏を作ってもらい、他の男性ははっきりと拒絶するようにしてもらう

 2.1が守られるようになるまでロアーナを無視する

 3.それでもだめならロアーナを罠に嵌め学園から追い出す


 そこから様々な計画を立てて実行してきましたが、全て『ロアーナ様ファンクラブ』と、さらに過激な組織『ロアーナ様 (と)決(婚)死隊』というロアーナさんの親衛隊、そして生徒会に阻まれてしまいました。

 ロアーナさんの無視も実行されましたが、あの方、本当に『超鈍感』なので意味なしでしたわ。


 それでとうとう『3.それでもだめならロアーナを罠に嵌め学園から追い出す』を計画、実行する事になったのです。


 計画は私自ら立てました。

 概要はこうです。


 ・計画実行は2年次最後のイベント『卒業生追い出しパーティー』

 ・ロアーナが卒業生の為にスープを作る

 ・ロアーナが毒味役として私ヘーゼルを指名する→ヘーゼルを指名するのは、ヘーゼルに汚名をそそぐ機会を与えるため→ロアーナをその様に仕向けなくてはならない

 ・ヘーゼルは毒味をするが、ヘーゼルは自らが飲むスープに強い下剤を入れて飲む→ヘーゼル激しい腹痛により倒れる→ヘーゼルをその様に仕向けなくてはならない→ヘーゼルは計画を立てた本人なので問題無し

 ・ヘーゼルが倒れたところで、2年生の女生徒全員で「ロアーナがヘーゼルに仕返しをした」と騒ぎ立てる


 ・外部から卒業式に参加している卒業生のご家族、並びに学園の出資者である王族にロアーナが犯人だと印象づける

 ・ロアーナを退学させる()()に持っていく

 ・ロアーナがヘーゼルに下剤入りスープを飲ませる動機は「ヘーゼルに苛められてきた仕返し」である

 ・ヘーゼルが指名されるのは偶然であり、かつ自分の飲むスープに毒を入れる理由(わけ)は考えにくいとして、犯人の候補からは除外される

 ・ヘーゼルの飲むスープに入れた下剤の効果は解毒魔法の使い手が1年生の女生徒にいる事を確認済み。当日は偶然を装い彼女に解毒魔法を掛けてもらう


 大雑把に説明するとこのような計画でした。

 今考えるとこの計画にはいくつも穴が見えますわね。


 名付けて、作戦名『真犯人は被害者です』。



 そして、とうとうこの作戦は実行に移されました――。




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